アットウィキロゴ

病み憑き氏のなのはネタ-01

1

「貴方は...偽物、なのよ」
「え...」
その日、その瞬間、私の世界が、変わった


「またサボるの、体育」
クラス変えがあって二月、五回はあった体育をすべて木陰で過ごしているクラスメートに声を掛ける。黒い髪に赤い瞳の少年、私と同じコーディネーター。
「僕はコーディネーターだからね。なにをやったって、才能のお陰、とか、コーディネーターだからな、としか言われないんだよ」
「私もなのはもコーディネーターだけど、そんなこと言われてないよ」
「なのはって、あの高町なのはのこと?」
「そう、私の親友」
「ま、二人とも可愛いからな...可愛い女の子には、男子は弱いもんなんだよ」
「偏見だよ、それ。さっきアスカ君が、クラスメートに言われるって言ってたのと変わらない」
「そうかもね...それで、テスタロッサさんは体育、いいの?」
「...気分じゃないんだ。どうせ、あの先生は寝てるだけだし」
グラウンドにパイプ椅子をおいて、その上でイビキをかいているジャージ姿の男性...あれで教員だというのだから、世も末だと思う
「意外だな...テスタロッサさん、真面目な人だと思ってたのに」
「真面目、に見えた?」
「それなりには、ね。少なくとも、明確な理由もなしにサボるタイプじゃないでしょ?なんか、あったの?」
「それは...」
言うべきでは、ない...大体、こんな突拍子もない話、信じてもらえるかどうかさえあやしいのだ。
「言いにくい事だった?ゴメンね。」
私が黙りこむと、少年は困ったように笑った
「その言いにくいこと、高町さんには話したの?」
「いや…まだ」
「まだってことは、話すつもりなんだ」
謝った割には、その話題を切り上げないなぁ
「うん、黙ってると、何か騙してるみたいで…私は、本物じゃないのに」
「…本物?」
しまった、と思った時には遅すぎた。
「…聞かなかったことにするよ、いまのは」
「…いや、いいよ、もう。話すね、全部」
よく考えてたら、なのはに話すための予行練習にはちょうどいい。別段、仲が良い訳でもないし、この話で嫌われても、どうと言うこともない相手だ。
「私ね、何年か前に死んだお姉さんと全く同じ遺伝子で作られたコーディネーターなんだって。でも、設計図通りにはできなくって...だから、偽物って、ね」
「設計図通りにできても、偽物だろ?疑似クローンみたいなものだし...」
「母さんは、そうは思って無いみたい。本物と全く同じ肉体に、お姉さんの記憶を植え付ければ、それは本物だって」
「テスタロッサさんは、持ってるの?その…」
「うん、持ってるよ、お姉さんの…アリシアの、記憶」
この前まで、その記憶になんの疑問も抱かなかったけれど…いや、もしかしたら、抱きたくなかっただけなのかのかもしれない
「テスタロッサさん、僕、今から酷いこと言うかも」
「…え?」
「良かったじゃない、本物になれなくて」
地面に寝転がったまま、この少年は、私の心を抉った。
「テスタロッサさんは、本物になりたかった?その、アリシアって人になりたかったの?」
「そんなことないよ…でも、」
「だったら、何を困ってるのさ?フェイト・テスタロッサで、何がいけなかったの?」
まるで他人事だ…そう思って、気づいた。他人事なのだ、この少年にとって、私は他人なのだから
「偽物ってのが嫌なら、こう考えれば良いのさ…自分は、偽物のアリシアじゃなくて、本物のフェイトだって、な?」
「…本当に他人事だね。そんな簡単に割りきれるものじゃないよ」
けれども、それは他人事だからこそいえたことなんだろう。さっきの私と同じだ。相手に嫌われても構わないから、好き勝手なことが言える。
「でも、少しは元気になったかも」
「そうか、そりゃあよかった」
これは、はじまりのお話…フェイト・テスタロッサの、本物のフェイト・テスタロッサのお話 、そして…

