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魔法少女まどか☆マギカ"DEPTH!"第1番目

第1番目"「夢の中で会った、ような…気がする?」


 息を切らせいつもの集合場所へを足を早める。
 春の陽気も手伝い、いつもよりも足取りが軽く感じられる。
春休みも終わりいよいよ終わり、今日からは学生は通常運行となる。
 学年も一つ上がり、新入生でも無ければ、受験の心配も無く、中だるみの時期と言われている
からこそ、初日から遅刻する事は出来ず、まどかはいつもより二十分も早く通学の準備を始めた。

「おは~よ~う」
「おはようございます」
「まどか遅~い」

 聞き慣れ馴染んだ声がまどかの耳に届くといつもの朝が始まったと安心させてくれる。
 穏やかな笑みそ絶やさない志筑仁美と人懐っこい微笑みを浮かべた美樹さやかがまどかを
 迎えてくれる。
 まどかは、二人といつから友達だったのか意識して考えた事は無い。
 気が付いたらまどかと二人は友達で、気が付いたらいつも行動を共にする親友になっていた。

「おっ、可愛いリボン」
「そ、そうかな。派手過ぎない?」
「とても素敵ですわ」

 二人の可愛い"リボン"と素敵の一言に、まどかの顔が一瞬強張る。
 照れているのか、緊張しているのか、何とも形容しがたい表情で溜息をつき、微苦笑を漏らし
た。

「ん?どうしたのさ、まどか」
「ううん、何でも無い。人によって取り方って随分違うなって話し」
「何さそれ」

 話の要領を得ないのか、さやかはキョトンとした表情のまま、まどかを見つめる。
 そんな、さやかが面白かったのか、まどかは微笑み、さやかと仁美を連れ立って学校へ歩き出
す。

「な~んだ、まどか。今日は随分と余裕じゃん」
「そんな事無いよ。これ以上ゆっくりしてたら、遅刻しちゃうし」
「違~う。違う。遅刻欠席の話じゃなくて、何て言うの?心の余裕みたいな」
「それは、私も感じましたわ」

 まどかは「拙い」と心の中で怯むが、時既に遅しとはこの事だ。
 退路を断たれた小動物に逃げる術は持たず、窮鼠が猫を噛む事が出来るのは、自棄の末に特攻
根性に着火した諦念があってのこそだが、逃げ切る気満々のまどかに猫の追撃を避けられるわけ
が無い。


「ある、ある。何て言うの、大人の魅力。私一人初体験済ませちゃいました的な上から目線だよ、
この娘っ子たら」
「だから、違うってば」

 さやかの絡み言葉にまどかは、乾いた笑みを漏らし、深い溜息を付く。
 どうにもマシュマロのように柔らかくデリケートな地雷を踏み抜いたと理解した、興味は尽き
なかったが二人は、追求の手を諦め、世間話に話題を切り替えた。
 華の女子中学生と言えば日々の話題に事欠かない。
 昨日のテレビの話題、週末の予定、気になるアイドルグループ、そして、進路の事。
 考える事、やらなければならない事は山ほどあるが、多すぎてどれから手を付けて良いのか分
からない。
 そして、それ以上に一日一日が充実し、一生涯の中で最も多感で感性に事欠かない時期なのだ。
 無味乾燥で無気力に生きられるわけが無い。

「そう言えばさ、まどか。噂の親戚君も今日から転校して来るんだろ」

 公園の遊歩道も終わりに近づき、そろそろお気楽モードからお勉強モードに気持ちを切り替え
なけならない微妙な時間帯に、何の気まぐれなのか、さやかがまたも大きな爆弾を落として炸裂
させた。

