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東方種子語12話

魔法の森を眼下に見下ろしながら早苗―――デスティニーはウイングスラスターから噴き出る紫色のコロイド光を散らしながら空を飛びまわる。
真っ直ぐに飛びながらバレルロールを連続で行い、機体を逆さまにしたままで急旋回をするその動きは軽快でどこか楽しそう。
しばらく飛び回っていたが、空中に停止したまま背部ウェポンラックにマウントされていたアロンダイトを引き抜き両手で腰溜めに構える。
『とうっ、サンライズパース!』
「なんかの技かね。まあ楽しそうで何よりだが………アロンダイトも浮かばれるだろうよ」
毎度毎度アロンダイトをロクでも無い目にしか合わせない主人のことを思い出したのだろう、デスティニーの声も少し嬉しげだ。
浮かばれる、という言葉の真意が少し気になったが、気にするなというデスティニーの言葉にすぐに頭から消えていった。

目の前に敵MSがいると仮定しているのか、スラスターを噴かして一気に直進しながらの突き、そこから一気に距離を開けて再び接近し袈裟切りを。
そんな早苗の動きにデスティニーは感心したように息をつく。
「ふむ、以外といい線しているじゃあないか、初めてでここまで動かせるとは」
『え、い、いやあ、そ、それほどでもないですよ、やだなあもう、おだてても何も出ませんよ』
言葉の節々に嬉しさをにじませながらも早苗はデスティニーを動かす、その動きは先ほどまでより微妙に精彩を欠いていることはデスティニーの心の中にしまっておく。
ぶんぶんとアロンダイトを大振りに振り回させていたが、シンが地上から呼んでいることに気付くと早苗にも聞こえるように通信回路を開く。
「ン、どうしたね」
「いや、ちょっとな………どうだ早苗、デスティニーの乗り心地は?」
『はいっ、これでもかってぐらいに最高です! 本当にもう、まさかロボット、それもガンダムに乗れるとは感無量ですよ!』
早苗の言葉にシンは少し苦笑する。嬉しそうなのはまあいい、一般人がMSに乗った時は大なり小なり早苗のような反応をしてくれる。
引っかかったのはガンダムという言葉。デスティニーはデスティニーであり、妙な枕詞を付けて欲しくはないのだが。
それをわざわざ口に出す必要はないとはいえ、やはり少し引っかかるものはある。

「ガンダム、ねえ。まあいいや、ちょっと降りてきてくれるか」
『はい、それは構いませんけど………何かあったんですか?』
「いやなに、大したことじゃないよ。ただ、直接話したいことだからさ」
「愛の告白でもする気かね、マスパするんだ魔理沙」
「するかっ、大体何でそこで魔理沙が出るんだよ。とにかく、そういうことだから」
通信が切られ、周囲には風の音とデスティニーの駆動音が響くだけ。
しばし早苗もデスティニーも黙り込んでいたが、やがてぽつりと早苗が呟く。

『………告白されちゃうんでしょうか私』
「奴にそんな甲斐性はないよ………とにかく、降下しようじゃないか」
「それもそうですね………デスティニーフィンガーもやりたかったんだけどなあ」
「何、何だって?」
何でもありませんよと軽く流し、スラスターの出力を弱めてゆっくりと地面に向かって高度を下げていく。
森の木々が一本一本認識できるようになり、やがて地面にいる米粒のようだったシン達の姿もはっきりと見えてきて。
そこまで近づいて、先ほどまではシンと魔理沙の二人だけだったのが、もう二人増えていることに気付く。

一人は博麗神社で見かけたことがある、金髪にフリルのついた赤いカチューシャを付けた少女。
紺を基調とする服に白いショールを掛け首と腰に赤いリボンをあしらったシンプルな、しかし少女らしい服装をした彼女は魔理沙と楽しげに談笑している。
傍らには少女と同じように金髪、しかし腰まで届く長髪に身体に不釣り合いな大きい赤いリボンを付けた可愛らしい人形が浮かんでいる。
その人形はシンの頭の上に腰掛けたそうにじっとシンを見ていたが、シンがそれに気付く様子もない。
もう一人の女性は早苗も会ったことが無い、透き通るような銀色のふわふわとしたウェーブのかかった髪に白い帽子がちょこんとかぶさっている。
寒色系でまとめられた服は薄着のはずなのにもこもことした防寒具を思わせる、そのくせ重さを全く感じさせない軽いもの。
その服を纏うのはほっそりとした腰付きからは不釣り合いなほど大きく服を押し上げる胸、そこには矢印のような金の飾りがあしらわれていた。
そんな彼女はシンを興味深そうに観察している、なんとなくシンが落ち着かなさそうなのは彼女に見られていることが原因だろう。
断じて胸とは関係ないはずだそういうことにしておこう。


