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東方小ネタ-10

1

「平和ね」

博霊神社の側にある巫女の居住区。
その縁側で一人の老婆がお茶をゆっくりと飲んでいた。
博麗神社は幻想郷の境にある山の頂に建っている。
無論、妖怪の山などと比べると低い場所では在るが、そこから見渡す風景は絶景と言っても過言ではあるまい。
身に纏う服はかつてのような紅白の巫女服ではなく、落ち着いた臙脂色の和服で彼女によく似合っていた。
結った髪を少しいじくってから、もう一口お茶をすする。
苦味の奥にある甘い味わい。
幼い頃から慣れ親しんだ味は、いつになっても落ち着くし、美味しいものだ。

      • やっぱり、人間生まれた所の物が一番なのかもね

クスリと笑う笑顔は満ち足りたもので、かつてのように自由気ままに振舞っていたのは面影もない。
側にあった饅頭をとろうとして手を伸ばす。
が、何故か手は空を切る。
つと見てみればそこにあるはずの饅頭はなく、代わりに

「お久しぶりね。元気にしていたかしら?」

一人の妖怪が側で座っていた。
波打つ金髪に紫の洋服。
美しさは確かにあれどもどこかはかなく、脆いようにも見える。
その慣れ親しんだ姿を見て、彼女は微笑を浮かべて応じた

「えぇ、元気にしているわよ。そちらはようやく冬眠からお目覚めかしら?」
「そうなのよ・・・それなのに、濫ったらご飯用意してくれていなかったのよ?酷いと想わない?」
「あら、それはお気の毒ね。で、美味しかったかしら?お饅頭は」

少しばかりの嫌味を効かせた言葉にも、妖怪は然したるものもないというのか。
少しばかり唸ってから一言

「少し餡の練が甘いわね。蒸かしも過ぎるし、なにより形が歪だったわ。次はもっと美味しく作ってくれないとね」

反省の色もなくのたまった。
そのお饅頭は彼女の娘が持ってきてくれたものだった。
一緒に居た娘の子供―――彼女にとっては孫娘なのだが―――も、一緒になって作ってくれた力作との事だが、
まだまだ餡の練りこみが足りないと苦言を言うよりもこんな老婆を慕ってくれるのが酷く嬉しかったのを覚えている。
だからこそ、彼女はすっと手を伸ばし、妖怪の頬についている餡子を指先でとってやる。

「そうね、全く同感。でも、次はきっと更に美味しくなっているわよ。あの娘は覚えが早いから」
「でしょうねぇ・・・あーあ。人間ってのはどうしてこうも成長が早いのかしら。生き急ぎすぎるわ」

相手も彼女の成すがままに、餡子を取らせてからからゴロリと横になる。
淑女としてはまねをするわけにはいかないが、かといって嗜めて聞く相手ではあるまいと知っているが故に、彼女は久しぶりに相手の名前を呼んだ。


「人間から言わせれば、あなた達が長生きしすぎるのよ。そうは思わないの?紫」
「妖怪から言わせれば、人間が短命なのよ。霊夢」

そうして、かつては博麗を名乗っていた彼女、飛鳥 霊夢は、スキマを操る妖怪、八雲 紫との会話が数ヶ月ぶりに始まったのだ。

「それにしても、ずいぶんとおとなしくなったわね・・・あの博麗霊夢ともあろう巫女が」

それは皮肉と言うものなのだろうか?
まぁ、それはかまわないのだけれどもと思い直してから、霊夢は一つだけ訂正を要求した。

「人間、80年も生きれば丸くもなるわよ。それに、私はもうとっくの昔に博麗じゃなくて、飛鳥になったんだけど?」
「あぁ、そうだったわね。ごめんなさいね、忘れてしまっていたわ」

言葉では謝りながら、顔はニヤニヤと笑っておいて良くぞ言えるものだと想いながらも霊夢はそっとそばに置いてあったもう一つの湯のみにお茶を注ぐ。
少しぬるくなって入るだろうが、この騒がしい突然の来客にはちょうどよかろう。
お茶を注いだ湯飲みを目の前に置かれた紫は一言ありがとうと呟き、早速それをすする。
先ほど口にしたお饅頭が程よい甘さであった故に、口をすすぎたいのだろう。
が、しかし、口に含んだ途端顔をしかめてこちらをちらりと睨み付ける。

