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ちくわヘルシー氏のIS小ネタ-01

1

トントン。

シン「シャル、いるか?」
シャル「シン? ドアなら開いてるから、入っていいよ」

ガチャッ。

シン「シャル、いるか? 頼みがあるんだけどーーあれ、ラウラは?」
シャル「さっき受付に荷物を取りに行ったよ。またドイツから贈り物だって」
シン「今度は何が送られてきたんだ……まあ、それは置いておこう」
シャル「それで、シンはどうしたの?」
シン「そ、その……た、頼む、シャル! ノートのコピーとらせてくれ!」
シャル「あ! シン、結局ノートとってなかったんだ! 居眠りばっかりしてちゃいけないって、あれだけ言ったのに!」
シン「う……で、でも! 寝てるのは基礎IS学と社会IS史だけでーー」
シャル「言い訳しちゃダメ。僕、何度も注意したよね? なのにシンってば、全然聞いてくれないし……」
シン「うぅ……ゴメン、シャル! 一夏は篠ノ之たちが連れてっちゃったし、このままだと再試験まっしぐらなんだ! だから頼むよ!」
シャル「コピーはダメ。少しは反省させないと」
シン「そ、そんなぁ……」
シャル「ーーコピーはさせないけど、勉強のために自分で写すのは良いよ? 分からない所があるなら、僕が教えてあげるから」
シン「ほ、本当⁉ シャル、ありがとう!」
シャル「ふふっ、ノートは持ってきてる? それじゃあここで始めよっか」

シャル「ーーじゃあ、アラスカ条約の締結に尽力したアメリカの大臣は?」
シン「……ジョージ・グレン?」
シャル「残念、正解はピーター・アームストロング」
シン「うげぇ……また間違えた」
シャル「それでもこれだけ勉強しておけば、少なくとも赤点にはならないよ。シンは飲み込みが早いし」
シン「シャルのおかげだよ、ありがとう。……いつもシャルに頼ってばっかだな、俺」
シャル「シンが、僕のことを?」
シン「うん、俺はいつもシャルに助けてもらってるからさ。俺から、何かしてあげられるといいんだけど」
シャル「……違うよ、シン。僕はシンからいろんなものをもらってる」
シン「え?」
シャル「もらってばかりなのは僕の方。僕がシンにしてあげられることなんて、大したことじゃない」
シン「そんなこと!」
シャル「ううん、だって……僕がシンからもらったのは“明日”だから。僕が諦めていた明日を、シンがくれた」
シン「それは、俺が勝手に言っただけだ。シャルは気にしなくても……」
シャル「もう……シンの悪い癖だよ。誰かからもらったものは全部数えるのに、自分があげたものは一つも数えない。できたことを数えないで、できなかったことだけを数える」
シン「⁉ あ……」
シャル「それだと、いつまでも自分が辛いだけだよ」
シン「…………」
シャル「ね、だから数えてほしいんだ。僕がシンといられることを、シンができたことに」
シン「……うん。ありがとう、シャル」
シャル「こちらこそ、いつもありがとう。僕のことを……守ってくれて。僕と一緒にいてくれて」
シン「約束したから。俺はシャルのことを守るって。ずっと一緒にいるって。でもーー」
シャル「でも?」
シン「それはそれだ。やっぱり何か、助けてもらってるんだからお礼しないと」
シャル「……それなら、お願い」

シャル「手……つないでくれないかな?」
シン「もちろん。だけど、こんなことでいいの?」

ギュッ。

シャル「いいの。こうしてるとね、シンと一緒にいるんだって、一番実感できるんだ」
シン「…………」
シャル「シン、どうしたの?」
シン「……時々、思うんだ。大切な人といる今が、本当に現実なのか……明日がまるで羽みたいな、フワフワした幻に思えることがあって……」
シャル「…………」
シン「けど、俺もシャルと一緒にいると実感できる。シャルは消えたりなんかしないで、俺と一緒にいてくれるんだってことを。それだけは、本当のことなんだ」

ギュッ。

シャル「シン……」
シン「シャル……」

ーードタドタドタッ、バタンッ!

ラウラ「おのれシャルロット! 甘い空気が廊下まで漂い、何人も砂糖を吐き出しているぞ! 私のいない間に何をしていた⁉」
シャル「あ、おかえりラウラ」
シン「テスト対策に、シャルに勉強見てもらってたんだ」
ラウラ「ならば何故二人で寄りそっている⁉ その手を離せ! 離れろ! そして私にも愛をよこしてくれ、お兄様ぁっ!」

ダダッ、ピョンッ、ガシッ!

