アットウィキロゴ

そろそろ氏の作品-14

1

その日、大暑を迎えた幻想郷は、その名の通り暑い事この上ない一日となった。
暑さは夜になっても衰える事無く、ひどい熱帯夜となり、幻想郷のあちこちで多くの人妖が寝苦しく夜を送っていた。

そんな夜の事。
人里近くに建つ命蓮寺の境内の、その奥にひっそりと佇む小屋がある。
最初は物置として使われていたその小屋は、現在は命蓮寺に身を置いているシンの住居となっている。
物置と言っても、元々が人の生活には問題ない作り、シンもこの部屋の生活に苦を感じたことは無い。

ただ夏の暑さが厳しくなった頃から、境内の奥まったこの場所の立地が少々不便だと感じていた。

「あちぃ」

何故なら風通しが悪いからである。
夏のこの時期、この小屋は蒸し風呂へと変化を遂げるのである。
本堂や敷地外と言った風通しの悪くない所で仕事をしている昼間はともかく、夜はこの蒸し風呂で眠らなければならない。
この酷暑を凌ぐために、本堂で寝ると言う選択肢も存在する。

実の所、最初の頃はシンも本堂で暮らしていた。
だがとある理由でこの離れに進んで身を移していた。
他の住人に迷惑をかける訳にはいかないとの理由であったが、それは表向きの、いわば言い訳。
本当の理由は白蓮達には内緒にしている。

本当の理由。
それは隣の部屋で寝ているぬえの寝息がやたらと色っぽく、どうしても悶々とした気分になってしまうからだ。
健全で年頃な少年であるシンにとってそれは刺激が強すぎるものであり、白蓮達女性陣には色々と説明しづらい理由である。

そんな困難で女難の予兆から逃げ延び、一難をやり過ごしたと思ったら、今度はこの暑さに襲われてしまった。
オーブや東アジア共和国での生活経験から高温多湿の環境には比較的に慣れている方であるからと言って得意ではない。
朝は早くから仕事があるので早く眠りにつかねばならないのだが、寝苦しさが就寝を許さない。
イライラが募るシンの脳裏に、幸運にも妙案が浮かぶ。
早速それを実行する事にした。

「あーやっぱ脱ぐと大分マシだな」

妙案とは脱衣、寝巻きを脱ぎ捨てスッポンポン、キャストオフ。
服の中に熱がこもり、汗がまとわりつくのを防ぎ、肌を直接外気に触れさせる事で体温を下げる効果を狙ったのだ。
ただし流石に全裸は恥ずかしいのでパンツはそのままである。
脱衣の甲斐があって、それなりの涼を得る事が出来た。
これからは涼しい季節になるまで裸で寝る事にしようと思いながら、シンはようやく眠りに付く事が出来た。

  •  ・ ・

どこかで行われる弾幕ごっこの音と、人里で飼われているにわとり達の鳴き声、そして日の出が訪れる頃。
命蓮寺の住人達が次々と起床し、それぞれ朝課や寺の雑用を始める

ただしぬえをのぞく。

シンも同様に朝の掃除といった仕事が割り当てられている。
今まで一人でこなす事が多かったシンの仕事に、最近変化があった。
命蓮寺に新しい住人が加わり、シンに後輩とも呼べる人物が出来た。

「あいつったら何してるよっ」

その後輩、山彦妖怪、幽谷響子は怒り心頭の様相で境内の裏を目指して歩いていた。
だがいかんせん頬を膨らませ、犬の様な耳をピコピコと動かす姿が非常に可愛らしのでまったく迫力が無い。

彼女は朝の参道の掃除を分担する先輩が時間になっても現れない事に腹を立てていた。
寝坊しているのだろうと見当を付け、叩き起こすために離れへと向かっていた。

響子はシンが自分の先輩であると言う事を快く思っていない。
自分よりも非力で、年もうんと下である人間が先輩だと言う事実が不服であったのだ。
仏門に帰依したのは救いを求めての事であり、白蓮の教えに感銘したからと言う訳ではない。
響子の考えは、多くの妖怪にとっては普通の考えであろう。
それは白蓮も承知している事、だからこそ響子にはシンとの生活で自身の思想に共感してもらいたいと願っていた。
二人が同じ仕事を担当する事にしたのも、白蓮のそんな思惑があったからだ。


