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東方小ネタ-09

1

『アリス・マーガトロイドの微笑』


アリス「S・O・S♪ S・O・S♪だれも呼んでくれない♪」

シン「その……ごめん」

アリス「なに謝ってるのよ、シン?」

シン「いや、その……ごめん」

アリス「うふふ、変な人ね……うふふ、慣れてるし。ね、シン……いいえ、アリスさん?」

シン「い、いや、俺はそんな……」

アリス「貴方がアリスなら私は誰なのかしらね? うふふ、うふふふふ」

シン「ま、待ってくれ! そのどこかの誰かに似てる気がする黒髪の人形を持って何を……いっ、痛い! まるで渾身の力で握りしめられる人形のように身体が痛い!」



2


そういえば今日は四月一日、俗に言うエイプリルフールだ
シンは歩きながらそんなことを考えていると、前方にさとりの姿が見えてきた
「こんばんわ、さとり」「ええ、こんばんわシン」
他愛無いあいさつを交わすと、ふとシンは
(エイプリルフールだし何かしてみようかな)と思いついたのだがその瞬間
「止めておいたほうがいいわよ、私に嘘はつけないのは知っているでしょう?それに私は嘘は好きじゃないわ」
と返されてしまった
(まあそりゃそうだよな、だいたい騙す必要もないか・・・)
地霊殿のみんな、とりわけ館の主であるさとりにはお世話になっている、エイプリルフールだからと言って嘘をつくのは罰あたりだな、そう考えていると
「そうそう、その・・・用事を頼みたいのだけどいいかしら?」と聞いてきた
ここにいる時はもっぱら雑用、家事係だ、前には皆に料理を振る舞った事もある、両親が共働きであり、妹の面倒をみていたシンにとって、それは苦痛ではなかった
「ああ、構わないぞ。何をすればいいんだ?」
「私の部屋に・・・黒いのがいたのよ・・・ちゃんとケリを着けたいから来てくれないかしら」
あぁ、とシンは察し、それに答える。妖怪とはいえそこは女の子なのか、やはり気持ちが悪いのだろう。弾幕を撃って倒すわけにもいかないだろうし
「わかった。じゃあ部屋に行くか」
シンは新聞紙(この前地上に出たときの天狗がバラ撒いていた)を手に取ると、さとりの部屋に向かった

部屋は地霊殿の主の部屋にしてはあまり広くもない、この前部屋に入った時、もっと広くしないのか?と聞くと「無駄に広いのは好きじゃないの」と返ってきた
物もそんなに置いていない部屋だ、隠れられる場所も絞れるだろう
「さとり、最後に見た時はどこら辺にいたんだ?」
まず大体の当たりをつけようとシンはさとりに尋ねる
「そうね、ベッドの近くだと思うわ」
少しガサガサとやってやれば出てくるだろう、そんなことを考えながらシンはベッドに近づく
(まず下からかな・・・)とシンがしゃがみ込もうとした時
背中に強い衝撃を感じシンはベッドに倒れこむ
この部屋には自分以外はさとりしかいない、振り向きつつ
「さとり、何を・・・」と抗議しようとすると
「何って・・・お願いしたでしょう?」とさとりがのしかかってきた
状況が把握できない、シンの語気が少し強まる
「お願いって、“G”を退治するんじゃなかったのか!?」
さとりの細い腕で押さえつけられ体を動かすことが出来ない、力の弱い覚とはいえそこは「妖怪」、「人間」としては強かろうと敵うはずがない
「あら、私はそんなことは言っていないわ。嘘は好きじゃないと言ったでしょう?」
ならばどういう事なんだ、シンには疑問符しか浮かばない
「それも言ったはずよ、“ちゃんとケリを着けたいって”」
それって――――――
「そう、貴方のこと。貴方は何時か自分の世界に帰っていくわ。貴方が居た世界がどんなに酷い所でも、それを忘れられるほど、割り切れるほど器用じゃないから」
「でもそんなの私は耐えれない、私には無い、不器用で、真っすぐな貴方を私は手放したくない」
「ごめんなさい・・・こんな事こそ貴方を曲げることになるわね、真っすぐな貴方が好きだと言ったのに矛盾してるわね」
「でも・・・でも・・・貴方が居なくなってしまったら私は・・・」
「だから―――――――」


