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夜向性 ◆pLz4u.wgPs-第2.5話 中編2

満足げにプログラムの入った携帯を眺める悪魔を前に、デスティニーとドゥーエ達はそろって困惑していた。
見た目といい、地面に浮かび上がった魔法陣から出現するというあり得ない奇襲方法といい、
特撮とかCGとかそんなちゃちなものでは断じてない。
もっと恐ろしい何かが顔をのぞかせているのだ。

マユ『解析できた。あの姿からして、敵は恐らく堕天使ガギソン。
   分類は下級悪魔だけど、どう動くかわからないから注意して』
デス子「堕天使・・・ガギソン?」
ガギゾン「ホ0。マサカ、コノ島国sdオイfえl正体ヲ看破fdノガ現fへpトワナ」
マユ『何言ってるかは分かんないね。プログラムの機動時は翻訳機能が働いてたみたいだけど』

デスティニーの眼(ガンカメラ)から通して見た映像を調べ、姿かたちをネットで検索しただけなのだが、
それを悪魔に言っても仕方ないだろう。
何にせよ、今すべきはプログラムの確保だ。
だが、それはここにいる全員に共通した目的であり、迂闊に仕掛ければ第三陣営へ隙を見せることにもなりかねない。
デスティニーがどう動こうか迷っている間に、ガギソンは次の行動に移った。
翼を広げ、プログラムを奪ったまま空へと逃げようとしたのだ。

ガギソン「アfgク、貴様rお殺スfd魔力ガ惜死イ。コdkハ逃ゲサセテmdpウトシヨウ」
ドゥーエ「させると思うの。まずはその翼もらうわよ」

空に逃げようとするガギソンを、気付かれぬよう背後に回っていたドゥーエが襲う。
隠密行動を主な目的として作られた彼女にとってこのくらいは朝飯前だ。

ドゥーエ「(皮膚の薄い背中から体の中心を貫けば)・・・!?」

しかし、背部からのかぎ爪の一撃はガギソンの命には到底届かなかった。
悪魔の体に触れた瞬間、爪が粉々に砕けてしまったのだ。
形状記憶とはいえ、特殊合金の特別製だ。こんな風に簡単に砕けてしまうような代物ではない。

ガギソン「愚カ藻wメ。人形ゴトっおkノ祝福サえtmナイ剣デ、コdfガ斬レrト思ッshnカ」
セイン「ドゥーエ姉、下がって!」
ガギソン「うットオ4イ!」
セイン「―――うわっ!」

今度はセインが真正面からガギソンに挑みかかるが、片手ではじき返されてしまった。
大人数人分の重量をまとめて投げられるサイボーグが“片手で”である。
ここまでくると、力が強いとか、体が頑丈だとかの問題ではない。
もっと別の、魔法や魔術といった未知の領域が壁になっているとしか思えない。

セイン「痛ってぇ・・・どうなってんのこいつ!」
ガギソン「グg9、タdノ下級ノ悪魔ナラtpmかク、コノ私ニskねヨウナ“オモチャ”ハ通gンヨ」


手も足も出ないドゥーエ達をあざ笑いながら、広げた翼で夜空に舞い上がるガギソン。
悪魔を召喚できるプログラムが悪魔に奪われる事がどんな未来につながるのか、考えるだけで怖気が走る。
だが、ガギソンを倒そうにもドゥーエ達にはその手段も力もないのだ。
周到な準備と緻密な計算が必要な科学では、古の魔術を使役する悪魔に勝てないと言うのか。
万策尽きたかと思われたその時、沈黙を守っていたデスティニーが、ガトリングの銃口をガギソンに向けた。

デス子「・・・なるほど、ではこれならどうでしょうか」
ガギソン「マダ諦メえjんk。s5nナ鉛玉ナド・・・」

破壊力がどれだけ高くとも、通常火器では悪魔に満足な傷をつける事は出来ない。
別の次元の存在である彼らに攻撃を届かせるには、霊力、魔力などを用いた
それ相応の特殊な装備が必要になるからだ。

ガギソン「・・・イヤ、kレハッ!?」

放たれたのは弾速も弾数も弾種も何も変わらない、これまでと全く同じ弾丸。
しかし、何の変哲もない銃弾に何故かガギソンはこれまでにない恐怖を感じ取り僅かに身をかわした。

