幻想郷にて:博麗霊夢によるある事実の確認
「――――ふわ」
あー眠い。眠いったらありゃしないわー。
ここ最近妖怪の山を登ったり降りたりしてるからロクに寝れてないのよね、まったく………
おかげでデスティニーに家事まかせっきりになっちゃう。まあこの一件が無くても任せてるけど。使えるものは使わなきゃ。
にしたって、山の連中よ。こういう時は新入りから私の方にあいさつに来るべきじゃないかしら。
大体何なのよあの緑、脇なんか出しちゃって。著作権侵害で訴えてやろうかしら、そうすれば賠償金でがっぽがぽだし一石二鳥ね。
「済まないが霊夢、欠伸を見せつけに来るだけなら帰ってくれないか、僕もそう暇じゃあない」
そう言いながら追い出そうとはしないのよね、霖之助さんは。
魔理沙にもだけど、ホントそう言うところは甘いと思う。
「暇じゃないって言うけど、私ここが忙しそうなところ見たこと無いわよ」
「君が見ていない時に忙しいんだよ。と言うか、暇を見計らって顔を出してくる人の言う台詞じゃないな」
聞こえなーい聞こえなーい。
ま、とはいえこのままじゃ本当に追い出されかねないわね、いくら甘いとは言っても一度追い出すって決めたらホントに追い出しちゃうから霖之助さんは。
何か話題を変えて………あ、そうだ。
「ねえ霖之助さん、魔理沙のことなんだけど」
あ、何か止まった。霖之助さんにしては珍しいわね、とはいえ、食いついてくれたみたい。
「………コホン。魔理沙が、どうかしたのかい?」
「いやー、思いっきり恋してますって顔よねー。霖之助さん的にはどうなのかなーって」
そう、恋。まあ誰に、なんて言うだけ野暮だとは思うけどあの外どころか違う世界から来たあのシン・アスカに。
趣味悪いわーってのが私の感想。正直私としてはあれのどこがいいのかさっぱり分からないんだけれど。
とは言っても魔理沙があれがいいって言うんなら個人の趣味にとやかく言うつもりはないわ、首突っ込んでも面倒臭いだけだし。
「むぅ………まあ、魔理沙が決めたのなら応援するさ、これでもあの子の兄貴分なつもりだからね」
「ふぅん? てっきり「私が香霖のお嫁さんになってやるZE」って言われたがってるとばかり」
「どうしてそこで茶化すかな君は。そりゃあとんでもない碌でなしなら何が何でも止めただろうけど、シン君ならさほど問題はなさそうじゃないか」
まぁねー。悪人面してるくせに基本まっすぐでお人好しだしねアイツ、似合ってないったらありゃしない。
ああ、そう考えると単純馬鹿でヘタレの魔理沙にはお似合いってことかしら?
「何かひどいこと考えていないかい?」
「別にー。でも霖之助さん、もしもシンが魔理沙を泣かせたりしたらどうするの?」
「ん、別にどうもしないよ」
………まあ、そう言う人よね、分かってたことだけど。というかそれでこそ霖之助さん。
そんなこと考えてたら溜め息つかれちゃった。
「何か勘違いしているみたいだから言っておくけど、恋愛沙汰で泣くことなんてそう珍しいことじゃないだろう。余所様が一々口を出したりしたらそれこそ馬に蹴られるよ」
「ふぅん………じゃあもし泣かして放置してたら?」
「その時には草薙の剣の封印を解かざるを得ないね」
あ、目がマジだ。というかそんなもの振り回したら被害はシンだけでは済まないでしょうに。
なんだかんだでシスコンよね霖之助さんって。いい加減妹離れすればいいのに。
「何か言ったかい?」
「ううん別に?」
何も言ってないわよ、藪をつついて蛇出す趣味はないし。
に、しても………なんかこっそりと見たことないお酒が増えてるわね、しかも高そうだし。
「それ、霖之助さんが一人で飲むの? 晩酌なら付き合いましょうか?」
「君が呑みたいだけだろう………遠慮しておくよ、白玉楼の友人からの貰いものだしね」
ああ、そういえば白玉楼にも外からの人間が来てるんだっけ。
人間って言うよりは亡霊だか幽霊だか、まあ有体に言えば霊よねレイ。
というか。
「霖之助さん友達いたんだ」
「そういう君は魔理沙以外に友達がいるのかい?」
答えるのも癪だし肩だけすくめておこっと、霖之助さんも大概いなさそうだし。
友達かぁ。特にはいないけど、まあ不便したことはないわね。
魔理沙ともいい加減縁切ってもいいんだけど、ずるずる腐れ縁を続けちゃってるし………どうしたものかしら。
「まったく………相変わらず浮世離れしているんだか俗世に染まってるんだから分からないな、君は」
「あら、よく見てるじゃない」
「見たくて見てるわけじゃないけれどね」
間。何かまた間があいちゃった。こういうのも好きだけど、だからってこのままほっぽっておくと霖之助さんの気分次第で追い出されそうなのよね。
