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東方種子語8話

―――ZGMF-X42S、デスティニーは欠陥機である。それはMSについて少しでも学んだことがある者にとってはもはや常識と言ってもいい。
腕を失うとまともに戦えないからか。いや、違う。腕を失うと戦力が低下するMSなど腐るほど存在する、弱点ではあっても少なくとも欠陥と呼べるほどのことではない。
核動力にも関わらずエネルギー切れを起こすから。それも欠陥と呼べるものではない、出力周りを調整すれば済むだけのこと。
欠陥とはそのようなありふれていたり少し手を加えるだけで解消されるようなものではない、欠陥とはもっとそのMSの根幹に根差す問題点。デスティニーにおける致命的な欠陥は―――



ぎしり、と軋んだ音を立てて手すりにひびが入る。400㎏近いデスティニーの重量に加えレーヴァテインで斬りかかってきたフランの力も合わさったのだ、むしろひびだけで済んだと考えるべきだろう。
交差したフラッシュエッジで受け、吸血鬼の腕力にも負けることなく杖との鍔迫り合いを行える。デスティニーの緑色のデュアルアイとフランの硝子玉のような紅い目が重なり、愉しそうに笑うフランがさらに笑みを深めていく。
「ふふっ、すごいねお兄さんっ。変わったのは見かけだけじゃないんだねっ!」
『見かけだけ変わって、何の得があるというんだ、よっ!』

言葉と同時に左手から力を抜き、器用に手すりの上で身体を捻る。杖でデスティニーを押していたフランがその勢いのまま壁にぶつかるのをカメラに映しながら手すりを蹴って宙空に躍り出る。
蹴った衝撃で手すりがようやく崩れる、壁にぶつかった鼻を押さえているフランが振り向くのに合わせて腰部ラッチに備え付けているビームライフルを構え、撃つ。撃ちながらも脚部スラスターを吹かして距離を開けていく。

目標をロックすることなく放たれた光線はフランが身体を捻っただけで当たることなく掠めていく狙いの甘いもの、だが。
『狙うこたぁない……いけるかっ?』
あくまでも今放ったビームライフルは牽制、背部ウェポンラックにマウントされている本命、長射程砲を展開し照準をフランに合わせる、尚もフランから距離を開けるデスティニーは窓を突き破り満月が照らす夜空へ。
米粒ほどの小ささにしか見えなくなったフランに向けて長射程砲の引き金を引く。
『い、けよォッ!』
長射程砲から高出力の光線が放たれ、デスティニーのイオンセンサーから空気の焼ける匂いを情報として感じる。そして同時に見える長射程砲が撃ち込まれたすぐそばからちかちかと瞬く光。

カメラの倍率を上げ、穴が開いた紅魔館の屋根を通して内部の様子を見ると、フランが杖を構えて空に浮かぶデスティニーを見据えていた。服が焦げているところをみると長射程砲を避けたのではなく、耐えきったのだろう。
フランの傍らには先ほどシンが平手打ちをしたときに放ったものと同じ七色に輝く光の玉。先ほどは浮かんですぐに炸裂したが、わざわざこの距離が開いた状況で使うということは遠隔操作もできると見るべきか。
(デスティニー、避けれると思うか?)
(君の操縦能力では無理だろうね、あの数では一発当たったら体勢を崩してそのまま全弾当たるな)
(なるほど、避けるのは無理か……ン、なら)
気休めを言うことなく不可能だと断じてくれるデスティニーがありがたい、それならば避けることに気を払わなくて済む。

そう、避けない。ならば。一気につっこんで距離を詰めるのみ。
「いくよおっ、禁弾「スターボウブレイ、クっ!?」
宣言し終わるよりも早くデスティニーが動き出す。ウェポンラックを限界まで展開することでウイングスラスターを平行に向けるためのスペースを確保、同時に背部及び脚部スラスターを同期させベクトルを一致。
そのまま一気にスラスターを噴出、スラスターのベクトルを同期させた状態での直線方向の初速及び加速力ならばデスティニーはまさに化物と呼ぶに相応しい、それこそ同世代はおろか三世代先のMSですら未だに追いつけないほどに。