ガギソン「・・・・・・グギャあsどぉぢwhァッ!!! 」

次の瞬間、馬鹿にしていたはずの鉛玉が目に見えぬ力場を貫通し
ガギソンは自慢の翼をむしり取られていた。
その場にいるデス子以外の誰もが何が起こったのかわからないまま
翼を奪われた悪魔が無残にも倉庫街の方に落下していく。

デス子「・・・申し訳ありません。どうやら仕留めそこなったようです」
マユ『その様子だと、あなたに搭載しておいた“あれ”が通用したみたいね』
デス子「ええ、上々の仕上がりです。では、止めを刺しに行きます」

落ちていったガギソンを追ってデス子が空に浮かび上がる。
その様子を、ドゥーエとセインはあっけにとられながら眺めていた。

ドゥーエ「・・・効いた。いや、当たったの?」
セイン「もうついていけない・・・」


倉庫の屋根を突き破りコンクリートの床に叩きつけられたガギソンは、誰から見ても瀕死の状態だった。
ねじ曲がった関節に、大量の出血(色は赤ではないが)。
立ち上がることすらままならない有様では、もう逃げきることはできないだろう。

ガギソン「ゴホあs・・・。s、馬鹿ナ、ドウdsテ装飾モサレdいnぁイ弾丸ニ・・・」
デス子「ここにいましたか」

死神の代行者が銃を担いでやってくるのを見て、ガギソンは最後の抵抗をしようとして・・・再び地面に崩れ落ちた。

ガギソン「チカrが・・・抜ケえkゥ。マ、あjカ、“ハーモナイザー”カ。人形風情ガ何故ソrおォ・・・」
デス子「“ハーモナイザー”・・・。なるほど、それがこのシステムの名前ですか」

“ハーモナイザー”とは、霊的波長を同調させ、実体化した悪魔と戦うことを可能にした音響システムのことだ。
魔術の存在すら無かった事にされた現代において、誰がそのシステムを作り上げたのかは定かではない。
マユは、あくまでも『悪魔召喚プログラム』に入力されていた機能の中から“もしかしたら効くかもしれない”ものを
デス子に備え付けたにすぎないのだ。

だが、彼女達は知らない。
プログラム内のハーモナイザーが未完成だった事を。
発動したのが後付けの未完成品ではなく、デスティニー元々に搭載されていた物だったことを。
彼女達は知らない。当のデスティニーや、作り手であるはずのマユでさえも。


ガギソン「コの、マあ・・・コノnlマ大総統ノ御降臨ヲ待tあzシテ・・・無駄ナ死ヲ迎エrwkニハ・・・」
デス子「受け入れなさい。それが、敵を侮った貴方の運命です」
ガギソン「グググ・・・グッゲッえdッ! イイあdロウ! ナラb、コノ堕天使glソンノ最後ノ“足掻キ”ヲ見wがイイ!」

断末魔の叫びと共に、ガギソンは血にまみれた腕でピンク色の携帯を天へと掲げる。
発動した『悪魔召喚プログラム』が、地面に瀕死のガギソンを中心にした魔法陣を輝かせ始める。

デス子「これは・・・!」
ガギソン「我Iのちヲ大総統に捧ゲr! 降臨セよ魔界ノ王ヨォ!」

何が起こるのかと身構えるデスティニーの前で、魔法陣は輝きを増し、
ガギソンの体が共鳴して輝き始め――――。

デス子「・・・・・・?」

――――何も起こらないまま、光となって共に消えていった。

輝きが失せ、魔法陣が消える。
悪魔が死に目の際にあれほどの啖呵を吐いたのだ。
にもかかわらず何も起こらないというのは、ほっとするよりも逆に不気味である。

デス子「・・・自滅、でしょうか?」
マユ『それにしては、最後の言葉が気になるわね。魔界の・・・王?』
デス子「・・・・・・とにかく、プログラムを回収します」

デス子が床に落ちた『悪魔召喚プログラム』を回収しようと身をかがめた時だった。
まるで水面下に沈んでいくように、ピンク色の携帯がきえたのは。

ドゥーエ「形勢逆転ね」
デス子「・・・そのようですね」

声のした方に目をやると、倉庫の奥でドゥーエと地面の下から上がってきたセインが勝ち誇っていた。
敵を倒して油断した道化は、隙を突かれてまんまと宝物を奪ばわれてしまったというわけだ。
分厚い壁や多くのコンテナは、セイン達の『無機物潜行(ディープダイバー)』にとって有利に働く事になるし、
あれからだいぶ時間も経ってしまっている。
もしかしたら、マユ達の知らない内に仲間に連絡を取ったかもしれない。
そうなると、デスティニー一人では明らかに不利だ。