「っと、来たか」
「へぇ………霊夢とシンから聞いてはいたけど、いざ目にするとまた違うわね」
降りてきたデスティニーを見て金髪の少女、アリス・マーガトロイドは興味深そうな声を上げながらデスティニーを観察する。
デスティニーも広義で言えば人形と言えないこともない、人形遣いとして機械製の人形に触れるのはインスピレーションが刺激されるのだろう。
そんな彼女に見られている早苗は何とも言えない居心地の悪さを感じる。視線に悪意は感じられないのだが、やはりまじまじと見られると困ってしまう。

『え、えーと、シンさんこちらの方は?』
「っと、ごめんなさいね、ぶしつけに。初めまして、アリス・マーガトロイドよ。一応はその黒づくめの保護者、みたいなものかしら」
「誰のせいだよ、黒づくめは。そう思うんなら黒以外の服をくれ、そろそろ俺色んな奴らから色で呼ばれ出してるんだけど」
「あんたにやる服なんて余り物で十分よ。貴女は東風谷早苗さんよね、霊夢から聞いているわ」
デスティニーに向けて手を差し出すアリス、そんな彼女をジト目で見ながらシンは今自分が着ている服を少しつまむ。
ああは言ったが、実のところ別にそこまで今着ている服に不満があるわけではない。
余り物の端切れで作ったとは言うがしっかりとした作りでほつれもない、それに枚数も暮らしていく上で不便を感じない程度にある。
それに利便性を重視しつつもデザイン性も主張しすぎない程度に感じさせる、ファッションに疎いシンでもいい服だと感じさせる一品。

そこのところは問題はないのだ、問題は全ての服が黒一色だと言うだけで。
「無駄に手の込んだ嫌がらせを………っ!」
「聞こえないわね」

『あ、あはは………ところで気になったんですが、霊夢さんからは私はどんな風な評価なのでしょうか』
「霊夢2Pカラーだそうよ、その内著作権侵害で訴えてやるとかなんとかかんとか」
『聞くんじゃなかった!』
言葉の内容とは裏腹に声は笑いが滲み出ている、霊夢の言葉を冗談だととらえているのだろう。
それはシンも同じことだ、少々タチの悪い冗談だと思っているのか仕方が無いなあと言わんばかりに苦笑い。
だが、二人して遠く、具体的には博麗神社の方を見ている魔理沙とアリス、霊夢と付き合いの長い二人は口に出すことはないが知っている。

あの腋巫女は冗談ではなく、本気で言っているのであろうことを。
霊夢ならやりかねない、というかやる。なにかやらかしたら見ない振りをしておこう。
早いところ「彼女があんなことするなんて、思いもしませんでした」と涙ながらに供述する練習をしておくことを固く誓う。

そんな、霊夢のことをある意味信頼している二人の心の内など知る由もないシンは先ほど早苗が飛び立ってからすぐにアリスが連れてきた彼女に視線を移す。
彼女―――レティ・ホワイトロックと名乗った雪のように真っ白で美しい肌を持つ彼女が自分を見て放った言葉がデスティニーを呼びもどした原因だ。
「返事を聞かせて頂けるかしら、シン・アスカさん。弾幕ごっこでの決闘、受けてくれる?」
「状況次第ですよ、個人的には受けたくないですけどね」
唐突過ぎる申し出に困ってしまい、眉をしかめながら頭をかく。
正直なところ、まだ詳しい事情も聞いていないのだ。受けるも受けないもない。
シンの言葉に人差し指を唇にあてると困ったような声を上げる。困っているのはこっちだ、と声を上げたかったがぐっと我慢する。
「それは私がとっても困るわね、あの子のうっ憤を全部受け止めるなんてちょっと無茶だし」
レティの言い回しにシンは引っかかるものを感じる、これではまるで。
そのことは魔理沙達も感じたのだろう、おずおずとデスティニーが片手を上げた。
『あ、あの~。貴女がやるんじゃないんですか、弾幕ごっこ、っていうか決闘』
「ええ、私がやるだなんて一言も言っていないわよ。というか、さっきから気になってたんだけど誰貴女、ひょっとして新作かしら、人形遣いさん?」
飄々とした態度のレティにデスティニーとは無関係だと言いたげにアリスは肩をすくめる。
スマートで洒落たアリスの態度、しかしレティの言葉に余計混乱してしまったシンはスマートさも洒落っ気もなくて。