どうしたものかしら………しょうがない、また魔理沙で何か引っ張りますか。
「ところで霊夢」
って、あら? 珍しく霖之助さんから話題振られちゃった。いやいいんだけど、何か珍しいわね。
というかなんか歯切れ悪そうにしてるし、霖之助さんいっつもスパスパ歯に衣を着せないのに。
「どうかしたの?」
「うん、いや、シン君のことなんだが………彼は、その、少々、というか大分、色恋沙汰に関して鈍いんじゃないかと思うんだが」
…………ああ、うん。そりゃ歯切れも悪くなるわ。聞きにくい話題だったらありゃしない。
というか私に聞かれても。私そんなに恋愛沙汰が百戦錬磨に見えるのかしら霖之助さんったら、失礼ったらありゃしない。
「この間も魔理沙から「シン、す………」と言われて魔理沙が逃亡した後もしきりに何が言いたかったんだろうと首をかしげていたぐらいだし、君はどう思う?」
しかし……鈍い、かぁ。鈍い、ねえ。いやー、それに関して霖之助さんに言われたくは………いやいや。
ま、とはいえ霖之助さんの言うことも最もよね、あれは鈍いとか鈍くないとか、そういう問題じゃないというか。
というか魔理沙の態度で気付くでしょうに普通。
「まー鈍いんじゃない? どっかの古道具屋の店主ぐらいには」
「どうしてそこで僕を引き合いに出すんだか………いや、まあいい。正味な話、女の子から「す」で言葉が止まったのなら続く言葉なんて分かるものだろうに」
……………………………ふぅ、ん。
「ねえ霖之助さん?」
「ん?」
「す」
妙な間があって、一つ頷くと霖之助さんはごそごそと棚の中から何かを探し出して。
「はい、酢」
「わあありがとう超助かるわー」
「そう言いつつ封魔針を構えている理由を述べるんだ!」
えーなんのことー? 私さっぱり分かんなーい。
「まったくもう。お昼から紅魔館に行かなくちゃいけないのに、無駄な体力使わせないでよね」
「本当に無駄以外の何物でもないだろうに………しかし、紅魔館にかい?」
「そ。どっかのバカリスマがアホな勘違いしてる気がするから、それを訂正しに」
してやる義務はないんだけど、こういうところで恩は売りつけないとね。
そうしておけば後々いい感じに利用できそうだし。
「まったく、本当に逞しいね君は」
「ありがとうとは言っておくわ」
呆れられちゃったかしら、溜め息つかれちゃった。
「………君も、魔理沙みたいに恋の一つでもしたらいいんじゃないかい」
「あら残念、相手がいないわ」
「いるじゃないか」
え? いや、まあそりゃあいないことも………っていうか、え、っと?
「シン君が」
―――――――――あはー。
「うぇーい、遊びに来てやったぜこーりん、って、こーりーん!? 何でズタボロなんだ!?」
「い、いや、何故か霊夢から夢想封印をかまされて………」
「ん、霊夢? ああ、じゃあお前が悪いよ、多分お前の自業自得だぜ」
「……………理解しがたい、というか出来ないんだが」
なんか香霖堂の中から聞こえるけど気にしない気にしなーい。
さ、とっとと紅魔館に向かいましょ。
「オラ来てやったわよ何かだしなさい」
「お前その内友達無くすぞ!?」
大丈夫よ、元々大していないし。いなくて不便したこともないしね。しかし………
「もうほとんど元通りじゃない、確か十日前よね、シンがここで暴れたの」
門も時計塔も立ってたし、中もちょっと通っただけだけど変なところもなかったし。
流石に早すぎやしないかしら?
「暴れたって………まあ大体その通りなんだけど。ま、あの黒黒いなけりゃもっと長引いてたよ、そこだけは感謝してやらないこともないな」
「ふぅん。じゃあもう完全に元通りなわけ?」
「いや、まだ部屋と時計塔の中身が仮組み状態でちょこちょこ出来あがってないとこがある。私の部屋だけ最優先で直させたけど、完全復旧ってなるとあと一週間はかかりそうね」
一週間か、それでも十分早いのよね。
こういう土木作業させるとシン、というかデスティニーは便利ねぇ。
「お前んとこの神社が壊れてもこれで安泰ね」
「あはは、まっさかー。地震でもなければそんなことになるわけないじゃない」
何故だろう、私の勘がどこぞのアホ天人のせいで神社全損と言う不吉な未来を告げてるような気がするわ。
いやいや、気のせい気のせい。そんなことあるわけないわよ。まあもしそんなことが起こったなら。
「生まれてきてごめんなさいって言わせてあげるわ」
「……………巫女が浮かべていい類の表情じゃないわね」
えーなにがー? 私はいつも可愛い超絶美少女巫女博麗霊夢ちゃんよー?
