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幻想忘戦録 外典 『無窮』

射るような視線に気圧されて、自分の体が強張るのが分かった。
戦場で恐怖を感じた経験は何度かあるけど、不気味さを感じたことはない。
オーブ戦でフリーダムとアスランがゾンビみたいに蘇って来た時くらいだ。

あの時と違って、俺を助けてくれていたレイはもう隣にいない。
永琳の眼光は、敵対者である俺一人に注がれている。

『・・・また後ほど、ゆっくり話し合いましょう』

永琳はそれだけ告げると、返事も聞かずに部屋から出ていってしまった。

追いかけたい思いを抑えて、まずは気持ちを落ち着かせろと自分に言い聞かせる。
相手はデスティニーでも勝てるかどうかわからない歴戦の不老不死者だ。
ここで追い掛けて真相を問いただしたって、素直に答えてくれる相手じゃない。

無限の戦闘時間を持つ不老不死が相手じゃ、デスティニーの動力炉が先にいかれるか、俺の体力が持たなくなる。
VPS装甲だって万能じゃない。装甲の継ぎ目を狙われて、あっさり撃破される可能性だってある。
それに輝夜と違って、彼女は痛みで止まってくれるほど生易しい相手じゃない。
自分の目的のためなら、きっと手足がもがれても向かってくるはずだ。

だけど、永琳は有利なはずの戦いを避けて話し合いの場を持った。
姫を襲われたから自衛のために殺したとでも言えば、俺の口を封じる事は出来たはずだ。
彼女には、何か俺の考えもしない思惑がある。
後でというのが具体的に何時なのかはわからないが、こうなったら待つしかない。

とりあえずやりすぎた事を輝夜に平謝りして、デスティニーで壊してしまった診療所の瓦礫をどかし、
修理を人里の職人に頼んでから、償いの意味を込めて輝夜のご機嫌取りを開始。

恨めしげな輝夜を宥めすかしている間に、気が付けばとっくに日は暮れていた。
守矢神社に今日は永遠亭に泊まると連絡して、夕食とお風呂をいただく。
途中、性悪ウサギにおかずを取られかけたり、裸の鈴仙に出くわしたりしたが、概ねいつもの永遠亭で過ごす日常だ。

たった一つ、彼女の視線を除けば。

一瞬たりとも気が抜けなかった。
俺の背中を、永琳がいついかなる時もじっと見つめていた。

ぞっとするほど冷淡な、感情を含まない静かな眼差しで。



幻想忘戦録 外典 『無窮』



深夜、虫も鳴かない竹林に立ちいる者などいるはずもなく、永遠亭も何事もないまま朝を迎える準備に入った。
皆はもう眠りについているはずだ、一か所だけ灯りのついたこの部屋を除けば。

昼間の視線を思い出して、襖にかけた手が止まる。

月の賢者と呼ばれた彼女の事だ。必ず、何らかの策を用意している。
輝夜の時の様な勢い任せの無理やりな奇襲はもう通用しないだろう。

罠かもしれない。
けど、永琳の真意を確かめるためには、どうしても彼女の話を聞かなくちゃならない。
万が一にも、妹紅相手に同じことを繰り返させるわけにはいかない。

俺は僅かに躊躇して、迷いを振り切るために思い切って襖を開けた。

「・・・失礼します」
「かしこまらなくても結構よ。呼んだのは私なのですから」
「かしこまる理由は、あんたが一番よく知っているはずですよ、永琳・・・先生」

敵か味方か、目的もそれを遂げるためにどんな手段を使ってくるかもわからない相手を
警戒するなという方が無理な話だ。
だけど、策を用意する時間なら俺にもあった。
いざとなれば、準備したリモートシステムでデスティニーを動かして突破口を作る。
脅しにはならなくても逃げる隙くらいは作れるはずだ。

ゆっくりと部屋に入り、永琳と向かい合って座る。
蝋燭と月の灯りが、座して俺を待つ永琳の整った顔を照らしていた。
いつもと変わらない、裏の読めない微笑の仮面がおぼろげな光に映える。

「何のためにこんなことをしたのか教えて貰いに来ました。俺を不老不死にしようとしたのはなんでなんです。
目的が俺なら、妹紅まで巻き込む必要はなかったはずだ」
「説明してあげるから少し落ち着きなさい。」
「あんたなら、俺が仲間を傷つけた奴と平然と話ができるかどうかぐらいわかるんじゃないですか。
だいたい、夜まで待ったのだってあんたが!」
「落ち着いて、怒鳴るのをやめなさい。でなければ、何も話さないわ」
「くっ!」

