「不束者ですが、どうかよろしくお願いします。」
突如、ミネルバのMSデッキに姿を見せた一人の女性…正しくはミネルバのMSデッキにいたシンの前に現れたと言っておく。
赤みがかかった瞳に長く伸びた金色の髪、容姿は街を出歩けば、男性ならば誰もが見とれてしまうであろう美しさとプロポーションを持っていた。
そんな彼女は先ほどの言葉を継げると深々と頭を下げた。
『…………』
タイミングが良いのか悪いのか、艦長であるタリアや副長のアーサーにMSパイロットのシン、レイ、ルナマリア、アスラン、ハイネ。
その場にいたミネルバのMS技術スタッフの面々も例外ではなく、言葉にミネルバ隊の面々は硬直以外の行動が全くとれない状態。
「ちょっと待てぇぇっ!!あんた、行き成りミネルバに乗り込んできて何を勝手にんな事を言ってるんだっ!?というよりも何をトチ狂って、そんな発言をしたんだっ!?」
そんな硬直した面子の中でいち早く復活したシンは怒涛のツッコミのラッシュをかける。
しかし、その女性はきょとんとしていた。
「え?私なにか、おかしい事言った?」
「…………」
「シン、その人は一体、誰なのかを説明して頂戴。」
ミネルバの最高責任者という立場にあるタリアは顔を引き攣らせながらシンに問う。
シンとその女性の周りにはどういう事かと事情を知りたがるミネルバクルーで一杯になる。
シンが答えようとした時、その女性が口を開く。
「ミネルバのみなさん、お初にお目にかかります。私、後にシン・アスカの元へ嫁ぐ事になります。フェイト・T・ハラオウンと申します。」
「な……」
『何ぃぃぃぃぃぃっっっっ!!!!????』
ミネルバのMSデッキはその場にいたクルー達の絶叫によって包まれる。
この女性、フェイト・T・ハラオウンがミネルバにいるシンの所へ押しかけて来たことによりミネルバの空気は大きく変わる。
「……つまり、事の発端はあんたらの差し金という事か?」
『差し金だなんて人聞きの悪いことを言うなよ、超長距離恋愛のお前らのための配慮だぞ?』
「そんな事をしてくれと頼んだ覚えは微塵もない。」
それから間もなく、シンは通信で異世界、ミッドチルダにいるフェイトの義兄、クロノ・ハラオウンに連絡を取り、
シンが聞きたいことをすべて問いただす。
『という事だから、フェイトをよろしく頼むぞ?義弟よ、ちなみにこれは母さんも了承済みで婚姻もお前の名前を書くだけで済んでいる。』
「おい!…何を勝手にそんな事やってんだ!?俺は聞いてないぞ!?」
『花嫁修業の一環としてそっちで面倒見てくれ、じゃあ頼んだぞ?』
「ちょっ……クロノ!?おい!」
いう事だけを言われて一方的に通信を切られてしまう。
通信を切られて、シンは脱力状態になり、頭を抱え込む。
「あの親子は一体何を考えているんだ。」
通信室を出たシンは、重い足取りのまま、自室への道を歩いて行く。
自室へ戻ると同じ部屋を利用しているレイが何やら荷物をまとめていた。
「レイ、どうしたんだ?」
「艦長の命令で俺が部屋を移動する事になった。変わりにフェイトと言ったか?あの人が入ることになった。」
「それでフェイトは?」
「艦長室で艦長や副長、アスラン達と話してる。そういえば、戻って来たら艦長が来いと言っていた。」
「やっぱりか……分かった、ちょっと行ってくる。」
「あぁ……」
シンは部屋を離れると今度はミネルバの艦長室へ向かう。
「また何か言われるんだろうな、今度はアスランも混じっているんだからまた長時間、言われるんだろうな。」
MSパイロットとしての実力は認めているが、シンははっきり言ってアスランが苦手である。
できれば、関わり合いは余りしたくないと思ってもいた。
そんなこんなしている間にシンはミネルバの艦長室の前に来てしまう。
「失礼し「何でですか!」…?」
何事かと思い入って行くとフェイトがモニター越しにある人物と対立していた。
それはプラント最高評議会議長にして、親友の後見人でもあるギルバート・デュランダルである。
その対立を傍観していたのは艦長であるタリアの他に副長のアーサーとタリアと同じ権力を持つ
「FAITH」でもあるアスランとハイネの4人。
『行き成り、ミネルバに押しかけておきながら婚約者と名乗られても少々困るのだよ。』
長く続きそうなのか、アーサーとハイネはそろりとシンの傍まで行く。
小さな声で会話していた。
「(シン、やるじゃねぇか。あんな美人さんを捕まえてくるなんてさ。)」
「(君の上官としては、出会った関係とかをkwsk知りたいんだけどね。)」
「(まぁ、成行き上であって、向こうからアプローチがかかってこうなりました。)」
「(浮いた話がないと思ったら、行き成り婚約者かよ、こんちくしょ~!!羨ましいぜ。)」
「(ハイネ、今夜はヤケ酒だ。もちろん、付き合うだろう?)」
「(望む所だ副長よ、どうせならパイロットメンバー全員でやろうぜ。もちろん、シンは強制参加だかんな!?)」
ひそひそとこの後の予定を立て始めるハイネとアーサー。
「では、どうすれば認めて貰えますか?」
フェイトは睨み殺さんと言わんばかりにモニターのギルバートを睨んでいた。
『ふむ…どうしても認めてくれというならば、君にはアカデミー…士官学校に入学して、卒業して貰う。』
「…………」
『入学し、ただ卒業と言う訳ではない。シンと同じ上位成績者の証でもある赤服を着用を許される成績で卒業する事が条件だ。』
「議長、それはつまり……」
黙っていたタリアがとうとう口を挟んだ。
それはつまり、彼女…フェイトに軍人になれと言っているに等しい。
この条件を突きつけられれば、確実に諦める……そうギルバートは確信していた。
しかし………
「分かりました。なら絶対に上位で卒業して、シンと同じ赤い制服を着て、あなたに認めて貰います。」
『何……君は本気かね?』
「もうシンの所へ嫁ぐと決めたんですからその条件を満たして認めて貰います。」
ギルバートが突き付けた条件はフェイトを諦めさせる所か、逆にその気にさせてしまった。
フェイトの顔には決意に満ちた表情のみがある。
「おいおい…マジかよ……」
「議長が突き付けた条件もそうだが、それをあっさりと呑んだ彼女も彼女だな。」
フェイトの返答にはアスランとハイネも唖然とする他なかった。
そんな中、シンが声を上げる。
「議長!ちょっと待って下さい。」
『む、何かね?』
「フェイト、あんたは本気なのか!?」
「シン、私は本気だよ?」
「だって……」
「シンは私の心配をしてくれてるんだよね?でも、大丈夫だよ。」
フェイトはシンの手を握ると。
「シンと同じものを背負う覚悟なら出来てるから…背負えなきゃシンのお嫁さんにもなれないからね。」
シンはすでに理解していた。
目の前のこの人物はこう言ったら、梃子でも絶対に聞かない人物だと。
他の面々を何が何でも認めさせる……そんな意気込みであった。
「大丈夫!絶対に卒業して、シンとお揃いの制服を着て、シンの許嫁として認めて貰うように頑張るから!」
シンの自称婚約者候補その1(!?)、フェイト・T・ハラオウンの花嫁修業奮闘記は始まったばかり。
続く…訳がない。
最終更新:2014年02月02日 11:59