「ちょ、はあ!? アンタじゃないんですか、て言うか紛らわしいんですよ!」
「ごめんなさい、私黒幕を目指してるから」
「意味分かんないですよ目指すのと訳わかんないのとどう関係あるんですかというか目指さないでくださいよ黒幕!!」
「ダメ?」
「ダメ!」
「…………本当に、ダメ?(ムニュリ」
「え、あ、いや、その………ダメ、じゃないんでしょうか、ダメだと思い………う、うん」
ちょっとレティが胸を強調するように両腕で挟み込むと途端に動揺するシンに頭痛を催すアリスだったが、とりあえずシンの足を踏んでおいた。
色仕掛けにあっさり引っかかるシンへの戒めのためでもあるが、レティを見てしょんぼりとする魔理沙のためでもある。
「何か文句でも?」
「一応駄目だとは言ったんだけどな」
「言い訳? よし早苗さん、踏んでやりなさい」
「駄目なんじゃないかと思います駄目だといいなあ!!」
デスティニーに踏まれたら骨が粉砕されかねない。それでも駄目だと言いきれない辺りは流石のおっぱい星人である。
本人はばれていないつもりらしいが。本人はばれていないつもりらしいが。

「相変わらずヘタレているね君は」
「ほっといてくれ………それで、アンタじゃないんなら誰だって言うんですか」
シンの言葉にレティは待っていたとでも言わんばかりに懐から取り出した封筒をシンに手渡す。
そこに書かれていた文字、それは―――
「………し、よ? これは………+に、こ、か。|、U``、よ、ろ………」
さっぱり分からない何かだった。なにこれ。分かりやすく書けば「しよ+こ|U``よろ」である。うんなにこれ。
暗号かと思い穴があきそうなくらい何度も何度も見返すが、まったく分からない。
というか読めない、まるでミミズがのた打ち回っているかのようだ。そもそも文字なのだろうか、実は文字によく似た図形なのではないだろうか。
興味深そうに覗きこんだ魔理沙とデスティニーも何が書かれているのか分からずに首を捻っている。
何度も何度も考えてみるが、結局答えは出ない。降参だと言いたげに両手を上げてレティに向き直る。

「………すみません、なんですかこれ」
「紙」
「そこじゃないですよ、なんて書いてあるんですか?」
「見ての通りよ」
「見ても分かりませんが」
しばし沈黙。シンの言わんとしていることに得心がいったのかレティはぽん、と手を叩き。
「読んでの通りよ」
「読めねぇよ!!!」

興奮して大声でツッコミを入れるシンの手からアリスは紙を取り上げる。
しばらくじっと文面………文面?を見ていたが、やがて紙を裏返し、はあっ、と溜め息をついた。
「自分で叩きつければいいでしょうに………ちょっと落ち着きなさいシン、読んであげるから」
「お、なんだアリス、解読できたのか? 悔しいが、私にはさっぱり読めないぜ」
うんうん、と自分もそうだとアピールするデスティニー、というか早苗。
デスティニーも言葉には出さないが読めなかったらしく黙ってアリスの言葉を待っている。
ツッコミ足りないのだろうが、ひとまずは何とも言えないモヤモヤを収めてシンは疲れた目をアリスに向ける。
「………で、なんて書かれてるんだ?」
「はたしじょう、よ」

