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ツキノケモノ氏の小ネタ-02

「だぁーかぁーらぁーっ! 絶対に刀身や銃身の方が大切だって言ってるでしょ!?」
「君こそ何度言えば理解してくれるんだ? 真に重要なのは装甲の充実だ」

 アナグラに戻ったシン達を待っていたのは、エントランス中に響き渡る男女の怒鳴り声だった。
 ミッションカウンターの前で二人の神機使いが口論している。青いジャケットを着た少女と、頭にバンダナを巻いた少年だ。
 先日この極東支部に配属された新型神機使い、アネットとフェデリコである。

「フェデリコは全然分かってない!! 敵の反撃を許さずに、一気に叩く! 攻撃こそ最大の防御なのよ!!」
「そういう火力偏重な考え方だから、君は回避が疎かになるんだ! まずは装甲を充実させてから、安全確実に敵を見極めつつ、火力を上げていく。それが王道だ」
「ダメージを与えないと、時間がかかって結局不利になっていくだけでしょ!?」
「生き残る時間がのびればこそ、対処方法を見極めやすくなるんだ!」

 シン達の帰還に気づいた様子もなく、アネットとフェデリコは周囲の迷惑もお構いなしに怒鳴り合いを続ける。

「ねぇねぇ、ヒバリちゃん。これって一体何の騒ぎ?」

 帰還して早々に遭遇したこの修羅場空間に、コウタが困惑の表情で尋ねる。コウタの問いに、受付嬢のヒバリは困ったように苦笑した。どうも説明が難しいらしい。
 一方、アネットとフェデリコの論争はさらにヒートアップしていた。互いに一歩も譲らず、それは最早意地の張り合いになりつつある。

「攻撃っ!」

「防御っ!」

「攻撃!!」

「防御!!」

 バチバチと火花を飛ばし合い、二人は不意に、まるで申し合わせたかのように全く同じタイミングでシンを見た。

「「――そうでしょう!? シンさん!」」

「はいぃっ!?」

 唐突に話を振られ、シンが狼狽の声を上げた。しかしシンの困惑などお構いなしに、二人は好き勝手に持論をぶつける。


「シンさんも私と同じバスター使いなら分かってくれますよね!? 一番大切なのは攻撃力だって!」
「仲間を率いるリーダーだからこそ、防御面の重要さは誰よりも理解している筈です!」

「「どうなんですか!? シンさん!!」」

「え~っと……?」

「――二人とも、ちょっと落ち着いて下さい。シンが困ってますよ?」

 二人に詰め寄られて困惑するシンに代わり、アリサが宥めるようにアネットとフェデリコに声をかける。

「二人の言っていることは、どちらも間違っていません。敵にダメージを与える攻撃力も、生き残るための防御面も、どちらも私達神機使いにとって大切なものです」
「……そうだな。ずるい答えかもしれないけど、アリサの言う通り『どっちも大切』ってのが正解だと俺も思う。優劣なんてつけられないよ」

 アリサの言葉に便乗するように、シンも己の意見を表明する。

「まぁ、敢えてどっちか選ぶなら……」
「そうですね。より重視すべきなのは――」

 シンとアリサは一瞬見つめ合い、まるで互いに理解し合っているような顔で頷き合う。そして再びアネットとフェデリコへ向き直り、二人同時に――、

「――防御だな」
「――攻撃ですね」

 正反対の答えを口にした。気まずい沈黙がエントランスを包み込む。
 ヤバい、とコウタは戦慄した。折角いい感じに話がまとまりかけていたのに、このままではシンとアリサの間で第二ラウンドが勃発しかねない。

「だ、だったらこうしたらどうかなぁ!?」

 コウタは焦ったような顔で四人の中に割って入った。

「ちょうど男同士・女同士で分かれてることだし、この四人で何かミッションを請けて、そこで紅白戦でもして決着つけるとか!」
「あっ! それならちょうどいいミッションがありますよ?」

 コウタの提案に便乗するように、ヒバリが満面の笑顔で一つのミッションを提示した。



.


