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シンと妹紅2+E

「――――ん」
ぐったりとしたまま眠っていたが、やがてしょぼしょぼと目をこすり、妹紅は自分が誰かに背負われていることに気付く。
「ああ、起きたか?」
「シン? え……っと、あれ?」
周りを見渡せば迷いの竹林。目が覚めたばかりで少しばかり記憶が混乱しているのか首を傾げることしばし。
「姫さんとまた大喧嘩、終わったから帰るとこ。思い出したか?」
「………あー。そうだったような、違ったような」
「そうだっての、まったく」
妹紅を背負ったまま器用に肩をすくめながらも歩みを止めないシン。その背に揺られながら妹紅は気を失う前に起こったことをつらつらと思いだす。

いつもの如くの輝夜との大喧嘩、自分のパゼストバイフェニックスと輝夜のエイジャの赤石がぶつかりあう間に割って入ったシン、そして……そして?
「あれ」
「ん?」
「いや、お前が酷い目に合うのなら分かるよ、分かるんだけどさ。なんで私が気絶するわけよ?」

間。シンの視線が泳ぎ、妙な明るさで返される。

「はぁっはっは。いやさいやさ、まずは俺に謝ろうぜ?」
「やだ自業自得じゃん? つーか質問に答えようぜお客さん。なーんで私気絶してたのかなー」
にんまりと笑いながら顎をシンの頭にぐりぐりと強く押し付ける。シンのちょやめ痛い痛いという呟きは聞こえないったら聞こえない。

やがて堪忍したのか、頬をポリポリとかきながら途切れ途切れにシンが話し出す。
「いや、さあ。流石に俺も妹紅と姫さんのが全部当たると死んじゃうわけだな」
「ふんふん?」
「だから、その……まあうん、その、なんだ。姫さんよりお前の方が強力そうだったからさ」
「だったから?」

「その………お前に発勁打ちこんじゃって」
「…………ほっ、ほう」
「いや、その……悪いとは思ってます、はい」
本当に申し訳ないと思っているのだろう、それは身体を小さく縮こまらせるシンを見れば明らか。
別に妹紅は気にしてはいない、というより自分の身を守るためなら当然のことだとも思っている。


ま、だからと言ってからかわないなんて選択肢はないのだが。

「ふ~ん? シン君は女の子に発勁なんて叩きこんじゃうんだぁ、へぇーへぇー」
「いや、ちょ、おま……いや、悪いとは思ってるんだ、その、えーと……その、ゴメンナサイ」
「あーあーあー、痛いなー痛いなーシンに発勁打たれたところがいーたーいーなー」
「お前それ明らかにウソだろ!?」
「いーたーいーなー」
「………ま、まあ俺のせいなのは確かだしな。だからこうしてお前を背負ってるんだヨ?」
「ならばよし!」
満足げに笑う妹紅にシンは疲れたように肩を落とす。無論妹紅が落ちないように気を配ることも忘れない。
しばらくヘタレるシンを見て楽しそうにしていた妹紅だが、やがて何かに思い当たったのか唇を尖らせて。

「な、シン。もしかしてだけど……私を背負ってるのって、あのバ輝夜に言われたからか?」
普段のシンの朴念仁ぶりからすれば十分にあり得る。そう思い聞いたのだが、帰ってきた言葉は意外な言葉。
「まさかだろ。俺が悪いのは事実だしさ、姫さんから言われなくったってこうしてたさ」
「…………ふぅ~ん」

いや、訂正しよう。意外でも何でもない言葉だ、シンが困っている誰かに手を差しのばさないわけがなかった。
そういう奴だということを初めて会った時から今に至るまで思い知らされているのだから。
シンが前を向いていて良かったと思う。こんなふうに頬が緩んだだらしない顔はちょっと見られたくない。

そんな妹紅を知ってか知らずか、シンはぽつりと言葉を漏らす。
「まあ………」
「ん?」
「んにゃ、何でもね」
「ふぅん………」
何を言いかけたのか気にはなる、気にはなるがあまり詮索をしすぎるのもどうかと思い適当な言葉でお茶を濁す。
妙な間が開き、何とも言えない空気に。先にその空気に耐えられなったのは妹紅。