デスティニーの懸念をよそに、セインとドゥーエは鬱憤を晴らしたかのように上機嫌だった。
増援の約束を取り付けて、勝利はほぼ確定しているのだ。
負けている状況からの逆転ホームランほど心を湧かせるものはない。

問題は、まだ試合が終わっていないことに彼女達が気付いていないことだ。


セイン「へっへ~ん。油断したねぇ。こいつさえ持って帰れれば・・・熱っ!?」
ドゥーエ「ちょっと、もっと大事に・・・!?」

突然の発熱に驚いてプログラムの入った携帯電話を床に落とすセイン。
注意しようとしたドゥーエも、その異常さに気付いたようだ。

携帯が震え始めたかと思うと魔法陣が、ガギソンの時よりも何倍も大きな魔法陣が足元どころか
倉庫そのものを包み込んだのだ。
その膨大なエネルギー量は、デスティニー達のセンサーにも“悪寒”としてはっきりと伝わってくる。
倉庫街全体が微振動を起こし、海面が揺らぎ、空気が熱を持ち始める。
感じ取れるエネルギーもどんどん膨れ上がっていく。

ドゥーエ「セイン! 今度はなにをやったの! あんたって子はホントに!」
セイン「ち、違うってドゥーエ姉。してない、私何もしてない!」

マユ『反応がまた増大中。なんだってこんな・・・』
デス子「マユ様、エネルギー源はどこなのですか!?」
マユ「ちょっと待って! 今調べてる最中だから・・・」

もしも最初のガギソンの来襲が、遠隔操作で『悪魔召喚プログラム』を『扉』の様に使った結果だとしたら、
一度目にガギソンが現れた時も今回の事象も、全て携帯電話が中心となって起こっていることになる。
マユは、家にある端末からガギソンが最後にアクセスした対象をありとあらゆる方法で調べ上げた。

マユ『・・・・・・デスティニー、ネットよ』

マユの手で画面から弾き出された答えは、まさに一番そうであって欲しくない現実だった。

マユ『ガギソンはネットから人間の感情を取り込んでいるの。そして自分を依り代にして膨大な“何か”を呼び出そうとしてる』

悪魔の召喚に必要なのは強い感情であり、世界中の人間がアクセスしているコンピュータネットワークならば
どんな種類のどれだけの感情エネルギーでも即座に拾ってこれるとガギソンは考えてたのだ。
そして、最後の最後にネットから無尽蔵に精神エネルギーを取り出すことができる門を開いた。自らの命を糧にして。

プログラムは動き始めている。もはや、外部からの操作は受け付けないだろう。
早く気付くべきだった。
悪魔という異質な存在が、人間の科学を使いこなせるわけがないとたかをくくってさえいなければ。
いや、人間と同等かそれ以上の知能があるとファーストコンタクトで見ぬけてさえいれば。
悔やんでも始まらないとマユは迷いを振り切る。とにかく、今は――――

マユ『デスティニー、早くあの携帯を壊して!』
デス子「・・・いえ」

大地の震えが止まり、音も空気も感知できる全てが動きを止めた。
まるで、これから現れる“何か”に殺されまいと息をひそめたかのように。

デス子「どうやら・・・間に合わなかったようです」


振動を止めた携帯が、溢れんばかりの光をばら撒き始めた。
デスティニー達を包み込む、倉庫からすら漏れだすほどの光。

だが、セインは自分でも気付かない内に震えていた。
ドゥーエは臓器を鷲掴みにされたような感覚を覚えていた。

この輝きが生みだすものは、誰かの助けになるような救いのある代物ではない。
この地上に、この大地に、消えない毒を撒き散らすものだ。

機械であるはずのデスティニーですら、光がおさまった時その身ではっきりと感じ取った。

二本足で立つマントを羽織った豹。
見かけはそれほど怖くはない。ガギソンのグロテスクな姿よりよほどマシだ。
大きさも2mくらいと、大男並みではあるが悪魔ということを考慮すれば驚くほどではない。
しかし、目を合わせれば気付くだろう。声を聞けばわかるだろう。
それがどんなにおぞましい存在であるか。それがどれほど強大な存在であるか。