シンが眼を覚ましたのは、響子が離れを目指そうとする少し前の頃だった。
まったくもって清々しくない目覚めであったが、仕事がある以上、何時までも寝ているわけにも行かない。
だるい体と暑さにうざんりした心に喝を入れる。
この時点でその仕事に寝坊している事にシンはまだ気づいていない。
のろのろとした動作で体を動かし、寝ている間に失われた水分補給の為に入り口のすぐ横に置かれた大きな水瓶の元へ向かう。
柄杓で汲んだ水は温く、喉を潤すには足りない。
もう一杯飲もうと柄杓を水瓶に突っ込んだ所で。

「ちょっと! あんたはいったい何時まで寝て…」

勢い良く戸が開かれ、響子が開口一番の文句と共に飛び込んできた。
だが響子の言葉は最後まで言葉を続ける事が出来ずない。

彼女の動きが止まった原因、それはシンの格好にあった。
先程も述べた様に水瓶は入り口のすぐ傍に置いてある。
よって響子はそこで水を飲んでいるシンと鉢合わせする形となった。
特に問題のない状況である。

問題は現在のシンの格好にある。
シンは眠りに付く時にほぼ全裸となった。
そしてそれは今現在も同じである。

玄関開けたら半裸のシンがお出迎え。
響子にとって予想外の光景で、その思考を一時停止させるに十分な光景でもあった。
一方の半裸のシンにとっても響子の闖入は予想外な事態で、寝起き頭と言う事もあって思考が同じく一時停止してしまった。

時が止まる。

だが段々とお互いの思考は再起動していき、現状を認識し把握していく。
頬が赤くなる二人、いち早く冷静さを取り戻したのはシンであった。

故に危機感が走った。
この状況で響子に叫ばれでもしたらどうなるか。

ほぼ全裸である自分を前に叫び声を上げる響子の図。
事の経緯を知らぬ者からみれば当然の如く“勘違い”される構図である。

命蓮寺の住人は皆気のいい妖怪達であるが、不埒な輩には容赦しない。
もしこの状況を見つけられては、『不埒である』とか言われ、釈明する間も無く説教されるであろう。
開廷と同時に判決は下され即執行される、弁論する暇など無い。
何が何でも避けなければならない事態、だがどうやって?
そう考えた所で、響子も遅ればせながら状況を把握し、叫び声を上げようとするのに気付く。

「むぐっ?!」

まずい。
そう感じたシンは無意識の内に響子の口を自らの手で塞ぎ、彼女が叫び声を上げるのを阻止した。
口をふさがれた事で再び混乱する響子。
シンはそんな彼女に畳み掛ける様に、必死に嘆願する。

「ごめん! 叫ばないでくれ、お願いだから叫ばないでくれ!」

何故か謝るシン。
響子の力ならシンの手を振り払うは容易である。
だが混乱はその選択肢を隠してしまう。

「いいな、手を離すから叫ばないでくれよな?!」

反射的に、首をこくこくと縦に振る響子。
シンは響子が叫んだとしても再び口を塞げるようゆっくりと手を離していく。

ある程度の距離を取っても響子が叫ばなかった事に安堵し、先程約束した通りに急いで戸を閉め中で着替えをはじめるシン。
その間、響子はただ立ち尽くすだけであった。
それから三分もしない内にシンが服を着て響子の前に再び現れる。

「ごめん、さっきは本当にごめん。だから誰にも言わないでくれ」
「う…うん」

未だに混乱が収まらない響子には気返事で返す事しかできなかったが、その内心を察する余裕が今のシンには無い。
二度三度、更に念を押して後ずさり、小屋の中入ると勢いよく戸を閉めた。
シンが急いで服を着終えた時、響子の姿は既に無かった。
もしかして白蓮に通報に行ったのではないかとの考えが一瞬脳裏をよぎる。
不安を抑え付ける事が出来ないまま仕事場である参道の掃除へと向かった。