「つーかさ」
「んー?」
「割って入ったりする癖に、お前喧嘩止めろとか言わないね」
「あー。まあなんてーの、喧嘩するほど仲がいいって言うし?」
「よくねーし、悪いしー」
ドスドスと顎をシンの頭に突き刺す。だから痛いってとぶーたれるシンに構わずによくないしよくないしと繰り返しながらドスドスと。
「だから、ちょ、一旦顎やめい! だから喧嘩を止める気はないよ。でも怪我してほしくないから割って入るけど」
「別に私らは死んだりしないよ?」
こいつらしい言葉だと、くすりと笑って妹紅はもう一度シンの頭をぐりぐりと顎で押す。
「だからやめい。ん、それは分かってる。分かってるけどさ、それでも割って入るんだろうな、人間そういうもんじゃないか?」
「ふうん? まあわかったけど、一つ訂正」
「?」
「割って入るのはお前が馬鹿だからじゃない?」
「あーあー聞こえなーい聞こえなーい」
ふざけ合いながらもシンは歩みを止めることなく、ひとまず竹林の出口を目指す。どうあれお互い疲れているのは事実なのだ。
それからは二人とも言葉もなくただシンの草を踏みつけながら歩く音だけが竹林に響く。

だけど、妹紅にとっては音はそれだけではなくて。
シンの吐息と自分の吐息、そしてとくん、とくんと耳元で聞こえる自分の心音。
(……あー、だめだわこりゃ。ホント私、こいつにイカレちゃってるね)
シンの身体の熱が伝わるだけで心が満たされて、同時に足りなくなっていくのが分かる。
これで十分という気持ちともっと熱を感じたいという二つの気持ち。長い人生の中でもあまり感じたことのない不思議で辛くて、それでいて甘ったるいこの感覚。
たまらなくなってシンの背にぺったりと顔を付ける。自分の方を向いてどうしたと目で聞いてくるシンにだるい、とだけ答える。
その言葉だけで納得したのか、顔を前に戻して再び歩くことに集中し出す。自分の気持ちが声にこもってなければいいのだけれど。

「………っふふ」
突如、シンが微かに笑う。ひょっとして、気付かれた? そう一瞬思いかけたが。
「ちょっと、妹紅。手に髪当たるんだけど、くすぐったい」
まあ、これで気付くんなら自分以下色々がヤキモキすることもないわけで。何も言わずに長い白髪を手に当たらないようにどかしてやる。

代わりに、色んなやるせなさを込めて髪でシンの首筋をくすぐってやったが。

「………投げ捨てるぞ、お前」
「わり。もうやんないよ、多分」
「多分ってなんだよ多分ってさ………」
呆れたような声を上げるシンにくすくすと笑ってしまう妹紅、もう一度シンの背に顔を寄せる。

ふと、シンの首筋に火傷の痕が見える。恐らくは先刻自分と輝夜の戦いに割って入った時の物なのだろう。
(痛いだろうに。死んじゃったら、私とかと違って終わるんだよお前は?)
シンだってそれは分かっているのだろうに、だのにこうやって誰かのために頑張っている。手を差しのばしている。背中を貸している。
自分がシンに惹かれているのはこの閃光のような命の輝き、人間の善性を固めたようなところなのか。
(ま、それは違うんだろうけど、ね)
惹かれている理由は究極的にはないのだと妹紅は思う。シンだから。あえて理由を述べるとしたならそれがたった一つの譲れない理由。


―――本当に、どうしようもないくらいに自分はこの男にイカレている。

だから、なのかもしれない。今こうして、舌を伸ばして首筋の火傷を舐めようとしているのは。
そろりそろりと音もなく舌を伸ばしてどんどんと火傷に近づいて。

ぴちゃり、と言う音が意外なほど大きく聞こえて。

「ぅ、わっ!? え、ちょ……妹紅?」
「ぁ………あ、ああ! 悪い、今度はホントに事故だ!」
「ん、まあお前の様子見る限りじゃそう見たいだけどな……びっくりするだろ」
「あ、ああ、うん、そう……うん」
我に返ると顔が真っ赤に火照ってしまっているのが自分でもわかる、きっと今鏡を見たら自分で引いてしまうぐらい顔が赤くなっていることだろう。

(あーーーーーーーーー、バカ、バカ……バカ、私のバカ! ないよ! 首筋、ってかどこでも火傷舐めるとか……ないって、ないだろバカ、バカ! 引かれる! これ絶対誤魔化しきれてないって、シン引いてるって! だ、大体、もうちょっと、こう、マシな流れでさあ……こんな、雰囲気もへったくれもないっていうか………あーーーーもう、バカ、バカ……バカ、私のバカ! ないって!)
ぐるぐると思考がループしていることにも、この程度ではまず自分の思いには気付かないであろうシンの朴念仁ぶりにも気付くことなく自分を罵倒してしまう。
そんな妹紅の考えに気付くこともなくシンは妹紅に何か話しかけようとするが、結局なにも思いつかなかったのか口を閉じ、再び歩きだした。


