1
「なぁ、この前シンのこと好きだって言ってたよな」
何を藪から棒を。と飲んでいたオレンジジュースを喉につっかえそうになるイカ娘。
のどが苦しいのを抑えながら、イカ娘は栄子のほうを見る。
なんも表情を変えずに笑顔で聞いていた辺り、実は無神経なのじゃなイカ?とイカ娘は嫌な気分になった。
先週辺りだろうか、イカ娘は、栄子に『無駄に高鳴るこの気持ち』を栄子に相談したのだ。
それで、栄子から『それはひょっとして……恋なんじゃ』と真剣な表情で言われて、それはなんなんでゲソ?と聞き返した。
『人を好きになること』を恋だと言うらしい。それで、栄子は考えておくと言われてから、それについては音沙汰は無しだったのだ。
今になって出てきたのだからこうなるのも当たり前だ。
栄子は続ける。
「まあ、私と姉貴がなんとかするからさ」
「何をどうするのでゲソ?」
何をどうするか、と言われても、とコップを置くイカ娘。
そういや栄子はシンに少し気をかけてた様子だったでゲソと思いつつ、そのどうするかというのを聞いてみる。
「明日シンを『有給休暇』させるから、そのときにデートに誘いな」
「デ、デートって……ゲソー!?」
イカ娘はデートの意味が分かってた。
―――
『それはひょっとして、デートじゃなイカ!?』
―――
「え?休みですか?」
「そうだよ、最近シンも働き詰めだっただろ?」
海の家れもんで聞かれるシン。
そういえば、とシンも頭を掻く。
最近ではイカ娘のことで騒動があったりとしたが、それでも体力は消耗してないので、働いてたのだ。
海の家れもんでは、最近イカ娘効果もあるので、それなりに働かないと3人がキツそうな状況だったのだ。
無論、その中にイカ娘はカウントされてない。渚と栄子と千鶴だけだ。
イカ娘をカウントすると、ドジ効果とかも含まれてえらいことになる。
「あ、あのさ。明日辺りに少し遠めのところにショッピングモールがあるんだ。そこにイカ娘といってきなよ」
「え、ええでも……」
と、シンは遠慮する。それでもなんとかして休ませようとしている雰囲気だ。
第一なんで『少し遠め』のところに俺を行かそうとするのか、やはりこの人男とでもデキてるのではないかと実際そうではないだろうとは
分かっていても少し疑ってしまうシン。
実際に栄子はうーん、と考えこんでいる。
栄子は何かをしたいんだろうか?と思ってたところ――
後ろから物凄く禍々しいオーラが。
そこには、黒髪の悪魔が居ました。
シンの中では紫髪の悪魔といえばいいのだろうか。
開眼してたのがまた恐ろしい。というか怖い。コンタクトレンズしているときより怖い。
具体的に言えば某戦闘不能にさせるだけのキラッ☆大和とその妻ピンク色の悪魔と同じぐらい怖い。
何か頭冷やせといわんばかりに魔法ならぬ魔砲を飛ばしてくる某魔砲少女並みに怖い。
靴下をほむほむする某ガチレズ変態黒髪魔法少女さんとはまた違うベクトルの怖さだが同じぐらい怖い。
何がって笑ってるし、笑ってるし。
背中から首にかけてがひんやりと冷えてくる。
呼吸も心なしか寒い。
ルナマリアは怒っても怖くなかったが、こっちとはレベルの差が違う。
長月早苗もあれはアレである意味怖いが、こっちのほうが怖さはダントツだ。
「シンくん、まあ明日は休みなさい」
「サ、サーイエッサー!!!」
「よろしい」
と、温和な雰囲気にまた戻る千鶴。
呼吸も背中も首もぬくもりが帰ってくる。
でもさっきのアレは……と考えこもうとしたが、またあの怖さを再現させることになりそうなので、
やめとこうと思うシン。
『ふふっ』とか笑ってるけど、それはもうだまって休めと言わんばかりじゃなイカ!とイカ娘風に言いたくなるシンだった。
―――
ちなみに、シンには渚から電話があったのだが。
『イカの人とその……ゴニョゴニョ……とにかく無理ですぜったいに!』
とか言われたシンは、それに対しては『何か誤解をしてるだろう』と言い返した。
―――
翌日
待ち合わせ場所には、イカ娘が居た。
ここは、海に隣接するショッピングモールで、海が見えるところを待ち合わせ場所としていた。
シンは最初、普段の服装で来るだろう、と思っていた。
あの無地のなんともないようなワンピースに下にパンツじゃなければどうということもないと言わんばかりの水着のルックで。
そのシンの予想は大きく外れる。
海と少女の対比は、写真に撮ると素晴らしいといわんばかりだった。
ピンク色のふりふりがついたノースリーブのワンピースは、魅力的に引き立てていた。
中央に可愛らしい刺繍が、イカ娘の雰囲気と合っており、