玩具の家のようだった紅魔館が近づくにつれてどんどんと大きく見えていく感覚、しかしその感覚をシンは視覚としては認識しきれない。あまりにも早すぎるために周囲の状況を把握しきれない、これもまたデスティニーの難点の一つ。
だからこそ他の機体以上にパイロットの予測能力が問われる。シンは周囲の状況を見ているわけではない、自身が予測した青写真をもとにデスティニーを制御しているのだ。
その爆発するかのような勢いの加速により光弾が撃ち込まれるよりも早くフランの近くまで胸部及び脚部スラスターを噴射し一気に減速しながら距離を詰める。
驚いたのはフランだ、確実にあった距離を瞬きほどの時間で無にされデスティニーが目の前まで一気に近寄ってきたのだから。既に宣言したスターボウブレイクを無理やりに中止するが間に合わずに何発かが放ってしまう。
自分のミスに気付いて放たれた光弾を一瞬見てしまい、そのために両肩のフラッシュエッジを握る眼前のデスティニーへの対応が遅れる。

「わうんっ!?」
慌てて杖を構えて光の刃を防ごうとするが、デスティニーが両手を振り抜いたにもかかわらず衝撃が来ない。右手は左肩の、左手は右肩のフラッシュエッジを握り先ほどレーヴァテインを受けた時のような二刀で交差斬りを行ったはずなのに。
理解が及ばずにデスティニーの手に視線を移せば、フラッシュエッジは起動しておらず光の刃を出さずに両手に握られていただけ。フェイントをかけられたのだとフランが理解するのとデスティニーが床を蹴ってフランの頭上へと跳躍するのがほぼ同時で。
『すッとろいんだよ、いちいちぃっ!』
怒鳴り声と共に空中でくるりと一回転、機体の向きを変えて左手に握ったフラッシュエッジの刀身を伸ばしながらフランの背中めがけて横へと払う。
背中から走った熱にフランの顔が苦痛に歪むがまだ血の一滴も流れてはいない、精々皮膚が火傷を負った程度。これならばよほど深く斬り込まない限り大事は無いだろう。

むしろ心配すべきは光学兵器による熱エネルギーではなく物理的衝撃を伴う打撃。着地する直前にフランの腹に右足を押し当てて勢いよく押し出す時には力を込めすぎないよう細心の注意を払う。
局所を「切断」するサーベルやライフルと違って直接打撃が行う破壊は「粉砕」である。下手にMSの馬力で行えばいくら吸血鬼といえども内臓や脳へダメージがいく可能性が生じてくる。
あくまでもフランを止めるのが目的なのだ、命にかかわるような行為は出来るだけ避けたいのがシンの心境である。だからこそ、心の手綱をしっかりと握らなければ。興奮して手や足がでるなど軍人のやることではない、ましてやシンは腐ってもトップエースなのだから。

中空にほうりだされたフランが向きを変えてデスティニーを睨みつける、同時に手にしていた杖に再び炎が奔りレーヴァティンを形作り。
「いっ」
もう一度デスティニーへと強襲を仕掛けてくる。その行動は読んではいる、読んではいるが―――!
「たいじゃあないのよさぁっ!」
シンの反応速度を上回る速さでデスティニーに肉薄したフランがレーヴァテインを振りかざす、行動自体は読めてはいたから思い切り、それこそ壁にぶつかる勢いで下がる。ぶぉん、という風切り音。次いで高熱で金属が溶ける嫌な音が。
レーヴァテインはデスティニーの胸部装甲を僅かに掠めただけ、ただそれだけでそれなりの速度で壁にぶつかった箇所には傷一つついていない、熱兵器に対してもある程度の体勢を持つVPS装甲がざっくりと斬り裂かれる。