「霊夢・・・」
「どうかしたの?」
「このお茶・・・すっごく苦いんだけど・・・?」
「あらあら、ごめんなさいね。この歳になると味覚が変わってしまったのかしら?」

こちらも、笑みを浮かべたまま受け返す。
無論、渋くいれたなどと言うのは嘘に決まっている。
単に昔のように二人分入れる癖が直っていないだけであり、自分の飲む速度もそんなに速いものではない。
故に、もう一人分しか入っていないお湯にお茶が十分ではなく過分に染みこみ渋くなってしまっただけなのだから。
歳をとると、必要最低限しか必要なく、要るものなどそうそうないのだが、この癖だけは直ってはくれない。

最も直す気などさらさらないのだが。

紫は結局煎れ直してはくれないのかと呟きながら、相変わらずのジト目でこちらを見てくる。
その仕種が、あまりにも彼女がまだ夫と会う前だったのでおかしくて仕方がなかった。

「ちょっと霊夢、貴女歳をとってから意地悪さに磨きがかかってない?」
「あら?人間は生き急ぐのでしょう?なら、仕方ないじゃない」

微笑を嘲笑ととったのか、紫が抗議の声を上げるが、それさえも懐かしい。
あぁ、自分はやはりこの妖怪が嫌いではない。
無論、かつて博麗の巫女として活動していたときから妖怪など好きでも嫌いでもなかったが
それでも、自分にとっては育ての親のような彼女を、自分は嫌いにはなれないで居た。

「これだから人間は・・・幾ら私が貴女より外見は若くても、一体どれほどの年月を生きてきたのかしらないんだから」
「人生は長さではなく、質よ。無為に生きた千年よりも、有意義に生きた一日のほうがより輝くじゃないの」
「そんなもんかしらね・・・まぁ、今の貴女も嫌いじゃないのだけれども、ね」


くすりという笑みをお互いが浮かべて、しばしの沈黙が訪れる。
はるかな山の頂には緑が生い茂り、風は鳥のささやきと緑の香りを送ってくれる。
田畑まではもう、彼女の目では見えないが、うっすらと人が居るのを確認できた。
そんな当たり前のような、それで居てどこか特別な風景は最早一つの芸術品であり

「去年、だったかしらね」
「えぇ、そうね」

風景に心をゆだねていても、妖怪の口調から何のことかを察しつける。
突然話を振られても、それだけは答えることが出来る。

「貴女の旦那さんが、亡くなったのは」
「えぇ、ちょうど去年の今日。こんな天気のいい日だったわね」

ごろりと横になったまま、視線だけをこちらに向けてくるのを感じながら、
霊夢はなんでもないかのように応えた。
その顔には笑みさえ浮かべているのが自分にも分るのだが、それが気になるのか、紫がもぞもぞと動きながら座布団の上に腰をかける。

「寂しい?」
「寂しくないといったら嘘になるわね。何十年も一緒に居たんですもの」

そう、彼と出会ってから数十年の年月を過ごしてきたのだ。
霊夢はそっと目を境内の近くにある簡素な墓に目を向ける。
縁側から近く、外の世界との結界の境のすぐ側にあるお墓。
石のつくりは簡素なもので、豪奢な碑も、何も立っては居ないが、墓石の前には瑞々しい花が生けられ、線香が煙をたゆませている。
供え物には先ほど娘達からもらった饅頭を二つ添えてあるが、あの人は甘いものが好きではなかったら少しつらいだろうか?
そして、墓石には文字が刻まれていた。

『飛鳥家代々之墓』

そこには、彼女の夫が、外の世界よりもさらに遠いところから来た異邦人、シン・アスカが眠っている。
紫もまた、それに習うように墓石に目を向けてそっと目礼をもって応じる。
そして、霊夢もまた、ずっと外に向けていた視線を紫へと移す。
見ればいつの間に行ったのか、姿勢をただし背筋を伸ばした紫の姿がある。
それが少しだけおかしくて、なんだかんだと生真面目なふるい友人に笑顔を向ける。
やけに神妙な顔が少しだけおかしかった。