しよ=は、+こ=た、|=し、U``=じ、よ=ょ、ろ=う。

果たし状である。非常に無理があるが、読めないこともない…………のでは、なかろうか。多分、きっと、恐らく。
アリスの言葉を受けてシンは目を閉じ、頭を抱えた。きっと内心で何度もツッコミを入れているのだろう。
やがて、ツッコミ切れないと判断したのか目を開けて疲れ切った声を上げる。
「………………………………………………誰からなんだよ」
「はい」
紙を裏返してシンに見せる、そこに書かれていたのは差出人の名前。
「誰だよさるの」
「チルノからでしょ、冬の妖怪さん?」
いちいちシンに説明するのが面倒になったのか、アリスはレティに同意を求める。

「よく読めたわね、チルノに聞かなきゃ私読めなかったのに」
驚いたとでも言いたげに目を丸くしているレティ、黒幕かはともかくわざとらしさは漂っていた。
頭を抱えるシンに仕方が無い奴とでも言いたげにアリスは肩をすくめ。
「んで? どうするのよシン」
「どうするって、何が?」
「果たし状。ていうか決闘よね、受けるの?」
む、と一声唸ると押し黙ってしまう。どうしたものか、と考えるが答えは出ない。
先ほども言ったがシン個人としては決闘などはしたくないのだ、例えそれが弾幕ごっこによるものだとしても、だ。
ましてや、その相手がチルノのような小さな子なら尚のこと。自分が怪我するのはともかく、あの子が怪我をするのはとても気分が悪い。
だからシンとしては受けたくはない、受けたくはないのだが。


「受けなきゃ、受けるまで果たし状を送りそうなんだよなあ」
「ま、でしょうね。あの子真っ直ぐだから」
くすぐったそうに笑うアリスにシンは思わず怪訝な目を向ける。彼女の言葉に馬鹿にする響きは混じっていなくて。
バカ、或いは⑨という単語を使わないのはアリスがチルノのことを好んでいるからかそれともアリス自身の優しさか。
どちらなのか判別に苦しむシンに結局どうするのと言いたげな視線があちこちから飛んできた。
はぁっ、と大きくため息をつきながら顔を下げ、やがて顔を上げると気合いを入れるためにぴしゃりと頬を叩く。
「受けるよ。あの子が望んでるってんなら、やってやるさ…………怪我させない程度に、だけど」
最後にぽつりと呟くように付け加えた言葉はシンにとって譲れないものだ。
体も心も、誰かが傷つくぐらいなら自分が傷ついた方が余程心が楽なものだから。
それは強いというわけではないということぐらいシンも分かっている、むしろ弱い考え方だということも。
本当に強い考え方とは、誰かを傷つけてでも正しいことをやれることだと思う、例えその方が自分の心を苦しめるのだとしても、だ。

(アンタ達みたいにはやれそうにはないけどな………けど、とりあえずは、これが俺、だし、な)
脳裏をよぎるのはレイ・ザ・バレルやキラ・ヤマト、ラクス・クラインのような本当に強い人間の姿。
自分はあんな風にはなれないと思う。迷うことは怖くてたまらなく、そのくせ自分で決めたことさえも後から悔やんで迷ってばかり。
彼らのように決めたことを貫き通すことなんて出来る自信はない、自分の弱さぐらいいい加減自覚している。
だからこそ、だ。だからこそ、決闘を受け、その上でチルノに怪我をさせることなくしっかりと負ける。
難しいとは思うがやらなくては、否、出来なくては。そうでなくてはこの先軍人など続けられはしない。
少しでも強くなるために。自身の心を少しでも鍛え上げるために。弱い自分と少しでも決別するために。

「怪我させない程度、かあ………チルノ相手じゃ難しいと思うけど」
レティの言葉には呆れたような響きが混じっている、シンもそれは承知だ、呆れられても無理はないと思う。
だが、非難するつもりはないらしくレティの顔は嬉しそうにほころんでいた。
急に見せた笑顔に思わずどぎまぎしてしまう、後ろで魔理沙がどうしようどうしようと泣きそうな顔を浮かべているのには気付かなかったが。
「じゃ、ついてきて頂戴、チルノの所まで案内してあげるから」
「分かりました………けど、ちょっと待ってもらえますか、色々準備があるんで」
そう言うと、シンは家の中に引っ込んでいく。耳をすませればとんとんと階段を上る音が聞こえてきた。
自分の部屋にナイフを取りに行ったのだろうとアリスは嬉しそうにナイフを見せびらかすシンの姿を思い出しながら考える。
少しすると今度は階段を降りる音が聞こえてくる、階段から降りたシンの腰には大振りのナイフが鞘に収められた状態で備え付けられていて。
しかしナイフと呼ぶには大振りであり、それに加えて鞘に収まった状態からでも分かる非常に分厚い刃の厚み、まるで鉈の様な代物、というより。
その場にいる全員がある疑問を心に抱く、そんな中で早苗は心に感じた疑問をそのまま口に出す。
『なんですか、それ。ナイフ………というか、鉈に見えるんですが』
「まあ俺も違いはよく分からないなあ。名前が違うだけなんじゃないかな?」
シンも自分が腰に備えた一品が鉈に見えるのか苦笑しながらナイフを抜き払う。