シン「うわっ! ラウラ、 危ないから飛びつくのは止めろっ!」
ラウラ「私も私の愛もお兄様が受け止めれば良いだけの話だっ!」

スリスリスリスリ。

シャル「もう、またラウラが邪魔するんだから……」
シン「そう言わないでくれよシャル。ラウラも一緒に勉強すれば良いだろ?」
シャル「そういう意味じゃないの。まったく、鈍いのだけは絶対に治らないんだから……」
シン「へ?」
ラウラ「お兄様に聞かれれば、私はどんなことでも答えよう。さあさあ、聞くのは私の体にだ。そうと決まればベッドの上にーー」
シン「こらぁっ! 危ない冗談は止せっていつも言ってるだろっ! 」
ラウラ「ちいっ、私の愛は簡単には届かないか」
シャル「はいはい、ラウラは大人しくこっちに座ろうね」
シン「ほら、あとでシャルと一緒に食堂の特製ケーキおごってやるから」
ラウラ「むう……お兄様、約束だぞ?」
シン「分かった分かった、約束する」
シャル「ふふっ、それじゃもうひと頑張りしよっか」

2

「動物園に行くのなら冬に限る」

 銀髪の少女がきっぱりと言い放つと、同じテーブルについていた六人が一斉に驚きの声を上げた。

「夏場における水族館の雰囲気は清涼感であり季節柄の客の需要に違わんが、冬場になってしまえば清涼感は寒々しいだけだろう。逆に動物園は構造上アスファルト、鉄檻を使用することが多いが、夏場にはこれが熱を吸収し周囲の温度を飛躍的に上昇させる。夏に行くのは避けた方が良い」

 理由まで的確に読み上げる少女――ラウラ・ボーデヴィッヒに、一同は更に驚いて、口をぽかんと開ける。それもそのはず、ラウラは非常に世俗の事情に疎いのだ。
 軍という環境に身を置いていたことが原因であり、本人の責任は一切ないのだが、ともすれば世間知らずと言えるその偏った知識が周囲を振り回すことも多々あった。
 それがどうしたことか、口調はいつも通りキビキビとしていても、内容は世間一般の認識から外れていないではないか。こんな知識を誰が教えたというのか――

「ラウラ、あんたいつそんな知識を――って、ああ……そういうことね」
「そうですわね、コレもいつものことでしょう」
「そう、いつものアレだ。それ以外考えられまい」
「この前届いた荷物からかなぁ、今度の知識は」
「なんつーか、完全に“勘違いした外国人オタク”状態だな」

 発言の順番に、凰・鈴音、セシリア・オルコット、篠ノ乃箒、シャルロット・デュノア、そして織斑一夏。
 全員が疑問に思いかけたところで、すぐさま一人、また一人とその回答にたどり着き、呆れたように肩を揺らす。
 もはや分かりきった答えを貰うために、彼らを代表して一人の少年が口を開けた。

「ラウラ、それって何に教えてもらったんだ?」
「『縁~妹~』というゲームだ、お兄様」
「また直球なタイトルのゲームを……」

 何故か誇らしげに胸を張るラウラの横で、お兄様と呼ばれた少年――シン・アスカは、額に手を当てて、重いため息をついた。

   ◇


 シン・アスカは数奇な運命を辿っている少年だった。
 それは平凡な民間人から、戦争という極限状態を生きる戦士になったこと、そして更に“異世界”に生きる人間となったことが原因だ。
 メサイア防衛戦の後、シンが飛ばされた世界は、『IS』と呼ばれる兵器が存在する世界であった。
『IS』は本来女性にしか使えないはずだが、偶然にもシンは起動に成功。多少のすったもんだがあり、ISパイロットの養成学校であるIS学園に入学することになる。
 学園内でも様々な事件が起こり、シンはほぼ全ての事件においてその渦中にいた。
 事件が原因となる問題行動が多く、良くも悪くも問題児として有名ではあったものの、退学になることもなく三ヶ月以上が過ぎた。
 未だに異世界に来た経緯は不明ながら、新しい生活に新しい仲間達。再びできた大切なものに、守りたい人たち。
 シンも違う世界での生活に随分となじみ、なんとかやってきていたのだ。