テレビをつける…シン・アスカが、ザフトをやめる…そんな報道。この前からずっとだ。はやてによれば、あれはどちらかというと辞めさせられた、という状況らしい。
「何してるんだろうな、わたし」
あの夢を見ると、いつも思うこと。
ずっと離れない、と誓ったシンから離れ、忌み嫌っていたこの国の地にたち、シンのいない、味気ない日々をおくる…この二年間は、空白のなかで過ごしているような気さえした。
けれど、ようやく…あと少しで私の時間が動き始めてくれる…携帯から、着メロが流れる…どうやら、はやてはうまくやってくれたらしい。
表示された名前は、紛れもなく、私達の幼なじみの名前だった。

2

「それじゃあ、二人とも軍に?」
不安そうに呟くのは、茶色の髪をした少女。
「うん、もう、こんな国には居られないし、こんなことも、起こしたくない」
力強く、金髪の少女が断言する。共に家族を失って、二人で話し合って、ようやく決まった結論
「強くなる…」
目を閉じれば、今でも鮮明に思い出せる。
たった一本の腕だけになった家族、燃える街並み、空をかける蒼い翼、聞きなれた少女の悲鳴…
「誰よりも、何よりも強くなる…もう、あんなモノを見なくていいように…もう、誰にもあんなモノを見せなくていいように…僕は…」
違う…”僕”ではダメなんだ…今までみたいな、無力な”僕”じゃあ、誰も守れない…何も、変えられない…
「…シン、”僕達”は、だよ」
ピンクの携帯を握りしめていた手を、そっと、金髪の少女がその両手で包み込む
「そうだな…”僕達”は…”俺達”、は…」
もう、二度と失わない…守りきるんだ、フェイトも、なのはも、これから先に出来るかもしれない大切な人達も…
そして、こんなことを決意しなゃいけないような人達を、二度とつくらない…つくらせない
「私も…ね」
俺の手を包み込んでいたフェイトの両手の上に、なのはの右手が、重ねられる
「もう、嫌だよ…こんなのは。だから…三人で」
「…ああ、行こう…一緒に」



鉄の星が、遠ざかっていく。
変わらなかった…変えられなかった…結局、”僕”が”俺”になっても、何も守れずに、惨めに敗北して…
レイは死んだ、ステラも死んだ、議長も、艦長も、ハイネも、ヨウランも…俺にとって、かけがえのないもの。俺が守りたかったもの、俺に力がなくて、守れなかったもの。
怖い…今でも、いつ、誰が死んでいくのかに怯えてる…だから、二年前、フェイトが軍を辞めたい、と相談してきたときはホッとした。軍に居るよりは、普通に生活していたほうが幾分か安全だと思ったから…諸手を挙げて喜んだら、それ以来音信不通になった。
「もしもし、シン?」
「ああ、はやてか…久しぶり」
携帯のコールに応えると、聞きなれた声が心地よく響いた。
「うん、久しぶり。軍、辞めたんやって?」
「ああ、辞めさせられた」
「あ、やっぱり…でも、部下の子達はええの?ザフト最強の殲滅部隊の看板、背負っていけるん?」
「大丈夫だよ。それに、俺が抜けたら設備も充実するだろうし」
いくらなんでも、もうゲイツでGタイプを相手取ることはないだろうし…
「五対二とはいえ、強奪された量産型フリーダムとやりあった時は死ぬかと思った」
「退役したからこそいえることやな…あの子達の前では、口が裂けてもいえんやろ?」
「ああ、アイツ等には、楽勝だったって言ってやったよ。ま、いくらフリーダムでも、パイロット次第ってことだろ」
大体、フルバーストなんてしようとするからああなるのだ。あんな隙のある構え、味方の支援もなしに成功するわけがない。あれは、キラさんだからこそ出来た芸当だというのに…
「でな、本題なんやけど…」
「なんだ、世間話のために電話したんじゃないのか?」
「そんな暇やない。時間もあんまないし、詳しいことは後で話すから…取り敢えず、明日の朝にオーブの慰霊碑に集合や」
「は?オーブ?ちょっと待て、お前、今どこにいるんだ?」
「もうちょいで追っ手を振り切って大気圏突入…じゃあ、また明日」
回線が切れる…大気圏突入って…ザフトの艦が?
「何やってんだ、はやての奴」

