「おめでとう、さとり」
「ひゃ、ど、どうしたのよ藪から棒に。“三月十日はさとでさとりの日” …なによそれ」
それが地霊殿の廊下をのんびりと歩いていたさとりへの、出会い頭、開口一番シンの言葉。
不意を疲れて少々情けない声を上げるさとりは、彼の心を読んでその理由の安直さに少し呆れた。
シンの方も同じ思いだったので苦笑いしている。
「でもさ、そう言う…なんか縁がある日っていいと思うぜ?」
「そういう物かしら。ま…そういう事にしておきましょう」
とは言いつつも、内心では悪い気はしていない。
むしろこんな何気ない事で祝ったり楽しんだりしてくれる事をうれしくも思っていたりする。
「それで、私の日だけど何かお祝い事は…ないのね」
シンは眼をそらす。
前々から計画していた訳ではなく、先程カレンダーを見て思いついた事をそのまま口に出しただけ。
たとえば贈り物をしたり催し物については何も考えていなかった。
「普通もう少し計画的に言わない? “晩御飯のおかずを増やすとか?” 知っての通り私は少食なんですけども」
「あはは…」
「でもね、でもそんな考えって言うか…その、気持ちは嬉しいわ…ありがとう」
照れ隠しに今度は顔ごとそらす。
気休めにしたって、内心の焦りを見透かされているのだから、焼け石に水にもならない。
そんなシンを見て、こういう彼を見れたから悪い日ではないなと言う感情で満たされていく。
「今度の機会によろしく頼むわ」
「あぁ、一年待たせるけど今度はちゃんとするよ」
「あら? 今度って言うのは三月十四日よ?」
「うえっ?」
「『さと』と『し』で、さとりとシンの日」
「あっ」
今度はシンが情けない声をあげて、さとりは先程の不意打ちのお返しになったかなと、してやったり。
色々な仕草が見る事ができて、いろいろな心が見る事ができて、なるほど今日はいい日だなと内心で嬉しさを感じる。
今度は、十四日は一体どんな彼が見れるのだろうかと、そう思うとさとりはその日が待ち遠しかった。
最終更新:2011年04月12日 13:16