「そろそろ、近いのかしら?」
「えぇ。遅くても明日、早ければ今日の晩といったところね」

なにが、とは聞かない。
自分のことなのだ。
聞く必要もない。

「そう・・・」

だからこそ、一つ目を瞑り、彼との思い出に浸る。
黒い髪に白い肌、そして小柄なようで力強い体に、何よりも特徴的な赤い瞳。
嘆き、悲しみ、それでもなお折れず曲がらぬそれはまさしくもって狂気に近かろう。
自分には終ぞ持ち得なかったその瞳を思い出し。

「やっとなのね」
「後悔は」

相変わらず神妙な顔をする友人に、霊夢はつと考えて



「ない・・・といえばないわね。しいて言えば、あの娘達のお饅頭とかおはぎが食べられないのが、未練かしら?」
「なにか、言い残すことは」
「そうね。あ、紫、あなたもいい歳なんだから少しは家事を手伝って上げなさいな。濫も大変なんだから」

その言葉に何を想ったのか、紫はそうとだけ呟いてから再び墓石へと体ごと視線を向け。

「変わったのね、貴女は」

一言呟いた。

「そうね・・・そうかもね」

その言葉に、確かにと微笑をもって応じる。
かつての自分にあるのは今だけだった。
過去も、未来も、その道の上にあるだけで、自分が死んだ後のことなど知らないのだからどうでもいいと談じていた生娘だった。
そんな自分が夫と出会い、そして結ばれて、人にしては長い時を生きて
気がつけば変わっていたのだ。

「昔の貴女はもっと苛烈で、幻想郷に必要不可欠だったのだけれどもね」
「今はもう、引退した身よ。別にかまわないでしょう?」

今の博麗は彼女の孫だった。
隔世遺伝とでも言うのか、彼と同じ真紅の瞳に茶色の髪を持った可憐な少女。
祖母の自分から見ても十分に可愛らしいその姿と、妖怪に対して圧倒的なまでの苛烈さを持つ彼女は、確かにまぁ博麗の巫女にふさわしかろう。

「やっぱり、彼が貴女を変えたのかしらね」
「でしょうね。まぁ、人間生きていれば簡単に変わるわよ」

くすりと笑って応えに応じる。
にやりと笑い、紫が瞳を見つめる。

「惚れた弱み?」
「えぇ、惚れた弱みよ」

軽く返した霊夢に紫が肩をすくめて苦笑する。

「やっぱり、貴女変わったわね。何を言っても通じそうにないわ」
「事実ですもの。否定するわけがないじゃない」

だからこそ、彼女もまた苦笑で返した。
すっかり冷めてしまったお茶を口に含む。
昔は昼間から酒を飲んでいたが、最早この老躯にはつらいものがある。
湯飲みをゆらしてゆらりとたゆたうお茶を楽しむなど、若い頃は考えもしなかったものだが。

「そういえば・・・紅霧館のほうはどうなってるの?」

相変わらずしかめっ面をした紫がふと気がついたように質問をしてくる。


「この前、姉妹そろって50歳になったらしいわね。で、どちらの母親もスタイルが追い抜かれて絶望してたわ」

あれは未だに思い出しても笑ってしまう。
久方ぶりの宴会に呼ばれて遠出してみれば、床に向かってうなだれる二人の吸血鬼姉妹に、お互いの母親に何と言うべきか悩みながらもおろおろとするばかりのその娘達。
母親の方は相変わらず姿かたちは変わっていなかったのは、やはり娘が人との混血だからであろうか?
それを聞いて紫は笑い

「それは見てみたかったわね・・・じゃあ」
「魔理沙のところのは相変わらず魔法の森にこもって研究。この間は幽香のところのと遣り合ってたらしいわね。
 早苗のところは相変わらず祝詞が覚えられないってぼやいていたわ。輝夜のところは母に鞭打って働けってはしゃいでるし、妹紅のは相変わらずまじめに妹達の世話してるし。他には・・・」
「いや、もういい。かまわないわ。後で自分で確認する」