「     私と一緒に歪んでちょうだい     」

3

屋敷の縁側に腰掛け、夜空に映る満月を見上げていた。
森に囲まれた屋敷は静寂そのものだ。明かりも少なく、だからこそ星々の輝きが美しく、眼を離せない。

「月を恋しがっているのかしら?」

話し掛けてきたのはこの屋敷の主人だ。そのまま隣に座る彼女に、俺は月から目を離さないまま適当に返した。

「月とはあまり縁は無いはずなんだけどな。頭の上で暴れさせてもらったことはあったけど」
「それはさぞかし気持ちが良かったでしょう」
「いや、結構キツかったんだけど」
「ヤジを飛ばせなかったのが残念ね。また暴れて来てくれないかしら」
「そうだなぁ……」

すっかり慣れた彼女とのやりとりを一通り終えて、俺は予め用意していた言葉を紡ぐ。

「……助けてくれてありがとな。俺は、アンタがいなかったらこうして生きていなかった」

それは嘘偽りのない俺の本心だ。ここに来て一年。今日までずっと感謝してきた。そして伝えようと決めてからこの時まで、ずっと言い出せなかった言葉でもあった。
そんな俺の言葉に、女は答える。

「礼を言われるほどのことではないわ。元々はただの退屈しのぎだったのだから。感謝するとすれば、私が気紛れを起こした貴方の幸運に感謝なさいな」
「それだけじゃない」

即答し、そこで初めて星空から彼女へと視線を移した。すでにこちらを見ていた彼女と視線が交錯する。

「ここで過ごした一年は、本当に楽しかった。傷が癒えるまでのつもりだったのに、つい長居しちゃったよ」
「…………」

彼女は無言で俺の言葉を聞いている。俺が何を言おうとしているのか、この聡明な彼女ならもう分かっているだろう。それでも俺は言葉を紡ぐ。揺らぐ決意を固めるために。

「でも、おかげで俺は戦える。どんなに辛くても、苦しくても、ここでの思い出があれば、俺は大丈夫だ」
「……そう。帰るのね」
「ああ……俺はまだ何も果たしてないんだ。それが終わるまで、俺はここにはいられない」

夜空を見上げれば、そこに月が静かにたたずんでいる。あの月は、足下で争い続ける自分たちをどう思っているのだろう。

「だから、もう行くよ。……きっと俺は、月を見るたびここでの生活を思い出す」

そう言った俺の顔を見て、彼女は微笑んだ。その笑みは諦めか、あるいは呆れたのか。

「馬鹿な子ね……。さようなら、シン・アスカ。愚かな人間よ」




そして少年は楽園を後にした。
戦争で全てを失い、楽園に迷いこんだ少年は、尚も戦うために楽園から背を向けた。
傷つきボロボロになりながら、ただただ戦い続けた彼の道。その先に、あったものは――




―C.E.143―


『――なるほど、大変参考になりました。私のために貴重な時間を割いていただきありがとうございました。Mr.アスカ』

端末を通じて発せられた声が自宅の書斎に響く。
画面越しに映る壮年の男性に、シンは言った。

「とんでもない。こんな老いぼれの話が少しでもお役に立つというのならいくらでも聞いてもらっても構いませんよ。アーガイル大統領」

自分でも気がつかぬうちに随分長く話していたらしい。手元に置いてあったティーカップに注がれた紅茶はもう湯気を上げてはいなかった。

『戦災復興のために世界中を駆け巡った“守護者”シン・アスカのお話ほどためになる話はありませんよ。そういえばグラディス議長から聞いた話なのですが、近々地球に降りられるそうですね』
「ええ」

別段隠すことでもないので素直に肯定する。

『よく地球に降りられているようですが、どなたか会いに行かれているのですか?』
「いえ、そう大した用事があるわけではないのです。ただ、地球から月を見に」
『ほう、月を……』

シンの言葉をどう受け取ったのか、大統領はそれだけ呟いた。どうやら深読みさせてしまったようだ。言葉通りの意味なので特に言い直すことはないが。
そこへ、画面の端から秘書の男性が現れると大統領に耳打ちした。

『なんだ、もうそんな時間か……。失礼、Mr.アスカ。もう行かなくては』
「お忙しいようですね」

シンの当たり前と言えば当たり前な言葉に、大統領はなんでもないと言うように笑った。


『なに、これくらいどうってことありませんよ。では失礼します。地球に降りた際には是非とも我が国にもお立ち寄りください』
「ありがとうございます」

そして端末の画面は青一色に染まり、通信が切れた旨を知らせてくる。
シンは端末の電源を落とすとイスの背もたれに身を預け、静かに目を閉じて物思いに耽った。



あれから七十余年。色々なことがあった。

プラントがクライン政権へと代わった後も、世界の混乱は収まらなかった。
ロゴスに代わるものを見つけられないまま大不況に陥った経済は失業者を溢れさせ、治安は悪化した。