被験者が連れ去られた…そう、聞かされて私は少しホッとした。これで、この人も目をさましてくれる…そう、思ったから。けれど…
「ムゥ…聞いたわ、実験のこと」
暗い部屋で、モニターをにらみつけている男性に声をかける
「ああ、また一からやり直しさ。もっとも、成果があがっていたわけでもないから、結局同じことだけどね」
暗く…沈んだ声、大戦が終わって、しばらくすると、この人は緩やかに壊れはじめていた。そして、今やこんな調子だ。怪しげな研究員と言葉を交わし、一日中、このへやに閉じ籠る日々…
「もう、いいんじゃない?」
「なんだって?」
「こんなことをしても、誰も喜ばない…あの子だって…貴方は、間違ったことをしているのよ」
「間違ったことなら、キラもラクスも山ほどしてるさ…まさか、フリーダムという核原動のMSを、ザフトに返却も、処分もせずに個人所有したり、個人的な理由で戦争に首を突っ込むのが正しいとおもっているのかい?」
「でも、正しい結果になったわ」
「正しい結果?この社会が…この貧困が、正しいと思っているのか、君は」
「デスティニープランの成の果てよりは正しいでしょう!」
「どうかな?潰れた計画の未来なんて、誰にも分からない。案外、いまよりずっといい世界になってるかもしれない…少なくとも、こんな財政難にはなってないさ」
遅すぎた、とアスランが言っていたのを思い出す…ロゴスが崩壊し、経済が破綻した現状では、それこそ本当に人間を管理でもしないと、財政を建て直す事なんてできやしない、と
「でも…君の言うことは正しいよ。そう、結果が正しければいいんだ」
自己満足…この人はこの実験をそう称していた。どんなに望むものを与えても、失ったものは取り戻せない…そんなことで、許されるはずもない、と
「どんなに間違った方法でも…俺は、あの坊主に望む世界を作ってやりたいのさ」
そんなこと、彼が望むはずはない…そう、言い切れなかった。今のこの人にはこれしかないのだ。それを否定されたら、この人は…
「大丈夫…できるはずだ。これで、弱者が一方的に奪われる世界は…変わる」
確かに、そうかもしれない。無力な人が、一方的に傷つけられることはないかもしれない…けれど、それは決して、あの少年が望む世界ではないのだ…
無力な人をなくす…すべての人に、力を与えて強者にする…そんな、殺戮に染まった世界は…誰も、きっと、この人自身も、望んではいないはずなのに…

3

「っ狭い!」
いくらもう一人が小さな子どもとはいえ、狭いコックピットに二人で押し込まれていれば、満足に操縦するのは難しい
「シグナム、いけそうか?」
「この状況で戦闘は難しいかと…」
艦長からの通信、隣のザフィーラも同じような状況に違いない。
「分かった、とりあえず、ヴィータ達を足止めに回すから、帰還を第一に考えて…あと、追っ手にアカツキはおる?」
「いえ、今のところ、あの派手なMSは見当たりません」
「よし、ならいける…シグナム、絶対に帰ってきいよ」
「了解しました、主はやて!」
スラスターを最大出力で稼働させる。とりあえず、この子が起きるまでには艦に戻っておきたい


振りおろしたナギナタが、ザクを真っ二つに切り裂く。スラスターを吹かして、前進…モニターに、ザクとゲルググの群れに追われているギャンと、ハウンドドックが写る。所々破損はしているが、致命傷はまだなさそうだ。
「ザクが8にゲルググが4…一人で足止めは…キツい、よなぁ…」
けれど、弱音をはくわけにはいかない…あの二人は、人一人を抱えてあの数から逃げきってきたのだから。
「っヴィータか!?」
「ああ、こっから先は任せろ!」
とにかく、あの二人が逃げ切るまでの時間は稼ぐ!