 そんなシンも夏休みを控え、仲間達とともに食堂で談笑に花を咲かせていた。
 中身は夏休みに行きたい場所というありふれたものだ。それぞれが思い思いの意見を述べ、誰かが動物園の話題に触れ――

「今日の知識はゲームからか……変なゲームじゃなきゃ良いんだけど」
「日本が誇る妹ゲームの革命作だそうだ。バスタオルを濡らすほどの感動超大作らしいのでな。まだ序盤しかプレイしていないが、縁の“妹らしさ”は非常に参考になっている」

 事態は今にいたる。このラウラ・ボーデヴィッヒ、転入当時の性格は苛烈で多くのイザコザを起こしたが、今は周囲との不和も解消し、シン・アスカを“お兄様”として慕っている。
 なぜお兄様なのか、色々要因はあるのだが、とにかくラウラはシンの“妹”という扱いである。
 ところが、ここで問題となるのが、ラウラが“妹”というものを盛大に勘違いしていることだ。

“妹とはどういうものなのか”、ラウラはドイツの仲間達に相談したのだが、送られてきた資料はなんと、『日本の本、アニメ、漫画、ゲーム』ばかり。
 それをすっかり信じ込んでしまったラウラが、世間の常識から非常に誤った“妹”になったことは言うまでもない。

「妹らしさか……なあ、ラウラ。その縁ちゃんってのはどんな女の子なんだ?」
「とても大きな病気を患っていてな、かなり深刻な状況だ」
「え、重病? それは大変だな……」
「しかし『お兄ちゃんと結婚したら病気が治る』らしい」
「そんなヘンテコな病気があってたまるかぁっ! 思いっきり嘘じゃないかっ!」
「実はお兄様、私も同じ病を抱えていて――」
「頬を染めながら大嘘をつくなああぁぁぁっ! また妙なことを覚えるんじゃないっ!」
「ちいっ、お兄様を落とすにはまだ妹ポイントが足りないようだ」

 全力かつ切実なツッコミを入れるシンと、冷静かつ甘いギャグを放つラウラ。
 この兄妹コントはわずか一月ほどで、他学年からも見物客の訪れる、一学年食堂名物の一つになっていた。
 ちなみにこのコントは新聞部がしっかりとやりとりを記録し、翌日の日刊紙『デイリーIS』に掲載されている。
 見逃した生徒も安心してネタを楽しめると、生徒間で非常に好評を博したことで、デイリーISの部数がかなり伸びたらしい。


「ほんっと毎日毎日、元気で仲の良い兄妹ね」
「そろそろお茶でも準備いたしましょうか」
「おお、それならこの前出かけたときに買った美味い抹茶があるぜ?」
「ならば一夏、よろしく頼む。茶菓子はこちらで準備しておこう。ただ――」
「ただ、何だ?」
「――甘味は抜きだ」
「? まあ、いいけど。じゃあ、部屋に取りに行ってくる」

 騒がしい向かい側の席を尻目に、箒たちは落ち着いた様子である。常に会場最前列でコントを見せ付けられているので、いい加減に慣れてしまっているのだ。

「そもそも妹ポイントって何だよ、妹ポイントって!?」
「妹の実力を表す指標だ。高ければ高いほど兄に愛が伝わると、『萌える妹入門』に書いてあったが――」
「まだあの変な本を持ってたのかよっ!? もう許さないぞ、今度こそ捨ててやるっ!」
「しかしお兄様、私は既にあの本の内容を全て暗記しているぞ。一字一句、間違うことはない」
「くそっ、もう手遅れかよ……」

 しれっととんでもないことを述べるラウラに、ヒートアップしていたシンの熱気も食堂内に霧散していく。ここまで来ると怒っても無駄だと察したらしい。

「はぁ、それじゃ仕方がないか。けど、あんまり突飛なこととか、みんなに迷惑かかるようなことをしたらダメだからな」
「そう言って私を許してくれる優しいお兄様が大好きだ」
「へへっ、ラウラ、ありがとな」
「私の愛を受け入れてくれるのなら、早く風呂に入って二人で寝るぞ。愛を結晶させるのには十月十日必要だ」
「こら待てラウラ、突飛なことをするなって言ったばかりじゃなかったか? まったく……――っ!?」

