1
守矢神社の本堂の裏。
そこでは一人の少年が、服が汚れるのに構わず、地べたの上に膝を抱えて座っていた。
年の頃は十を迎える手前ぐらい、緑色をした癖の無い髪と、少し気の弱そうな表情。
だがその瞳の色は燃え盛るような紅い少年。
その少年は今、思いつめた表情と、どんよりとした重苦しい雰囲気を纏っていた。
「どうしたんだ」
「あ、お父様…」
そこに現れたのは、少年と同じ紅い瞳をした黒髪の男。
寝癖の様にぼさぼさとした髪を肩まで伸ばし、後ろで一房にまとめた二十台の後半頃の、穏やかな顔をした男。
共通する紅い瞳と少年の言葉通り、その男は父親である。
父親は何も言わずに少年の隣に来ると、そのまま同じ様に地べたへと腰を下ろす。
「遊びに行ってたはずじゃなかったのか?」
「…うん」
態度や雰囲気は重く、加えて言葉も歯切れの悪い物。
早く少年から悩みの種を取り除いてやりたいと思う父親であったが、この様な時は無理に聞きだすより、少年が話を始めるまで待つ事にしている。
「今まで――ちゃん達と遊んでた」
少年の口から出た名前は、それは父親もよく知る、この妖怪の山で少年と同時期に生まれた妖怪の少女の名前だ。
それに“達”と加わった場合は、この少女の他にも数人の少女を含んだ仲の良いグループの事を指す。
こちらの少女達も同時期に生まれた妖怪の子供で、年が近い事が縁となり、少年達は人妖の垣根を越えた友人として、共に遊ぶ仲となっていた。
「その途中でおままごとをする事になって…」
ぽつりぽつりと、零れるように少年は言葉を紡ぐ。
父親はその度に小さくうなずきながらそれを聞きとめる。
「僕が父親役をする事になったんだ…でもそしたら」
思い出している内に言いづらくなったのだろう、少年は再び口をつぐんでしまう。
「全員が母親役に名乗り出て、収集が付かなくなって逃げてきたのか」
黙りこくってしまったのは気まずさや、一人で逃げ出した事に対する負い目からだろうか。
そんな少年の代わりに、父親は原因を推測してみる。
そしてそれは見事に正解で、少年はか細い声で肯定する。
「よく分かったね…」
「まぁな。いやぁ…親子なんだな」
父親の言葉の言葉の意味が分からず、少年は不思議そうな表情を浮かべる。
その仕草がおかしくて、父親はくすりと笑いながら、少年の頭をぽんぽんと、少しばかり手荒に撫でる父親の表情は、先程までの穏やかな物ではなく、からかう様な、子供の様な笑顔。
二人のやり取りは、父と子ではなく、まるで兄弟の様に見える。
「未だに信じられないんだけどさ、俺も昔はお前みたいに色んな女の人にもててたらしいんだが…膝に母さんの弾幕を受けてしまってな。
それ以来、俺はここで神主として生きる事になったよ」
「…なんで膝なの? てか怖いよ、膝に弾幕って」
「膝云々はともかく…大丈夫。みんなさ、お互いが嫌いだから喧嘩したんじゃないと思うぞ」
「それじゃどうしてあんな…」
「それはな、皆がお前の事が好きなんだよ」
少年の頬は赤く染まっていく、この年頃の男子には中々羞恥的な発言である。
「ふ、ふざけないでよ…」
「ふざけてないよ。母親役って事は、お前のお嫁さんの役だろ? つまり、皆お前のお嫁さんになりたかったんだよ」
母親役がイコール自分の妻役だと言う事に、今まで気が付かなかったのだろう。
最後には頬どころか耳まで真っ赤にし、膝を更に抱えて、隠す様に顔を埋めた。
「結婚とか誰かを選ぶとかはずっと後の話だ…今はみんなと一緒に遊んで、思い出を作るんだ。いっぱい作るんだ…それはさ、かけがえの無い…今しか作れない、とても大切な物だからな」
すっと細められた父親の目は、少し遠いを見つめるものであった。
温和でも少年の様な物とも違う、少し悲しそうな表情。
「許してもらえるかな…僕、一人で逃げちゃったから、みんな怒ってるだろうし…」