(フェイズシフトが? 掠っただけでこれってえことは、出力は対艦刀クラスってとこだろうな。これじゃまともには当たれないか、多少の無茶じゃあ済みそうにない、もの、な)
心中で眉をしかめながら壁を掴んで機体をぐいっと引き上げ、そのまま壁を蹴って勢いをつけてからスラスターを吹かしてフランから距離を開ける。
もう一度レーヴァテインを振り回そうとしていたフランに向けてビームライフルを撃ちながら照準を合わせる。一発、二発はフランの服を掠めただけに終わる。だが構うことはない、重要なのは次。

腕をまっすぐにのばして足を開く。その動作をとった上で手首、肘、肩関節をロック、ライフルと腕のフレームを一直線に。
人体と同じことだ、ライフルは筋肉では支えない、骨で支えるものなのだから。撃った反動で照準がぶれることもなくそのまま一気に三連射。一発は腕を撃ち抜くことで杖を握る力を弱め、二発目三発目を杖にめがけて撃ち込み弾き飛ばす。フランの視線は弾かれてしまった杖を追って。
(よしっ、い・け・る・か!?)
その隙は逃してはいけない。スラスターを噴射して距離をもう一度詰め、右手にフラッシュエッジを握って引き抜く。今度はフェイントをかけずにビーム刃を伸ばしきった状態だ、肩から胴まで一気に切り裂いて痛みで失神させるのがシンの狙い。
袈裟に振りかぶり一気に切り裂く、が。


『う?』
手ごたえがまったくない、まるで霞みを切った様だと感じる。霞み、という単語が頭に引っかかる。床に膝をついた状態のままセンサーで周囲の状況を探りながらもシンは霊夢から聞いていた吸血鬼の特性を一つづつ思いだす。
(確か、吸血鬼は………っ!?)
そうだ、霧になることが出来る。だと、すれば。確実にシンに対して優位となれる場所から攻めるだろう、それならば仕掛けてくる位置は。

考えるまでもなくまず背後からだろう、後はいつ仕掛けるか。シンはエスパーでもないのだ、そんなことは分かるはずもなく。だとしたら結局は攻められる場所が分かったところで無意味なのか? いいや、違う。
それならば。攻め込む理由を作ってやればいい。誰が見ても分かるほどに全身の緊張を緩める。時間にして一秒もないだろうが、優秀な身体能力を持つ吸血鬼なら見逃すはずがない。衝くべきはその優秀さ――!
『そ、こぉっ!』
振り向きざまにビームライフルを乱雑に連射、ほぼ予測通りに背後で杖を振りかぶっていたフランの肩と脚を撃ち抜く。吸血鬼の頑健な肉体とライフルの出力調整が合わさり肉を貫通することなく皮膚が焼けただけに終わるがそれで十分、適度な痛みは戦意を奪う重要な要素である。
下手に腕を切り落としでもすれば腹を括られ命に代えてでもと思われかねない、不殺を行うのならば一気に意識なり戦力を駆り飛ばすか、或いはその逆にじわじわと嬲るように戦力を削ぎ落とすことで戦意をへし折ることが最良。
これらのことはキラ・ヤマトから教わったことでもある。えげつないとも感じるそのやり口だが、そう感じるほどキラにとって殺しを避けたいということなのだろうか。

(アンタほど、上手くやれるってわけじゃないけど、夢を見てるつもりはないけど……だけど、今はっ!)
今は、或いは常にか。殺さないことが正しいこと、そう感じたままに引き金を引き。
『詰めるっ!』
剣を振るう。横薙ぎに払われたフラッシュエッジがフランの腹の服を裂き皮膚を焼く、MS戦ならばほぼ決まったと言ってもいい状況だが一瞬で傷が治っていく。
焦燥は無い、ある程度は予測できていたこと。心を揺らすことなくもう片方のフラッシュエッジを引き抜き構え。


『―――うおぁッ!?』
突如、背中に受ける衝撃。スラスターの噴出が一瞬止まり失速してしまう。墜落する前に再び背部スラスターを吹かし体勢を整える。
―――フランは目の前にいる、目を離した覚えもない。だとしたら背中に受けたダメージは。
目の前にいるフランの動向に気を配りながら一階の吹き抜けに着地、周囲を見渡すと窓にフランが腰かけていた。