?『我は・・・魔王オセ。ソロモン72柱の魔神の1柱にして地獄の大総裁なり』

魔王、それは選ばれた悪魔のみが手にする栄光の称号である。
能力が高いだけではない。知力、人望、全てを備えたあらゆる悪魔たちの頂点に立つ存在。
それが魔王である。
堕天使どころかデスティニーにさえ苦戦したドゥーエ達が力及ぶ相手ではない。

マユ『魔王オセ・・・魔王の称号を持つ悪魔が、この世界に・・・』
セイン「な、なんなのよこいつ」
オセ『我を召喚したのはお前か』
マユ『(ちゃんとした言葉をしゃべった、やっぱり人間並みの知能をもってるんだ)』

明確な言葉がしゃべれるならば、コミュニケーションが可能ということになる。
だが、それが同時に人間の武器である“知恵”が通用しないことを意味しているのも
ガギソンで思い知ったばかりだ。
それでも試さずにはいられない。生き延びるために。
ゆっくりと近づいてくる魔王オセに、内心で脅えながらもドゥーエは気丈に答えた。

ドゥーエ「そ、そうよ、私があなたを呼んだの。だから、私たちの言うことを・・・」
オセ『ならば、貴様を殺せば我は自由ということだな』
セイン「え・・・」
デスティニー「危ない!」

オセは、ドゥーエ達を殺そうとしている。
それを感じ取ったデス子はIWSPパックのありったけの推力を使ってセイン達とオセの間に割り込んだ。
そのままパックを切り離してオセの方に蹴飛ばすと二人を担いで一気に距離を取る。

オセ『ほう・・・』

デス子は、割って入った時点で、IWSPパックが既に真っ二つに切り裂かれていることに気付いていた。
推進剤に使っていた液体燃料が振り撒かれ、大爆発を起こして倉庫を炎で真っ赤に染めあげる。
だが、魔王オセは揺るがない。
数百度はあろうかという火炎地獄の中を憎々しいほど悠然とした姿でこちらへ歩いてくる。


オセ『人間もどきが望みもなく魔王を呼び出すとは。完全な契約を済ませる前に、貴様らには消えてもらう』
ドゥーエ「ま、待ちなさい。あんただってこのままじゃ元いたところに帰れないのよ」
オセ『ククク、何を言い出すかと思えば。もとより我は魔界に帰るつもりなどない。
   この世界を手中に収めることこそ、我ら悪魔の積年の望みなのだからな』

マユ『(積年のって・・・すっと昔から狙って立って事!?)』
現代社会の裏側に魔術が生き残っていたなど、科学の恩恵を受けて育ったマユには信じがたい事実だ。
プログラムを解析した時点で半ば受け入れていたが、本物の悪魔から言われるとまた重みが違う。

オセ『さあ、貴様らの生体マグネタイトを我に差し出せ!』
デス子「させません!」

魔王の前に、デス子が立ちはだかる。
盾になって、ドゥーエ達を逃がそうというのだ。

デス子「逃げなさい! こいつは危険です。」
ドゥーエ「ばか言わないで。こいつを召喚した原因は私達でもあるのよ。私が責任取らないで誰か・・・」
デス子「足手まといです!」
セイン「行こうドゥーエ姉! 早くっ!」
ドゥーエ「・・・借りを返す前に、死なないでよ」
デス子「無論です。造られた身でそれが許されるはずがありませんから」

背を向けて逃げていくドゥーエ達をオセは追おうとはしなかった。
わざわざ止めを刺さずとも、この世界が悪魔で満ちれば事はそれで済むからだ。
それよりも、目の前の人間の姿をした“何か”から生体マグネタイトが感じ取れない事に、オセは強く興味を引かれた。
死人を動かす術なら中国のキョンシーやブードゥー教のゾンビ、人型の模造品ならホムンクルスなどがある。
だが、それらはいずれも自我を持たない操り人形。ある程度の自立稼働が出来たとしても生物としては生きているとは言えない。
自己の判断で動くデスティニーは、機械としても生物としても異常なのだ。