通話を切る…シンの困った顔が目に浮かぶようで、ちょっと楽しい
「やっぱり、ヴィータ一人は無謀やったかなぁ…」
モニターに写る赤いゲルググ…明らかに、苦戦…というか、追い詰められてきている
敵の数は3つ落としてあと10…5つをヴィータが足止めしていて、シグナムに3つ、ザフィーラに2つが追撃に当てられている
大丈夫…計画通りだ、今のところは
「主!」
「ぅわぁ!?リィンフォース!いきなり出てこんといて…心臓に悪いわ、ホンマ…」
「も、申し訳ありません…」
等身大の立体映像が、私の隣に現れる…銀の髪に、赤い瞳…私が長を勤めるザフト製の艦(よくオーブ製と間違えられる)”夜天”に備えられたAI、リィンフォース
「敵機は全て射線上に入りました。あとは…」
「よし、ヴィータ、シグナム、ザフィーラ…全速力で表示された射線上から退避や…なのはちゃん!出番や」

GNドライブ…バッテリーに変わる新しい動力源を求められて誕生した新型のエンジン…多少、バッテリーよりは効率は良くなったものの、生産コストがとんでもない値になったためにそう多くは生産されなかった動力源。私は、そんなエンジンを備えたMSのコックピットに座っている
「大丈夫かなぁ…」
リィンフォースの計算を疑う訳じゃないけど、モニターどころか、レーダーにも映らないような長距離から味方を巻き込まないように撃つ、って…
「なのはちゃん!出番やで」
通信が入る…敵が射線上に入った、とのことだ
「三機とも、射線上から外れた。データを送る…表示された赤い点に向かって最大出力で撃て」
「了解」
リィンフォースさんの声…標示される、赤い点。引き金を、引いた