まだ始まったばかりの孫自慢だというのにいきなり止められて、霊夢はそうとだけ呟いた。
確かにこの友人からすれば距離などあってないようなものだ。
ならば自身の目で確認するのに越したことはあるまいて。
そう判断して、霊夢は紫の瞳にふと疑問を感じた。
どこかいぶかしむような、それでいて聞いて良いのか判断に悩むような、そんな顔。
今まで見たことがないその顔に、霊夢が不信に想っていると。

「あーー・・・霊夢。たぶん最後になるだろうから教えて欲しいんだけど・・・」
「なによ。老い先短いこんな婆様になに遠慮してるのよ」
「えっと・・・あなた、シンの奥さんよね」
「当たり前でしょう?結納のときも、婚姻のときも、貴女いたじゃない?・・・あ、そういえば貴女。初夜の時もいたでしょ。あんまりお行儀よくないから、これからはやめておきなさいよね?」
「いやいやいや。そうじゃなくて!!」

なにを聞いてくるのかと思い疑問をぶちまけると、妖怪の親玉にしては珍しくあたふたとあわてながら紫が顔を真っ赤にしてくる。
全く、このスキマを操る妖怪は数千年の時をいきながら未だにこういったことに免疫がない。
無論、彼女の式のようにそっちが本業のようになれとは言わないが、これではいかなるモノなのか。
と、霊夢がやれやれと心中にてため息をついていると、ついに決心をしたのか。

「えっとね、霊夢」
「なにかしら?」
「あのね・・・貴女、自分の旦那さんが自分以外との女との間に子供作っておいて・・・なんとも想わないの?」
「はぁ?」

今更、何を言っているのだ?この妖怪はという想いと共に
霊夢は久しぶりに普段の貞淑な言葉ではなく、昔のような息をついて頭を右手で抑えた。
対する紫は顔を真っ赤にしながらずいと上半身を乗り出してくる。

「だ、だって!!貴女がここまで変わってしまうくらい惚れこんだ相手なのよ!?それが他の女とも子供作っておきながら、その子供や!孫たちまであなた面倒見すぎなのよ!!なんでそんなになれるのか分けわかんないのよ!?」

一息に言って、深呼吸する相手に、霊夢は

「それ、あなたが言うの?」
「う」

一言で相手を黙らせた。
固目をつぶり、開いたままの目で相手を見る。


もう、いい加減時効だろうとも想いながらも、だってと呟き続ける紫にやれやれと、ため息をつく。

「そもそも、あの人と私に子供達がこれだけ出来たのは・・・貴女があの日やらかしたからでしょう?」
「ぐ」

そう、あの日のことはよく覚えている。
その日紫がなにやら怪しげな、それでいて酷く美味なお酒を持ってきたあの日。
奇しくも様々な妖怪や人間、魔法使いが宴会を開いていたその日のことを。
その光景に紫は舌打して酒を隠そうとしたのだが、そこは宴もたけなわにいないことがありえない鬼達に見つけられて没収。
即座に開封されてその場の皆に振舞われてしまうことになった。

このとき、もっとよく観察しておくべきだったのだ。
あの紫がなにやらあわてているのにも。
銘酒と言っているのにもかかわらず、彼女本人は一口も口を付けずにそそくさと帰ってしまったことを。
まぁ、時既に遅くその後には惨劇が待っていた。

より正確にはその日の晩を。
薄暗い部屋に、障子を通して入り込む月明かりに照らされた『何人』もの白い肌。
自分ではないような妖艶な声に吐息。
夢の中のようにフワフワと浮かぶ感覚と、なにやら心が満たされる想いに包まれて。
そして、なによりも次の日の目覚めと共に頭痛に襲われてからの現実を。