参道をほうきではく響子の姿を見つけ、彼女がどうやらそのまま仕事に戻った事を確認すると、ホッとした思いで胸をなでおろす。

「よ、よう。おはよう響子」
「…おはよ」
「えーっと、さっきはその…悪かったな」
「別に…気にしてないわよ」

気を取り直して響子に今更の挨拶と、先程の事を再び詫びる。
響子は小さく気の無い返事で答えると、シンに背を向けてしまう。

「本当に…ごめんな、響子」

元を正せば原因は小屋に乱入してきたのは響子である。
だがその後の口を塞ぎ他言無用を迫ると言う恐喝めいた行動は行き過ぎたのではないかと、今の響子を見るとそう感じてしまう。
彼女の機嫌や自分に対する感情を悪化させるには十分だとも。
そんな考えがシンの脳裏によぎり、謝罪の言葉が自然に小さくこぼれた。

「大丈夫、本当に気にしてないから。私の方こそごめんね…」

先程と変わらない小さな声で、ただ少しばかり重さの取れた声で返す。
響子は再び背を向け掃除へと戻り、シンも仕事に取り掛かった。
その日の会話らしい会話は、結局それっきり。

どこか上の空の調子でその日一日を終えた響子の姿を見た命蓮寺の住人はこぞって心配した。
普段元気で騒がしい彼女の姿を見知る物にとって、下手をすれば異変級の状態であった。
響子の取り繕った釈明に住人達は不承不承ではあるが深くは追求しなかった。
その姿を見る度、シンは罪悪感を覚える。

響子の様子に気を取られる住人達は、その心に小さな目が芽生えた事に気付かなかった。

2

ぽつぽつと雨の降る日の午後。
白蓮と星は命蓮寺の境内を、幽鬼の如き足取りで行く小傘の姿を見つけた。


白蓮「あら小傘じゃありませ…どうしたのですか、随分と元気が無さそうですが」
星 「私達でよければ相談に乗りますよ」
小傘「うぅ…シンが、シンが」
白蓮「シン…彼がどうしたのですか?」
小傘「シンが、シンが私以外の…私の知らな…うわーん、きっと私捨てられたんだーっ!」
星 「す、捨てられた!?」
白蓮「詳しく話して頂戴」
小傘「私とずっと一緒だって言ってくれたのに、私だけを見て…私だけってうぅ、言ったのに、なのに私以外の奴と一緒にーっ!」
白蓮「こ、これはまさか…でもあのシンに限って」
星 「不埒! この子の純情を弄んだ挙句に捨てるなどとは不埒です、鬼畜です! 聖、今すぐシンを成敗しに行きましょう!」
白蓮「えっ、ですが寅丸」
星 「女の敵には灸をすえねばなりません! さぁ行きましょう!!」
白蓮「そうですね…分かりました、これも世のため人のため」

二人はシンを成敗をすべく、雨具を持たずに寺を飛び出した。
わんわん泣く小傘をほったらかしにして。
一輪が里から寺へと帰ってきたのは、丁度入れ違いとなる形であった。
相変わらず泣き続ける小傘を見つけた一輪は彼女に駆け寄ると、何とか宥めすかし訳を聞く事が出来た。

一輪「落ち着いた?」
小傘「うん、でもまだショックが…」
一輪「よかった…ところで聞きたいのだけど、シンが一緒に居たのって」

小傘の話を聞いている内に、一輪はシンへの怒りがふつふつと湧き上がっていったが、同時に疑問も生じていた。
何故なら彼女がこの寺に帰りつく直前、シンと会っていたのだ。
その時、シンは小傘の言い分とは違い一人であった。
なら自分と会う前に誰かと一緒にいたのだろうか?
だが小傘を大切にするシンが隠れて浮気をするとは思えない。
里の事情に詳しい一輪の耳にもその様な話を聞いた事は無い。
だから疑問も生じたのだ。

小傘「私…やっぱりいらない子なのかな、こんな日に使ってもらえないだなんて。やっぱり私みたいなのじゃ…」
一輪「使…う?」
小傘「そうだよね、こんなダサい唐傘なんかよりも、びにーる傘の方がいいんだよね…」

