――前略、おフクロ様
見慣れない人達に囲まれて、いささか戸惑っております……。
「「ギャオオオォォォーーーン!!」」
…………前言撤回。
人ですらありませんでした(´・ω・`)
西暦2071年。世界は荒ぶる神々によって喰い尽されようとしていた。
あらゆるものを捕喰する「オラクル細胞」から形成される異形の怪物「アラガミ」が地上を跋扈し、かつて隆盛を誇った人類は今やただの“食べ残し”に過ぎない。
だが、人類はしぶとかった。
オラクル細胞の「偏食」性質を利用した「対アラガミ装甲」と、アラガミに唯一対抗可能な生体武器「神機」の開発、そして神機を操る「神機使い(ゴッドイーター)」達の奮闘によって、人類は滅亡の一歩手前で辛うじて踏みとどまっている。
さて、人類最後の希望とも言える神機使いの一人、シン・アスカは現在、深刻な生命の危機に瀕していた。
目の前には二匹の巨大な化け物。具体的に言えば髭面の黒い人面虎と猫面の真っ赤な鳥人。ディアウス・ピターとセクメト、どちらも極東支部ではお馴染のアラガミだ。
実戦に出た新人神機使い達がぶつかる最初の難関、それが猛獣型アラガミ「ヴァジュラ」種と鳥人型アラガミ「シユウ」種である。
一撃必殺の攻撃力に加え、硬質化した鬣や翼で神機の斬撃を弾き、おまけに電撃やら波○拳やらまで撃ってくる始末。「硬い」「痛い」「遠距離ウザい」の三拍子揃い踏みである。
この二種との戦いによって命を落とした新人神機使いは数知れず。しかし中堅以上の神機使いにとっては、逆に都合のいいカモだったりする。主に報酬や素材収集的な意味で。
ヴァジュラとシユウが狩れて初めて一人前。そのような実態から、神機使い達の間ではこの二種は密かに「先生」と呼ばれ親しまれているのだ。
シンが相手しているのはその上位種、つまり「大先生」である。「硬い」「痛い」「遠距離ウザい」の三拍子も、「超硬い」「超痛い」「電撃や炎超ウザい」へと奇跡の超進化だ。
二匹の大型アラガミの巧みな連携プレーによって、今やシンの身体は満身創痍。もう一、二発でも直撃を受ければ力尽きてしまうだろう。
既に回復錠もトラップも底を尽き、今やシンの手元に残っているのは僅かな体力増強剤と、右手に握る傷だらけの相棒(神機)のみ。
一方、シンを追い詰めるディアウス・ピターとセクメトも無事ではない。自慢の鬣や翼は無惨に粉砕され、他にも全身の至る箇所でオラクル細胞の結合が崩壊している。
更に今でこそ二対一の構図となっているが、戦闘開始当初は多数の小型アラガミも引き連れていた。
しかしその取り巻きも全滅。これではどちらが追い詰められているかは一概には言えないだろう。
「ほら、オイどうした? かかってこいよ、クソ神ども!!」
愛剣「アメノムラクモ・真」を腰だめに構え、シンは唇の端を歪めて挑発する。
シン・アスカ。かつてC.E.においてスーパーエースと謳われた彼が、何故時代も世界も違うこの場所でモンスターハンターもどきに勤しんでいるのか?