ま、そんな分かりきってることは置いといて。
「それよか、あんた血の方は大丈夫なの」
「ああ、そりゃ問題ない。地下の貯蔵庫は無事だったからな」
「それはなにより。里襲われたら面倒臭いったらないもの」
む、なんかクスクス笑ってる、余裕かましちゃってムカつくわねレミリアのくせに。
「里なんか襲わないよ、お前を敵にしてまでやる価値はない」
吸血鬼らしくない言い草ね、まあ評価されてるのは悪い気はしないけど。
「大体、わざわざ吸血鬼を増やしかねない真似なんかするもんか、増やしたって百害あって一利なし、よ」
「そういうもん?」
「そういうもん。まあ、どっかの馬鹿な伯爵はそれを理解してなかったんだが、な」
なんかくつくつ喉の奥で笑ってる。変なツボでも押しちゃったのかしらね。ま、私には関係ないけど。
「まあ、そういうわけだからわざわざ里を襲ったりしないよ」
「ふーん………でも、その内血が足りなくなるんじゃない?」
「もし血が足りないんならしっかり説明して注射器で命に別状がない量を吸い出すさ、直に吸うなんてもってのほかよ。大体いつもはそうしてるだろ?」
「どうだったかしらね。ま、シバキ倒す面倒が無くっていいわ」
そうはいうけど、血の貯蔵がちゃんとあって里を襲うことが無いってことには安心している。流石にレミリア相手するのはキツイ物があるしね。
それにあのメイド長とムラサキモヤシと、えーと、なんだっけ。なんかあと一人いたわよね、幹部っぽいのが。ああそうそう。
あとなんかあの中国っぽいの全員相手にしろって言われたら萃香やら紫やら引っ張り出さないと里に被害が出かねない。
―――紫、か。何やってんのかしらね、あいつも。ここ一カ月ぐらい連絡が取れないわけだけど。
呼ぼうと結界緩めてもこないから慌てて結界を張り直したのもいい思い出、とは言わないわよ絶対に。
いつもだったらすっ飛んできて、やれたるんでるだの、巫女としての自覚が足りないだのねちねち言う癖にそれもなかったし。
いい加減に私の方からしっかりとした連絡を取るべきなのかもしれない。あいつの思惑通りっぽくて癪だけど、どうにも気にかかるわ。
そりゃあ紫の気まぐれは今に始まったわけじゃないけど、妖怪の山に来た連中のことを無視するとは思えない。
いつもなら無駄に偉そうに私を煽ってくる癖に今回は一言も無し。最近紫が外の人間と一緒にいたのを見たって噂もあるし………
はぁ。めんどくさいったらありゃしないわホントあのムラサキBBAは。まずは白玉楼に手紙でも出してみますか、何か知ってそうだし。
知らないなら知らないでもいいか、その時は紫の家に案内してもらわなきゃ。嫌って言ってもシバキ倒してそうさせる。
ま、要はいつもの通りってことよね。いつもの通り、平和的な解決法。
「何かロクでもないこと考え込んでないかしら?」
「さあねー。それはさておくとして、いい加減本題に入りましょうか」
「本題? 来た理由があるって言いたげね」
私がなんか教えるなんて珍しいんだから感謝しときなさいよ。
「ズバリ。シン・アスカの運命を操れなかった理由について」
「――――ほう?」
お、やっぱり食いついてきた。椅子から身を乗り出しちゃってまあ。
でも、レミリアの気持ちも分からないでもない。自分の能力が通じない、なんて相手がいたらそりゃあいい気分はしないしね。
「ちなみにアンタは何だと思ってる?」
「うー。何と聞かれると………そうだな、運命から干渉されない程度の能力とか?」
「んー、惜しい」
「お、なんか掠ってたみたいね。で、正解は?」
うん、惜しい。外から見て何にも起こっていないってとこは一緒なんだからすごく惜しい。
「そうね、正解は………」
単純な話よね、単純すぎて見落としてしまうぐらいに単純。知ってしまえば「なあんだ」って言いたくなるぐらいのお話。
だけど、一度思い込んでしまうと気付けないような、それぐらい単純な話よ。
「無能力。あいつは私たちみたいな何らかの能力は持ってないのよ」
おーおー、鳩が豆鉄砲喰らった顔しちゃって、すっごい間抜けよ今のあんた。
うん、レミリアの反応も分かる。多分私があんたでも同じ顔はしたと思う。
じゃあなんであんたの能力―――運命を操る程度の能力が通用しなかったのかって話になるわよね。
「レミリア、お茶。無くなっちゃったわ」
「……………え、あ、ああ。咲夜ー、お茶のお代わり持ってきてー」
「はい、ただ今」
うお、なんかメイドが湧いてきた。相変わらず神出鬼没というか。
なんというかあれよね、黒光りする台所のアレを彷彿とさせるというかなんというか。
「なんか咲夜に失礼なこと考えとらせんか?」
「ううん全然? はい、ありがとー」
むぅ、なんか言い返すかと思ったけどなんも無しか。流石にボロクソ言いすぎたかしら、心ん中で謝っとくわ、ごめんねー。
心の中で言っただけだから聞こえるはずもないか、一礼したら何にも言わないで消えるみたいにいなくなっちゃった。
ぺこりと一礼するのが様になってたわね。見習いたいわけじゃないけど、神社で働いてくれないかなー、そうすれば私が楽できるし。
………いや、やっぱ駄目ね、あの胸はなんかむかつくわ。いやホントはなんでかなんて分かんないんだけどね。
魔理沙よりも平たいんだけど、あの胸には何かあるような気がする、私の直感がそう言っている気がするわ。
「………んで?」
「ん? ああ、相変わらずおいしいわねあんたんとこのお茶。こんだけのために来る価値はあると思う」