はやてに指示されたように慰霊碑に行くと、二年ぶりに顔をあわせる幼なじみがいた。

昨日、なのはからの電話で伝えられたのは二つ。一つは大気圏突破、もう一つは…

はやての方は現れない。元々、そのつもりだったのだろう。

シンが、今日、ここに来るということ。

言いたいことは山程あった。

聞きたいことはいっぱいあった。

軍をやめて、何をしていたのか、とか…

ルナマリアとの関係は、どうなったの?とか…

けれど、すぐにどうでもよくなった。

だけど、そんなことよりよっぽど大変なことに気付いた。

「久しぶり、フェイト」
「うん…久しぶりだね、シン」

だって、思いもよらなかったのだ…

こんなこと、想像したことすらなかったのだ…

まさか、この儚げな笑みを…

まさか、私より少しだけ鋭い赤い瞳を…

” 懐かしく思う”日が来るなんて

4

ヴィヴィオ…一年前、なのはが宇宙で拾ったオッドアイの少女。一体どのくらいの期間閉じ込められていたのか、拾ったときには窒息死寸前で、記憶も失っていたという。
「S.E.E.D研究の被験体?」
車に乗るのなんていつ以来だろうか、折角だから俺が運転したかった、なんて考えていると、ずっと黙っていたフェイトが脈絡もなくヴィヴィオの話を始めた。ただし…それは、俺が全く知らないヴィヴィオの話…失われた、ヴィヴィオの記憶の話だったけれど…
「うん、一年前に凍結した研究の被験体。なんでも、S.E.E.Dが発現する条件を研究して、ザフトの戦力を増強しようと試みたんだって。ほら、これ」
ハンドルから片方の手を離して、フェイトが俺に一冊の冊子を手渡す。確かに、説明された研究の概要が書いてあった。
「…これ、かなり上位の機密事項じゃないのか?」
「オッドアイってそうそういないから、リィンフォースに検索してもらったんだよ。流石に個人情報にも触れることだから、いろんなところにハッキングしてね…そしたら…」
「そんなところでヒットしたってことか」
困ったときのリィンフォース頼み、というやつだ。誰が作ったのか知らないけど、とんでもない性能である。流石、進化するAIというところか。
「発現したのは三人のうち一人。だけど、上層部はその発現者を見たとたんに研究を凍結させた。危険だ、との判断のもと」
「危険ねぇ…あいつらが心配してんのは、いっつも自分の身の上だけなんだろうな…」
資料には、老若男女問わずに、人を兵器へと発展させる技術は道徳的な問題を含む、と書いてある。そんなことなら、そもそもそんな実験が許されるはずがないというのに
「5歳の少女が、シミュレーションとはいえ現役の赤服を5人撃破…怖くなっても仕方ないよ」
「だからって、記憶を奪って宇宙空間に捨てるか、普通…」
「発現したとはいえ、失敗作…というか、暴走作、っていったほうがいいのかな。まぁ、記憶を奪うのは仕方なかったと思うよ」
失敗作…自分の台詞に、フェイトが顔をしかめた
「これ見ると、本当にキラさんはスーパーコーディネーターなんだな、と思うよ」
自分の意思でS.E.E.Dのon,offを切り替えられるキラさん…俺やアスランは自分の意思でonには出来ず、当時のヴィヴィオは…
「自分の意思で、offに出来ない…か。記憶を奪って、実験をリセットするか、ずっと眠らせておくしか解除の方法がなかったのは…まぁ、確かなんだろうけど…」
「やっぱり、入りっぱなしだと、日常生活に支障がでるのかな?」
「どうなんだろうな…日常生活で発動したことないし…キラさんにやってもらったらわかるかも」
でも、あまり使いたいとは思わない…キラさんやアスランはどうか知らないけど、俺の場合、発動すると思考は冷静になるけれど、感情はどこまでも熱くなっていくのだ。あんなテンションで挨拶されたいとは思わない
「で…結局、何の用があったんだ?俺に」
「…残りの二人、念の為に監禁されてるって書いてあるよね」
「ああ、監禁場所までバッチリだな」
まぁ、話の筋は大体分かった。つまり、俺に救出を手伝え、と…
「昨日、はやて達が救出したんだって、その二人」
「…はい?」
「で、シンも軍を辞めたことだし、その子達と私達のこれからについて聞いて欲しいことがあるらしいよ」
「なんだ…てっきり、救出を手伝えって言われるもんだと…」
「うん、はやてもシンはそう思うだろうから先に救出しといて驚かそうって計画だったらしいよ。資料の通りだと、そこまで警備も固くないしね」
「いい性格してるよな、あいつ」
もう一度、手元の資料に目を通す。三人の被験体、人を兵器にする研究、失敗作の処分…本当に、忌々しいことしか書かれていない。こんな研究、誰がしていたのか…
「…おい、ちょっと待てよ…」
責任者の項目に目を通す…有り得ない名前、忘れられない名前、あの頃とは違う名前
「これって…ザフト研究だろ?どうして…」
脳裏をよぎる、黒い巨体…燃える街並み。そして…海に沈む、金髪の少女。
「どうして…こいつが…」
明記されているのは、ナチュラルの名前だった

「すっごい…Gタイプだよ、Gタイプ!!フリーダムも!!ほら、ティア!」
「はいはい…そんなにはしゃがないの」
「にしても…隊長がいなくなった途端に待遇が良くなったね。この前まではザク…隊長なんて、最後までゲイツだったっけ…」
「これで隊長抜けた穴、埋められたらいいんですけどね…」
なんでも、隊長が辞める代わりに設備の向上を要求したらしい。最も、上層部としても元からそのつもりではあったらしいけど…
「隊長が弱音をはいたらダメだよ。隊長は僕たちの前では決して弱音ははかなかったでしょ」
「…紛らわしいんで、私のことは今まで通り呼んでもらえませんか、ユーノさん」
大体、隊長も隊長だ…ユーノさんとかヴァイスさんとか、先輩達を差し置いて私を隊長にするなんて…
「だったら、隊長も敬語、やめてくれる?」
ほら、こうなる…昨日からこんな会話ばっかりだ。
「でも、一応人員も補給されるんだよね?」
スバルがMSを眺めながら口を開いた
「ええと…確か、隊長と同期のルナなんとかって人」
「ルナマリア・ホークだよ。あの、射撃が当たらないことで有名な…」
「…本当に一応ってレベルなのね…」
ミネルバの赤服って聞いてたんだけど…聞き間違えたかな…
「なんだ、随分と立派なMSじゃねーの」
「ヴァイスさん、遅刻ですよ」
「いや、ちょっと仕事を押し付けられてさ」
「仕事って…また可愛い女の子に頼まれて?」
「お前、たまにキッツいこと言うよな、スバル…そうじゃなくて、こっちの仕事だよ」
こっちの仕事って…なら、一応は隊長の私にも話を通して欲しいものだ。いや…もしかして、上の方は隊長を継いだのはヴァイスさんだと思ってるのか…
「で…隊長が抜けた私達に、どんな仕事が押し付けられたんですか?」