それはプラントも変わらなかった。戦争により居場所を失くした難民を受け入れ切れなくなったプラントは困窮し、世論はクライン議長の行為を非難するようになっていた。
実際にはクライン議長による政治は強引な面こそ否めなかったが、無難なものではあった。しかし『戦争を終結に導いた人物』として期待が大きかった分、落胆も大きかったのだろう。結局クライン政権は任期を終えるとあっさり歴史の表舞台から姿を消していた。
それがどのような流れだったのか、シンは知らない。その頃のシンは戦災復興の支援という名目で戦場を盥回しにされており、ろくな情報も得られなかった。もっとも、情報が入っていたとしてもシンにはどうすることもできなかっただろうし、泥沼化していく戦場でそれどころではなかったのだが。

思えば、自身の人生の殆どは戦いと共にあった。
多くの戦友を得ては失い、自身も何度も生死の境をさまよった。
よく自分は生き残れたものだと思う。それは実力でもなんでもなく、単に運の問題だっただろう。あの頃は死ねない自分の悪運の強さを呪い続けたものだ。

そんな自分が、今では『守護者』と持て囃されているのは一体どういう皮肉だろうか。
偶然知り合った、あのモビルスーツに乗る変なジャーナリスト。あの男の取材に付き合ったのが切っ掛けだっただろうか。
各地の戦場を転戦していた自分は当時、それなりに現地人と触れ合う機会があった。独断で怪我人をMSで運んだこともあったし、街の復興を手伝ったこともある。
そんなことを続けていた自分は気がつけば『力なき人々の守護者』などと持ち上げられていた。英雄としてプラントに呼び戻されたときには何がなんだか分からず混乱したのを覚えている。

それから十年以上もの時間をかけて、世界は徐々に落ち着きを取り戻していった。

今ではナチュラルとコーディネイターという言葉を口にする者はほとんどいない。
子供たちが学校で歴史を習うまで知らないほどだ。遺伝子治療を初めとした技術の発展は自然と、コーディネイターの概念を薄れさせた。今ではナチュラルという単語は死語と化し、コーディネイターは人種ではなく『ただ一人』を指す意味の単語に変質している。

もはや、自分のような人間が力を振るわなくてはならない時代ではないのだ。




「………………」

遠くの部屋から聞こえた、かすかな物音で眼が覚めた。

時計を見るともう深夜だった。どうやら少し眠っていたらしい。
書斎机の引き出しを引いて中を確認する。そこには一丁の拳銃を収めていた。シンはその拳銃に手を伸ばしかけ――やめる。再び引き出しを閉め、杖を片手に立ち上がった。
代わりに自分と仲間たちが写る写真立ての傍に置いておいた、もう何の反応もしないピンク色の携帯電話を手に取り、ポケットに入れた。

耳を澄ませば、ゆっくりと足跡がこの部屋へと近づいてきているのが分かる。

こんな時間に、インターホンも鳴らさず訪ねてくる知人には心当たりなどない。しかし知人以外ならば、ある。おそらくクライン派だろう。

クライン元議長が席を退いた際、議長の私兵であった『歌姫の騎士団』もまた、自分たちの役目が終わったことを悟り、散り散りになっていった。元々戦争を終わらせるためにクライン元議長に賛同した彼らは、人々から必要とされなくなったと分かればプラントに留まる理由など無かったのだろう。
だが彼らを熱心に信望する末端の者たちは違った。世界を真の平和へと導くのはクライン議長しかいないと信じる彼らは、今ではその在り方を大きく歪め、目的の為ならば武力の行使も辞さない危険な集団へと変貌していた。
そんな彼らが自分を狙うのは、おそらく『コーディネイター』の居場所を知るためだろう。英雄として扱われるようになったシンを、彼らは「戦争を利用してクライン議長とコーディネイターを追いやった者」と考え憎んでいた。
もちろん、シンは『コーディネイター』の居場所など知らない。当時はその力を危険視されMSもない辺境に監禁されていると噂するものもいたが、所詮ただの陰謀論でしかなかった。
だがそう言ったところで、彼らはそんなことは信じないだろう。
もし今のクライン派の現状を知ったら、当の本人たちはどう思うだろうか。そんなことを考えながらシンは足音が近づいてくるのを待った。