香霖堂から安価で買い取った銘も何もない何の変哲もないナイフだがシンはとても気にいっている。
長所というものはほとんどないのだが、代わりに欠点というものが一つもないいいナイフだ。
そのナイフをじっと見ていた魔理沙だったが、白玉楼の庭師が振るう刀と頭の中で比べて少し不安を覚えた。
「なんか、全然切れそうにないな、そのナイフ。大丈夫なのか?」
「ん、問題無いさ。ナイフなんて切れ味は二の次三の次だろ、頑丈でナンボだよ」
どれほど切れ味が鋭いのだとしても、数回切りつけた程度で使いものにならなくなるナイフなど論外でしかない。
そもそもナイフとは刀身自体の切れ味で切る物ではなく、腕の力で引いて切るものだ。
極論ではあるが、思い切り引けばどれほど切れ味が落ちていても切ることは出来る。
信頼のおけるナイフとはどれだけ作りが頑丈か、だ。次いで重要な要素は形状や重量、軽すぎても重すぎてもよくない。
無論切れ味もあるに超したことはないが、それら二つより重要かと言われれば否。
シンにとってはナイフ、というより武器はやはり頑丈さこそが一番だと思っている、それはMSにも通じることだ。


『ふうん………そう言うものなのでしょうか。あ、ところで私、デスティニーガンダムから降りた方がいいんでしょうか?』
決闘を行うのならデスティニーが必要なのではないか、早苗はそう考えて提案する。
言葉には少し残念そうな響きはあったが、それでもシンの要件の方が優先だと思っているのだろう。
デスティニーも早苗の言葉に異論はないのか何も言わずに早苗との繋がりと断とうとする。
「あ、ちょっと待ってくれ、それなんだけどさ」
「………なにか嫌な予感がするのだがね?」
ご名答、と笑ってシンはデスティニーの言葉に応える。
「俺だけの力でやらせてくれないか、そうでなきゃ意味が無いんだよ」
やはり、と言いたげな溜め息がデスティニーから聞こえてくる。

―――紅魔館の再建の傍ら、シンは美鈴から武を教わっていた。
最初は何かの力になればいいと思い学んでいたことだが、今では紅魔館の再建が終わった後でも美鈴との師弟関係を続けようと思っている。
体格、資質。そう言った才に影響されること無く理と反復による鍛錬を以て発言する強さ。
人体の動作を精密に再現できるデスティニーには何よりも向いているし、何よりそのシンプルな分かりやすさはシン自身が好ましいと感じた。
………まあ、流石に美鈴から戦士としての才能が微塵もないと言われた時にはへこみはしたが。
とはいえ、才能が無くても努力次第ででもそこそこはやれるようになる、とのことらしいのであまり気にしないことにしている。
実際、自分はそうやって努力と創意工夫によって強くなってきたのだ、今さらと言われれば今さらである、ショックを受けるかどうかはともかく。
自らの力は未だに美鈴には到底届くとは思えないが、それでも一歩づつ、地を這うような遅さではあるが着実にその武はシンの血となり肉となっている。