 ラウラに抱きつかれながらシンは嬉しそうに笑い、彼女の頭を撫でていたのだが、刹那、背後から感じられたプレッシャーに身を震わせた。
 そして今度は背中につきたてられる、冷たく鋭いものの感覚。ぐりぐりと制服ごしに伝わる痛みが、それを与えている人間の不機嫌さを如実に示している。
 非常に恐る恐る、ゆっくりと、シンは振り返った。

「しゃ、シャル……?」
「二人とも、少しベタベタしすぎじゃないかな……?」

 果たしてシンの視線の先に、シャルはいた。
 銀に光るフォークを握りしめ、詰め物でもしたかのように頬を膨らませ、シンをムッと睨みつけていた。


   ◇


 シャルロット・デュノア――フランス代表候補生であり、ラウラと同時期にやってきた転入生である彼女は当初、その複雑な事情により男子生徒として転入し、周囲にも自分の性別をひた隠しにしていた。
 しばらくシンと同室での生活を送っていたのだが、現在は紆余曲折を経て女子生徒としてラウラと同じ部屋にいる。
 ついでにその紆余曲折が原因で、シンに比類のない好意を抱いている。詳細を書くと五万字を軽く越えるほど、長い。
 とにかく、シャルはシンのことが好きで、シンとシャルは四六時中手をつないでいるほど仲が良いのだが――まさかのまさか、シンはシャルの好意に“気がついていない”。
 シンは今や病気と言えるほど鈍く、付けられた二つ名は“ゲキニブ星王子様(命名シャル)”であることから、病気がどれほど深刻かは一目瞭然だ。

 また、問題となることがもう一つ。シンはシスコンなのである。
 ラウラが妹を名乗るようになってもあっという間にシンは順応し、彼女を溺愛していた。
 もちろんラウラが求める過剰なスキンシップはシンも叱るのだが、それでもシスコン+鈍いシンの基準は、他人からすればイチャつく以外の何者でもない。
 そしてシャルからすれば、自分のことを忘れてベタベタとする二人を見れば何を思うか。
 シンと同じようにラウラに優しいシャルであっても、恋のライバルであることに変わりはない。

 つまり、面白くない。焼きもちもそれはそれは、お腹いっぱいなほどたくさん焼ける。

「シャル、えっと……ど、どうして怒ってるの?」
「病気のせいだね、君と僕の」
「え? うわっ!?」

 シャルはぴしゃりと言い放つと、困惑するシンの手を握りしめ、自分のそばへと引っ張り寄せた。
 離さないと言わんばかりに力が込められ、指は固く絡められる。いわゆる“恋人つなぎ”というものだ。当然シンはそれを知らないボンクラなのだが。

「シャル、病気って何?」
「シンの病気は治りそうもないけど、僕の病気なら治せるよ」
「?」
「『シンが僕とずっと一緒にいてくれたら』、僕の病気は治るから。だから離れたらダメ」
「シャルまで、ラウラみたいな冗談を言わないでくれよ……」
「……じゃあ、特効薬くれる?」
「と、特効薬? ――っ!? シャル、ちょっと、ま、待ってくれよ!」

 テーブルの様子を伺っていた食堂内の生徒たちが、一斉に沸き立った。

 きょとんとしていたシンの唇にシャルの人差し指が当てられ、そして今度はシャルが、その指を自分の唇にぎゅっと押し当てたのだ。
 これには流石のシンも慌てふためいた。未遂ではあったが、何度かシャルはシンにキスを迫ったことがあり、その度にサインのように出されたのがこの仕草であった。
 今までと違うのはシャルが悪戯に笑っているのでなく、膨れっ面でいることぐらいである。
 それでも、頬を赤らめてじっとシンを見つめるその顔は、他の生徒から見ても可愛かった。


「僕の病気、責任とって治して――」
「おのれシャルロットぉっ! お兄様の唇を奪おうとは許さんぞっ!」
「ぐええええぇっ! ら、ラウラ、く、首が……」

 当然同席しているラウラが許すはずもなく、シンとシャルの二人を引き剥がそうと、シンの首に抱きつき、自分の席に連れて行こうとする。
 シンの首もシン本人も悲痛な声を上げているのだが、残念なことにシャルもラウラも気付いておらず、目の前のライバルと口論するだけだった。

「ちょっと、二人ともー。そのままだと、あんた達の王子様が星に還っちゃうわよー?」
「鈴さん、放っておきましょう。シンさんには良い薬になりますわよ」
「アスカのことだ。たとえ星に還っても、約束だなんだと言って戻ってくるに決まっている」
「それもそっか」