窓に腰掛けて、宙に浮いたフランと笑いあうフランが。

(う………う?)
「思考を止めない、いいから動くっ!)
『分かってるさ言われんでもっ! だけど………だ・け・ど?』
分身した、それとも質量をもった残像? どちらなのか、それともどちらも見当違いなのか。
どちらにしても次の手は決まっている。思い切り床を蹴って正面玄関の扉から軸をずらす。
それと同時に勢いよく扉が開き、デスティニーの脚力で割れた床に向かって光弾が撃ち込まれていく。
予測通り、三人目のフラン。扉を開けはなったフランの隣にはくすくすと笑うフランがいて。

「禁忌「フォーオブアカインド」、ってね」「うふふっ、どうしちゃうのかなお兄さんは?」「諦めたっていいんだよ、ごめんなさいって言っていいんだよ?」「そしたら、首と心臓を引き抜くだけで許したげる」
くすくすと、危うげな微笑を浮かべながら四人のフランが笑いかけてくる。その光景はこの世の物とは思えないほどに愛らしい。例えるならば、真夜中に見るガラスケースの中の西洋人形の如き気が振れてしまいそうな程の愛らしさ。

「ふ、ん。どうあっても許す気はないようだね?」
『予想はしてたけどな。1対4、かよ………やれる、か?』
やれるかどうかではなく、やらねばならないということは分かっている。
しかしそれでも思わず愚痴じみた言葉を吐いてしまう、それこそ意味のないことだと分かっていても、だ。
「性能の上では」
『いけるか?』
「不可能だね、勝てんよ。僕は一対一に強く調整されているんだ、一対四などとてもとても」
ばっさりと切って捨てられる。気休めを言われるよりはいい、しかし揶揄するような口調は。
性能の上では不可能。ならばその性能を超えた力を発するために必要なもの。

『……あとは、俺次第ってことか?』
「いつものことだがね?」
どれほど性能が高くとも、その性能を引き出せなければ意味がない。
デスティニーは欠陥機である、一対一に強く調整されていることも本質ではないが紛れもなく欠陥の一つ。だが、性能を引き出しさえすれば。
『そ・う・だ・な、マシンが悪くたって―――』
床を蹴る。重量と筋力によって木製の床を砕きながら壁に向かって走る、一対多の状況では室内は狭すぎるのだ。フラン達が杖を構え光弾を撃ち込むが、部屋を走り抜けるデスティニーを捉えられずに床に着弾していくだけ。
最高速度ならばスラスターによる機動の方が速い、しかし瞬間的な加速ならば足の方が上。

『パイロットが性能を引き出せればっ!』

目の前に迫る壁、背後では床に撃ち込まれる光弾が轟音を立てていて。
真っ直ぐに前を見据えCIWSを壁に撃ち、壁に亀裂を入れる。壁に激突するギリギリまで接近し。
『邪魔ァッ!』
思い切り、壁を蹴り抜く。壁をブチ破った先には、湖が満月に照らし出されていて。

ウイングバインダーを広げ一気に加速、熱せられたコロイド粒子が紫色に発光しながら大気中に消えていく。
外へと飛び出したデスティニーを追ってフラン達もまた外に出るために壁に光弾を撃ちこむ。結果として紅魔館の壁の一面がほとんど崩れてしまうが、そんなことにフランが構うはずもなくそのまま外へと飛び出していく。
四人のフランが全員外に出たのを確認したデスティニーはぐるんとフラン達に向き直り慣性のままに湖の方へと移動しながら、背負ったアロンダイトを右手に握って、刀身を展開させてから抜き払い。