その鍛錬の中で言われた一言がある。曰く、自分に一番足りない物は自信なのだ、と。
自信というものは厄介な物だ、過ぎてしまえば過信となり、不足すれば不信となる。
思い返してみれば、初出撃からは自分ならどんな敵とでも戦えるという根拠のない過信ばかりだった。
かと思えば、キラ達と和解してからは信じてしまえば痛い目を見るとでも言いたげに自分の力に不信を募らせてばかり。
大事なのは調和であり、自分にとってちょうどいいバランスを見つけること。
自身のための戦いならば出来得る限り自分の力で。それが自身の限界を知ることとなり、ひいては自信を付けるための第一歩。
「駄目か、デスティニー?」
申し訳なさそうに目を伏せるシンに、デスティニーは少し黙りこんでいたが、やがて仕方が無いと言いたげに溜め息を吐いた。
そこからはいつもと同じようにシニカルさと少々の悪戯っぽさを含んだいつも通りの口調で。
「モビルスーツに判断を求めるものではないよ、君の好きにすればいい」
「そっか、悪いな………まあそういうことだから早苗、まだ当分はそのままでいいぞ………嫌か?」
『い、いえ、シンさんとデスティニーさんがそれでいいのでしたら喜んで!』
「ああ、喜んでくれたのなら何より………ところで、デスティニーはどんな感じだった?」
シンの言葉に高揚感を思い出したのかすごかったです、と興奮気味の口調で熱っぽく語る早苗。
嬉しそうな早苗に引きずられるように軽く笑いながらそうか、と頷く。

「ま、初めてMSに乗った奴は大体そう言うよ。デスティニー、お前から見てどうだった?」
「ん? そうだねぇ………案外、君より才能があるかもしれないね?」
意地悪そうなデスティニーの口調、実際内容も意地の悪いことこの上ない。
魔理沙もおいおいと言いたそうにデスティニーのことを見ており、早苗も褒められたと素直に喜ぶ気にはなれない。
「へえ、そりゃすごい。C・Eで生まれてりゃ引く手数多だったろうなあ」
しかし、そんな評価などどこ吹く風とでも言わんばかりに軽く受け流すシン。
そんなシンの態度を面白くなさそうにデスティニーは鼻を鳴らす。

「なんにしても、もうしばらくはそのままデスティニーに乗っててくれよ早苗」
とはいったものの、早苗を信頼していないわけではないがやはり誰かに見ていてもらった方が安心する。
と同時に、決闘なのだから立会人がいた方がいいだろうという考えも働く。
それに弾幕ごっこでの決闘は初めてなのだ、出来れば不作法が無いか誰か知り合いに見てもらいたい。
「決闘って言ったって、幻想郷でのルールも聞いただけだしな、立ち会ってくれるかアリス?」
「ん? んー」


利発な彼女には珍しく胡乱な返事で返すアリスを不思議そうに見るが、特に気にすることもなく流す。
何がアリスの怒りの琴線に触れるか分かったものではない、わざわざ藪をつついて蛇を出す趣味は無いのだ。
「それと早苗のことを見ておいてくれないか魔理沙、多分何もないとは思うけど、一応」
シンから頼みごとをされて嬉しいのか、一も二もなく頷こうとする魔理沙。
分かった、と頷くよりも早くアリスが口をはさみこむ。
「それなんだけど。逆だと駄目なの?」

「逆? ………お前の決闘に立ち会うよアリス、早苗は魔理沙のことを見ていてくれるか?」
「ええい相変わらずスットコねあんたは。私がここに残って、魔理沙があんたについていくのじゃ駄目なのって聞いてるの」
「ドッコイつけてくれ何か気持ち悪い、じゃなくて、あ、ああ、そういう。ン、そうだな、それでもいいけど何でまた」
「東風谷早苗さんと親交深めちゃいけないって言うのかしらこのドッコイ」
「スットコつけてくれ、締まりが悪い」
「うるさいのよこのドッコイスットコ!」
「いやそこじゃない………まあいいや、魔理沙、決闘の立会いをお願いしてもいいか?」
アリスに頼んだのは本当になんとなくだったのか、こだわることもなくあっさりと魔理沙を誘う。
しかし、シンにとってはあっさりでも、魔理沙からしてみれば寝耳に水な出来ごとで。
ぺちぺちとデスティニーの装甲を興味なさげに叩いていたが、シンの言葉にぴくんと身体を震わせて。