そこには語り尽くせば日が昇ってしまうような深い深い事情があるのだが、今この場で語るのは割愛しよう。だが強いて言えば、所謂「テンプレ乙」とでも言っておこう。
右手の「腕輪」の接続部を介し、シンの生命エネルギーとも言える何かが神機へ流れ込む。それはコアから刀身部まで伝わり、実体化。
元々身の丈ほどもあるバスター級の刀身を更に延長するように、半透明のエネルギー刃が形成された。バスター刀最大の必殺技「チャージクラッシュ」である。
挑発に乗り、二体のアラガミが雄叫びを上げて同時に飛びかかる。迎え撃つようにシンは両の脚で地面を踏みしめ、腕を、腰を、全身を使って神機を横薙ぎに振るい――、
死角から現れた二匹目のディアウス・ピターに吹っ飛ばされた。
「ぁ痛ーっ!?」
突然の不意打ちに防御も間に合わず、ピター大先生渾身のタックルが直撃。シンは錐揉み回転しながら悲鳴とともに為す術もなく空中へ打ち上げられる。
そのまま放物線を描いて空を飛び、地上へ落下。ゴシャリと嫌な音を立てて地面に激突した。
痛みに呻きながら起き上がるシンの耳に、切羽詰まったような男女の声が飛び込んでくる。振り返ると、小剣を携えた青年と大砲を抱えた少女が駆け寄ってくるのが見えた。
「おーい、シンー! 大丈夫かーっ!?」
「シンさーん!!」
「タツミさん! カノン!」
シンも二人へ叫びながら走り寄り、合流する。
第二部隊隊長の大森タツミと、第三部隊所属の台場カノン。第一部隊隊長のシンと所属は違うが、ともに今回の討伐任務を受注した神機使いである。
「すまん、シン! ボカやっちまった!!」
合流するや否や、タツミが勢いよく頭を下げた。それを見たカノンが青い顔で「わ、私が悪いんです!」とタツミをフォローするように訴える。
二人は例の「もう一匹のディアウス・ピター」を担当する別働隊だった。
複数の大型アラガミを相手取る場合、分断して一匹ずつフルボッコにするのが定石である。
シンが囮となってディアウス・ピターの片割れとセクメト(とその他有象無象)を引きつけ、残った面子で孤立したもう一匹のピターを袋叩きにするのが今回の作戦だった。
しかしタツミ達はピターを仕留めきれず、作戦は失敗。こうしてアラガミ達は再び合流を果たしてしまった。正直なところ、三対一で取り逃がすとは思ってもいなかった。
……あれ、三対一? シンはそこで、合流したメンバーが一人足りないことに漸く気付いた。
そう言えば、あのどこか不思議な感じがする、自称医療班の癖にバリバリ武闘派な彼(彼女?)は一体どこへ行ったのだろう?
「なぁ、二人とも。……レンはどうしたんだ?」
「「レン?」」
シンの問いに、タツミとカノンは揃って首を傾げる。
「「――誰、それ?」」
同時刻。「贖罪の街」と呼ばれる風化した廃墟の片隅で、一つの命が誰にも知られぬまま燃え尽きようとしていた。
砂塵にまみれ、ひび割れた地面に力なく倒れ伏す人影。まだあどけない中性的な顔の少年である。否、或いは少女か。
右手首にはまるで囚人の手枷のような赤い無骨な腕輪、神機使いの証である。傍らには戦場での無二の相棒とも言える神機が無造作に投げ出されている。
(ああ……)
最早立ち上がる気力すら残っていない。彼(彼女)は諦めたようにゆっくりと眼を閉じた。
薄れゆく意識の中、瞼の裏で走馬灯のように鮮やかに蘇ったのは、「本当の相棒」との十年以上にも渡る戦いの記憶……ではなく、まだ出会って数ヶ月にも満たない「彼」との思い出だった。
ああ、僕はこんなにも浮気性だったのか。ここにきて初めて知った自身の新たな一面に、彼(彼女)は思わず苦笑を漏らす。
『――おい、レン! 大丈夫か? レン!!』
通信機からノイズ混じりに喧しく響く「彼」の声に、沈みかけていた彼(彼女)――レンの意識が再び浮上する。
「ああ、シン……」
文字通り最期の力を振り絞り、レンは掠れる声で言葉を紡いだ。
「――貴方の神機として生きていくのも……悪く…なかったなぁ……」
『レンーーーっ!?』
名台詞の盛大のフライングとともに、レンの意識は今度こそ闇に落ちた。
.
「うぉい! 今何か重大なネタバレされた気がするんだけど!? おい、レン? レンーーーっ!!」
沈黙した通信機を手にシンが錯乱したように騒ぎ立てるが、残念ながら応答の気配は微塵もなかった。へんじがない、ただのしかばねのようだ。
一方、延々と一人芝居を続けるシンを、タツミとカノンがイタい人を見るような目で見守っていたのは二人だけの秘密だ。
「あの、タツミさん……。シンさん、大丈夫なんでしょうか……?」
「うーん、最近出撃続きだったみたいだからなぁ……。この任務が終わったら休暇取らせるか? 無理矢理にでも」
二人がそんなことをコソコソ話し合っているとは露知らず、シンはウンともスンとも反応しない通信機に業を煮やし、残存メンバーでの任務続行を決断。