ペースを握らせてもらえない。人の怒りを知りながら、涼しい顔で切り返してくる。
舌戦が苦手な俺にとって、こういう老練で狡猾なタイプはもっとも苦手な相手だ。

疑問はありすぎて山になってる。
けど、下手に切り出したところで無下に切り捨てられるのは目に見えている。
時間だけが、無駄に過ぎていく。

(くそ、何を言ったってはぐらかされそうな気がする。どう言えば、永琳は自分がしたことを認めるんだ)
「・・・これが終わったら妹紅の所へ謝りに行くわ」
「(素直に妹紅に謝れって言ったってどうせ拒絶され―――)・・・え?」
「どうかしたの?」
「・・・・・・えっと、今妹紅に謝るって言ったんですか」
「そうよ。そのために貴方は来たんでしょう」

唐突な謝罪の約束が、考えていたより遥かにあっさりと棚から落ちてきた。
永遠亭の姫である輝夜と妹紅は言うまでもなく仲が悪い。
輝夜を溺愛している永琳も、妹紅の事を快く思っていないと思っていたけど・・・。

「本当に・・・妹紅に謝ってくれるんですか」
「悪いのは私たちですもの。私にも責任が全くないわけじゃないし、謝るのが筋でしょう? 
輝夜・・・は駄々をこねて行かないでしょうから、あなたが叱ったことでよしとしてくれないかしら」
「いえ、それはいいんですけど・・・」
「まだ私の事を信じられないと言うのなら、煮るなり焼くなり好きにしていいわ。跪けと言われたら“喜んで”跪きましょう」
「い、いいですよもう。だいたい、俺はただ輝夜やあんたに謝らせたかっただけなんですから」
「ふふ、あなたがお仕置きしてくれたおかげで、今後は姫の軽挙妄動も少しは収まるといいのだけれど」
「・・・輝夜を傷つけた事は怒らないんですか」
「先に仕掛けたのはこちらですもの。姫の自業自得で、あなたにもずいぶん迷惑をかけてしまったわね」

永琳は思う。
計算通り、いや想定していた以上にうまくいっている、と。

これなら、一日中シンを観察し続けて、こう言えばこう切り返してくるだろうと
シミュレーションを繰り返した甲斐があったというものだ。

シンは、短気ではあるが怒りにまかせて人を蔑にできる性格ではない。
心から頭を下げているように思わせれば、必ずこちらを許すはずだ。
だからこそ、先んじて明確な“謝罪”の意思を示すことで、まず彼の“怒り”を封じる。
そうすれば、デスティニーを持ちだしてくることもない。

あとはゆっくりと土台を崩していけばいい。
輝夜を傷つけられた事は気に入らなかったが、
それが逆に彼の心に罪悪感を植え付ける結果になっているようだ。

本人は必死に誰かのために頑張っていたつもりだろうが、所詮は私の掌の上で踊っていたにすぎない。
妹紅、輝夜、そして私を含めた隙のない三段構えの策謀。
全ては、彼を“蓬莱人”にするための布石。

そう、まさにそこがネックだった。
蓬莱の薬を飲ませようにも、シンと私では接点が少なすぎる。
下手をうって、彼我戦力差にひらきのある妖怪の山と敵対関係になる事だけは避けなければならない。
私たちの居場所は、もう幻想郷にしかないのだ。

だが、妹紅ならシンは警戒を解くはず、そして妹紅と姫は接点が多い。
姫ならば妹紅に蓬莱の薬を渡すことができる。
そして妹紅なら、心を寄せている(本人は隠せているつもりでいる)シンに薬を使おうとするはずだ。
シンが私の暗躍に気付いたのは驚いたが、未だ想定の範囲内。

私は、姫ほど甘くはない。

「あまり言いたくはないのだけれど、妹紅に蓬莱の薬を渡したのは“処分に困った”からなのよ」
「処分に困る? でも、輝夜が『妹紅も追い詰められる一石二鳥の作戦』って」
「どうも誤解が生じているみたいね。私は厳密にはこう言ったの」


『姫様、この蓬莱の薬を妹紅に渡して来てください。いつまでも手元に置いておけませんし、
彼女なら処分する方法も知っているはずですから一石二鳥でしょう』
『でも、妹紅が薬を使って味方を増やしたらどうするの』
『気に入った相手でも居ない限り、彼女が薬を使うことはありえません。
蓬莱人を増やすような真似をすれば、妹紅自身が苦しむことになるだけでしょうから』