「その…うん、そうなんだけどね」

 さやかが、鹿目まどかの実家に遠い親戚が引っ越して来たのを知ったのが一週間前。
 丁度春休みの中頃に指しかかった頃だ。
 半泣きのまどかから、相談を持ちかけられたのもさやかだったし、詢子から「そう言うわけで
宜しく」とさり気無いフォローを依頼されたのも、また、さやかなのだ。
 今日転校して来るのを知っているだけに、親友としても取りあえず聞かないわけには行かなか
った。

「ちゃんと聞いてなかったけど。確か同い年だったよね」
「一応同い年なんだけど。あのね…」
「一応って何さ。もしかして…まどか、親戚君と上手い事いってないの?」

 深夜まで愚痴なのか惚気なのか分からない内容の悩みを延々と泣き付かれた日には、自称気の
長いさやか流石に怒りの四つ角が浮かんだが、親友の悩みを無碍にするわけにもいかず、根気強
く付き合ったのも良い思い出だ。
 短期間で二回も三回もやられると涙が傷に染みたがだ。

「上手い事行って無いんじゃなくて、何て言うのかな。その、と、遠い親戚で殆どあった事が無
かったから。突然一緒に暮らすって言っても…私、男の子って何考えてるか良く分かんないし」

 歯切れ悪く答えるまどかに、さやかは今朝のまどかの様子に納得が言ったのか一人ごちた。
 美樹さやかにも恥ずかしながら上条恭介と言う男の幼馴染が居る。
 若き新星と持て囃され、既に単独コンサートを開ける実力を持持った天才バイオリストの名を
欲しいままにする正真正銘の天才だ。
 だが、さやかにとっては、恭介は天才の単語だけで括れる存在では無かった。
 さやかにとって上条恭介は、ただのバイオリンと音楽の好きな少年だったし、ずっと近く居て
一緒に育った最も親しい異性だった。
 思春期の壁と恭介の身に起きた不幸な事故も手伝って、さやかにも最近は彼が日々何を考えて
いるのか良く分からない。
 しかし、恭介が事故を起こす前は、彼が何を考えているのか手に取るように分かったし、恭介
もさやかが何を考えているのか、良く分かっていると信じていた。
 相手の気持ちを察する繊細な感情は、長く触れ合った時間に比例して大きくなる。
 会って間も無い異性にまどかが戸惑うのは当たり前の感情で気持ちも良く分かった。

「なるほど。それでリボンで困ってしまったのですね」

 普段は安穏としている仁美だが、妙な所で勘が良い。
 まどかは、内心の戸惑いを言い当てられたのか目を白黒させ、顔を引きつらせた。

「その親戚さんは、まどかさんのリボンを可愛いと言って下さりませんでしたの?」
「その…うん…似合うって言ってくれたんだけど」
「くれましたのね。良かったじゃ無いですか」
「でも、ね。凄く他人行儀って言うか。一応言ったからこれで勘弁してほしいって露骨に苦手な
顔するから…無理強いしちゃったみたいで、私って嫌な子なのかなって」

 起こりは何の変哲も無い朝の一コマの出来事だった。
 近所でも有名なキャリアウーマンで通っている母親を苦労の末に起こし、専業主婦も兼ねてい
る父の朝食に舌鼓を打つ。
 そして、洗面所で母親と朝の語らいをするのがまどかの日課だ。
 話題は同級生の色恋沙汰。
 誰が誰を好きだとか、親友の仁美が同級生に告白され撃墜記録を伸ばしたなど、本当に他愛も
無い話だ。

『リボンどっちかな』
『ん』
『えー派手過ぎない?』
『それくらいでいいのさ。女は外見で舐められたら終わりだよ』
『そうかなぁ』
『いいじゃん。それならまどかの隠れファンもメロメロだ』
『いないよ、そんなの』
『居ると思っておくんだよ。そ~れが美人の秘訣ぅ。なんなら、シンの坊やにも聞いてみな』