「うぇ!?」

喉から変な声が漏れてしまった。何かをこらえるように遠くを見るアリスには触れてやらないのが吉だろうか。
出してしまった声を自分でも変だと感じたのか、顔を赤くして右手で口を押さえてしまう。
落ち着きを取り戻すように咳払いを何度かするが、目が泳いでいて落ち着いていないのは一目瞭然。
「ななな、なんでもないぜ? ま、まあなんだなっ、この霧雨魔理沙さんがお前の弾幕ごっこをしかと見届けてやるぜ」
言っている内容はとても頼もしいものである。わたわたと取り乱し、顔を真っ赤にしながらも口元が緩んでいなければの話だが。
分かった頼む、と平然としているシンに、さっさと気付け、とは幸か不幸か誰も口にはしなかった。
はあ、と疲れた息をアリスは吐いてしまう。確かに自分は魔理沙の恋路を応援すると決めた。
確かに決めたが、進展しないのにはシン以上に魔理沙にも問題があることに流石に気付いてきた。
ここは普通シンに対して自分をプッシュするところではないのだろうか、だのに何故違う誰かを選んだことをスルーしてしまうのか。
先行きのあまりの不安さに自分の選んだ道を少し後悔してしまいそう、と。

くいくいと袖が引っ張られていることに気付く、何かと思い見てみれば魔理沙がはにかんだ顔を浮かべていて。
「あ、あの、ありがとなアリス、シンについてくってこと、全然頭になかったぜ」
「…………次からは、ちゃんと自分で気づいてよね?」
こくこくと何度か頭を縦に振る彼女に自分自身の中で得心、というよりも再確認する。
ああ、そうだ。後悔なんてない。魔理沙が「こう」だからこそ自分はしっかりと応援してやろうと決めたのだった。
確かにシンに対する殺意はまあ多少、少々、少し、大分あるが、それでも魔理沙が選んだのだ、ちゃんと受け入れてやらなくては。

「なんやかんやでお待たせしましたレティさん。案内お願いしますね」
待ちわびたのか欠伸をしていた彼女は少し眠たげに頷くと、ついてきてとばかりに手を振る。
シンはアリスとデスティニーに軽く手を上げてそんな彼女の後ろをおう、魔理沙も箒にまたがって浮きながらシンの隣へ。
アリスの隣に浮かんでいた金髪の人形―――上海人形もシンについていこうとするがアリスに首根っこを摘まれて進むことは出来なかった。
三人が去ってから、アリスは疲れたように溜め息をつく。先ほどまでのやり取りに加えてこの上海人形である、疲れもする。


彼女の溜め息の理由をなんとなく察したのか早苗は引きつった笑い声を出すしかない。
早苗のその声が聞こえたのか、改めてアリスはデスティニーに向き直る。
「ごめんなさいね、なんかほっぽってた形になっちゃって」
『あ、いえ、いいんですよ、こちらこそロクに挨拶もせずに』
気にしていないとばかりに手を振り、挨拶と謝罪を込めるつもりで改めてぺこりと頭を下げる。
早苗なりに誠意を込めたつもりだったのだが、MSの姿ではシュールさが漂う微妙なものになってしまった。
間が持たずに何とは無しに上海人形を興味深げに見ていたデスティニーだったが、先ほどのデスティニーの態度を思い出す。
『そういえばデスティニーさん、なんでまたあんな風にシンさんに意地悪したんですか?』
シンよりも経験が遥かに浅い自分の方が才能があるだなんて、例えそれが事実だとしてもわざわざ言うことではないのではないか。
不満、というほどではないのだが、それでも流石に言わずにはいられない。

『ちょっとシンさんが可哀想ですよ』
「んむ………まあ、確かにそう、なのかもしれないね」
想像していた言葉はシンに対する罵倒、しかし帰ってきた言葉は想像とは異なる少ししおらしい口調で。
皮肉めいた言葉が返ってくる物とばかり思っていた早苗はどう答えていいのか分からずに思わず押し黙ってしまう。
デスティニーもそれ以上は何も言おうとせず妙な沈黙が流れる中でアリスが口を開く。
「じゃ、貴女はあのスカポンタンになんて言って欲しかったの?」
このままスルーできるとでも思っていたのか、ぐ、とデスティニーは言葉に詰まる。
喋ろうとしない彼女に、言いたくないことなんですかと早苗の声が聞こえたが、デスティニーにしては珍しく歯切れの悪い言葉が出るばかりで。
そんな状態で、やっと絞り出せた言葉は。

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最終更新:2012年04月23日 13:10
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