「うぇ? あ、ありがとう、じゃなくて! どういうことだ」
どういうことってなにが、なんて聞いて時間を潰してもいいんだけど、流石にちょっと意地が悪いかしら。
そうね、それじゃあ確証も証拠も正解もない、楽しい楽しい答え合わせのお時間と参りましょうか。
「まずは、あいつには私たちみたいななんらかの能力はない。そこまではいいかしら」
「……………ま、いいだろう。オーケー、理解した。あいつには何の能力もない、そうだな?」
そうそう、そうやって理解しないでもちゃんと受け入れてもらわなくちゃ。
少なくともあいつが何の能力ももっていないってのは殆ど確定事項なわけだし。
もしかしたら私の力でも認識できないものなのかもしれないけれど、シンをみている限りその線はほぼ無いと思う。
あったんだとしても、シンがその能力を使えないのならそれは無いのと同じこと。本人も自分に何か能力があるとは思ってないみたいだし。
デスティニーに変身………でいいのかしらね、変身することもデスティニー側の能力、と言うよりは機能。
ぶっちゃけシンじゃなくてもきちんとした手順を踏めば誰であってもデスティニーには変身できる。そのことは私自身が確認している。
そう、あいつに能力はない。とはいえレミリアじゃなくても、ならなんで、って話になるわよね。
「理解した、じゃあ次だ。どうせ確証も証拠も正解もないんだろうが、せめて私の能力が通じなかった根拠ぐらいは言って欲しいものね」
本命ね、極論だけどシンがどんな能力を持っていたって関係ない、自分の能力が通じなかったっていう事実、そっちの方がよっぽど重要。
根拠となるとすごく単純な話、だけど「通じなかった」っていう事実があるせいでレミリアの意識がそっちに集中しちゃってる。
まずはその勘違いを正すところから始めましょうか。
「根拠、なんて言えるもんでもないけどね。レミリア、あんたはシンがどうやって幻想郷に来たかに関しては?」
「あいつの出自? 急に関係ない方に逸れたな………ン、まあいい。確かアリスの人に限りなく近づけた人形に宿る形でこの幻想郷に来たんだったか」
………そこまで分かっておきながら正解にたどり着けないなんて、やっぱこいつバカリスマ………いやいや、決めつけるのはよくないわ。
何にしても、そこまで分かっているのならあと一歩。ちょっとしたきっかけさえあればこいつもちゃんとたどり着ける簡単な事実。
「そうね、アリスの人形に乗り移った魂。それが今のあいつ。さて、では質問よ」
これが、核心。この質問さえあれば答えに辿りつかないまでも、シンに何があったのか考えを巡らせることが出来る最短の質問。
私は出来の悪い生徒に言って聞かせるみたいに人差し指をぴんと立ててレミリアに一言一言区切るみたいにして、聞いた。
「じゃあ、シンの元の身体は?」
レミリアは私の言葉で一度固まると、眉をすごい勢いでしかめながら目つきを鋭くして口元を押さえた、目線は私の方を向いているけど私を見てるわけじゃない。
多分今はシンに対して運命を操る程度の能力を使ってるんだと思う、ただし今までとは違う使い方で。
少ししてから抑えていた手を離して私をちゃんと見た、でもやっぱりすごい目つきのままなのね。
―――違うな、真剣な表情って奴よね。私にはここ最近無縁な顔だわ。
「……………そういうこと、か?」
「そういうこと」
簡素に肯定だけする、それだけで十分伝わるはずだから。
単純な話よ、ホント。レミリアの能力が通じなかったんじゃない、通じてはいたの。いたけれど、発動自体がされなかった。
レミリアの能力は運命を操る程度の能力、元から動いていないものやもう動いていないものを操ることはできない。
より正確に言うのなら、もう動いていないものを操るのなら動いていないものを操るつもりで使わなければ操ることはできないということ。
つまり、あいつの運命は一度終わって、アリスの人形に宿ることで再び動き出した。そういう意味で言えば亡霊に近いけど、肉体自体は普通の人間と殆ど変らないはず。
レミリアはそのことを知らなかったんだから普通の、まだ終わったことのない運命を操るつもりで能力を使ったから通じなかったように見えた。
「あいつの………シンの運命は一度終わっていて、終わるようなことがあって、だから私の能力では操れなかった、続いている運命を操るようなやり方………」
回りくどい言い方は、もう止めにしましょう? もっと単純で簡単な言い方があるでしょう。
「―――生きている奴の運命を操るやり方じゃあいつの運命は操ることが出来ない、って、そういうこと、か?」
「ご明答。そうよ、あいつは要するに」
どうして、も、どうやって、も興味なんてない。私に、いえ、もっと言えば幻想郷に害が無いのならどっちでもいいの。
本当に害があるのなら紫は外の人間を入れたりはしない。幻想郷が全てを受け入れると言っても、幻想郷の住人が受け入れるとは限らないもの。
紫がいれている、ってことはそれ即ち害が無いってことと殆ど同意義よ。そして、害が無い奴に対して心を割いてやる必要はないわ。
そいつがここに来た理由がどんなに特異なものなんだとしても私にとってはどうでもいい。
………ああ、私もレミリアのことは言えないわね。ぐだぐだと回りくどいこと考えちゃって。
つまるところ、単純な話よね。アリスの人形に取りつかないといけない、肉体を失ったあの男は―――
「シン・アスカは、一度死んでいる」
わかりやすい、答えよね?