結局あれから大した言葉もなく竹林の出口までついてしまう。ぴょんと元気よくシンの背から降りた妹紅はがしがしと頭をかき。
「……ん、もうここでいいよ、後は一人で大丈夫だから」
「ん、そか………ホントに」
「大丈夫だって。というかお前よりはタフなつもりだしね」
「心配ぐらいさせろって?」
「知らんねえ?」
互いに息をつく。どちらも黙っているが、決して不快ではないこの静けさ。

「んじゃあ………また明日」
「ん、また明日。おやすみっ」
「おー、おやすみー。気ぃつけてなー」
後ろ向きに軽く手を振りながら迷いの竹林を後にする。
帰り道、妹紅が考えるのはシンの背負われたこと。
(やー、やっぱないな、うん。火傷舐めるとかホントない)
本当に自分を罵倒したくなってしまう。何考えてたと自分でも思う。
思う、のだが。

「―――――へへぇ」

顔がにやけるのは、また別なのだけれど。




おまけ
永琳「そこでちゅーよっ、抉りこむようにちゅーよ!」
慧音「待つんだ八意、それはまだ早い。それよりも壁バーンのほうがだな!」
鈴仙「あのー師匠、盗聴と盗撮って思いっきり犯罪だと思うんですけど」
永琳「ちょっと黙りなさい、今いいとこ………って、何でそのまま帰すのよぅ!?」
慧音「むぅ、いい人物ではあるのだが……ここ一番で押しが無いな、足りないではなくて無い」

永琳「なんでそこで抉りこむようにちゅーしないのよぅ……あ、そうだ鈴仙、今妹紅に嫉妬したりしてない?」
鈴仙「けしかけようとしないでください!? ま、まあ嫉妬は無いですね。な、なんて言うか? シンとは、たっくさん愛し合った仲ですし?」
永琳「……………………………………え、エエ、ソウネ!」
慧音「おい、スルーしようとするな、お前の弟子の愛はスプラッタだぞ」
永琳「や。ああなった鈴仙怖いもん」
慧音「もんって………いや、もんって」


キラ「クックックーン、さあ面白くなってきたよ☆」
輝夜「一体いつ仕掛けたの、あの盗聴器と隠しカメラ………というか、何が狙いなのよ」
キラ「やだなー僕はシンの幸せを願ってるだけだよグゲゲゲゲゲゲゲ」
輝夜「わあ嘘くさい」
キラ「ふっ」
輝夜「ということにしておくわ」
キラ「!?」
輝夜「グヤグヤグヤグヤグヤ」
キラ「くっ、キ、キラキラキラキラキラキラキラ」
輝夜「グヤグヤグヤグヤグヤグヤグヤグヤ」


てゐ「いや、なんていうか。青いねー、若いってのはいいことだよ、うん。あの坊やが一番青臭いけどさ」



おまけ2
湯船に口をつけ、ぶくぶくと息をふきだす。思い返すのは先ほど妹紅を背負ったこと。
いや、正確には。妹紅を背負ったときに感じた体温と肌の柔らかさ、そして首筋に感じた熱い感覚。
「いや、ないから。あいつは胸ないから」
だけど背中に感じたふにゃりとしたあの感触は。
「んああああ゛あ゛あ゛ー! あいつにそういうつもりがあるわけないってのに、馬鹿かよ俺は!」
ばしゃばしゃと熱いお湯で顔を洗い煩悩を振り払おうとするが、妹紅の柑橘系のような匂いは頭から離れなくて、その匂いが背中の熱を、感触を思い起こして。

「だか、だから、ないって! ないから! ないから、だから『おさまれ』よ!!」
頭をガシガシと強くかきながら呻き。
どうにか色々納めようとし。
「それもこれも……全部あの姫さんのせいだ、うんそうだそうに違いないそうだと決めた」

―――妹紅、押し倒しちゃってもいいのよ? シンが妹紅を背負ったときに、輝夜からかけられた言葉だ。
その時はタチの悪い冗談だと思って流したのだが、背中に背負った妹紅の体温に気付いた時、うっかり鮮明に思い出してしまい。
後は泥沼、妹紅が自分の煩悩に気付いてなければ奇跡か何かじゃないかと思う。というか隠し通せたかどうか自信が無い。

もうぶっちゃけアリスには完璧に振られたのだから別にいいんじゃね? なんてことは思っていない、はずである。
思ってないよね? うん思ってない思ってない。そんなあからさまな嘘を心に付きながら後は思考の堂々めぐり、無限ループへと突入するだけだったのだが。
ごんがごんがと壁に頭を打ち付ける姿は非常にアレなこと極まりなし。
「ないってーないってーマジでないってーだから無いって言ってるんだよ!!」
「うっさいのよ風呂場で騒ぐな!」

結局、アリスに頭を爆発され、気絶して湯あたりするまで呻き声は止まらかった。

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最終更新:2011年06月07日 11:48
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