オセ『律義な事だ。あの二人を囮にすれば“ぷろぐらむ”をもって逃げられたというのに』
デス子「そうかもしれませんね。ですが、こうすることが人間にとって一番自然なありかただと
    “彼”に教わったものですから」
オセ『・・・く、くく、教わった、か』

人間らしい人形との会話に、オセの胸中に自然と笑いがこみ上げてくる。
このやり取りなど、まるで知性のある生物と話しているようではないか。

オセ『なるほど、甘美な魂だ。さぞかし、狩りがいがある事だろう』

それは魔王オセの偽らざる本心だった。
両の手に持った刀を構えなおし、オセはデスティニーに向かい合う。
対するデスティニーは、上空に呼び出していたドラグーンフライヤーからソードシルエットを受け取り、それに換装した。
ハーモナイザーでダメージは通るかもしれないが、悪魔に関しての戦闘データがない以上、
対人最強武装である大型レーザーブレード『エクスカリバー』といえど、どこまでやれるかは未知数だ。


先手必勝とばかりにデス子が動く。
ビームブーメランを二つとも投げ、その間にエクスカリバー同士をドッキングさせる。
オセは回転しながら自分に向かってくるそれを叩き落とそうと身構えるが、
直前でブーメランは軌道を変え後方へと消えていった。
視線がずれた僅かな隙をつき、デス子がオセの懐に切り込んだ。

オセ『む、小癪な。マハラギオン!』

オセの掌から噴き上がった業火が進路を阻むが、ダメージを食らいつつもデスティニーは突貫する。
今しかなかった。持久戦になれば、力量で劣るこちらに勝ちはない。
オセが油断し、隙を作ったこの一撃にデスティニーは全てを駆けるつもりだったのだ。

デス子「滅びなさい魔王よッ!」

だが、振り下ろされた刃はオセに届くことなく、刀身を握った豹柄の手によって無情にも砕かれてしまった。
レーザーの刃を素手で受けとめなかったのは、悪魔といえど数千度の熱には耐えられないからだ。
そう判断したデス子は、エクスカリバーの連結を外し、もう片方の刃でオセを下から切り上げる、

デス子「もう一撃!」
オセ『甘いわ! ・・・ぬおおっ!』

決まるかと思われた瞬間、オセは自らの力を大地に注ぎ地面を揺らした。
体制の崩れたデスティニーは、それでもエクスカリバーを振り上げる。
気迫に押されたオセは距離を離そうと後方に下がるが、その退路を塞いだのは
通り過ぎて行ったはずのビームブーメランだった。
戻ってきたブーメランが退路を断ち、真っ向から突撃してきたデスティニーが
エクスカリバーでオセの脇腹を切り裂く。

デスティニーがオセを切り抜け、両者の距離がまた離れる。
だが、戦況は元通りというわけではなかった。
デスティニーは、VPS装甲のおかげでマハラギオンのダメージは軽いものの
全力を傾けた一撃で致命傷を与える事が出来なかった。
一方、魔王オセは脇腹に傷を負ってはいるが重傷ではない。
手負いの獣として、次からは全力で向かってくるだろう。

オセ『機械仕掛けの人形が我に傷をつけるとはな。人間の浅知恵も進歩したものだ』
デス子「おほめにあずかり光栄です。ついでにこのままお帰りいただけるとありがたいのですが」
オセ『そう嫌うな。せっかくこの世界に来られたのだから、もう少し歓迎してもらわねばな』

中腹が折れたエクスカリバーを捨て、デス子は残りの一本を構え直した。
全力で振り下ろした一撃を簡単に受け止められたのだ。
このまま策もなく戦えば敗北は必定。いや、策があったとしても魔王の力の前には意味を成さない。
それほどデスティニーと魔王オセには実力にひらきがあった。

しかし、デス子は退くわけにはいかなかった。
戦ったからこそ、恐ろしさが分かったからこそ、ここで魔王オセを仕留めきれなければ
人類は悪魔が召喚する悪魔によって最後の日を迎えると気付いたのだ。
マユがプログラムを手に入れてしまったことが人を滅びに導く。
それだけは、何を犠牲にしてでもさせるわけにはいかなかった。

デス子(例え力ではかなわなくても、時間さえ稼げればいい。
    そうすれば、必ずマユ様がなんとかしてくれるはず・・・)