 作戦名『雷神の饗宴』、平原地帯に出現したヴァジュラの群れを討伐するという簡単なミッションである。
 確認されたヴァジュラの数は四体。そこでシンとフェデリコ、アリサとアネットがペアを組み、それぞれ二体ずつを担当。討伐完了までの時間を競うことにした。

 ――が、世の中そんなに上手くいく筈もなく、アネット・ケーニッヒは今、人生最大の窮地に陥っていた。

「こんっのぉーっ! 当たれーっ!!」

 大きく振り被ったアネットのハンマーが、怒号とともにヴァジュラの脳天めがけて振り下ろされる。
 しかしヴァジュラは大きくトンボ返りしてアネットの攻撃を躱し、空中で雷球を放つ。高圧電流の塊が直撃し、アネットは「きゃっ」と苦痛に悲鳴を上げた。
 さらに追い討ちをかけるように、ヴァジュラが地を蹴り、アネットめがけて飛びかかった。
 幸いヴァジュラ自体はアネットの頭上を飛び越えたが、着地の衝撃波はそれだけでアネットの身体を木っ端のように吹き飛ばした。

 アネットの武器であるハンマーはバスター系の刀身の中でも最重量級であり、絶大な破壊力を誇る代わりに動きが鈍重で取り回しも難しい。
 そのためヴァジュラのような素早いアラガミとの交戦には不向きなのだが、アネットは現在、その不利な相手との一対一の戦いを強いられていた。
 それは何故か? 答えは簡単である。ぶっちゃけ分断に失敗したのだ。今、戦場は四体のヴァジュラが入り乱れる大乱戦状態。最早チーム分けもへったくれもない。
 そもそも遮蔽物が皆無な平原で、敵の群れを分断しようというのが無謀だった。しかも相手はあのヴァジュラ、未だ新人の域を出ないアネットやフェデリコでは荷が重い。
 それらを恐らく理解していながら、敢えてこのミッションを斡旋したヒバリは、まさに鬼である。何も考えずに請けたシン達もシン達だが。

 ヴァジュラが前足を持ち上げ、鋭い爪をアネットめがけて振り下ろす。アネットは咄嗟に逃げようとした。が、身体が痺れて動けない。さっき喰らった雷球の影響だ。
 如何にゴッドイーターの肉体でも、オラクル細胞で形成された強靭な爪の前では紙切れ同然だろう。
 もしもアネットがもっと防御面に気を配っていたら、例えば体力強化や被ダメージ減少系の強化パーツをつけたりなどすれば、或いは結果は変わったかもしれない。
 だが現実では、アネットは防御面の充実を怠り、そのツケを今、己の命で払おうとしている。フェデリコの忠告を聞いとけばよかった、とアネットはこの時初めて後悔した。

 その時、どん、という軽い衝撃とともに、アネットの身体が地面に倒れ込んだ。誰かが横合いからアネットを突き飛ばしたのだ。
 アネットと入れ替わるように、誰かがヴァジュラの前に躍り出た。フェデリコだ。神機の装甲を展開し、フェデリコはヴァジュラの爪を受け止める。
「う、お、おおおっ!!」

 フェデリコが雄叫びとともに神機を前方に突き出した。鍔元に格納された銃身がせり出し、ヴァジュラの鼻先で火を噴いた。
 インパルスエッジ、ロング系の刀身でのみ使用可能な超近接攻撃である。
 高密度のオラクル弾が零距離で炸裂し、ヴァジュラ顔面のオラクル細胞が結合崩壊を起こした。牙が折れ、顔の表面に亀裂が入る。

『GAAAAAAAAAA!!』

 ヴァジュラが怒り狂ったように咆哮を上げ、全身からバチバチと紫電が飛ぶ。オラクル細胞が活性化したのだ。
 フェデリコは神機でヴァジュラを斬りつけた。しかし活性化した今のヴァジュラには全く効かず、逆に神機が弾かれる始末である。

「フェデリコ、どいてっ!」

 背後から突如聞こえたアネットの怒号に、フェデリコは反射的に大きく飛び退いた。
 直後、アネットの神機から発生した巨大なオラクルエネルギーの刃が、ヴァジュラの顔面に叩きつけられた。バスター系の刀身専用の必殺技、チャージクラッシュである。
 アネットが放ったチャージクラッシュの一撃が、結合崩壊によって脆くなっていたヴァジュラの頭部を粉砕。断末魔の絶叫を上げ、ヴァジュラは力尽きたように倒れ伏した。