『せぃぃぃいいっやッ!』

思い切り、投げつけた。ぶおん、という豪快な風切り音と共に、150㎏を優に超える重量のアロンダイトが回転しながら時速約200㎞の速度でフラン達に迫る。
驚いたのはフラン達だ、いくら投げつけられたアロンダイトの速度が―――フランやデスティニーの飛行速度に比べれば―――非常に遅いものだと言ってもいきなり武器を投げつけるなどフランの常識にはない。
慌てて散開してアロンダイトを回避、しかし地面に突き刺さったアロンダイトを一瞥することもなくデスティニーがビームライフルと長射程砲を構え、撃つ。
水面に着弾するたびに水柱が立ちフラン達の視界を遮る、二人はその水柱に驚いて動きを止めるが残りの二人は構わずに突っ込んできて。
フラッシュエッジを引き抜いて一人が至近距離で放つ光弾を切り払うが、その隙をつくようにもう一人が両手を組んで振りかぶり。
(避け、いや無理かっ!? なら、きれいに当たるっ!)
無理に避けて体勢を崩した状態で当たるぐらいならあえて当たることで機体へのダメージを少しでも軽減させる、多少出力周りに難が出ても最悪動けばいい。
下が地面ではなく水面、それならば気を失わなければ十分に距離はあけられる。

「たあぁああっ!!」
可愛らしい掛け声とは裏腹なずどん、という鈍い音と共に衝撃が全身を貫く。モニターにノイズが走り意識を手放してしまいそうになる。
『―――がっ!?』
「後ろ、すぐ来るぞ!」
しかしデスティニーの声に機体を上げる、このままの角度では湖に沈むだけ。
もっと入射角を浅くしなければ。
『く……う、お、あッ!」
鋭角に水面に叩きつけられ。

そのままの勢いで跳ねた。小石を投げて水切りをするのと同じ原理だ、MSの重量であっても吸血鬼の腕力で叩きつけられたのなら十分に可能となる。
少なくとも大気圏との気圧差で行うよりは遥かに楽なことではある。度肝を抜かれ驚いた顔をしたフラン達が視界に映る、普通に距離を空けずに意表を突く空け方をしたのはこういった心理的な影響もあるからこそである。
跳ねながらも体勢を立て直してビームライフルと長射程砲を連射しながらスラスターを噴射し上昇、上空でフラッシュエッジを両手に握り上段からフランに斬りかかる。
「わうっ!?」
慌ててレーヴァテインを構えてフラッシュエッジの刃を受けるが、デスティニーはそれに構うことなく一度切りつけただけでそのままフランの側を通り抜け今度は紅魔館に向かって飛ぶ。
一気に水面近くまで降下し直進する、フラン達が後ろから光弾を放ちデスティニーを囲もうとするが包囲が完成するよりも早く湖上を駆け抜け水しぶきを上げて突き進んでゆく。
バレルロールで光弾を回避しつつ、フラン達が追ってきているのをセンサーで確認。ここまでは概ね予測通りに事は運んでいる、問題はここから。

小さく映る紅魔館の前の地面に突き刺さったアロンダイトが見えてきた、それがぐんぐんと近づいてきて。
もうすぐアロンダイトが目の前、それほどまでに接近してグリップに手を伸ばし。
『そ、こォッ!』
掴む。同時に全てのスラスターを逆噴射して急停止。アロンダイトが地面からひっこ抜けるがそれでも勢いを殺しきれず着地し足で地面をがりがりと抉っていく。
みしりみしりと音を立ててフレームが軋み脚部シリンダーの一部が高熱で赤くなり空気を焼くほどに負荷がかかる、全身の回路に至っては千切れ飛ぶ寸前まで圧力がかかる。
当然デスティニーと神経がつながっているシンもその苦しみを味わざるをえない。人間の姿だったなら確実に胃液を口から垂れ流してしまうであろう、スピードが乗った状態から一気に急停止することで発する強烈なG。何度かやったことがあるとはいえ慣れるものではない。
『――――うううううぅぅぅううう………っ!』
全身をミンチャーにかけられるような、とでも称するべき苦痛。だが蹲ってなどいられない、状況は常に動く。
痛みは歯を食いしばって堪える、今やるべきは。

急激に減速し停止したデスティニーに対応しきれずにこちらに飛来するフラン達に向き直りフラッシュエッジを握りしめ。
『ぃぃぃぃぃいいいいやあああああああアアア!!』
叫びと共に、先陣を切って自分に最も接近していたフランめがけてフラッシュエッジを振り抜く。
避けることすら出来ずに吸い込まれるように両断されるフラン、その顔は信じられないと言いたげに目が見開かれて。