 詢子の"隠れファン"発言に唆され、勢い込んで聞いて壮絶な自爆を遂げれば世話は無い。
 聞くんじゃ無かったと思い直しても「似合わない」と明確に否定されたわけでも無く、絶望の
中の僅か希望がこれほど心に響くとは思いも寄らなかった。
 週刊誌などに載っている"弱っている女の落とし方"が妙に腑に落ちたまどかだった。

「むむ…私の可愛いまどかを困らせるなよな親戚君。こんなプリチーフェイスの何処が駄目って
いうのよ。機能性を重視した小っさい体と結構おっきなおっぱお。私が男だったら、まどか見た
いな可愛い娘放っとかないんだけどな。親戚君は想像以上に面食いだね、こりゃ。つうか、むし
ろ、まどかは私の嫁」
「さやかちゃん…それ酷いよぉ」

 さやかのあまりの発言に、まどかは子犬のように尻尾と耳を下げるしか出来なかった。


 まどかの通っている見滝原中学校は、地元に本拠地を持つ某大手企業と欧州のアーティストの
コラボレーションらしく、普通に学校には見ない造形をしている。
 ワンフロア全てを見通せる柱の無い階層構造と総ガラス張りの教室。
 全面バリアフリーの学校には段差は無く、車椅子の生徒でもストレス無く通学出来る。
 個人個人に授業用端末が用意され、教師が黒板に板書した内容が端末にリアルタイムにダウン
ロードされる等、最新鋭技術を惜しみなく使った近未来を体現したような校舎だ。
 また、校内には量子通信ネットワークが完備され、予め制服に縫い込まれているマイクロチッ
プが、校内に限り生徒の体調と現在位置を特定出来るなど、未成年のプライバシーに恐ろしく接
触しそうな怪しい技術の数々は微妙に不評だった。

「たかが卵の焼き加減で女の魅力が決まると思ったら大間違いです。女子の皆さんは、くれぐれ
も半熟じゃなきゃ食べられないとか抜かす男とは交際しないように!」

 バキと教鞭がへし折れる音とまどかの担任である早乙女和子の切なる叫びが教室に響き渡る。
 容姿は平均点を大きく上回っているが、生来の性格と子供相手に自分の恋愛観を披露してしま
う落ち着きの無さのせいか、婚期を大きく逃している困った先生だ。
 しかし、大人としてどんなに駄目な先生でも、些細な悩みで親身になって相談に乗ってくれる
和子は、まどか達にとっては気の許せる"良い"先生だった。

「駄目だったか」
「駄目だったね」
「そして、男子の皆さんは、卵の焼き加減に絶対にケチを付けるような大人にならない事」

 まどかは、左斜め前のさやかと互いに苦笑し合う。
 わざわざ焼き加減程度の喧嘩を連呼するくらいだから、余程腹に据えかねているのだろう。

「っと、後それから今日は皆さんに転校生を紹介します」

 教室内から苦笑が溢れるも気にせず、失恋の鬱憤も毒も吐き終わったのか、教師の顔を取り戻
した和子は、気を取り直して生徒に笑顔を振りまいた。

「じゃあ、二人ともいらっしゃい」

 教師の声で、教室の扉が静かに開き、二人の転校生が姿を現した。

「うわっ、凄え美人」

 さやかが思わず口に出してしまうのも無理のない事だった。
 まどかにとって転校生の一人は、全くの見ず知らずの女の子だった。
 腰まで伸びた細く透き通るような黒い髪は深窓の令嬢を彷彿させ、整った顔立ちを合わさって
誇張抜きで人形のように綺麗な女の子だった。
 彼女の登場で明らかに教室の空気が変わった。
 ガラス越しのショーウィンドウを見つめているようなもどかしい感覚が教室内にひしめき合い、
男女問わず思わず溜息が洩れる事を止められなかった。
 それ程彼女の容姿は人並み外れ、芸能人では無いと思わせる代物だった。
 そして、教室のざわめきが収まらない内に、もう一人の転校生が教壇へと足を進める。

(あっ…)