「素直に謝って、また遊ぼうって言えばいい。少し片意地を張る子もいるだろうけど、それでも遊びたいんだから、すぐに許してくれる」
それからまた少しの間沈黙が続く。
やがて黙って立ち上がった少年は決意を決めたのだろう、思いつめた空気は消えていた。
表情も、彼を知る者全てが好きな、穏やかで優しい物へと戻っていた。
「あまり遅くなるなよ母さんも心配するからな」
父親も立ち上がると、少年の頭に手を載せ、今度は優しく頭を撫でた。
「うん!」
そして足取り軽く駆け行く少年の後姿を父は・・・シンは暖かい眼差しで見送った。
「カッコよかったですよ、お父さん」
そんなシンを茶化す言葉と共に本堂の影からひょっこりと顔を出したのは、シンの妻であり少年の母親。
この幻想郷で様々な経験を経て、さらに結婚と母親になった事で強さと穏やかさを湛えた表情をする様になった女性。
シンの愛する妻、早苗の姿。
「さすが数多の女性の心を遊んだ、幻想郷最強の色男だけの事はありますね」
その言葉はシンを茶化す時に早苗が必ず口にする物で、シンは目元を手で覆って、逃避する様に黙る事しか出来ない言葉だ。
「それやめてくれよ…てか、未だに信じられないんだけど」
「何度も言うけど本当です…そのせいで、あなたと一緒になるまで凄く大変だったんですからね」
隣に腰を下ろし、先程の少年と同じ様に膝を抱えた体勢で座る。
その姿は少年と似ており、親子なのだなと感慨する。
「そんな旦那様に似るだなんて、あの子達もかわいそうに」
あの子達と言うのは、少年を好きな少女達の事。
早苗も、自分の息子の女性に対する姿を見て思う所があるようだ。
恐らくは過去の自分と、ライバルとして張り合った友人達の姿とも重ねているのだろう。
「大丈夫だろ」
「どうしてですか?」
「早苗にも似てるからさ」
常識にとらわれない早苗の子、全員を娶って問題を解決するなんて事もありそうだ。
シンはそう考えると、どうしても笑いが止まらなくなってしまう。
「…ちょっと、それってどういう意味ですか! 何で笑うんですか?!」
くつくつとシンは肩を揺らしながら愉快そうに笑う。
理由の分からない早苗は不満の色を浮かべた表情をしていたが、暫くすると呆れ混じりながら笑顔となり、最後にはつられる様に笑い出してしまう。
しばらくの間、二人の笑い声が本殿の裏手に響く。
どれだけ時を経ようとも変わらない、二人が互いに愛し合う笑顔を浮かべながら。
2
あら――ちゃんに――ちゃん、こんにちは。
って、珍しいですね、二人だけで神社に来るなんて。
でもごめんなさいね、あの子は今ちょっと出かけてるの、いつ帰ってくるのかは…え? 今日は私に用?
ほ、本当に珍しい…どんな用かしら。
わ、私とあの人の馴れ初め?! そ、そんな恥ずかしい事を人に…
(む、これはあの子へのアプローチの手段を探しに来たのかしら…そうなると、無下にあしらうのはこの子達に失礼かもしれない…)
…分かりました。
ちょっと恥ずかしいけど、お話しましょう。(私の行動次第でであの子の将来のお嫁さんが決まる…ここは真剣にやらないと!)
それじゃ最初に、私とあの人が出会った時の事から…
(中略)
その時からね、あの人に対して明確な好意を抱くようになったのは…
ごめんなさい、一人で随分話し込んじゃって。
そう? よかった。
それで二人とも、この話は参考になったかしら?
とぼけなくてもいいのよ、あの子へのアプローチ方法の参考の為に聞きに来たんでしょう?
あらあら慌てふためいちゃって…私が気付いていないと思った? 残念、気付いてました!
でもこの程度でうろたえるようでは、まだまだ守矢の女は勤まりません!
そんなあなた達に、私があの人を落とした最終テクを特別に教えちゃいましょう。
ここまで来たら恥ずかしさなんてどこか行っちゃいましたし、もう包み隠さずお話しましょう!