まさかこの娘はシンが他の傘を使っていた事にショックを感じたのか?
そういえば小傘は自身のデザインが原因で人から使われる事が無かった事への不満から変化した身。
他人からすれば些細な事だが、小傘にとっては天地がひっくり返る程の衝撃を受けても不思議ではない。
そして他ならぬシンがその様な事をすれば小傘がこれほどに取り乱すのもありえない話ではない。

小傘「ひどいよ、いくら急な雨だからって私以外の傘なんかに…」
一輪「…そうねー男なら濡れて帰るべきだったわねー」

真実に気づいた一輪には、小傘に投げやりな返答しか出来なかった。
何ともお騒がせな子だと呆れたからだ。

一輪「ん? そういえば姐さん達が飛んでった方向って…」

自分と入れ違いに飛び出していった白蓮達もこの話を聞いたのではないか?
一輪はそう考える、事実もそうであった。

もしも小傘が白蓮達にも、自分への説明同様に言葉足らずであったら?
自分もあれほど怒りを感じたのだ、白蓮達がそうであってもおかしくは無い。
そういえば白蓮の隣に寅丸も一緒に居たな、あの馬鹿がうっかり早とちりをしてしまったら?

一輪の中に嫌な考えがどんどん積もっていく。
最悪な事にそれは悉く正解であった。

小傘「ねぇ、大丈夫?」
一輪「えっ…えぇ、大丈夫よ」

脱力していく一輪の姿を見て、小傘は涙交じりの声で心配する。
一輪はそれに力なく返すしか出来なかった。


やがて、遠くの方で轟音が響き始めた。
それは一輪がシンと会った方向であった。

3

豊聡耳神子と聖白蓮は、お互いの勢力にシンを引き込もうと熱心に勧誘を続けていた。
ある時は各々が信奉する宗教のよさを語り、ある時は見返りの厚遇を約束した。

シンは悩みに悩み抜き、最後にはおっぱいの大きい白蓮側に付く事にした。


神子様は貧乳、異論は弾圧

4

広大な妖怪の山の中腹に、周囲の景観にそぐわない大きな建物がある。
少し前に建てられたそれは、異世界より突如として現れた鋼の巨人、デスティニーガンダムを収納する為に建てられた施設である。
この施設には、その身を大きく傷つけたデスティニーを修復する為の作業場としての役割もあった。
普段は色々と騒がしい場所だが、今日は作業の休日であるから、施設の中には誰もいなかった。
大型のリフトの上から眼下には横たわるデスティニーを見つめているシンを除いては。

デスティニーを見下ろしながら、シンはこの作業場での日々を思い出していた。
どこか重い色を含んだ眼差しで。

「なにしてんの?」
「ん? にとり…」

デスティニーをボーっと見つめていたシンの意識を引き戻す様にかけられた声。
それはシンの気付かぬ間にリフトに上り、隣に立っていたにとりの声だった。

「どうしたの? 今日は休みだって言ってなかった?」
「うん、何も無いよ。ちょっとデスティニーを見てただけ」
「そっか。でも、こうやって改めて見てみると、随分見栄えが良くなったよね」
「うん…」
「…ねぇ、本当にどうしたの?」

シンの様子がどこか浮かない事はにとりにも分かっていたが、この返事は先程よりも沈み込んだ声であった。
どこか痛ましいとも思えるその姿を見て、にとりは何となく心が痛くなる気がした。

「外見はどうにか出来ても、中身は…って思ったらさ」
「中身、か」

シンの口にした“中身”とは、デスティニーの電子回路やソフトウェアに関する部分、デスティニーの頭脳のと呼べる分の事だ。

確かにデスティニーの外装の修復は進んでいる。
だが再び動き出すためには、脳の如く体に命令を出す電子機器を復元し、システムの再起動を行わなければならないが、幻想郷とコズミッ

ク・イラとでは、電子技術に関しては途方も無い隔たりがある。
その隔たりを乗り越えるために、戦闘に関する機能の大部分を省略し、必要最低限の行動を行える程度でのシステムの復元を再構築を目指した。
だが幻想郷の技術ではそれすらも困難である。