『ひとぉつ!』
デスティニーの背後で切り裂かれたフランが煙となって消える、しかしそれに構うことなくアロンダイトを背部ウェポンラックにマウントしビームライフルと長射程砲を乱射し弾幕を作り出す。
完全に足を止めて撃ち込んで来るデスティニーにこれ幸いとばかりにフラン達もまた弾幕を撃ち込む。
視界が遮られるほどの光弾が、光線がデスティニーの装甲を徐々に抉り削っていく、極力直撃しないよう体捌きだけで被弾を少なくはするがそれでももう十秒もこんなことを続けたら確実に危険域に達してしまうであろう濃密な弾幕。
だが、それでいい。この視界が遮られた状況がとてもいい、あちらの視界も遮ってくれる。
少なくとも、彼女達はデスティニーの左肩からフラッシュエッジが無くなっていることに気付かないのだから。
耳元で聞こえた風切り音に気付いて視線を音の方へと移すが最早遅く、とすりと胸に音もなく吸いこまれるように刺さって。


『ふ、たぁつ!』
ビームを乱射しながら上空へ飛び上がり、煙となって消えたフランに刺さっていたフラッシュエッジが落下するよりも早く手に握り。
そのまま光弾で装甲が抉れた腕で大上段からの袈裟斬り、さらに切り上げ、再びの袈裟へと繋ぎ反撃の暇も与えずに三人目も切り捨てる。

『みぃぃいっ、つぅ!!』
そのまま四人目に斬りかかろうとするが、三人目のフランがかき消える直前に霧となってデスティニーの視界を塞ぐ。
舌打ちと共に腕を振って霧を振り払うと眼前にはレーヴァテインの紅いレーザー光が。
脚部スラスターを一気に噴射し下がることで直撃は避けるが、それでも完全には避けきれずに胸部装甲から腹部にかけてざっくりと切り裂かれてしまった。
(デスティニー、エンジンは!?)
(大丈夫、損傷は軽いよ。まだまだ動き回れるっ)
距離を詰め、振りおろされるレーヴァテインを二本のフラッシュエッジを交差させることで防ぐ、だがそれだけでは足りない。

「―――やぁぁあああ!」
フランの飛翔する力に押され、どんどんと紅魔館の方へと追いやられる。背部、脚部スラスターを全開にするがそれでも紅魔館の壁が迫ってくる、ウイングバインダーを展開させるが、一手遅い。
鍔迫り合いをしながらもフランに押される形で一気に紅魔館の壁に叩きつけられてしまう。
『ぐ、お………っ!?』
叩きつけられた衝撃で思わず苦悶の声を漏らしてしまうデスティニー、しかしそれだけではフランは止まらずに。

デスティニーを紅葉下ろしにでもしようというのか、力を込めて壁に押し付けながら紅魔館の周りを飛び回る。そのためデスティニーはその身体で紅魔館の壁をがりがりと削り。
音を立てて煉瓦造りの壁が崩れ中が見える。それをどんどんと繰り返しながら紅魔館から壁が失われ、ついには柱まで折りだし。
紅魔館が、「傾く」。比喩表現ではなく言葉通りに傾きだす、屋根瓦が地面に落ちて砕けフランがデスティニーを押し付けた時に割れずに残っていた窓硝子は残らず割れてしまう。
(くぅぅうう、冗談じゃ………デスティニー、装甲は!?)
(装甲は持つさ、持つけど、このままじゃ出力が不味いよ、いくら改善されているからと言っても、これ以上続くと!)
フェイズシフトダウン。ハイパーデュートリオンエンジンを使っているとはいえ瞬間的な出力ならば今なお並ぶMSのいないデスティニーだ、こうも断続的にVPS装甲に負荷がかかるとその言葉がちらつきだす。
それだけは不味い、フランの攻撃をここまで凌げているのはVPS装甲があるからこそ。無理やりにでも引きはがさなくては装甲がいかれてしまう。

