前編
海を断ち切るように造られた巨大な橋。沈みかけた夕日に照らされたそれは、自由を求める者達の楽園“ラインアーク”への道だ。
その上に2機の巨人がいた。アーマード・コア“ネクスト”。神経を機体に直接リンクさせる制御システム“AMS”と、兵器利用が可能な特殊粒子“コジマ粒子”による圧倒的な性能を誇る起動兵器である。
黒いネクスト“ストレイド”に乗る青年が、モニター越しにもう1機のネクストを見つめていた。白一色に染まった装甲が周りの橙色を映し出し、兵器とは思えない幻想的な美しさを醸し出している。
「“ホワイト・グリント”……」
数ある“ネクスト”の中でも桁違いの性能を持つと言われている“ラインアークの守護者”。青年は純白の機体を眩しく、懐かく感じた。
『どうかしたのか?』
青年の呟きを聞いたオペレーターのセレン・ヘイズが声をかけてきた。“ホワイト・グリント”から目を離さずに答える。
「僕は小さい頃、アナトリアにいました」
10年も前のことだが今でもはっきり覚えている。優しい両親と暮らした家。仲のいい友達と遊んだ公園。変わらないと信じていた日常……
しかし、平和は打ち砕かれた。突如飛来した“プロトタイプネクスト”が破壊の限りを尽くし、燃え上がる炎の中に大勢の人が消えた。
そんな中、騎士のような白いネクストが現れ果敢に立ち向かっていった。アナトリアの傭兵と呼ばれた伝説のレイヴン。
アナトリアの傭兵の活躍で被害は最小限に留まった。しかし、失われた命は多く、アナトリアの傭兵も行方不明になっている。
「僕の故郷を最後まで守ろうとしてくれた人」
『アナトリアの傭兵か。そう言えば、“ホワイト・グリント”のリンクスはそいつだという噂があったな』
「確かめようと面会をたのんだんですが、断られました」
『そうか……おっと、お喋りの時間は終わりだ』
セレンの言葉に青年は“ストレイド”のカメラを橋の先に向けた。見覚えのある青いネクストが佇んでいた。
『政治屋ども、リベルタリア気取りも今日までだな。貴様等には水底がお似合いだ』
カラードランク1位、リンクスの頂点に立つ男。
「“ステイシス”……オッツダルヴァ!」
『企業連も本気ということか』
頷く。どうやら敵はラインアークを、“ホワイト・グリント”を倒すことに躍起になっているようだ。
『行けるな、“フラジール”』
『はい、そのつもりです』
更に上からカラードランク17位、CUBEの“フラジール”が現れた。2対2、数が互角ならものを言うのは実力だ。冷たい汗が頬を伝う。
『では、行こうか』
“ステイシス”と“フラジール”がOB(オーバード・ブースター)を吹かして真っ直ぐに突っ込んできた。迎え撃つように“ホワイト・グリント”が両手に持った銃を構え、OBをX状に展開する。特殊な形状をしたブースターは、点火した瞬間に文字通りホワイト・グリント(白い閃光)となる。
『ミッション開始だ!』
セレンの合図と同時にOBを起動させる。
「“ストレイド”戦闘を開始します!」
中篇
“ラインアーク”を監視するモニターが接近するネクストを捉えた。遂にこの時が来てしまった。フィオナ・イェルネフェルトは通信機をオンにする。
「こちら“ホワイト・グリント”オペレーターです」
フィオナの声には感情が籠っていない。昔の活発な彼女を知っている人間がいれば、さぞかし驚くだろう。
「貴方達はラインアークの主権領域を侵犯しています。速やかに退去してください。さもなければ……」
フィオナの警告に合わせて“ホワイト・グリント”が両手に持ったライフルを2機に据える。
「実力で排除します」
返事はすぐに来た。止まろうとしない“ステイシス”からレーザーバズーカが放たれる。並んで飛行していた“ホワイト・グリント”と“ストレイド”が左右に別れてかわす。
分かっていたことだ。だが、頭で理解しても心が否定する。もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら……迷った結果が悲劇を起こしてしまうことを知ってなお、可能性を信じてしまう。
『フン、フィオナ・イェルネフェルトか。アナトリア失陥の元凶が何を偉そうに!』
憎々しげに吐き出されたオッツダルヴァの言葉が、フィオナの胸に深く突き刺さる。
大切な人達に殺し合ってださいと言えるのか。喉元まで来た言葉を押さえ込む。
彼はアナトリアで何が起こったのか知りもしないのだ。守ると誓った故郷を自らの手で焼いたジョシュア・オブライエンのことも、疲弊しながらも必死に戦い続けた“あの人”のことも。
「……どうしても、戦うしかないのですね」
269 :アクアビットマン:2011/09/27(火) 23:33:38 ID:obyVwynQ
“ホワイト・グリント”の射撃を“ステイシス”は巧みに避けた。応酬とばかりに放たれたミサイルを回避しきれずに“ホワイト・グリント”が被弾する。
『プランBに変更無し。各個撃破を継続します』
『くそ、どうして当たらない!?』
橋の向こう側では、援軍として雇われたリンクスとCUBEが交戦していた。“ストレイド”の攻撃は高い機動力で振り切られ、逆に“フラジール”のマシンガンに装甲を削られる。
戦局は完全に不利だ。このままではどちらか一方が撃破され、2対1でもう一方も敗れる。
『このままでは……』
“ストレイド”のリンクスが呟くが、焦りが滲んだ声を聞いてもフィオナは何も感じなかった。ただ、もう終わってしまうのだろうと思っていた。
エネルギーが切れかけたのか、“ホワイト・グリント”が橋の上に停まる、その時だった。“ホワイト・グリント”の脚部にライフルが直撃した。それだけでは問題なかったが、着地した瞬間を狙われた為にバランスを大きく崩す。
『“ホワイト・グリント”大袈裟な伝説もここまでだ。進化の現実ってものを教えてやる』
“ステイシス”のレーザーバズーカが“ホワイト・グリント”のコックピットに吸い込まれるように命中する。PA(プライマル・アーマー)に緩和されとはいえ、強力な衝撃に“ホワイト・グリント”が吹き飛ばされた。武器や小さな部品を撒き散らしながら路上を転がっていく。
『終わりましたね』
『そんな!』
コンクリートに叩きつけられた“ホワイト・グリント”は既に機能を停止しているのか、ピクリとも動かない。
“あの人”と別れる時が来た。そう思うと体が震えた。分かっていたことだと自分に言い聞かせる。
「“ホワイト・グリント”戦闘不能です」
崩れ落ちたら、泣き叫んだら、助けを求めたら……“あの人”はまた立ち上がる。命を犠牲にしてでも戦う。誰かのために。
「彼はもう……貴方の助けにはなれません」
もう傷つく姿を見たくない。
「……ごめんなさい」
“あの人”に別れを告げよう。
「さようなら、縛られたリンクス」
―今まで、ありがとう―
頬を伝う涙に、フィオナは気づかないふりをした。
最終更新:2011年10月24日 05:03