少し短めのスカートから見えるふとももは、シンにとっては眩しい。
青い海の香りが、彼女からふんわりとしてきて、それは香水の役割も得ていた。
「イカ娘、その服装」
「栄子にこれを着ていてって言われたでゲソ」
何故栄子がこれを……と、少し考えこむシン。
もしかして栄子はこれを見せたいがために、となると、何故千鶴があの怖い怖いオーラを出したのか。
これのためだとしたら、ちょっとあっけないのではないか、と更にシンの疑いを深めた。
もしかしたら男が本当に出来てるんじゃとかそういう意味での疑いであるが。
そんなシンの考えこむ様子にイカ娘の表情に不安が宿る。
「シン……似合わないでゲソ?これ?」
少し涙目になっているような印象を受けた。
そういわれた事に気づいたシンは笑みを浮かべて、こう返す。
「きれいだよ、イカ娘」
シンは触手で背中をたたかれた。
「わ、私の純情を弄ぶのはやめなイカ……」
「じゅ、純情?あ、ああ。褒められてうれしいのか?」
純情ってなんの話だろうか、とシンは考えるも、何も妥当なのは思い浮かばないので、普段のイカ娘の行動パターンから予想して
『褒められてうれしいのか』と返す。何か余計にイカ娘が余計に涙目になったように見える。
でも事実を言ったまでなのに、とシンは少しあきれた笑みを出す。
「で、でもでも、うう――なんだか凄く恥ずかしいでゲソォォッ!しかもなんか納得いかないでゲソ!」
体に触手がまとわりつき、上に持ち上げられる。そういや服装に注目していたので触手があったことを忘れていたシン。
「い、いやちょおま俺を縛るのはやめろーっ!あんたって人はぁぁーっ!!!」
でもシンはやっと日常に戻れたんだ、という確信を得ていた。
それがまた嬉しくて、笑みを取り戻していた。
ちなみに、このとき後ろから禍々しいクェス的なニュータイプオーラを放っていたのは、シンが知る由もなかった。
「許すまじ……シン・アスカ……!私がBU☆CHI☆KO☆RO☆SHI☆てやるぅ……!」
どこかで『やめろ長月早苗!気を抑えるんだぁ!』といわんばかりの声が聞こえたような気がした。
―――
続く。
2
「そういや、イカ娘。」
「ん?何でゲソ?」
後ろから迫りくる殺気みたいなナニカに気づかぬまま、ショッピングモールを歩いていると、シンのほうから声をかけた。
ちょうどそのあたりはレストランコーナーみたいなところで、前にはパスタ屋があった。
シンがパスタ屋のメニュー一覧を見てみると、ある単語があったので、ここで食べようと決めるシン。
「ちょうどご飯時だろ?そろそろ食べたほうがいいんじゃないか?」
目の前のパスタ屋のレストランのサンプル一覧のショーケースにに手を指すシン。イカ娘がそちらを見ると。
『大人気!エビの明太子パスタ!』
「食べたいでゲソ!」
「だよな」
シンは少し苦笑いを浮かべた。単純だよなイカ娘は、と思いながら。
意気揚々とイカ娘はレストランの中へ向かって行った。
満面の笑みで。
ここまで笑顔の似合う娘って居ないよなぁとシンは良い意味で呆れた。
店員に案内された席に座り、メニュー一覧を見るシン。
イカ娘のほうはというと、店員が水を持ってきた時点で
「エビの明太子パスタを頼むでゲソ!」
と元気良く言ったので、店員も笑みで返し、厨房のほうにその旨を伝えていた。
その後、注文を聞きに来た店員に対し、ミートソーススパゲッティを頼んでいた。
「で、その、シン」
「なんだ?」
いつもどおりにシンに話しかけるイカ娘。
「彼女は居るのでゲソ?」
「ぶふっ、ぶっ」
飲んでいたグラスの水を噴きそうになるシン。
何故そういう話題をいきなり前ぶれも無しに出してくるのか、とシンは心の中でツッコみながら、聞き返す。
「なんでイカ娘はそういうのいきなり聞いてくるんだ?」
「そ、それは……で、でも知りたいじゃなイカ」
心なしか顔も赤い気がする……なんて事をシンは観察する。
「まさかイカ娘もそういうのを聞くお年頃になったなんてなぁ」
「そそそそそそっそそそそうじゃないでゲソ!」
完全に赤面して言い返すイカ娘。で、それでシンは気づく。
まさか、とは思うがこれデートのつもりなんじゃ、と。
以前のシンなら、ここで笑いながら裏で『お前には人を愛する資格があるのか』と自問自答していただろうが、とシンは少しおかしくなる。
イカ娘や英湖などのシンの身の回りの人たちから『うつされた』かもしれないなと思った。意地悪してやろうかと思ったが
少し可哀相というか可愛く見えたので、このままにしておくシン。
ちなみにシンはこの時点でイカ娘と付き合うかといえば『まだお子様なんだろうし仕方ないかな』とか考えていた。