角を曲がり、僅かながらも壁から離れた瞬間を狙い仕掛ける。
顔をフランの方へと向け、CIWSを発射。威力は大したことが無くとも至近距離から当てれば十分牽制になりえる。案の定フランは怯んでデスティニーを掴んでいた手の拘束が緩む。
その隙を逃すことなくフランの手を引きはがし、ぐいと自分の方へと引き寄せる。きょとんとした顔のフランと一瞬目が合うが、構わずに機体をぎゅるり、と反転させフランの胴と自身の背中を密着。
『ッァアッ!!』
フランの腕を引いたまま腕を下ろす、慣性に従いフランの身体が前につんのめるのに間を合わせて腰を跳ねあげ、一気に背負い投げる。普段ならば直下に落とし首のフレームをへし折るのだが、流石にそんなことをするわけにはいかず、紅魔館が崩れて出来た瓦礫の山へと投げ飛ばす。
デスティニーの柔軟な可動とシンの徹底したOSへの学習と自身の訓練、合わされば20メートル近い体躯であっても空手や柔術はおろかムエタイ、カポエイラなどと言った格闘技術も十分に再現を可能とする。
そして、その柔軟性こそがデスティニーの最大の長所であり、兵器としての最悪の欠点。



―――良質な兵器に求められるもの、それは専門性と簡易性である。
フリーダムならば広域殲滅、ジャスティスならば指揮管制といったように性能を何かしらに特化させた方が運用しやすい、それでもあえて汎用性を持たせるのならば部隊の主軸ではなく量産機に。
デスティニーは何にも特化しておらずどの性能も満遍なく高い、しかし寄ればジャスティスに押し負け離れればフリーダムに潰される。
相手が戦力を最も発揮できない状況を見抜いたうえでその状況を維持するのは困難を極める、例え維持できたとしても相応の技量が無くては何の意味もなく。
簡易性にしても然りである、極論ではあるがMSに触れたこともないような素人が飛び乗って「ええい この スイッチだ!!」とばかりに動かせるぐらいが理想なのである。
人体と同じ動作が出来るよう可動域をとってあるデスティニーはOSを改良するのにも非常に手間がかかる、シンプルであるにもかかわらず癖の強い機体となってしまった。
これら二つの要素が重なった結果、デスティニーは「パイロットの技量に極端に依存する欠陥機」という結論に辿りつく。
性能を完全に引き出すには全ての距離に精通し状況を的確に判断しその都度適切な兵装を選択する判断力、柔軟な可動を活かし切るには徒手空拳や剣撃銃撃の知識を豊富に備えた上でそれらのモーションをOSに徹底的に覚え込ませなければならない。
こうもパイロットに求められるものが多いのでは兵器としてはあまりにもお粗末。



瓦礫の山に投げつけられたフランが咳き込みながら宙へと飛び上がったデスティニーに向かって光弾を放つ。回避するが、軌道からすると恐らくはデスティニーの手を狙ったもの。
その選択は間違ってはいない、確かにデスティニーは手を失えば戦力はガタ落ちになることは事実なのだから。
そう、事実。事実だからこそ。
『そう簡単にィッ!』
衝かせてはやれない。腕を失った場合の戦力低下はデスティニーの見ただけで予測できるような分かりやすい弱点である、だからこそそれに対する対策もあって当然。
上空から距離を詰めて上段からフラッシュエッジを振りレーヴァテインと切り結ぶ、そして退避する直前にあえて腕を一瞬無防備に。

その「隙」を逃すまいと無防備な腕に目掛けて七色の光の玉を打ちつけようとするが、デスティニーが機体を捻じるだけで光の玉は呆気なく後方へと流れて時計塔の壁を吹き飛ばすだけに終わってしまう。
フランが玉を撃った隙を狙ってもう一度距離を詰め、再び上段からのフラッシュエッジ。玉を避けられてしまったことに気をとられてしまったフランはバックステップでよけようとするが一瞬遅く、腕を浅くだが切られてしまい。
「あ、うっ!?」
呻いて切り裂かれた腕を思わずもう片方の手で押さえるフラン、その隙をデスティニーが逃すわけもなく。
ガシャン、という音を立てて長射程砲を展開しフランの腹に押し付け。
『距離が詰まってたって!』
一気に三連射、空気を焼く音と共にフランが吹き飛ばされ壁に打ち付けられる。スラスターを逆噴射し距離を開けてからもう一度引き金を引きっぱなしにし、出力を最大に。
最大出力で照射されるビームが紅魔館の壁を蒸発させながらフランへと迫ってゆき、髪を焦がす。慌てて壁に沿って退避するが、デスティニーは長射程砲を照射したまま動かしフランを上空へと追いやる。結果的に紅魔館がビームで真っ二つに切断されてしまうが瑣末なことだろう。

