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前置き
- シン、命蓮寺に住み込み設定
- またも宝塔を無くしたうっかり星ちゃん
- ナズ、またも香霖堂へ宝塔を買い戻しに行き、漸く帰宅
ナズーリン「……ただいま」
シン「お帰り、随分遅かった……って、おい、どうしたんだよその格好!?」
ナズーリン「なんでも、ないよ……」(髪の先から靴に至るまで全身埃塗れで、生気を感じさせない虚ろな表情)
シン「馬鹿っ、何でもない訳あるかよ! ……なあナズーリン、いったい何があったんだよ?」
ナズーリン「――っかけられたんだ」
シン「え……?」
ナズーリン「香霖堂の店主に……とてもじゃないが払える額ではなくて……そうしたら身体で払えと言われて……」
シン「っ!?」
ナズーリン「狭い部屋に連れて行かれて……黒くて、固いものを握らされて……無理矢理奉仕させられて……」
シン「そんな……っ、なんで、抵抗しなかったんだよ!?」
ナズーリン「出来る訳、ないじゃないか……宝塔は彼の手にあって……彼に危害を加えれば、人間に害をなした妖怪として、命蓮寺の仲間諸とも博麗の巫女に処罰して貰う、なんて言われて……」
シン「ナズーリン……!」(ギュッ、とナズーリンの身体を抱きしめる)
ナズーリン「すまない、シン……私はもう、どうしようもない程に汚れてしまった……」
シン「そんなことない……! お前は、汚れてなんかいない……!」
ナズーリン「……ありがとう、シン」
シン「森近霖之助……許すもんか……! 絶対に、許すもんか……!」
シン「森近アアアァァッッッッ!!!」(バガン、と派手に扉を蹴り開ける)
霖之助「おや、君かい。扉を乱暴に開けないで貰いたいね。君みたいな乱暴者達のせいで、すっこり建て付けが悪くなってしまったんだ」(いつも通り、落ち着き払った様子)
シン「ナズーリンに酷い事をしておいて、よくもぬけぬけと!」(激昂し、両手をカウンターに叩き付ける)
霖之助「ああ、彼女のことか。酷い、とは心外だな。あれは正当な取引の結果だよ」
シン「正当……!? 人の弱みに付け込んで暴利を貪っておいて正当だと!?」
霖之助「暴利だなんてとんでもない。あの宝塔の金銭的価値を考えれば、彼女に提示した額はまっこと適性だ。しかし彼女はそれを払えないと言い、仕方なく僕は代わりの方法を示した。しかも価値基準としては、最初に提示した額の十分の一にも満たない内容で手を打つという、大まけにまけた条件の、ね」
シン「アンタがいくら払えって言ったのかは知らないけどな! 女の純潔、そんな端金になんて変えられるかよ!」
霖之助「……成る程、そういう事か。君の正義感の高さは一つの美徳ではあるだろうけれど、それでも些か短慮に過ぎるようだね」
シン「何をゴチャゴチャと……!」(霖之助の胸倉をぐいと掴む)
霖之助「ハァ……ナズーリン。どうせこちらを覗き見しているのだろう? 彼が僕を殴る前に入ってきてくれないか? 君も知っての通り、僕は荒事が苦手なんだ」
ナズーリン「……やれやれ、一矢報いる事が出来るかと思ったのにな」
シン「な、ナズーリン!? お前、こんな所に来て平気なのかよ!?」
霖之助「こんな所、とは酷い言い草だね……」
ナズーリン「ハハハ、店主。そんなの事実じゃあないか。ああいや、それよりも先にだ。シン、騙してしまってすまない」
シン「…………は?」
ナズーリン「いやなに、散々人の事をこき使ってくれた礼にと、君の剣幕に肝を冷やすこの陰険店主でも見て嘲笑ってやろうと思って君を焚き付けたのだが……店主、君は予想していたよりも随分と厚い面の皮だったようだね。荒事は苦手だったんじゃなかったのかい?」