…私の最終テク、それは里の春祭りの日の事。
二人で祭りを巡った後、私はあの人の膝に弾幕を当てて身動き取れなくして近くの茂みに引きず…
『子供になんて話してんだお前はー!』パチーン!
いたーい!! って、あなた!? なんで頭を叩くんですか!!
子供といいますけど、この子達は立派な恋する乙女です! この幻想郷で、恋する乙女に年の差なんて無いんです!
私にはこの子達を導く義務が…いやーおしおきはいや~!
『いいか君達! 早苗の言う事は全部嘘だからな、信じるなよ! うちの子にあんな事したらおじさん怒るからな! デスティニー動かすからな! やるなよ、絶対やるなよ!』
ワタシハマダスベテヲオシエテマセーン
ヤカマシイ、サイキンハオチツイタトアンシンシテタノニ!
『ただいまもどりました…って、――ちゃんに――ちゃん、来てたの?』
『…何かあったの? 様子が微妙に変だよ?』
『そ、そう? 何もないならいいけど…そうだ!』
『今度、里でお祭りがあるんだって。みんなで一緒に行かない?』
おしまい
3
1.
シン「誰かを好きになるのに、身分なんて関係ない!」
神子「それは甘すぎる理想。浅はかだの考えだ」
シン「でも、それでも俺は欲しい! 邪魔する奴は全部なぎ払ってでも、俺は…欲しいんだ! 神子!」
神子「シン、そんなにも私を…」
シン「が、腰に携えてる七星剣」
神子「欲しいと…って、えっ」
2.
神子「と言う夢をみまし…いたいー!?」
シン「あんたは俺の事嫌いなんだろ? 俺を無機物にしか欲情しない変態だと思ってるんだろう!?」
神子「そ、そんな訳はありません!」
シン「だったら何で俺があんたの装飾品に告白する夢を見るんだ! しかも何回も何回も!」
神子「すみません…」
シン「謝るくらいなら始めからそんな夢見ないでくださいよ。本当お願いしますよ」
神子「そうは言っても、夢を見ない様にする方法など…」
シン「永遠亭で見る夢を操作できる薬があるらしいですよ、とびっきりの悪夢を見る奴を処方してもらってください」
神子「そこまでひどく言う事は…いや」
シン「ん?」
神子「夢を見ない方法は…あります」
シン「あるんですか。ならそれを実践してください。今すぐ」
神子「分かりました…今すぐ実行します」
シン「え、ほ、本当に出来るんですか?」
神子「出来ます…そしてそれは、あなたの協力が必要です」
シン「俺の協力ですか? 変な夢見られるくらいなら構いませんけど…俺に出来る範囲でお願いします」
神子「では…私に告白なさい」
シン「何だそんな事で…ええぇえ?!」
神子「か、簡単でしょう?」
シン「いやそれは簡単…まぁ確かに簡単ですけど…こ、告白って」
神子「心を込めてとは言いません。ただ振りだけ、言葉をくれるだけでいい。それくらいならば簡単でしょう?」
シン「振りだけ、出来ない事はないですけど…」
神子「…これは他ならぬあなたのため…振りだけでいい、振りだけでも、私は満足する…」
シン「俺の告白と夢の関係が分からないんですけど…変な夢を見られるよりはマシか。それじゃ行きますよ太子」
神子「まって」
シン「えっ?」
神子「名前…神子と呼んでほしい」
シン「…分かりました。それじゃ…神子」
神子「はい…」
シン「お、俺は…神子の事が」
3.
神子「…これも夢かー」
4
小傘「シン、お誕生日おめでとう!」
シン「……」
小傘「ねぇ、びっくりした? びっくりした?」
シン「……小傘」
シン「何で、裸にリボン巻いてるんだ?」
小傘「天狗がこうすればシンが驚いて、わちきもシンも一挙両得だって……」
シン〈天狗? 射命丸か、射命丸だな。こんな事吹き込むのはやつしかいない!〉
小傘「ねぇ、シン……もう一つ、プレゼントあるんだ」
シン「えっ?」
小傘「……二ヶ月、だって」←おなかをさすりながら
最終更新:2014年02月02日 14:14