その証拠に、未だに腕一つを満足に動かす事も出来ていない。
一体何時になれば動かすだろうか?
ひょっとしてそれは不可能なのではないかと、シンは考え始めてしまった。
終着が見えない不安感が、シンの心と表情に翳りをもたらしていた。

「大丈夫だよ」

その言葉と共に、シンはにとりに服の袖を引かれる。

「私達なら出来るよ。そりゃ時間がかかるかもしれないけど、でもここまで来る事ができたじゃないか。
「そりゃ…」
「私は皆が諦めたってやるよ、私は絶対諦めないよ」

誰からも不可能と否定されたデスティニーの修復をここまで進める事が出来たのは、にとりと言うパートナーがいたからこそだった。
にとりがいてくれたからこそ、諦めなかったからこそ今がある。

「そう…だよな。にとりが言うなら、そうだよな…」
「そうそう! だから頑張ろっ!」

胸を張るにとりの言葉と、その笑顔は眩く、そしてとても力強い物だった。
シンは自分の中に巣くった不安を、その笑顔がどこかへ吹き飛ばしてくれたのを感じた。


「…ありがとう、にとり」
「えへへ…ひゅい!?」
「な、なんだよ変な声出して」
「いきなり頭撫でるから…」
「えっ? あっ、ごめん…」

にとりの言葉で、自分が彼女の頭を帽子越しに撫でていた事に初めて気が付いた。

「…子ども扱いしないでよぉ」
「だからごめんって」
「もう、何かにつけて子ども扱いしてさ。そりゃ背はちっこいけど、シンよりもずーっと年上なんだよ?」

頬を批難をこめた視線を向ける。
だが頬を赤くしたその表情は、申し訳なさなど微塵も感じなくなってしまう程可愛らしさ物。
シンはただ苦笑するしかなかった。

「はいはい、今度から大人扱いするよ」
「だーかーらー」
「今日はきゅうり料理を多めに作るか」
「ほんとっ!?」
「ほんと」
「よし、早く戻ろう!」

だから子供扱いしてしまうんだ。
そう思いながらリフトを地上に降ろそうとするシンだったが、にとりへと意識を向けて続けながら操作を行ったせいで、リフトの下降ボタンと一緒に上昇ボタンも押してしまうと言う操作ミスを犯してしまう。

「うわっ!」
「きゃ!?」

矛盾した操作はリフトをその場で大きく揺らす。
衝撃で二人は共にバランスを崩し倒れこんでしまったが、幸いリフトから転落する事も、転倒の際に体や頭を強く打つと言う事も無かった。
特にシンは何かやわらかい物がクッション代わりになり、衝撃も大して無かった。

「ごめんっ、ボタンを…」

その事に何の疑問を持たずに顔を上げたシンの前に、にとりの顔があった。
それも極めて近距離に。

先程シンのクッション代わりになったやわらかい物、それはにとりの体であった。
倒れ込む際、シンはにとりに覆いかぶさると言う形になってしまったのだ。
にとりの方にも怪我は無かったが、今の二人の体勢は、事情を知らない者が見たら誤解を招きそうな物になっていた。

その事に気が付き、すぐさま起き上がり離れようとするシン。
だがにとりがそれを拒んだ、にとりの手がシンの腕を掴み、起き上がるのを拒んだ。

にとりにとって、それは無意識の内の行動であったから、自分でもこの行為に対し驚いてしまった。
しかしその手を離す事はしなかった。
二人はどうする事も出来ないまま、ただお互いを見つめ続けるしか出来なかった。
まるで時間を失った様に、二人は動く事が出来なかった。

「大人扱い…」
「えっ、にとり…?」
「今、してよ…大人扱い」

先に時を取り戻したのはにとりだった。
にとりのその言葉に、シンも時と我を取り戻す。
そして言葉の意味を理解した時、シンは思わず生唾を飲み込んだ。
荒くなる一方の鼓動と息の中、にとりの求めに応じるために体をゆっくりと下ろして行く。
にとりは目蓋をきゅっと閉じる。
二人の距離が、体が、体温が、そして

唇が重なった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年01月10日 10:34
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。