 もはや日常の一コマに収まっているので、箒たちは非常にのんきであった。
 傍から見ればわたくしたちの喧嘩も同じように見えるのでしょうか。それは遠慮したいわね。今後は気を遣った方が良いだろう。
 自分たちの行動を反省しながら、用意したせんべいの封を開けている。対して痴話喧嘩は止まるところを知らなかった。

「最近ラウラってばシンに甘えすぎだよ! シンに抱きついて、頭を撫でてもらって! 寝る前にベッドまでお姫様だっこで運んでもらうなんて、僕はしてもらったことないのに!」
「シャルロットは一月もお兄様と同じ部屋にいたではないか! 部屋にいた時はさんざんお兄様に甘え放題だったと、噂で聞いたぞ!」
「僕はラウラほど甘えられなかったもん! 僕が女の子だなんて、シンは全然気がつかなかったし!」
「それでも手をつないでいたのだろう!? 贅沢を言うな! 私も朝から晩まで一日中お兄様と一緒にいたいぞっ!」
「僕だってもっとシンに甘えたいよっ! お姫様だっこはずるい!」
「ええい、ここでは埒が明かん! 部屋で話をつける!」

 激しいやり取りの末に、二人は糸の切れた人形のようなシンを掴んだまま部屋に戻ってしまった。
 肝心のシンが虫の息のまま、話し合いになるのであろうか。きっと明後日の方向に落とし所がつくのだろう。シン当人の意志の介在しない所で。

「みんな、抹茶たててきたんだが……シンが青い顔してたぞ? 大丈夫なのかよ?」
「ありがとう一夏。心配するな、アスカを信じろ。アイツは強い」
「シンが強いのは知ってるけどな……いくらなんでも、アレはやばくないか?」
「一夏さん、あれがあの三人の親愛の表現なのですわ」
「ほらほら、このせんべい美味しいわよ?」
「お、おう」

 腑に落ちない思いを抱えたまま、一夏は差し出されたせんべいをかじり、席に着く。
 騒動の済んだ食堂では、見物の終った生徒たちがまたがやがやと噂話に興じ始め、新聞部の部員が嬉々としてレコーダーを片づけていた。

 ちなみに、シャルもラウラもお互いの立場が羨ましいことがあるのなら『一日ぐらい立場を取り替えてみれば良いのでは?』という結論に達することになる。
 当然シンが振り回されることになるのだが……果たしてシンはどうなったのだろうか。デイリーISの記事になってしまったので、生徒達はほぼ全員知っている。

3

ラウラ「お兄様、先ほど誰かが私のことを呼んだ気がしたぞ」
シン「え、俺は呼んでないけど?」
ラウラ「お兄様が心の声で私を呼んだのでは――」
シン「いや、そんな無茶苦茶な……」
ラウラ「むぅ、私とお兄様はまだ心で繋がっていないのか……」シュン
シン「そんなことで落ち込むなって。……ラウラが呼べば、俺はどこにいたってラウラのところに行くから」ナデナデ
ラウラ「本当か? お兄様、約束するか?」
シン「ああ、約束だ」ナデナデ
ラウラ「お兄様……そうだ、お兄様! 次のスレッドは第21スレッドだぞ!」
シン「へぇ、もうそんな数になるのか」
一夏「おっと、だからラウラはシンの『お兄様』とスレ番の『お21様』を引っ掛けたいってことだな!?」
シン「うわっ!? 一夏、いつの間に!?」
ラウラ「ふん、一夏にしては察しが良いではないか」
一夏「へへっ、ラウラも中々に粋な事を考えるな」
ラウラ「褒め言葉として受け取っておこう。つまり、私はそれに合わせて次のスレッドタイトル候補を作ったのだ!」
シン「……一応見せてもらおっか、どんな風な?」

ラウラ「【お兄様は】【私の嫁】」

シン「却下っ!」
ラウラ「では【お兄様と】【私のスレ】だ!」
シン「スレの主旨が変わってるだろ!」
一夏「でもシン、【お兄様】が入ってなきゃ折角のスレタイと合わせたギャグが――」
シン「一夏までそんなことを言い出さないでくれよっ!」
ラウラ「ならば【お兄様×私】【私×お兄様】で!」
シン「さっきまでとほとんど同じじゃないかっ! スレタイを私物化するなああぁぁっ!」