「えぇ。忘れるわけがないじゃないの」
「だ、だって!!まさかあの日宴会があるなんて聞いていなかったんですもの!!それに鬼達が勝手に持って行ってしまったのよ!仕方ないじゃない!!」
「だからって、逃げることはなかったでしょう?というか、そもそも強烈な媚薬入りの酒なんて普通持ってくる?もし別の日に持ってきてくれていたなら、私は旦那を独り占めできていたのに」
「だから!!」

紫が一括してこちらの言葉を止める。
はて、おちょくりすぎたかといぶかしむと、彼女は心底申し訳なさそうに顔を伏せ

「だから、悪かったわよ・・・あなた達二人をくっつけようとしたのは確かに私だけど・・・でも、だからこそ、分らないのよ。貴女が・・・貴女がなんでそんなに笑っていられるのか・・・」

どうやら本気でおちょくりすぎてしまったらしい。
霊夢は微笑み、紫の頭を優しくなでる。
しばし彼女はキョトンとしていたが、すぐに顔を赤らめてぷいと顔を背けてしまう。

「ちゃかさないで」
「あら。泣きそうだったから慰めてあげようと想ったのだけれども・・・要らなかったかしら?」
「霊夢!」
「最初は許せなかったわよ」

今度は紫の言葉を切って呟く。
そう、初めは許せなかった。

「私と結婚するっていうのに、他の子供も認めるのを許してくれ、なんてね」

彼女とて、一人の女だ。
男からの愛は独占したいし、彼の子供を産む権利は自分だけにあるのだと、そう確信していたのに・・・


「まさか、あの日に皆できちゃったなんて、聞いた時は呆れたわ」

そう、心の底からあきれ果てた。
しかしそれは、彼が皆の望みをかなえて欲しいと言って来たからでもなく、皆が素直に産みたいと望んだからではなく。

「好きな男の望むことをしてやりたいって、なんだってしてやりたいって想った自分に、あきれ果てたのよ」

くすりと微笑む。
紫はそれを呆然とみつめ

「だから、結局はさっき貴女も言ったでしょ?」

掌で転がしていた湯飲みを傾けて、中身を飲み干す。
少しだけ昼間から飲みたい気持ちがわいてきたのをごまかすように。

「惚れた弱みよ。だからまぁ、貴女が気に病むことも、気にすることもないのよ」

そういって、飛鳥 霊夢(旧姓博霊 霊夢)は微笑みながら当たり前のように応えて




「ありえねええええエーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

霊夢は眼を覚ました。
朝の陽射しが眩しく障子から差し込んでいる。
外では雀だろうか、小鳥が懸命に鳴いているのを聞いて

「いっつ!?」

霊夢は頭を抑えた。
ぐらぐらとするような、頭そのものが痛みを訴えるそれは、経験則から見なくても二日酔い特有のもので。

「・・・夢?」

そうであって欲しいと想いながら呟く。
体はびっしょりと汗に濡れて気持ちが悪いが、今はそんなことはどうでもいい。
あまりにも、汗をかいたからの本能か、自分も一糸纏わぬ姿になっているが、それはまぁ、おいておこう。

「なんだ・・・ゆめ、か・・・」

乾いた笑みを浮かべて、一つため息をつく。
瞬間、再び頭痛がしてきた。
それを抑えるように右手をのばす。

「夢・・・そう、夢よ・・・はは、私も疲れてるのかなぁ・・・」

そう、ありえない。
半年ほど前にやってきた異邦人。
特異性故に里に置くわけにも、かといって放置するわけにもいかないこの神社の居候。
そのくせ様々な異変に巻き込まれて、気がつけば何人物もの妖怪人間、魔法使いを問わず彼に惹かれていようとも。
そして、何の力も持たない彼と自分が結ばれ、そして孫までいるなどと。
何よりあの胡散臭い紫を嫌いではない?
その次点で既に法螺か虚構に他ならない。

「ないない。ありえない。あんな朴念仁の何処がいいんだか」

そう、あんな奴の何処がいいのか分らない。
少しばかりかっこよくて、すぐに熱くなるような子供っぽさをもっていて。
流されやすいくせにちょっと優しくて、でも怒る時には怒ってくれて。