霖之助「失敬な。荒事は確かに苦手だが……シンには悪いが、それでも彼の剣幕程度の鉄火場など、過去に何度か経験しているからね。彼の『人間』らしい青さや真っ直ぐさに若いなぁと感じる事はあっても、万が一にも取り乱す事などないさ」
シン「え? え?」(色々と着いていけていない)
霖之助「何を言われたのかはわからないが、君は彼女に担がれたんだよ」
ナズーリン「いや、本当にすまなかった」
シン「はああぁ!?」
シン「え、その……アレ、をかけられたんじゃないのか?」
ナズーリン「間違いなく、高値で吹っ掛けられたよ」
シン「狭い部屋に連れてかれて、黒くて固いのを握らされて、無理矢理奉仕させられたって……汚されたって」
ナズーリン「ああ、黒い柄のはたきを握らされ、店の裏にある倉庫の掃除を無理矢理やらされたんだ。何年放置していたのか知らないが、お陰で掃除が終わった頃には埃塗れに汚れてしまったよ」
シン「宝塔の弱みに付け込んで、逆らえばどうなるか、って脅されたのは……」
霖之助「拾い物とは言え、あれの占有権は僕にあった。それを言ったら彼女が武力に任せ奪って行こうとしたから、流石にそんな事をされたら黙っているわけにはいかないだろう? ……しかしまた、見事に真実をぼかし、歪められた事実のみを伝えたものだ。まるで天狗の新聞だな」
ナズーリン「おいおい、私をあの嘘つき烏達と一緒にしないでほし――」
シン「…………ナズーリン!!!」
ナズーリン「ひぅ!?」
シン「……霖之助さん、その、色々と失礼しました。申し訳ありません」
霖之助「ん、ああ、気にしなくていいよ。ある意味、君も被害者なんだしね。まあそれでも君の気が済まないと言うなら、今度来た時にでも何か買って行ってくれ」
シン「はい。そうさせてもらいます。……ナズーリン、帰るぞ」
ナズーリン「あ、ああ……すまなかった、店主」
霖之助「気にしていないさ。それに、君のそんなしょぼくれた顔を見られただけでも、充分釣りが出るよ」
ナズーリン「はぁ、嫌な奴だよ、君は。では、失礼するよ」
霖之助「ああ、また来るといい」
シン「………………」
ナズーリン「……まだ、怒ってるのかい?」
シン「………………」
ナズーリン「いや、当たり前か。君を嘘で……それも、ああも悪質な嘘で謀り、利用したのだからね」
シン「…………」
ナズーリン「だけど……不謹慎だと軽蔑してくれても構わないが…………」
シン「…………」
ナズーリン「それでも、私は嬉しかったよ。私の為に怒ってくれた君の姿が……とても、嬉しかった。ありがとう。そして……ごめんなさい」
シン「…………もう、二度とあんなことはしないか?」
ナズーリン「ああ。しない。誓うよ」
シン「……わかった。俺は許すよ。だけど、白蓮さんの説経はきっちり受けて貰うからな」
ナズーリン「むぅ……あれを受けると足が動かなくなる程痺れるからきついんだが……自業自得故に仕方がない、か」
シン「ああ、仕方ないな」
ナズーリン「やれやれ……まあ、君が口をきいてくれない事に比べたら、何倍もマシなんだがね」
シン「ん? なんか言ったか?」
ナズーリン「いいや、何も。ああ、そうだ。私の為に怒ってくれた君への礼が、まだすんでいなかったな」
シン「礼、だなんて……別にいいよ、そんなの」
ナズーリン「まあまあそう言わずに。変な遠慮などせず、人の好意は素直に受取たまえ」
シン「……わかったよ。それで? 何をくれるんだ?」
ナズーリン「フフ……こういうお礼と言うのはね――――」
シン「んっ!?」
ナズーリン「――感謝と愛情をたっぷり込めた口づけ、と相場が決まっているものなんだよ」
やまがない
おちがない
いみがない
そんな話
最終更新:2011年10月24日 05:19