左肩のフラッシュエッジを引き抜きフラン目掛けて投擲する、そして同時にデスティニー自体もフランへと接近。フラッシュエッジをレーヴァテインで弾こうとしていたフランはどんどんと迫ってくるデスティニーとフラッシュエッジ、どちらに対処すべきか一瞬迷い対応が遅れてしまう。
迷いながらも結局はフラッシュエッジを切り払ったが、その遅れが致命的。弾かれたフラッシュエッジが吹き飛ばされるよりも早くデスティニーが手に握って回収し袈裟に切りかかる。
十分な踏み込み、だがそれでもなおフランの運動能力の方が上。服を僅かに掠めてぢっ、という布が焦げる音がしただけ。
(浅いっ!? いや、俺が未熟なだけ、か、よ!)
デスティニーの葛藤など知る由もなく、その焦げた衣服をフランは胡乱な瞳で見る。
胃がじりじりと焦れるような嫌な感覚、自分に興味を失ったのであろうことをその瞳を見たデスティニーは直感的に感じる。
子供は熱くなるのも早いが、冷めるのも早いものなのだから。


「そう、だね。そうだよね。お兄さんにいつまでも構ってたって、しょうがないもんね? そうだよ、そうだよ。いつまでも、こんなのに構ってちゃ駄目なんだよ」
ブツブツと呟きながら焦点の定まらない目でデスティニーをじっと見る。ふぅ、と息を吐き。バネ仕掛けの玩具のように一気にデスティニーに無造作に近寄る。フランの接近に合わせてフラッシュエッジを振るうが、しかし肌を焼くビーム刃に構うことなくフランはデスティニーの腕を掴んで満月が浮かぶ空めがけて放り投げる。
吹き飛ばされながらも即座に体勢を立て直すが、そんなことは問題ではない。フランが早く片をつけたがっているのにもかかわらずわざわざ距離を開けたということは。
そして、手を伸ばしほっそりとしたシミ一つない真っ白な指を開き。

「―――きゅっとして」

手を開く、ただそれだけの動作がデスティニーには肉食の鮫が大きく口を開けたように見えて。
見えたわけでも機体に変化があったわけでもない、だが確かに自身の鋼鉄の身体から「触れられてはいけないもの」が彼女の掌の中に収まっているのが感覚として感じる。
だとしたら、今しかない。フランの行動を止めなくては恐らく機体が物理的崩壊を起こしてしまうだろう。
(間、に、あ、え、よ―――!)
フランの行動に合わせるように、デスティニーもまた左手を伸ばす。がっしりとした鈍色の油臭い鋼鉄の指を開き。
掌部ビーム砲、パルマフィオキーナから青色の光が空気を裂く甲高い音と共に放たれ、フランの手を撃ち抜く。

「どっか、っつぅ!?」
指を閉じてデスティニーのクランブル・ポイントを握りつぶそうとしていたフランは思わずクランブル・ポイントとの魔術的繋がりを解除して手を押さえる。
フランのありとあらゆるものを破壊する程度の能力、それはフラン自体もはっきりと原理を理解しているわけではないのだろうが、飽くまでも魔術的要素によって行われているもの。
対して、デスティニーの兵装は全て物理的衝撃か光学兵器によるもの。魔術的要素が入っていない以上、フランが能力を発動させる直前に掌を撃ち抜いて怯ませれば阻止が可能となる。
単純明快な、やってしまえば何のことはない話ではある。

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最終更新:2011年08月04日 15:12
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