コズミック・イラにて:アンドリュー・バルトフェルトのとある考察
「報告は以上です、クライン議長閣下」
「ご苦労様です、後のことはお任せいたしますわバルトフェルトさん」
はいよ、任されました。餅は餅屋、戦争のことは僕らに任せてくれたまえよ。
いや、あれは戦争なんてモノでもないな、相変わらずのテロリストどもが相手の掃討戦だ。
今回は旧ザラ派、前回は親デュランダル派、今度は………ブルーコスモスの過激派辺りかな? 連合がいないだけマシだぁね。
まったくどいつもこいつも………ラクスが気にいらないのはいいけど、それならそれでもっとプラントに優しくしてくれよ。
核撃ち込もうとするわサイクロプス使おうとするわ………一番酷かったのになると、レクイエムまで使おうとしてたのがいたっけな。
コロニーの回転を止めるだの毒ガスを使うだのがまだ穏便に見えるって、一体どういうことなんだよ。
ナチュラル、というか地球の方でも大分酷いようだしね………とりあえずは、あれかい?
プラントを地球に落としてナチュラルを一掃しコーディネイターの理想郷を~なんて何かのギャグで言っているのかい、ああ本気かそうだろうともよ。
これでもまだまともになった方、少しずつ平和になっているだって言うんだから笑えないよ。
本当にどいつもこいつもだ。ブルーコスモス辺りはいいよ、僕らコーディネイターが嫌いで嫌いでしょうがないんだろうから。
人間どうやったって分かりあえない部分ってのはある、一部の過激派はともかくブルーコスモスの言ってることは間違いだと断ぜられるものじゃあない。
だけど、ザラ派にデュランダル派。君らだってコーディネイターだろう?
いや、デュランダル派にはナチュラルもいるのかもしれないね、彼に恩義を感じているナチュラルはそう珍しくもないし。
だが、どちらにしてもだ。同胞や恩人を撃って、それでパトリック・ザラ氏やギルバート・デュランダル氏に何を自慢できるって言うんだい?
………いや、胸を張るのだろうね。そうでなくてはテロなどやれない、か。まったく本当に度し難い。
シン・アスカ君の謙虚さが百分の一でもあれば馬鹿げたテロリズムに走ることもないだろうに。
本当に彼は謙虚すぎたぐらいだ、何せザフト兵からテロリスト共の殆どが彼が逆襲しないことに首をかしげているって有様だからね。
僕から言わせてもらうなら何を馬鹿なことをとしか言えない。彼自身は現状平和に向かっているのならその平和を乱そうとはしない。
もし彼が逆襲しようとするのなら、その時は僕ら、というよりラクスが平和を目指さなくなった時だけだろうよ。
もっとも、ラクスはそんなことはしない――――いや、出来ない。そんな風に彼女は出来ていない。
何にしても、彼が逆襲することは現状ではないってことさ、彼の心情はともかく。
ま、どちらにしても逆襲は「ありえない」ことになってしまったんだが、ね。本当に、どうしようかな。
「如何されましたか、バルトフェルトさん?」
と、そんなこと考えてたらラクスから気遣うような声が。しまったな、顔に出ていたか。
ラクスはこういうところは本当に怖い、自分でも気付かないようなことでもあっさりと気付いてくる。
「いえいえ、対策で頭が痛むだけですよ。議長閣下がご心配なさるようなことなどございませぬ」
半分は本心だよ、ラクスにはこういうことで頭を痛めて欲しくはない。
馬鹿馬鹿しい話だ、ラクスが議長になったから、いや正しく言うならテロ同然の行為で議長の椅子を奪ったから今の現状がある。
そうぬかす奴らはどれだけ頭がおめでたいんだろうね。ラクスじゃなくても、誰がなってもこうなっていたのさ、こんなテロばっかりの日常に。
テロまがいの行為に関しては………まあ、正論だとは思う。思うが、どうあってもデスティニープランを通すわけになどはいかなかった。
ラクスの言うように人の自由を奪ってしまうから、ではない。他がどうかは知らないが、少なくとも僕とキラ君には何があろうとあの馬鹿げた計画を通せないわけがある。
まあ、それに関してはいい。ラクスにも言っていないことだからね、僕とキラ君だけの内緒話。
大事なのはラクスが過労で倒れられては困ると言うことだ。放っておくと休みなんて取らずにぶっ続けで執務を行いかねない。
というか、以前やらかした。かろうじて倒れられる前に無理やり休ませたが、そうでなければ会議中に卒倒しかねなかったはず。
ラクスがそういう風にできているということは分かっていたのに気付けなかったのは僕の人生の中でも3本の指に入るぐらいの失態だ。
「それよりも貴女自身の御体をご自愛ください、戦力は替えが効きますが貴女の替えはございませんので」