二年前…シンと別れる少し前に、私は初めて本気で殴られた
酒が回っていた、というのあったと思う…でも、それだけじゃない。きっと、少し優越感があったのだ。成り行きとはいえ、ずっと一緒にいた彼女達ではなく、シンが、私を選んだことに。そして、同じくらい不安もあった…シンの支えになっているのが、シンが選んだはずの私じゃないことを知っていたから。
誇示したかったんだ…シンが選んだのは私だ、と…シンは私を支えにしてくれている、と…そう、思い込みたかったのだ。
だから、語った… あの、いろんなものを失った決戦の日、あの、新たに立ち上がった慰霊碑での約束の日…私がシンを導いた、と…私のお陰で、シンは正しい選択が出来た、と…自慢気に、誇らしげに、彼の幼なじみ達に語り…初めて、本気で殴られる、ということを知った
床に転がった自分の上体を起こし、私を殴った拳の持ち主を見上げる…金の髪、赤い瞳、整った顔立ち…誰よりもシンの近くにいた、彼の心の支えの一人…その、彼女が…シンの前ですら、滅多に涙を見せなかった彼女が…涙を、流していた。
「貴女の…せいで…貴女が、いたから…シンは…」
まだ、覚えてる…いまだに何を言いたかったのかは分からないけど、あのゾッとするような声は、頭にへばりついて離れない
「ルナマリアが、悪いよ」
一部始終をずっと見ていた、彼のもう一人の幼なじみが、普段の彼女からは想像も出来ないような冷めた目で、私を見下ろしていた。
「ルナマリア…今のは、貴女が悪い…分かってるよね」
二年だ…あれから二年たって、シンはザフトを辞めた。私はそのシンがいた部隊に補充要員として配属される… 結局、シンは一度も私を必要としないまま別れて、別れた後は一度も連絡をとっていなかった。


「ザフトから生体兵器を強奪して、地球に逃れた、八神はやて率いる”夜天”の殲滅…及び、その関係者と疑われるシン・アスカの捕縛…それが、今回の仕事、だとよ」

5

「キラ!どういうことだ!これは!」
シンが、生体兵器の強奪と犯人の逃亡に関係している?そんなはずはない…アイツは、確かにあの時お前に俺達の手をとった…平和の為になら、力を貸す、と…そんな、アイツが…
「分からない…分からないよ…この命令は僕じゃない…これは、バルトフェルトさんが…」
目の下にくまを作り、酷く疲れきったような顔をしたキラが弱々しく否定する
「副司令が…いや、それにしたって…お前、何も言わなかったのか?」
「言ったさ!何かの間違いだって!そんなはずないって…でも、分からない…分からないんだ…何が正しいのか、何が正しかったのか…僕には、もう分からないんだよ、アスラン」
「…キラ?」
「…でも、一つだけはっきりしてることがある…今の、この世界をつくったのは…つくってしまったのは、僕達なんだ…責任は、とらなきゃいけない」
その台詞にはなんの想いも感じられなかった…けれど…決意だけは、いやというほど伝わってきた
「バルドフェルトさんなら、副司令室にいるよ。多分、君が来るのを待ってる」