「……こんな夜更けにどなたかな?」

足音が扉の向こうで止まるのを見計らって、シンは口を開いた。
返事はすぐに返って来た。

「こんばんは。ここがシン・アスカのお宅で間違いないかしら?」

扉越しに聞こえる女の声に意外に思いながら、シンは肯定する。

「ええ、そうですよ。なんの御用ですかな?」
「貴方が滞納した家賃を取立てに参りました」
「…………?」

意味を図りかねて怪訝な顔をするシンに構わず、扉はゆっくりと開きだす。
例え直後に銃弾が飛んできたとしても、シンはどうするつもりもなかった。



姿を現したのはやはり女だった。しかしその手に持っていたのは黒光りする銃でも、ましてや刃物でもなかった。
閉じた日傘を片手に、まるで淑女が深夜の散歩に出たような気軽な足取りで部屋に入ってきた女。女は青いドレスに身を包み、艶やかな金髪をゆったりと腰元まで伸ばし――

「――………………」

危うく杖を落としそうになった。

「……君、は」
「老いたわね、シン」

始め、シンは何も考えられなかった。だがゆっくり時間が経つにつれて、様々な想いが胸から溢れてくる。
すっかり忘れてしまっていた。
戦争で亡くした家族。かつて共に戦った戦友たち。守りたかった少女。そして今目の前にいる彼女。
記憶の中の彼らの姿も声も、すべては色あせ、輪郭を失っていた。それを寂しいと思いながらも、シンは受け入れてきた。

だがそれでも、それでも彼女と見上げた月の思い出だけは忘れなかった。彼女の顔も声も思い出せなくとも、月を見上げては優しい日々があったことを思い出し続けていたのだ。

視界が滲むのを自覚しながら、シンは自身の喉から声を搾り出した。

「はは……あれから七十年も経ったからね」
「そうね。ふふ、しわくちゃな顔……」

女――八雲紫は、シンの頬に触れ、そっと口元のしわを指でなぞった。

「がっかりさせてしまったかな?」
「あら、どうして? 素敵じゃない。貴方は逃げずに立ち向かった。傷つき、倒れても、それでも立ち上がった。迷いながら進み続けた。運命に挑み続けた貴方は、実に美しいわ」

彼女の指の感触に、今までの記憶が呼び覚まされた。楽園から――目の前にいる彼女から背を向けてからの日々。それは今、英雄として称えられている日々とはかけ離れていた。
生死の狭間を駆け、血と硝煙に塗れた。私欲のために戦う者も、大切な人のために戦うものも等しく撃ってきた。
後悔した。月を見上げては彼女の元へ帰りたいと望んだ。終わりを願ったことも何度もあった。
過去の記憶に思いを馳せ、シンは静かに微笑んだ。
だが、それでも――

「……ああ。色々なことがあったよ」

いくつもの後悔と挫折に塗れ、それでも信じて戦ったその果てに、今があった。自分たちが戦い、流してきた血と涙は、決して無意味ではなかったのだ。

「そう……」

だがそれまで親しみのある笑みを浮かべていた彼女の顔が、冷たいものへと変わる。

「でも、それももう終わりよ。かつての対価を払って貰うわ」

女の声には否定は受け付けない、そんな意思を込められていた。断ればその老いた命を絶つことも厭わない。人に非ず者の絶対の意思。
それをシンは、耐えるわけでも諦めるわけでもなく、あっさり受け入れた。

「構わない。何でも持っていってくれ。君の目に適うものがあればいいのだが」

自身の人生において、あの刹那のような一年は、それだけの価値があったのだから。、
その言葉に彼女は満足気に頷いた。

「大丈夫よ。最初から決まってるから。ずっと昔から、ね」

そう言って彼女はシンの手を取った。彼女の白い手とは対照的な、枯れ木のような傷だらけの手。それを、彼女は大切に扱うようにその手で包み込んだ。
そうして再び微笑む彼女を見て、ついついシンは吹き出してしまった。ひとしきりくつくつと笑って、答えた。

「ああ、いいよ。持って行ってくれ」

その言葉を合図に、彼女の背後の空間に切れ目が走る。切れ目は口を開くように裂けると、シンと紫の身体を飲み込んでいく。

老人の視界にかつての夜空と満月を背に、女は告げた。

「おかえりなさい、シン」
「……ただいま」



C.E.143

『平和の守護者』シン・アスカが消息を絶つ。
その知らせは多くの人を驚かせた。
かつて平和の為に自身の身を捧げて戦った英雄の安否を気遣う人々の思いも空しく、結局彼の足取りは掴めず終わった。
この多くの謎を残した英雄の失踪は様々な憶測を呼んだ。一部ではクライン派の犯行との噂も囁かれたが、証拠は発見されることもなく、捜査は断念されることとなる。

だが、もし真実を知るものがいればこう答えただろう。

ただ彼は帰っただけなのだと。

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最終更新:2011年06月07日 09:44
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