「自重はしているつもりなのですが………それと、バルトフェルトさん」
「如何しましたかな?」
「替えが効くなど、そのようなことを仰ってはなりません。皆様は一人一人このプラント、ひいては世界のために戦っておられる大切な人々なのですから」
「……………これは、失礼いたしました」
本当に怖いね、ポーズじゃなくてこれを本心―――この表現が正しいのかはわからないけど―――から言ってるんだから。
心酔する連中の気持ちも分かるし、不気味がる連中の気持ちも理解できるよ。含むもの無しにこんな言葉、そうそう言えるもんじゃない。
「しかし、大切ですか。それはキラ・ヤマト准将に対する個人的感情ととっても?」
「いえ、みな等しく大切なのです。無論、キラを失ったことはとても悲しいことですが」
キラ君、か。彼が行方不明になってからそろそろ一ヶ月か。緘口令は布いてはいるけど、いつまで隠し通せるかね。
誘拐にしてはあまりにも痕跡が残っていないし、なんの要求がないのも妙だし………ふむ。
彼の研究………いや、ないな。そういうことには彼は誰よりも目を光らせてる、そんなことをやろうとした連中を非常に悪質な方法で一斉検挙したこともあるぐらいだし。
いやー、ホントあれは………何やったのか知られたら絶対僕の首が飛びかねないな、あそこまで外道なの僕も初めて見た。
大体検挙とは言うけど、実質あれ保護みたいなものだよね。全員涙目になってたし………ハッキングって怖いね、うん。まあそれはともかく、だ。
駄目だね、分からない。やはり今のところはいないもの、死んだものとして考えるほかないか。
無事でいて欲しいが、駄目だろうなと言うのが僕の本音だ。冷たいとは思うが、不確定なことを当てにするわけにもいかないんでね。
そして、もう一人。表向きこそ行方不明だが、実質は戦死してしまった彼。キラ君よりも価値は低いと周囲から思われている彼。
僕にとっては、何よりも欠かすことのできない存在。
「では、シン・アスカは?」
「シン、ですか」
おや意外そうな顔。ま、確かにここでシンの名前を出すのは妙かもしれない。
キラ君やアスラン、それにラクスとも個人的な親交があったみたいだが、一応元々は僕らの敵だったわけだしね。
そういうところをラクスは気にしないということは分かっているが、流石にラクスにも予想の外だったか。
「ええ、シン・アスカ。彼も大切でしたか?」
「それはもちろんですわ、平和のために自らの心と体が傷つくことも厭わずに戦い続けて下さったのですから、尊敬すら覚えます」
このラクスを以てして尊敬と来たか。これも本心だって言うんだからホント………とはいえ、ここまで言うってことは相当だ、滅多なことでは尊敬だなんて言わないからね。
ま、正直彼に関しては周りからの評価が不当すぎるんだよ、ラクスが気にいらない連中は極端に神格化するわクライン派からは露骨に見下されるわ。
こうやって個人的な親交のある親しい人物にだけ認められているぐらいがちょうどいいと思うんだが………
そんなことダコスタ君にいったら「そんなの貴方だけですよ、馬鹿なこと言ってないで仕事してください」って呆れられたっけな。
思い出したら何か腹が立ってきたな、おのれダコスタ君め、タコスケ君と改名させてやろうか。
「ですが、その彼ももう………本当に悲しく、痛ましいことです」
「そうですな。我がザフトにとって非常に大きな損失と言えます」
「バルトフェルトさん、そのような」
「分かっております、分かっておりますとも。ですが、指揮する者としては感情を優先するわけにもいかんのですよ。そこは、理解して頂けますかな?」
不承不承、って感じだけど頷いてくれた。まあここでごねるほど非建設的な考え方はしないか。
でも、ラクスにはああ言ったけど大きな損失に関して個人的な感情が混ざっていないかと言えば答えはノーだ。
僕自身のとっても大事な目的のために必要な存在だったからね、彼の代わりになる存在を見つけ出せるかどうかは微妙なところだ。
見つかる可能性がゼロでない以上探しはするが………どうだろうね。
それと、もう一つ。恐らくは聞くだけ無駄だろうけど、それでも聞かずにはいられないものだ。
「そういえば何か彼に頼み事があると聞きましたが、それはよろしかったので?」
ルナマリアから聞いたことだ、最期の出撃の直前にラクスがシンに何か頼みごとをしていたと。
彼女も僕、というかクライン派のことはすさまじく嫌っているからね、聞きだすのには苦労した。
それでもまあアスランに対する感情よりはマシだろう、アスランとの関係を揶揄した馬鹿な新兵を病院送りにしたのは記憶に新しい。