「た、倒した、の……?」

 ぴくりとも動かないヴァジュラを見下ろし、アネットは呆然と呟いた。信じられなかった。こんな強敵を自分達の力だけで倒したなんて。

「や、やった……! やったよ、フェデリコ!」

 現実に頭が追いつくにつれ、困惑は次第に歓喜に変わり、アネットは思わず傍らのフェデリコに抱きついた。夢じゃない。自分達は本当に、ヴァジュラを倒したのだ。
 思わぬ戦果にはしゃぐアネットとフェデリコに、しかしその時、背後から黒い影が忍び寄っていた。二人は失念していた。ヴァジュラは一体だけではないのだ。
 ヴァジュラが二人めがけて飛びかかった。アネットとフェデリコが愕然とした顔で振り返る。だが、もう遅い。ヴァジュラの爪と牙は既に二人の目前まで迫っていた。
 その時、鈍色の閃光が虚空を走り、ヴァジュラの前足を斬り飛ばした。バランスを崩し、ヴァジュラが地面に墜落する。
 アネットとフェデリコを守るように、誰かがヴァジュラの前に立ち塞がる。バスター系の神機を担いだ黒髪紅眼の青年、シンだ。

「――おいコラ、猫野郎」

 ヴァジュラを睨み、シンが口を開いた。味方である筈のアネットやフェデリコですら思わず震え上がるほど、それは凄みのある声だった。

「俺の仲間に手ェ出してんじゃねぇ!!」

 神機の切っ先をヴァジュラの鼻先に突きつけ、シンは吼えた。

 そこから先は、最早戦いとすら呼べない、圧倒的という言葉さえ生ぬるい一方的な殺戮だった。
 風切り音とともに振るわれるシンの刃がヴァジュラの四肢を砕く。バレットが胴体を貫く。尻尾をへし折り、マント状のたてがみを引き千切る。
 時折ヴァジュラが悪足掻きするように爪や雷撃で攻撃するが、シンは平然と怒涛の攻撃を続ける。ヴァジュラの巨体が、シン一人によって瞬く間に解体されていった。

 しかし何より恐ろしいのは、シンがチャージクラッシュはおろかオラクル細胞の捕喰による神機の解放すらもなしに、これだけのことをやってのけていることだった。

「凄い。これが本物の“ゴッドイーター”……!」

 鬼神の如きシンの戦いぶりに、フェデリコが興奮したように呟いた。隣ではアネットが食い入るようにシンを見つめている。

 ゴッドイーター。それは一般的には神機使いの通称であるが、極東支部ではその言葉は特別な意味を持つ。
 極東支部において、「ゴッドイーター」の称号を持つ者はたった一人。そしてそのただ一人の神機使いこそが、今、フェデリコ達の前で戦う男に他ならない。
 これがゴッドイーター、これがシン・アスカ。極東支部最強の神機使い、『終末捕喰』を止めた男!

 垂直に振り下ろされたシンの刃が最後にヴァジュラの頭を砕き、殺戮ショーは一旦の終焉を見せた。

「あ、後二体ですねっ!」
「うんにゃ、こいつでラスト」

 息巻くアネットを片手で制し、シンはそう言って平原の一角を指差した。
 シンが指差す先には、積み重なるように倒れる二体のヴァジュラと、その上に座ってこちらへ手を振る銀髪の少女、アリサの姿が。
 アネットとフェデリコは絶句した。化け物じみた強さの神機使いはシンだけではなかったのだ。
 否、もしかすればシンと二人がかりで倒したのかもしれないが、どちらにしろ尋常ではない。極東支部は魔窟であると、二人は改めて実感した。



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「今回はちょっとヒヤッとしましたね」

 アナグラへ戻るヘリに揺られながら、アリサが隣のシンに声をかけた。向かい側ではアネットとフェデリコが、互いに寄りかかりながら寝息を立てている。

「新米にはちょっとハードだったかもな。でもまぁ、いい経験にはなったんじゃないか? 自信もついただろうし」
「自信どころか、下手すればトラウマを刻んでましたよ」

 何でもないことのように言うシンに、アリサは呆れたように溜息を吐く。
 実のところ、今回のミッションはシンとアリサだけならば何の問題もなかった。たとえ乱戦になろうが、まとめて蹴散らせば事足りるのだから。
 伊達に接触禁忌種や訳の分からない新種のアラガミと毎日のように戦ってはいない。今更ヴァジュラ如きに後れを取るほど第一部隊は甘くないのだ。
 だが、アネットとフェデリコは違う。二人の所属は防衛班、しかも二人ともまだ新人だ。
 そんな彼らに、先輩のフォローがあるとはいえヴァジュラを狩れなど無謀が過ぎる。