「そして、妹紅の苦しみを理解しきれなかった姫様は、
 妹紅があなたに薬を使えば妹紅が苦しむだろうと考えてしまった」

シンは思う。
辻褄はあっている、と。

もし永琳の言う事が本当だとしたら、妹紅に薬を処分して欲しかった永琳の意思を、
輝夜が伝えなかったのが事件の真相ってことになる。
輝夜と妹紅では、永遠に生きることへの考え方も、生きてきた中での苦しみの度合いもまるで違う。
たぶん、いつもと同じ嫌がらせのつもりで、俺に使えと妹紅に蓬莱の薬を渡したんだろう
案の定、妹紅は苦しんだ。輝夜が考えているよりもずっと。

俺だって人の事は言えない。謝る謝らないで輝夜にあんな事をしてしまったけど
冷静に考えればあそこまで怖がらせる必要はなかったはずだ。

「蓬莱の薬を手元に置いておくのはずっと“不安”だったのよ。かといって、地上でどう処分すればいいかも“わからない”でしょう。
 でも、妹紅なら知っていると慧音先生から聞いたものだから」
(それがこの事件の真実・・・なのか? )

妹紅が不老不死になったのは、処分する予定の蓬莱の薬を盗んだからだ。
安全な薬の処分方法を知っていたって不思議じゃない。
けど、そうだとしたら永琳はあくまで第三者で、輝夜みたいな被害者でも妹紅みたいな加害者でもないことになる。

わからない。
永琳が処分方法を知らなかったのは本当に事実なのか。
知らなかったとしても、わざわざ輝夜に薬を渡させてまで妹紅に処分させる必要があるのか。
方法さえ聞けば、人伝いに薬をやり取りしなくたって、自分たちで処分できるはずだ。

でも、俺の疑問だって診療所が忙しかったとか手間を惜しんだとか、そういう理由で返されたら反論のしようがない。
証拠だってあるわけじゃないし、勘だけで永琳が黒幕だと疑うのも無理がある気がしてきた。

背中に感じていた永琳からの視線は、俺の勘違いだったのか?
駆けつけるのが遅れたのは、輝夜と俺の様子を伺っていたんじゃなく
ただ単に瓦礫の撤去に手間取っただけだったのか?
妹紅の心の動きを予想できなかったのなんて当たり前で、俺が永琳の頭脳を持ちあげすぎていただけだったのか?

信じがたいけど、信じたくはある。
永遠亭には怪我をした時に幾度か助けて貰った。
受けた恩を考えれば、ここで永琳を疑うのは恩をあだで返す事になるのかもしれない。

(全部、俺の早とちりだったのかもしれないな)
「輝夜が喧嘩腰で渡したので誤解が生じたみたいね。でも、まさかあなたに蓬莱の薬を使おうとするなんて・・・。
 妹紅の心を“見抜けなかった”私の責任だわ」
「・・・月の賢者なのに相手の心理が読めなかったっていうんですか」
「人の心は複雑なものよ。時に“予想もしない”方向へ進んでいく事がある。あなたにも経験があるんじゃないかしら」
「それは・・・」

それを言われると、アスランや議長の予想もつかない行動に驚かされっぱなしだった俺は黙るしかない。

結局、まだ少し不安だったけど永琳を疑うのはやめることにした。
証拠がないのも確かだけど、彼女には俺を不老不死にする動機がないことに気付いたからだ。
妹紅は一人の寂しさに耐えかねて仲間を求めた。
輝夜は自分が愉しむために俺を不老不死にしようとして、苦しめるために妹紅を利用した。

でも、永琳と俺は特に親しいわけでもないし、彼女は地上人にはあまり興味がない。
こうして向かいあって話すこと事態、今日が初めてだ。
そんな永琳が、人間一人を不老不死にするために輝夜まで利用してこれだけの作戦を立てるなんて俺には到底思えなかった。

「すいませんでした。俺、永琳先生を疑って、変な事言ったりして」
「いえ、疑われても仕方がないわ。間接的にでも今回の件を引き起こしてしまったのは私だもの。ところで、もうひとつ重要な話があるのだけれど」
「蓬莱の薬の処分ですか。それなら今俺が預かってますから、妹紅にもう一度説明して・・・」
「そう。なら、ちょうどよかった」