鈴「はーい、寒いギャグが大好きなニブチンと超絶ブラコンを引き取りに来たわよー」
セシリア「他の方の迷惑になりますわ、速やかに退去のほどを」
一夏・ラウラ「「なっ!?」」
箒「そら二人とも、さっさと帰るぞ! スレッドタイトルでまで恥を晒すことはないんだ!」
一夏「ちょっ、待てよ箒! あのギャグのどこが恥さらしなんだ――だああああぁぁぁぁっ!」ズルズルズルズル…
ラウラ「おのれ、私は諦めん! 必ずやタイトルに【お兄様】を入れてみせる! お兄様ああああぁぁぁぁっ――」ズルズルズルズル…



シン「……後で三人にお礼と、ラウラに説教しておこうかな」
シャル「ラウラは強硬手段に出ちゃいそうだもんね」
シン「あ、シャル。ゴメン、騒がせたか?」
シャル「ううん、気にしないで。さて……ラウラが作ったタイトル候補の片付けしないと」
シン「【お兄様】が散乱してるよ……はぁ……」
シャル「シンは休憩してきなよ。今ので結構疲れたでしょ?」
シン「そんな、シャル一人にやらせるなんて――」
シャル「これぐらい僕一人でも大丈夫だよ。代わりに僕の分もコーヒーを入れておいて、ね?」
シン「……分かった。部屋でコーヒーとケーキの用意して待ってるよ」
シャル「ありがとう、それじゃあすぐに終わらせるから」
シン「うん、了解だ」タタタタタッ…

シャル「……行ったかな? コレだけ用意しておけば……よっこいしょっと」ドサドサッ!

【僕の大事な】【王子様】
【約束】【ずっと一緒】
【君が】【明日をくれた】
【僕の明日】【君と生きる明日】
【俺がシャルを】【守るから】
【手を】【繋いでくれる?】
【FAITH】【信頼の証】
【守りたい】【大切な人】
【僕のことを】【守ってくれるって】

シャル「~~~~♪」タタタタタッ…

4

シャル「――だからね、この答えはダメだって!」
ラウラ「何故だ? 簡潔かつ最高の答えだと思うが」
シャル「流石に先生に叱られるよ! 気持ちは分かったから、ね!?」

鈴「二人とも、今日はなーにを騒いでるの?」
セシリア「喧嘩ではないようですが、どうしましたの?」
シャル「みんな、良いところに! みんなからも止めてよ! ラウラがメチャクチャなレポートを書いちゃって――」
箒「それは……来週提出の戦術理論のレポートか?」
ラウラ「私の全てを込めたレポートだ、問題ない」
セシリア「ラウラさん、戦術理論は常に満点でしたのでは?」
鈴「まあ、今度の課題は装備もエネルギー残量も厳しい状況からの打開だったから、結構難しかったけどね」
シャル「そういうレベルじゃなくて、見たら一目でトンデモナイって分かるよ! コレ!」
箒「ほう、どれどれ……」


『――以上の条件を踏まえ、予想される今後の状況を記述せよ。

解 答

お 兄 様 が 颯 爽 と 現 れ て 私 を 守 っ て く れ る 。』


箒・セシリア・鈴「…………」

ラウラ「フン、どうだ。わずか一文で状況が全て解決するばかりか、私のお兄様への愛まで見事に集約されている。これほど完璧な解答は――三人とも、どうした?」

セシリア「箒さん、鈴さん、頼みますわっ!」
箒「任せろっ!」
鈴「了解っ!」

ガシッ!

ラウラ「な、何をする箒、鈴!? 離せ、離さないかっ!」
鈴「こんなレポートを提出させたら、あたし達まで注意されるわよ! 何よこれ!? 戦術理論なのに、理論の"り"の字も無いじゃないっ!?」
ラウラ「しかし、私とお兄様の絆は理論などものともせずに――」
セシリア「仮にそうだとしても、これでは点数になりませんわよっ!」
シャル「今ここでレポートの書き直しをさせるから! ラウラ、分かった!?」
箒「羽交い絞めにしてでも修正させるぞっ!」

ラウラ「なっ、なんだとっ!? 嫌だ、止せ、止めろぉっ! 私の愛が、絆がぁっ!? うわああああぁぁぁっ! お兄様ぁっ、お兄様ああああぁぁぁぁぁっ!」
シャル「ジタバタしないのっ! ビービー泣かないのっ!」

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最終更新:2012年07月03日 10:26
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