 しかしシンの言う通り、今回のミッションが二人にとっていい経験になったのは確かだろう。
 アリサから見て、アネットは少々突撃思考が目立ち、フェデリコは逆に些か思いきりに欠ける。今回の経験は、二人が成長する良いきっかけになるだろう。

「それにしても、ちょっと意外でした。シンはどっちかと言うと防御より攻撃派だと思ってました」

 思い出したようにアリサが口にしたのは、今回の騒動の発端となったアネットとフェデリコの論争の続きだった。
 優先して強化すべきなのは刀身や銃身か、それとも装甲か。より重視すべきなのは攻撃か防御か。それは神機使いにとって永遠の課題である。
 アリサはどちらかと言えば、アネットと同じ攻撃寄りの思想だ。一方、シンの答えは防御優先、それも即答だった。
 無論、防御の重要性はアリサも理解している。しかし「シン」と「防御」の組み合わせが、アリサの中でどうも上手く結びつかないのだ。

 シンは極東支部でも珍しいバスター使いだ。バスターは刀身の中でも攻撃特化型で、威力は随一だが、その分神機に振り回されがちで扱いが難しい。
 極東支部所属の神機使いでバスターを完全に使いこなしているのは、彼とソーマ、後は第二部隊のブレンダンくらいのものだろう。
 それに先刻ヴァジュラを仕留めたシンの戦い方は、アネットの言う「敵の反撃を許さずに一気に叩く」戦いの体現ではないか。
 しかしそのシンは、件の命題において防御の重要性を説いている。まるで言動と行動が一致していないようにアリサには思えるのだ。

「俺は臆病なんだよ」

 アリサの指摘に、シンはそう答えた。答えになっていない、と不満そうな顔で見上げるアリサに、シンは続ける。

「……俺が昔パイロットだったのは、アリサも知ってるだろ?」

 シンの問いに、アリサは無言で頷いた。以前、アリサは新型神機使い特有の感応現象によって、シンの過去を見ている。
 シンがこの世界とは違う別の地球の軍人で、「モビルスーツ」と呼ばれる兵器のパイロットだったことも、その世界でエースと呼ばれていたことも知っている。

「神機使いはモビルスーツとは違って生身の戦いだ。撃たれればそれだけで致命傷だし、セーフティシャッターなんて都合のいい物もない。本当に、簡単に死ぬんだよ」

 かつてシンは、先輩神機使いが目の前でアラガミに喰い殺される姿を見ている。その光景は今でも今でも頭から離れず、最早ちょっとしたトラウマだ。
 あの時、シンは仲間を助けるどころか、その場から一歩も動くことすらできなかった。ソーマがいなければシンまでもアラガミの餌食となっていただろう。
 その時の体験はシンの中で、モビルスーツを駆って経験したどんな戦場よりも、鮮烈な「死」を感じさせた。
 シンの考えが変わったのはその時だろう。それまではただ我武者羅に敵を倒せばいいと思っていたが、それ以来シンの中では「生き延びること」が最優先事項となった。

 また、コウタという同期がいたことも大きかった。射撃型のコウタは懐に入られるとひとたまりもない。
 シンが抜かれるとコウタが死ぬ。アリサが入るまで、シンの役目は前衛兼コウタを守る盾だったのだ。そのために防御を徹底的に固めるのは当然の選択だった。

 まず装甲は抜群の頑丈さを誇るタワーシールド系を選択し、機動力の低下を一撃の威力で補うためにバスター使いへ転身。
 さらに機動力が低下し、最早攻撃を避けることすらままならなくなったが、そこは「避けなければいい」という逆転の発想で、ありったけの防御系強化パーツで守りを固めた。
 そして完成したのが、「歩く要塞」とも言うべき今のシンの戦闘スタイルだった。ある意味、究極のゴリ押しである。

「それは、また……」

 憧れの人から語られた知られざる裏話に、アリサは開いた口が塞がらなかった。
 本末転倒というか、何かが致命的に間違っている気がするのは、果たしてアリサの気のせいだろうか?
 しかし、アリサにも一つだけ分かったことがある。

「とりあえず、私は今後も神機の強化は攻撃方面を優先する方針で良さそうですね」
「何だそりゃ?」

 今の話を聞いて、果たしてどんな思考回路を辿ればそんな結論になるのか? 首を傾げるシンに、アリサはふわりと笑顔を見せる。

「――だって、危なくなっても貴方が守ってくれるでしょう?」

 そう言って、アリサは甘えるようにシンに寄りかかった。

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最終更新:2012年07月03日 08:42
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