永琳は目論む。

これまでのやり取りで、私という人物は彼の中の要注意人物ランキングから削除されたはずだ。
悪くて「いい人で助けて貰った恩もあるだけど、どこか疑わしい」ぐらいの相手だろう。
彼を蓬莱人にしようとしたのは、あくまで妹紅と輝夜それぞれの独断で、私との繋がりはないという意識も根付かせた。

彼の中にある明確だった敵意が揺らぎ、人を疑ってしまったことへの罪悪感が芽生え始める。
それこそ、私が狙っていたタイミングだ。
この局面からいっきに畳みかければ、彼は堕ちる。

「妹紅のアイディアも悪くないと思っていたのよ。シン、あなた蓬莱人になるつもりはないかしら」

「え、はぁ!? 」
「蓬莱の薬を飲んで永遠に生きるつもりはないかって聞いているの」
「ちょ、ちょっと待ってください。どうしてそういう話に・・・」
「せっかく作った薬を使わずに捨てるのも勿体ないじゃない。私としても、薬がなくなるのならそれでいいし。」
「よしてください。だいたい、俺が不老不死になる理由が・・・」
「ずっと力が欲しいって言っていたでしょう。永遠の命は、これ以上ない“ちから”になるわよ」

予想通り、彼は驚いた表情のまま動きを止めてしまった。
どうやら、自分でも考えてしまった事があったらしい。
“蓬莱の薬があれば”と、“自分が不老不死ならば”と。

「永遠亭にも男手が必要だと考えていた所だし、姫もあなたの事を気に行っているみたいだから一石三鳥ね。
 そうね、今なら条件は偶に診療を手伝ってくれるだけでいいわ」
「・・・冗談、ですよね。俺はなりませんよ。蓬莱人になんて」
「どうして? 悪い話ではないと思うけど」
「どうしてって・・・それは・・・」

一度でも“ちから”を求めた彼なら容易に策に乗ってくれると思っていたが、
まさかこれほどあっさり事が進むとは、笑いをこらえるのに苦労する。

はっきり言えば、私はシン・アスカの事を疎ましく思っている。
彼の背後にいる山の神々もそうだが、彼自身も相当な難物だ。

普通に日常を送っていれば問題はないが、何か事を起こそうとすれば途端に邪魔になってくる。
それでいて、本人は人に好かれる性格で妖怪達からも受けがいい。
敵対しても排除しても、デメリットの方が遥かに勝るという、何とも厄介極まりない相手だ。

だが、本当に恐ろしいのは、キレて頭に血が昇りきった時ではない。
仮にデスティニーを持ちだしたとしても、彼の中に甘さがある限り不老不死の私は殺せない。

厄介なのは、冷静に、本心から相手を殺そうと決意した時だ。
戦いに関して、彼の洞察力と直感、特に発想は飛びぬけている。
どれだけ力の差があろうと、虚を突かれれば強者は堕ちる。
それを成すだけの才能が、戦うために存在していると言っても過言ではない異常な才能が、彼の中にはあるのだ。

だから私は戦わない。殺意を向けず、懐柔の意思を持って彼を飼いならす。
不可能ではない。私はかつて賢者と呼ばれ、月を動かしていた女だ。

「ここにいるのは、妹紅じゃない。あなたが永遠を手にしようと、苦しむ人は誰もいない」
「けど、早苗さんや霊夢とは・・・」
「どうせいつかは死に別れるわ」
「力を手に入れらからって、元の世界に帰れるかどうかだって・・・」
「時間は無限。来られたのだから帰れない方がおかしいじゃない。あなただって、そう考えたから未だに力を求めているんでしょう」
「・・・・・・」
「どうして迷う必要があるのかしら。無限の時間が貴方を待っているのよ。
 知識、権力、資金、名誉、手に入らないものなど何もない。平和を手に入れるにはどうするべきなのか。
 その答えを見つけるためにも、これが一番手っ取り早い方法だと思うけど」

まだ迷いがあるのか。まぁ、人間である自分に未練を残すのはおかしい事ではない。
もう少し、別の方向から揺さぶってみるとしよう。

「・・・そんなことで戦争のない世界なんて手に入れられるのかしら」
「どういう意味ですか」
「甘いと言っているのよ。輝夜のことだってそう。私が貴方の立場なら躊躇なく心を殺していたわ。
 例え、永遠亭と敵対することになってもね」
「・・・なっ!」
「下らない問答なんてしない。さっさと事を済ませて自分たちの安全を確保する」
「知っている人が・・・友達が相手なんですよ!」
「だから何? 人の心なんていつひっくり返るかわからない日和見的なものじゃない。
 まして、一度でも敵対した相手なんて信用する方がおかしいと思うけど」
「―――!? (そうだ、アスランだって)」
「取捨選択で迷いを捨て切れずに、チャンスを逃しては繰り返し敗北する。
 だからあなたは、いつも大切な物を守れなかったんでしょう。
 優しすぎるのも結構だけど、甘さだけで現実は変えられないわよ」
「違う。あれは・・・俺が、弱かっただけだ・・・」
「・・・本当に、そうなのかしら?」