「いやいやいや。まてまてまて。ないないない。ありえないからな」



頭を振る。
相変わらずの二日酔いには堪えたのか、再び頭を抑える。

「・・・っつーか、昨日はなんで飲んでたんだっけ?」

ふと、思い出そうとする。
昨夜は別段、異変が解決されたからとか、そういったものではなかったはずだ。
シンを目当てに集まってきた妖怪やら人間やらがぞろぞろと集まったのがきっかけであった。
そして、人(?)が集まれば酒盛りになるのは自然なことで、気がつけば異変解決後のドンちゃん騒ぎに発展。
シンを巡ってのランチキ騒ぎに変貌し、気がつけばちょっとした異変とさえ感じられるほどになり

「んで、突然家で宴会になって・・・どんちゃん騒ぎになって・・・」

霊夢からすればシン目当てにこられるのは非常に鬱陶しいものでしかないのだが。
それは勿論、騒ぎの後片付けがめんどくさいだけで、シンとの二人っきりを邪魔されるからなどでは談じてない。
そう、ありえない。
      • 話がそれた。
とまれ、宴会になってさて、宴もたけなわと言う時に突如『スキマ』から紫が「銘酒よー」といいながら現れたのだ。
たしか持っていたの酒瓶には『運命恋落し』などと書かれていた気がするが気のせいだろう。
自分も酔っていたし。

「でも、なんで紫があのあわてて隠そうとしたのかしら?」

確かに、紫は隠そうとしたのだが、宴会が起これば当然現れる酒好きの鬼達にはお見通しだったのか。
即座に奪い去られて周囲に飲み干されてしまっていた。
まぁ、その呑んだうちには自分も含まれてはいたのだが。

「そういえば、あの酒美味しかったわね・・・今度探してみましょうか?それから・・・それから・・・」

記憶にない。
よほどよってしまったのか?
うーんと唸りながらも再び襲ってきた頭痛に水でも飲もうとして

「っつ!?」

瞬間、腹の奥から来る痛みにバランスを崩した。

「え?へ?な、なに?」

わけが分らない。
本当に昨日何があったのかといぶかしんだ瞬間。


「むにゃ」

なにやら可愛らしい寝言をほざく同居人の姿があった。

「へ?」

人間、驚きすぎると逆に冷静になるらしい。
そんなことを想いながら霊夢の脳裏に昨晩の記憶が蘇る。
薄暗い部屋に、障子を通して入り込む月明かりに照らされた『何人』もの白い肌。
自分ではないような妖艶な声に吐息。
夢の中のようにフワフワと浮かぶ感覚と、なにやら心が満たされる想いに包まれていて・・・

「ゆ、夢よ。夢と混在しているのよ!!」

ぶんぶんと頭を振る。
とはいえ、何はともあれまずは自分が裸と言うのがまずい。
いや、それ以前に色々とまずいのだが。
そんなことは些事に過ぎる故に忘却の彼方に放置した。

「服!とりあえず服を・・・あった!!」

自分がいつも来ている寝巻きを見つけてそれを引っ張る。
しかし、どういうわけか何かに絡み付いているかのように取れない。

「くそ!!こんな時に」

あせればあせるほどに寝巻きにしわがよるのだが、そんなことにかまって入られない。
何度かの悪戦苦闘の末寝巻きが手に入る。

「っと、とれ・・・た」

それは自分がよく知る人物の特徴を持っていた。
蛇と蛙の髪飾りを施した緑の長髪。
豊かな乳房は己がひそかに憧れていたもので、女性らしいふくよかさをかねそろえていた。

「は、はは・・・」

何かよく分らないが、それは乾いた笑いと言う形になって現れた。
ことここに居たり、霊夢はようやく周囲を見渡した。
博麗神社の側に在る自分の部屋。
ではなく。
大人数が座れる雑魚部屋であり、そして

「うーん・・・もうのめねー」

そして、周囲にいる自分以外の女性の裸体。

「はは。あはははははは」

ひとしきり笑った後。
霊夢は意識を手放した。


博麗霊夢の直感には、殆ど未来予知に近い能力がある。
もしかしたらその夢も・・・

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最終更新:2011年06月07日 09:47
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