「シン・アスカは軍を辞めた後、一週間ほどプラントにいた。ちょくちょく自分の部隊に顔を出し、設備の向上を僕たちに要求してから地球へと向かった…その日だ。彼が地球へと降りたその日に、”夜天”が生体兵器を強奪した。”夜天”の艦長は彼の士官学校時代の友人で、さらには彼の幼なじみまで離反した。偶然と考えるには、少し無理がある」
「だからって…何の証拠もなしに、決めつけるんですか!?」
「決めつけてはいないさ。だから、彼だけは捕縛に留めてあるだろう?」
違う…それはただの建前だ…捕縛したら、公開処刑するために生かしておくんだ…シン・アスカ…トップエースの一人でも、自分達には勝てない、と。反逆するだけ、無駄なのだ、と…そう、知らしめるために…
「疑わしきは罰せよ…僕たちは、いつだってそうやってきただろう?」
「少なくとも、俺はそういうやり方をしてきたつもりはありません」
俺は優柔不断だ。よく言われるし、自分でもそう思う…でも、だからこそ、俺はいつだって、迷って、悩んで、熟考した末に行動を起こしてきた。疑わしきは罰せよ、なんて適当な思想で行動したことなんてない
「やってきてるのさ。君が気付いてないだけだよ、それは。ま、そんなことはどうでもいい。どうせ、すぐに分かることさ」
「すぐに、分かる?」
「シン・アスカの発言力は大きくなってきていた。元々、こっちも人手不足でね。今のザフトは、上層部こそ僕たちの”理解者”で固めてあるけど、末端はほとんど前議長の時のお下がりだ。だから、こんな情勢になると、軍の内部にも出てくるのさ…前議長のほうが、良かった…正しかった、なんて言う輩が。そうなると、彼の懐刀であるミネルバ…そこでエースを張ってたシン・アスカを台頭させて、反逆しよう、なんて過激派も当然出てくる。」
「ええ、だからシンを辞めさせたんですよね。これ以上活躍されたら、そっち側に傾く連中が増えてしまうから、と」
俺としては、かなり複雑な心境ではあったが…ずっと平和のために邁進して、戦い続けていたアイツが、ようやく休めるのなら…俺は、それでいい、と思ったんだ
「本当に、そう思うかい?」
「…え?」
「今回の件は、偶然かもしれない…でも、彼が殺されるのは必然だ。僕は元から彼を殺すつもりで軍を辞めさせた」
「…何を、言ってるんですか、副司令」
「考えてもみるといい。彼は、現ザフトのトップエースであるとともに、現ザフトにおける最も大きな危険因子だ。そんな彼から、現ザフトのトップエース、という側面をとっぱらったら、どうなる?」
敗戦の英雄…勝者から見れば、それは惨めな称号でしかない。だが、敗者から見れば?確かに、こいつがもっと強ければ…そんな風に思う者もいるだろう…だが、それ以上に、自分達の希望だと、そう思う者もいるはずなのだ。
「最初から…殺すつもりだった?」
「ああ、今回の件はラッキーではあったね。彼を反逆せざるを得ない状況に追い込む手間も、適当なデマを根回しする時間も節約出来たんだから。きっと、彼も本望だろう…あれだけ渇望していた、平和の為に死ねるんだ」
「本気で…言ってるんですか、副司令?」
「…君はもう二十歳だ。プラントでも、地球でも、成人として認められる年になった。でも、君はまだまだ子供だ…正しいことをしていれば、正しい結果が得られる…それは、子供の理屈なんだよ。」
疑わしきは罰せよ…違う、この人は疑わしくなくても罰するのだ…それが、少しでも危険を孕んだものなら。それが大人、というのだろうか…だったら、俺は…
「いつまでも、子供のままではいられないんだよ、アスラン…そして、君には今すぐ大人になってもらう。だから、真実をあげよう…もう、子供に逃げることは出来ないような、ね」