こうして、デス子は無謀ともいえる戦いに身を置いた。
自分が一番信じる人間に、全ての希望を託して。


  • オセとの戦闘開始から少し前 アスカ家
ドゥーエ達を逃がし魔王オセと対峙するデスティニーを見て、マユは悲鳴をあげそうになった。

マユ「デス子、なんて無茶な事を・・・」

デスティニーはあれほどの戦闘力を持っている敵とまともに戦えるようには造られていない。
勝ち目がない事はその場にいないマユから見ても一目瞭然だ。
それでもデス子は戦った。他でもないマユの助けが来ると信じていたからだ。

マユ「待ってて、私もすぐに行くから!」

必要な物を持って家を出る。
騒ぎを聞いて集まってきていた近所の野次馬を押しのけて、マユは車庫に止めてある兄の遺産に跨った。
基本は自転車と同じだとわがままをいって、何度かこけながらもようやく乗り方を覚えた思い入れのある代物だ。
この大型バイク“ミネルバ”なら、すぐにでもデスティニーの元に駆けつけられる。

マユ「・・・お兄ちゃん、力を借りるからね」

マユの想いに応えるかの様に、ミネルバはエンジン音を轟かせた。

  • 港町 倉庫街
デスティニーは数十分の激戦の末にオセに捕らえられていた。
細部はボロボロになり、左腕は根元からもぎ取られ、両足も膝から下がない。
力の差から言えば健闘したとも取れるが、敗北は所詮敗北だ。

デス子「ぐう、う…」
オセ『安心しろ、まだ壊しはせん。貴様とあの小娘達には呼んでもらった借りがある。
   殺すのは人間の世が終わってからだ』
デス子「悪趣味、ですね。後悔しますよ」
オセ『口が減らんな。本当に機械か? 
デス子「ぐっ」
オセ『発声器官を潰しておけばさえずることもできまい。少し静かになってもらおう』

文字通り手も足も出せないデス子が、オセに首を掴まれて持ちあげられた時だった。

?「待ちなさい!」

倉庫の入り口に大型バイクに跨ったマユが姿を現す。
バイクが大きい分、マユの小さな体がより小さく見える。
子供でありながら自分に向かってくる蛮勇さに、オセは直感的にこの小娘が機械人形の主人であると覚った。


オセ『貴様が造り手か。気が向けば迎えに行ってやろうと思っていたが・・・手間が省けたな』
マユ(怖くないわけじゃない。けど…)
マユ「・・・逃げるなんて嫌だ。見捨てるなんてもっと駄目だ。私は・・・あの人の妹だから!」
オセ『いい覚悟だ。では従者と同じく、いらない手足を切り取ってやるとしよう!』
マユ「デス子! プログラムを!」
デス子「お受け取りくださいマユ様!」

オセはデスティニーを放り出すと、剣を構えマユへ向かって走り始める。
地面に落ちていくデスティニーは最後の力を振り絞り、残った右腕で確保しておいた携帯電話をマユに投げ渡す。
マユはそれを受け取ると、ピンク色の携帯を持ってきたノートパソコンに接続した。
『悪魔召喚プログラム』が起動し、それに乗じてノートパソコンに幾何学文字が走り始める。

オセ『な、これは・・・』

マユを斬ろうと接近したオセの周囲に、連続して小さな魔法陣が展開したかと思うと
そこから出た鎖がオセの手足を拘束した。
そして、オセの足元ではひときわ大きな五傍星が光を放った。

マユ「あなた達の言ってた生体マグネタイトって単語をヒントに『悪魔召喚プログラム』を再解析させてもらったの。
   それがないと、あんた達悪魔はこの世界で実体化できないんでしょ」
オセ『こ、この五傍星は・・・グゥアアアアアァァァッ!!!』
マユ「魔王オセ、いるべき地獄へ還りなさい!」

魔王オセの体がみるみる崩れ始める。
マユは『悪魔召喚プログラム』用いて、召喚した時と逆のパターンを使って魔王オセを無理やり魔界に送還したのだ。
魔王と呼ばれようと、悪魔に変わりはない。
完全に送り返せれば御の字、送還に逆らおうともマグネタイトさえ奪ってしまえば悪魔は体が維持できなくなる。
最弱の呼び声高い外道スライムという悪魔も、本来は実体化に失敗した悪魔のなれの果てなのだ。
後は、無力となったオセに止めをさすだけでいい。