何がお子様か、といえば、イカ娘の精神年齢的な意味で。後見た目とか。
「お待たせしました、エビと明太子パスタとミートソーススパゲッティですー……ってあれ?」
店員が持ってきたところ、イカ娘のほうが顔を赤くしていたので、置いておくべきなのかどうか迷ったそぶりを見せる店員であった。
もう一度店員が声を掛けたところ、イカ娘はエビと明太子パスタに顔を輝かせていた。
すごく単純だなとシンは改めて思った。
―――
「ごちそうさまじゃなイカ!」
「ごちそうさま」
二人が食べ終えた、ところである。
シンは周りを見渡す。接客する店員、パスタを食べる客。ここまでは普通である。
だが、普通でないところがひとつあっいた。
横からニュータイプのクェス的なオーラを放っている事に気づくシン。
シン達が座ったのは店内が見えるようにとガラス張りにしている壁の隣なのだが。
何故かそこだけは空間が淀んでいて曲がっていて。
この空間は正確に言えば、1時間前辺り、つまりイカ娘とシンが会ったあたりから。
「―――」
そこには、変態こと長月早苗が居た。
「あ、あんたは―――」
ワナワナしながらシンは言いかける。
イカ娘のほうもドン引きしている。
何故、何故こういうストーカー行為ができるのか、何故とシンは詰め寄りたくなる、というか。
「あんたはいったい、なんなんだー!!!!」
「スラマッパギー!!」
大声を出していた。
「あんたはいったいなんなんだーじゃないわよ!この私長月早苗の一生の不覚っていうかなんであんたみたいなのとイカちゃんがー!!!」
あんたみたいなのってなんなんだよ、とシンはツッコみを入れながら、早苗と相対する。
「そっちこそ、なんでそういう訳のわからないオーラを出しながらこっちを見てるんだよ!」
「私だって!私だって!!」
何が私だってだよと呆れるシン。イカ娘も余計にドン引きしている。
一呼吸おいて早苗は言う。
「わたしだってイカ娘ちゃんとデートしてラブホ連れ込んでなめなめけちょんけちょん(スラマッパギ!)を舐め舐めしたいのにいいい!!!!」
「お前はいったいなんなんでゲソー!!!」
イカ娘の青い何かが動いたといえばいいだろうか。
矢印みたいな形した何かが早苗を一瞬にして捕らえた。
シンが触手と気づいたのは1秒後、それほどまでに完成された動作だった。
「あはぁん!!!」
ヘブン状態。触手が巻きつき、早苗を地面に叩きのめした。
ここまで3秒。
ちなみにレストランの床に打ち付けられていたのだが、傷一つない。まるで早苗のせいで床を汚すわけにはいかないという意思表示のごとく。
血はついていたので、触手でふき取ると、イカ娘は凄い冷たいまなざしで早苗を見下した。
触手も切り取ってそのまま放置プレイである。縛り付けたまま。
「あ、これ代金です」
シンは店員にお金を払っていた。
―――
「シン、あれは何でゲソ?」
「ん?」
早苗を放置プレイにしたまま、パスタ屋を後にすると、イカ娘が指差した。
指差した先には、57アイスという看板があった。
「ああ、あれはアイスクリームを食べるところだな」
「アイスクリーム?」
イカ娘はアイスクリームは何かというのをわかってないだろうなと察したシンは、アイスクリームを買ってやることを思いつく。
さっそく、57アイスの前に行く二人。
店員は気前のいいおじさんだ。
「へいらっしゃい!どれになさいますかい?」
とりあえず、とシンはバニラの文字を指差した。
「これがアイスクリームでゲソ?」
「まぁ、そうだな」
イカ娘の手の中にはコーンが、その上にはバニラアイスクリームがこれ見よがしに堂々と乗っていた。
アイスはキンキンに冷えており、齧るとそのまま死に至りそうなレベルで冷たそう。というか。
「あーん」
文字通り齧ろうとしていた。
「ちょ、待てって!そのまま齧るんじゃない!」
「ふぇ?」
本当の意味で惚けた声を出すイカ娘。シンは内心思う。このまま齧ってたら歯周病もどきで偉い事になっていた。と。
「あ、あのな、それはそう食べるんじゃなくて、舐めて食べるんだ」
「舐めて、でゲソ?」
ああなるほどと納得したそぶりを見せるイカ娘。
これでよかったと思い、その食べる様子を見るシン。
男の(スラマッパギ)を舐めるかのように色気づいた食べ方だった。
なんかこう、下から上をつつーと舐めるかのような。
『シンの(最上川)大きいでゲソ……』
という言葉が頭の中で響いた気がして、シンは自分が考えたことの恥ずかしさで死にそうになった。
―――
最終更新:2011年06月07日 10:50