たまたまその場にいたけど、いやホントすごい剣幕で怒るんだものな。シンが止めなかったらそのまま殴り殺しかねない勢いだった。
まだ彼女の罵声が耳にこびりついている気がするよ、あんなのに媚を売ってた自分を殺してやりたい、か。
仮にも義弟だろうにあんなの呼ばわりとは………ラクスとはちょっと違うけど女って怖いねー。でも気持ちは分からんことも…………いやいや。
まあそのことはいいだろう、ルナマリア自身の問題だしね。僕の言葉にラクスは二、三度目を瞬かせた。多分思い当たる節が無かったんだろう。
「頼みごと、ですか? いえ、特には………いえ、確かにありました。平和のために戦ってくれと、とても恥知らずな頼みを」
「………なるほど。議長殿が気に病むことではないでしょう、平和のために戦うことは彼にとっても本懐だったことでしょうから」
頼み事は無い、か。分かっていたことだ、そんな答えが返ってくるってことぐらい。
人類を導く聖女ラクス・クライン。そんな彼女がするような頼みじゃなかったんだろう、だったらラクスが覚えてるはずもない。
シンに何を頼んだのか、その答えは分からないけど大体の予想は付けられる。
その答えが僕にとって喜ばしいものなのかどうかは………微妙なところだけどね。喜ぶべきじゃないんだろうけど、だけど喜べる部分もある。
本当に微妙だよ、まったく。
「それでは、私はこれで失礼いたします」
「ええ、報告ご苦労様でした。それと」
ん、なんかモジモジしてる。ひょっとして僕のダンディな魅力にやられちゃったのかな?
「………執務が終わってからでよいのですが、コーヒーを淹れて頂けますか? バルトフェルトさんの淹れるコーヒーはとてもよいものですので」
…………………本当に、君って奴は。
「ああ、構わないよ。僕オリジナルの、本物の味ってやつを味わってくれ」
「是非お願いいたします、その時は私もバルトフェルトさんにコーヒーを」
「それは断る」
あれはコーヒーに対する冒涜だからね、断固として拒否させてもらう。
不味いからじゃないよ、本当だよ? だから頬なんて膨らますもんじゃないよ、ラクス。
「…………ふう」
執務室の椅子に腰掛けて思わず息をついてしまった。疲れてるだけだよ、断じて年をとったからじゃないはずだ。
何をするでもなくぼんやりとしていたかったが、時間は待ってはくれない。そんなことはおいしいコーヒー作りには常識のはずなのにね。
あれ、こういう考え方ってやっぱり年をとった証拠………いやいや、まだまだ若いよ僕は。そうだよね、うんそうだと決めた僕ヤングメン。
「アホなこと考えてる場合じゃないな」
とは言っても指揮官としてやるべきことは実はもう殆ど済ませている、だから後は個人的なやるべきことだ。
無線はおろか、有線からも完全にオフラインにしている前時代的な僕の私物の端末を起動させる。パスを入れて、っと………あとは少し待つ、と。
わざわざこんなものを使っているのには当然わけがある、この中に入っている情報は何があっても流出させられない代物だ、念を幾つ入れたって足りないぐらい。
完全に起動したか、ここ最近の一番の懸念事項である動画をもう一度見直す。
そこに映っているのは、二機のMSが戦っているもの。一機はデスティニーだ、当然搭乗者はシンだろう。撮影された時刻と彼の出撃記録から考えてもまず問題ない。
というか、あれをここまで丁寧に動かせる奴なんて彼ぐらいの物だ、それぐらいピーキーな代物だからねデスティニーは。
そしてもう一機。こちらの方が重要なんだが――――
「インパルス、か」
より正しく言うならデスティニーシルエットに換装した紫色の機体色を持つZGMF-X56S/θ、デスティニーインパルス。
確か四機程開発されたと聞くが、一号機はあの馬鹿なパイロットのおかげでお釈迦、本当にあのおバカは………あの性格が直らないようなら解雇した方がいいかもしれない。
二号機はデータを取れるだけ取って他の機体に食わせ、四号機に至っては開発していたというデータのみ、結局残っていたのは三号機だけ。
その三号機もパイロットの意向で解体されたからもうザフトでは運用されていないはずの物だ。単純に考えるのなら四号機か新たにロールアウトしたものか。
資料でしか見たことのないそれとデスティニーがデブリ帯域で戦っている映像を見ているとまた頭が痛んで来る。
いっそのこと捏造品ならよかったんだけど、信頼が置けるジャーナリストからの物だ、真贋の調査をわざわざするまでもないほど本物。
「どうしたものかね、本当に」
愚痴ったって仕方が無い、まずは分かっていることを整理してみようか。