「キラが前議長に疑いを持ったのは、現議長が襲撃されたからだ。それは、知ってるね?」
「…はい」
「彼は偽物の議長をたてあげる為に、彼女を襲撃した…けれど、当時の議長は政治になんて興味はなかった。辺境の地で、キラとともに穏やかな日々を送ることを望んでいた。そんな彼女が、偽物をたてられた位で騒ぎ立てると思うかい?何よりも結果を重視する彼女が、そんなつまらない過程を気にすると思うのかな?」
「…俺達はともかく、前議長は彼女のことを知らない。何事も慎重に運ぶ彼なら、ラクスを殺そう、と考えてもおかしくはないでしょう」
大体、彼以外に彼女を殺して得をする人物なんていない
「ずっとプラントで政策を行っていた彼が、地球で身を隠していた彼女の居場所をどうやって突き止める?」
「…それは…」
「…質問を変えよう。ラクスを襲撃する上で、最も重要なのはアークエンジェルとフリーダムの行方だ。連合の艦だったアークエンジェルはともかく、フリーダムは元々ザフトのMSだ。確かに中破こそしていたが、Nジャマーキャンセラーは生きていた。停戦したのだから、オーブにその返却を求める事くらいはできるだろう。もちろん、彼等はそうした。けれど…オーブもそのようなものは保持していない、と断言した」
それはそうだろう。だって、あれはキラ達が持っていたのだから
「もちろん、それが本当かどうか分からない。もしかしたら、連合が拾ったのかもしれない。ないものの証明は不可能だからね…けれど、予想は出来る。その予想のなかでもラクス・クラインが所有している、というのはかなり大きなものだったはずなんだよ」
確かに、その通りだ。元々、アレがキラの手に渡ったのはラクスの手引きだったのだから
「アスラン…君の知っている慎重なデュランダル前議長は、キラがいて、フリーダムがあるかもしれないような場所を襲撃するのに、あの程度の戦力しか送らないほど迂闊な人物かい?」
「だがっ!ラクスが生きていて困るのは、彼以外に…」
「彼にとっては、偽者か本物か、なんてどうでもいいんだよ。どちらを民衆が受け入れるか、が大事なんだ。偽物とはいえ、プラントの為につくしたラクス・クラインと、終戦後はろくに戦後処理もせずに呑気に恋人と遊んでいたラクス・クライン…民衆は、どっちをとると思う?君ならば、どちらを選ぶ?」
「…貴方は、彼を擁護しているのですか?」
「…僕はね、ずっと罪悪感があったんだよ。世界はこんなに混乱している…その原因は自分達にあるのに、こんな呑気な生活を続けていていいのか、ってね。戦いたくないから、戦わない…そんなの子供の駄と同じさ。僕達は戦わなくてはいけない立場にあったから、戦わざるを得ない状況をつくりだしたんだ」
戦わざるを得ない状況をつくった?それなら…まさか、この人は…
「僕は彼を擁護しているわけじゃない。ただ、知っているのさ…彼が黒幕ではないことを…砂漠の虎は英雄だ。当時のザフトにも、僕を慕ってくれる兵はいた。だから…」
そんな、馬鹿な…それじゃあ、俺は…俺達は…
「君達は、疑わしい者を罰したんだよ。それは、間違っていた…少なくとも、この件に関しては、彼は罰されるようなことはしていない。なにしろ…ラクス・クラインを襲撃したのは、この僕なんだから」
「嘘…だ」
「君は確かに迷ったんだろう。けれど、それは思想や行動に基づいたものじゃない…友か、軍か…君が選んだのは力を託せる相手で、思想も、主義も二の次だったのさ」
違う…俺は、おれは…
「大人になれよ、アスラン。子供のままじゃなにも守れない。今、大切なものがまだ生きているのは、運が良かったからにすぎない。そのままじゃ、いつか、失うぞ…シン・アスカのように」
俺は迷った…俺は悩んだ…俺は、選んだんだ…何を?
「大人に勝つには、大人になるしかない。君は、僕にも勝てないし、今頃シン・アスカを引き込もうとしているであろう八神はやてにも勝てない…彼女は若いけど、僕以上に”大人”だ」
俺は選んだ…キラを、友、を
「あ、あああああぁぁぁあぁああ!!」
どうすればいい、俺は…俺は…何を選べば、良かったんだ?


「随分と…厳しい説教をなさいますね。あることないこと吹き込んで」
「どうかな?全部、本当のことかもしれないよ」
深く、ため息をつく。本当に疲れているみたいだ…私にはどこまでが本当のことか分からなかったけれど…嘘であって、ほしいと思う。
「それで…君も説教を受けにきたのかな」
「…これについて、聞きたいことがあります」
さっきまで、アスランが握りしめていた紙切れ。キラもアスランもシンのことで一杯一杯だったのか、遂に訪ねなかったワード
「生体兵器とは…なんのことですか?」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年04月23日 13:44
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。