レンのことは気になるが、後で拾いに行けばいいだろう。
敵アラガミは三体、こちらの戦力も三人。しかしだからと言って一対一に持ち込むのは愚の骨頂だろう。下手をすれば全滅だ。
定石から言えば、ダメージの度合いが一番高い個体から叩いていくべきだ。その場合、狙うのはタツミ達が相手していたディアウス・ピター一択だろう。
何しろ三対一でフルボッコにしたのだ、ダメージの蓄積量も半端ではない筈――というシンの目論見は、似たり寄ったりな具合にボロボロなピター二匹を見た瞬間、露と消えた。
「……おい、タツミさん。アンタらが相手してたピターって、どっちでしたっけ?」
「……スマン。ぶっちゃけ俺も見分けがつかない」
引きつった顔で耳打ちするシンに、タツミはあからさまに目を逸らしながら答える。
「シンさん、タツミさん。そーゆー時はですねぇ……」
途方に暮れる隊長二人に、カノンが花咲くような笑顔で横から声をかけた。何か妙案でも、と期待しながら振り向く二人に、カノンは天使のような笑顔で神機を構え――、
「――もろともに吹っ飛ばしちゃえば万事解決です♪」
そう言って、バレットをぶっ放した。
地獄が始まった。
某世紀末なノリで放射系バレットを乱射するカノン。巻き添えで吹っ飛ばされるシンとタツミ。
荒ぶるピター大先生×2。そして美味しいところを掻っ攫うセクメト。
まさにカオス。もしもこの場に某ロシア出身の新型神機使いがいたならば、ドン引き間違いなしの有様である。
「ぐぁっ!? ……ちっくしょっ、やっちまった…ぜ……」
「タツミさん!?」
激しい乱戦の中、力尽き、倒れていく仲間……。
弱肉強食。弱い者から死んでいく。抗いようのない神の摂理、この世の真理がそこにあった。
だが……、
「くそっ! 待ってろ!!」
神の摂理に抗う愚者が、ここに一人。瀕死のタツミの元へ駆け寄り、シンは徐々に体温を失う背中に己の右手を押し当てた。
瞬間、シンの掌から淡い光が発生し、タツミの体内へ吸い込まれていく。直後、「ゴホッ」と苦しそうに咳き込みながらもタツミが息を吹き返した。
リンクエイド。神機使い同士でのみ可能となる、オラクル細胞を介して行われる「命の受け渡し」である。
「っ……悪ぃ、助かった。ありがとな!」
「気にすんな。俺は気にしない」
バツの悪そうな顔で礼を言うタツミに、シンは笑って答える。困った時はお互い様。本当の意味での「助け合いの精神」を、シンはこの世界に来て初めて学んだのだ。
シンが無言で拳を突き出した。タツミも同じように片手をのばし、コツリと拳を突き合わせる。互いの信頼を再確認し――、
次の瞬間、ディアウス・ピターが放つ特大の雷球に二人まとめて吹っ飛ばされた。
「「ぎゃーす!?」」
なけなしの体力をごっそり削られ、仲良く天に召される馬鹿二人。残されたカノンは涙目である。
「ふえーん! 二人ともしっかりしてくださーい!!」
慌ててシンとタツミへ駆け寄り、カノン二人にリンクエイドを施す。直後、セクメトの滑空体当たりが死角からカノンを直撃。
二人の蘇生と引き換えに、カノンはその儚い命を散らした。壮絶な命のリレーである。
「くっそー、こいつはちょっと分が悪いかもな……」
カノンにリンクエイドを施しながら、タツミが疲労の浮いた顔で唸る。
「おい、シン! このままじゃジリ貧だ。ここは撤退して一旦態勢を立て直さないか!?」
「そ、そうですよシンさん! このままじゃ私達、全滅しちゃいますよ!?」
撤退を進言するタツミに、復活したカノンが賛同の声を上げる。だがシンは「駄目だ!」と二人を一喝した。
「ここで俺達が逃げたら、外部居住区に少なからず被害が出る! 対アラガミ装甲も絶対じゃない。俺達ゴッドイーターが逃げ出しちまったら、誰が皆を守るんだ!?」
シンの叱咤に、タツミとカノンはハッと息を呑んだ。
「……そうだな、そうだよな。悪ぃ、ちょっと弱気になってたみたいだ」
「わ、私も、もう逃げませんっ!」
憑き物が落ちたような顔で苦笑するタツミと、腹を括ったような顔で意気込むカノン。二人の頼もしい言葉に、シンも力強く頷いた。
そうだ、俺達はゴッドイーター。アラガミの脅威から人類を守る絶対防衛線なのだ!
だがその時、三人の決意を打ち砕くかのように、新たなアラガミの唸り声が贖罪の街に響き渡った。
ビルの陰から姿を見せる白い巨体。爬虫類的なフォルム。びっしりと生える鋭い牙。背中から突出する大きな瘤。左腕に輝く黄金の籠手。
ハンニバル。最近、極東支部で発見された新種の「不死のアラガミ」である。
……あ、詰んだ\(^o^)/
その瞬間、三人の心は一つになった。だが一つになったところで、この状況はどうしようもない。
どうあがいても、絶望。
ちなみに、レンの存在は今やすっかり忘れ去られていた。
―――中途半端に終わる
最終更新:2011年10月24日 05:41