まず、デスティニーに乗っているのはシン。ラクスから何らかの頼まれごとをされてからテロリストの掃討任務に当たり、その戻りに遭遇した。
まあこれはいいだろう、ほぼ確定事項だし正直シン以外にデスティニーをここまで扱える奴なんていない。
少なくとも。宙返りをしながらサマーソルトを喰らわせそのままの勢いでフラッシュエッジⅡを振るって距離を空けてから逆さまの状態からの回し蹴りでインパルスを蹴飛ばして岩石にぶつける。
格闘戦向けに調整されているような機体ならともかく、万能機であるデスティニーではそんな芸当僕にはとてもじゃないけどできない。
というか、出来る奴いるの? 正直キラ君やアスラン辺りでも微妙なところじゃないのかなあ。
「本当に…………君って奴は」
これで彼の調整は免疫機能だけなんだから本当に何と言っていいのやら。努力と執念だけでエースに上り詰めるなんて、コーディネイターって言葉に喧嘩売ってるようなもんだよ。
ま、だからこそキラ君は――――いや、よそう。今考えることじゃあない。
では次。こちらの方が重要だね、デスティニーインパルス。機体の出自に関してはある程度の予測は立ててある。
順序立てて考えてみれば分かりやすい、まずインパルスである以上ザフトの関係者が関わっていることになる。
インパルスもある程度は量産されているがまだまだ数は少ない、データを誤魔化してちょろまかすことは無理。人力での調査で呆気なくばれる。
つまりこの時点でザフトから持ち出されたものではなく完全に一から生産されたものってことだ。
それに加えてデスティニーシルエットだ。インパルス乗りでもその存在を知らない奴がいるくらいだ、あのシルエットの開発者が関わっている可能性は高いな。
さて、ではインパルスを秘密裏に生産できるほどの資金資源を持ちデスティニーシルエットの開発者を抱き込んだうえでザフトにその存在を悟らせない情報網。
そんな存在はあるか否か。実を言えば、ある。というか僕らもお世話になっていたぐらいの有名どころ。クライン派、だ。
あそこならMS一機作るぐらい簡単にやってのけるし人一人囲むのぐらいあっさりとやれるだろうよ。
行動力や資産以上に、連中は異常とも言えるぐらいに意思が固い、やると決めたのなら絶対にやる。その辺りはラクス以上だとも思う。
だけど、彼らの仕業だと断じるには問題が一つある、それも致命傷クラスの問題だ。
「無いんだよねぇ、動機」
そう、彼らにはシンを襲う理由が無い。もちろんラクスの敵だった、それだけで襲う理由には十分だと言う人もいるかもね。
だけどクライン派は「今」ラクスの敵ならともかくかつてラクスの敵「だった」存在には手を出したことはない。
況や、そのかつての敵がラクスの味方となっているのなら尚のことだ。下手に手なんか出したらそれこそラクスから平和を脅かす存在だと認識されかねない。
結局のところ動機がまったくの不明。それがクライン派を仮想的に出来ない理由だな。
…………ま、警戒はするけどね。連中はラクスのためにやっていることだとのたまうけれど、僕はそんなことこれっぽっちも信じちゃいない。
MSやら戦艦、それも最新鋭の物を法の目を掻い潜って用意する輩をどう信用しろというんだか。何企んでるかなんて分かったもんじゃない。
企みなんて一切無しの、本当に善意でやっているのだとしたらそっちの方がよっぽど気色悪い。
だいたい、ラクスのためラクスのためというけれど。本当にラクスのことを思うのなら。
「――――チッ」
駄目だね、どうにも。彼らを責めたってどうにもならない。確かに舞台を用意したのは奴らだけど、降りることも不可能じゃない舞台だ。
そこで踊ることを決めたのは紛れもなくラクス自身。例えそれしか道が無いんだとしても同じことだ、だってラクスが決めたことなんだから。
ラクスにとってそれ以外の道が無いんだとしても、だ。決めたのならせめて死なないようにサポートしてやるぐらいしかできないじゃないか。
よそう、こんなこと考えても何の意味もない。もっと意義のあることを考えなくてはね。
機体はまあクライン派、かもしれない。今はそんな所でいいだろう、どっちにしてもまだ誰にも公表してないしねこの動画。
当然あのジャーナリストにも公表も噂話にもしないよう口を酸っぱくして言ったし、ラクスにだって言えやしない。
彼のポリシーからは外れてしまい申し訳なくは思うけど、流石にそれで揉めることはなかった。彼も自分が撮影したものの重大性は理解していたらしい。
まあ相手がシンじゃなければ騒いでたんじゃないかなーとは思わなくもないけど。今回ばかりはシンの人柄に助けられた………いや、今度もか? まあいい。
最終更新:2012年01月10日 11:02