オセ『こんなもので・・・魔王が沈むものかァ!』

だが、魔王はまだ倒れない。
手足に絡みついた鎖を引きちぎり、剣で床をたたき割りペンタグラムを消滅させる。
急場しのぎの送還プログラムが動きを止め、オセは再び自由になった。

オセ『人間の、浅知恵ごときに・・・』

マユに向き直るが、その動きは鈍い。
強がってはいるが、肩で息をしているのを見るとだいぶ堪えているらしい。
声からも、先ほどの震えが来るような力強さは消えていた。


マユ「まだまだ! 取り返したマグネタイトとプログラムに残っていたマグネタイトを全部使う! 悪魔召喚プログラム、再起動!」
デス子「いけませんマユ様。魔王オセの二の舞になります。もしもあんな化け物がもう一体出てきたら・・・」
マユ「オセは明確な意思を持たずに召喚したから暴走した。でも、目的とマグネタイトがあれば今度こそ・・・!」

させまいと挑むオセだったが、てドラグーンフライヤーの体当たりを受けて弾き飛ばされてしまう。
デスティニーが機転を利かせて呼び出したのだ。
その隙にマユは、新たな悪魔を呼び出すための最後の工程を組み上げる。

マユ「完全な契約の元に・・・来なさい! 私の悪魔っ!」

倉庫街を今日何度目かの光が襲い、オセを召喚した時に負けないだけのエネルギーが携帯からほとばしる。
眩んだ眼をどうにか見開いた彼女達が見たのは―――

?「・・・おや、紫はどこ行ったのかな?」
マユ「私の・・・あれ?」
デス子「・・・え・・・こど、も?」
?「む、子供とは失礼な。近頃の人間は鬼に対する礼儀も忘れたのかい」

牛の様な角をつけたマユよりも小さな一人の少女だった。

奇抜な恰好に手に持った瓢箪(ひょうたん)、服にぶら下げてある鎖、そして頭から生えた二本角。
・・・鬼とでも言うのだろうか。それにしては、姿が人間にあまりに似すぎている。
魔王オセと比べれば、悪魔というよりまるでコスプレした女の子だ。

オセ「・・・くく、くくく、こんなものが我を倒せると。舐められたものだなソロモン72柱も」


オセの嘲笑もマユの耳には入ってこなかった。
どこかで聞いた、人間は本当に絶望した時というのは言葉が出てこないものだという話はどうやら本当だったらしい。
同じだけのマグネタイトをつぎ込んだのだから、オセを倒せるとはいかないまでも
せめて互角に戦える悪魔が呼び出せると思っていたのだ。
それが、このありさまである。もはやどうする事も出来ない。
『悪魔召喚プログラム』は奪われ、人間の時代はここで終わりを迎えるだろう。
マユは呆然としたまま、へなへなと座り込んでしまった。

?「やれやれ、こんなもの・・・ねぇ」
オセ(・・・! )

瓢箪の中の液体をゆっくりと飲みほしてから、鬼の少女はオセを睨みつけた。
敵意もなく、殺意もない、ぞっとするほど深い眼光。
それが何の意図もなく唯自分を見ているだけなのだと気づいて、オセは僅かにたじろいだ。
“これ”は、侮っていい敵ではない。
魔王を量ろうとするのは、同等か、それ以上の力量を持つ者だけだ。

?「私の名は伊吹萃香だ。図に乗るな、虎頭」

鬼の少女が可愛く伸びのような格好をしたかと思うと、次の瞬間そこには信じがたい光景が広がっていた。
先ほどまでマユよりも小さかった鬼の子が、山のように巨大な姿に変身して、
巨大な足裏で魔王オセを踏みつぶしにかかったのだ。

オセ「馬鹿な・・・ぐおおぉぉっ!!」

避ける間もなく、オセはそれを受け止め・・・きれずに押しつぶされる。
夢や幻ではない。角が当たって倉庫の天井がへっこんでいる。
どうやら、自分はとんでもない妖怪を呼び出してしまったらしい、
とマユは熱暴走しそうな頭で漠然と考えていた。

萃香「どこのお山の大将か知らないが、日本の妖怪を舐めるなよ」

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最終更新:2011年06月07日 11:33
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