人の心など、その気になれば簡単に予想できる。特に子供の思考は読みやすい。
軍人として、平和を求めて戦ってきた人間としては、不老不死になるべきだと考えている。
だが、人としてはまだ納得できていない、そんな所か。
愚かな子だ。そのどっちつかずの性格が敗北を招いたことくらいとっくに理解しているだろうに。

だが、私はあいまいな答えで許すような真似はしない。
揺さぶり、支え、近づき、突き放し、その口から私の望む答えを引きずり出すまで攻め続ける。
容赦? 情け? 寛容? 
目的を遂げるのに必要なのは冷徹なる意思と揺ぎ無い判断力だ。

「あなた達は強かったし、正しかったんでしょう? 私もデスティニープランが間違っているとは思わないわ」
「どうして、そう思うんです」
「あなた達が、世界を変えようとして敗北したからよ」
「・・・?」
「歴史的に見て、革命は現状に満足できなくなった者たちが起こすもの。
 でも、あなた達はが欲を満たすためでなく、恒久的な平和を求めていた」
「当たり前じゃないですか。俺は戦争のない世界が欲しくて戦ったんですから」
「だけど、旧来の権力者たちはあなた達を否定した。自分たちの権益が損なわれることを恐れたから」
「権益? アスラン達は平和のために・・・」
「あなたの上官がどんな理想を掲げていたかは関係ないわ。所詮は利用されるだけの一兵士。
 大抵その上には、もっと大きな権力が蠢いているものよ」

もっとも、これは民衆が革命を支持し、指導者が絶対の正義であることを前提とした
ご都合主義的な例だ。
汚いものばかりが蠢いている現実の戦争で、正義と悪徳に上下関係をつけるなど馬鹿げている。
しかし、あなたは正しい。
間違ってるのは敵対者だと刷り込めば、それを教えてくれた第三者は不思議と絶対に味方だと思えてくるものだ。

「不思議には思わなかった? 敵対者同士のいきなりの同盟とその物量、補給線の確保と短時間での部隊編成。
 余程、息が合っていなければ出来ない芸当よ。最初から、話し合うまでもなくこちらを叩き潰すつもりだったんじゃないかしら」
「それは・・・そんなこと・・・」

「連中にあったのは、利益に執着する欲望のみ。だから、民衆の意思を無視して大部隊を揃える事が出来た。
 欲望で繋がった豚同士通じ合うものがあったのでしょう。どの時代の変革期にも起こった歴史の必然よ」
「そうなのか・・・そうだとしたら・・・」

「あなたは理想のために立派に戦った。敗北を恥じる必要はないわ。けれどだからこそ、あなたは逃げてはいけない。
 あの世界の人々を見捨ててはいけない。そうでしょう?」
「見捨てるつもりなんか、ない。いつか、俺は戦争のない世界を作るためにあの世界に戻る。
 力を・・・手に入れて」

「もう一度言うわ。シン、。理想を叶えたいのなら蓬莱の薬を飲みなさい。
 何も捨てずに、描いた未来だけを成し遂げる。そんな贅沢が、唯の人間に許されるはずがないのだから」
「これが・・・蓬莱の薬・・・平和のための力・・・」

シンは考える。
永琳のいう事は正しいんだろう、と。

実際、俺が迷いを持ちこんだ戦いは全部負け戦だった。
迷いも後悔も弱さでしかないとレイにもよく言われていたし、裏切り者のアスランの言葉に惑わされたりしなければ、
少なくとも月に落とされる事はなかった。

俺は、どうして迷ってたんだ。
人間を捨てたくないとか、不死が怖いとか、そんなものは些細な理由じゃないか。

目の前に力があるんだ。躊躇する必要はない。
手に入れればいい。手に入れて守ればいい。
戦争のない世界を、守りたいもの全てを。

そうだ、迷う事なんかない。
これまでも繰り返してきた事だ。それをこれからも繰り返すだけだ。

俺は、『戦争のない世界』のために不老不死になる決心をした。

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最終更新:2011年10月24日 04:53
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