 もう一人は、一人は意にそぐわぬ邂逅だったが、何の因果か運命の悪戯か一緒に住む事になっ
た少年。
 二週間前に布団の中で知り合った男の子シン・アスカは、男子の制服に身を包んでこそいるが、
むっつりとした表情は家の中となんら変わらない。
 癖っ毛と日本人には珍しい赤い瞳。
 そして、色素異常を彷彿させる白い肌は、見る者が見ればこちらも人形のようにも見えた。

(気づいてくれるかな)

 まどかは、シンに向けて小さく手を振るが、当の本人は気付いているのか、いないのか。
 鉄面皮を崩さぬまま、ほむらの隣で足を止めていた。
 本来知らないはずの転校生を知っているような、いないような既知感にまどかは、戸惑いに
も似た妙な触感を覚えるが、気のせいだろうと直に忘れた。

「はいそれじゃあ、自己紹介いってみよう」
「朱美ほむらです。宜しくお願いします」
「シン・アスカです。宜しくお願いします」

 二人とも教師が促す前にペンを持ち、自ら進んで黒板に名前をかき始め、自己紹介と言うには、
あまりに短い一言に皆戸惑っているようにも見える。
 しかし、二人ともそんな事は全く意に介していないのか、同時に深々とお辞儀をして自己紹介
を強引に締めてしまう。

「あ、あのね。二人とも」

 教師生活はまだ短いがここまで物怖じしない生徒も珍しい。
 転校生と言えば、もう少し愛想が良いのが相場なのだが、どうやらこの二人には関係無いよう
だ。

「もう…いいから、二人とも席に着きなさい」

 愛想の良いほのぼのとした空間を諦めたのか、二人に席に着くように促す。
 針の筵ほどでは無かったが、やりにくい事態は早々にご退場願うのが社会人の知恵でもある。

(本当に同じクラスになっちゃった)

 詢子が裏で手を回した事は知っていたが、本音を言えば半信半疑だっただけにまどかは、母親
の手管に舌を巻いた。
 耳を澄ませば転校生のお約束の噂話が飛び交っているが総評は悪く無く、無愛想な鉄面皮もク
ールな性格で受け入れられたようだ。
 シンは、見かけ通り無愛想だから、どうなる事かと思ったが、何があるにしろ、兎に角挨拶が
無事に済んで良かったとまどかは、ほっと胸を撫で下ろした。

「えっ…」

 ほっとしたのも束の間。
 まどかのシンへの視線を遮るように、もう一人の転校生朱美ほむらの視線がまどかの瞳に飛び
込んで来た。
 交錯はほんの一瞬。
 しかし、明らかにほむらは、まどかを強い視線で見つめ、そして、訝しがるようにシンへと視
線を視線を向け直していた。

「貴方…彼女の知り合い?」
「…居候させて貰ってる」

 ほむらの瞳に敵意に似た光が浮かぶ。
 シンも無視を決め込むどころか、ほむらの視線を馬鹿正直に受け止め睨み返してしまっている。
 あまりに熾烈な視線の応酬にまどかを頂点にシン、ほむらと綺麗な三角形が完成してしまう始
末だ。

「まどか…転校生達に何かした?」
「分かんない…本当に分かんないから」
「愛憎渦巻く三角関係。週刊現代の世界ですわね」
「違うから。それ絶対違うからね、仁美ちゃん」
「まどか、あんた凄いよ。出会って一分で男女問わず手玉に取ってるよ。親友が悪女の素質に花開
く瞬間に私達立ち会っちゃったよ」
「さやかちゃんも…酷いよ。」

 まどかを巡る戦いのように、シンとほむらが視線が火花を散らす度に教室中からどよめきが溢れ
る。
 朱美ほむら。
 シン・アスカ。
 この二人の名前がクラスメイトに認知された瞬間は実に静かで仰々しく打ち上げ花火のように派
手だった。

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最終更新:2011年04月12日 14:29
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