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ツキノケモノ氏の小ネタ-03

1

 割といつものことだが、シン・アスカと愉快な仲間達(別名:フェンリル極東支部第一部隊)は今、絶体絶命の窮地に陥っていた。
 今回の標的は新種のウロヴォロス種と思われる超大型アラガミ。トリコロールなメタリック・ボディが眩しい強敵である。

「ソーマ! 接近してデカいのブチ込むぞ!!」
「ふん、足引っ張るなよ?」

 合図とともにシンとソーマが神機を振り上げ、アラガミへ突撃する――が、敵の大型ブレードに二人揃って薙ぎ払われた。
 ホームランボールの如く空中高く打ち上げられ、そのまま岩壁へ激突。普通の人間ならこの時点で二度は死んでいる。だがシンもソーマも、普通の人間ではない。
 オラクル細胞で強化された二人の肉体は、たかが鋼鉄の塊にフルスイングでどつかれ、岩壁にめり込む程度のダメージなど物ともしない。

「くっそぉ、接近戦は危険だな……コウタ、アリサ! 遠距離からバレットで牽制だ!!」

 仲間に次の指示を飛ばしながら、シンは神機を銃形態に変形。コウタ、アリサと三人で弾幕を浴びせる――が、敵の極太レーザーに全員まとめて吹っ飛ばされた。
 常人なら一瞬で消し炭になる程の熱量がシン達を襲う。しかし流石はゴッドイーター。その程度のダメージなど、ちょっと熱い程度でどうということはない。

「……なぁ、シン。俺、最近自分が人間だって自信なくなってきたんだけど、お前はそこんトコどうよ?」
「気にするな。俺も気にしない」

 全身からプスプスと煙を上げながら遠い目をして尋ねるコウタに、同じくこんがり焼かれたシンが明後日の方向を眺めながら答える。
 人、それを現実逃避と呼ぶのだが、そのことを指摘する者はこの戦場にはいなかった。

「ふん、そんなモンで落ち込んでんじゃねぇよ」

 哀愁漂う二人の背中に、ソーマが呆れたように声をかける。

「――俺は初任務の時、核爆発に巻き込まれて生還したぞ?」
「「マジで!?」」

 さらっと続いたソーマの爆弾発言に、揃って驚愕の声を上げるシンとコウタ。

「ロシアのアラガミ掃討戦で、旧連合軍の連中、俺達ごと核融合炉を爆破しやがったんだ」
「その状況から生還するとか、どんだけ頑丈なんだよ俺達……。パネェ、オラクル細胞マジパネェ」
「というか俺はソーマが過去語りしてる事実に驚きなんだが。デレ期か? 遂にソーマにデレ期が来たのか?」

「 ア ホ な こ と 話 し て な い で 戦 闘 に 集 中 し て 下 さ い !!」

 無駄話に花を咲かせる男どもに、アリサのツッコミが炸裂する。

「シン、貴方はこっち(ツッコミ)側の人間でしょう!? お願いだからそっち(ボケ)に行かないで! 私を一人にしないで!!」

 涙ながらに訴えるアリサに、シンは不覚にもドキッとした。だがシンが何か言う前に、コウタが横から茶々を入れる。

「あらヤダ、アリサったらこんな戦場のド真ん中で何て大胆な!」
「黙れ馬鹿コウタ!!」
「あ、俺達のことは全然気にしなくていいからさ! その辺の置物か何かだと思ってなって! なぁ、ソーマ?」
「……俺に振るな」

 グダグダになりつつある神機使い達を見下ろし、敵アラガミが頭のバルカン砲を掃射。小型のオラクル弾が雨のように降り注ぐ。

「いででででっ! 地味に痛いよこれ!? というか今更だけど、アレ本当にウロヴォロス? 何か妙にメカメカしいし、カラフルだし、羽生えてるけど完璧に人型じゃん」
「本当に今更な疑問だな、コウタ」

 痣だらけの顔でぼやくコウタに、シンが回復錠をかじりながら相槌を打つ。実際のところ、コウタの指摘通り、今回のアラガミはウロヴォロスなどではない。
 サイズがサイズなだけに暫定的にウロヴォロス種扱いされているが、全くの新種であることは一目瞭然だ。特にシンは、それをよく知っていた。


 アラガミ、それはあらゆるものを捕喰する「オラクル細胞」から形成される異形の怪物。
 「人類の天敵」「絶対の捕食者」「世界を破壊するモノ」などと呼ばれる、この地上の実質的な支配者。
 アラガミ、というよりオラクル細胞の一番の特徴として、「食べたモノの形質を取り込む」ことが挙げられる。
 オラクル細胞の遺伝子配列が発見当時から全く変化していないにも拘らず、多種多様なアラガミが存在するのはそのためである。
 例えば植物の性質を取り込み、光合成を行うアラガミのおかげで、植物が激減した現在でも地球の大気は保たれているし、中にはミサイルを発射するアラガミもいる。

 そして例えば、人型の巨大兵器があり、それを捕喰したアラガミがいたとする。
 人型兵器の形質を取り込んだアラガミは、一体どのように進化するか――その答えが、目の前にいた。
 額に輝くV字アンテナ、背中に生える真紅の翼、大剣と大砲という極端な武装。多少姿は変わっているが、間違いない。アレはかつて、シンが共に戦場を駆けた「相棒」だ。

「あの時、バラバラに吹っ飛んだ筈なんだけどなぁ……」

 アリサ達に気づかれぬように、シンはこっそりと溜息混じりにひとりごちる。

「――なぁ、“デスティニー”?」



 シン・アスカは、この世界の人間ではない。どこかで歴史が分岐したもう一つの地球、所謂並行世界の人間なのだ。
 そして“デスティニー”とは、シンとともに「向こう側」の世界からやってきた兵器である。正式名称ZGMF-X42Sデスティニー、「向こう側」の最新鋭技術の結晶だ。
 シンがこの世界に流れ着いて最初に行ったこと、それはデスティニーの自爆だった。
 それはこの機体が軍事機密の塊であるから――ではなく、単純にアラガミから逃げるための緊急措置だったりする。
 オラクル細胞は何でも食べる。あらゆるものを捕喰し、自らの知識に変えるアラガミにとって、あらゆる意味で未知の存在であるデスティニーは御馳走だった。

 シンにとっては、月面に墜落したと思ったら地上で謎の怪物の大群に襲われていたのだ。ポ○ナレフもびっくりな超展開である。
 生き残るためにシンは満足に動かない機体を捨て、ついでに動力炉を暴走させてアラガミを一掃しようとしたのである。そして、その試みは成った。
 これがただの核爆発だったならば、捕喰によって既に耐性を備えたオラクル細胞に効果はなかっただろう。アラガミに通常兵器が効かない所以である。
 しかしデスティニーの動力炉はただの核エンジンではない。「向こう側」の世界独自の技術であるデュートリオンエンジンと核エンジンの複合機関だ。
 当然、オラクル細胞が耐性を持つ筈がなく、プラズマ化したデュートリオン粒子がアラガミを容赦なく焼き尽くした。
 だがそれによってアラガミはデュートリオンすら学習し、二度と同じ手は使えないだろう。
 もっとも、この世界にデュートリオンエンジンが存在しない以上、この仮定に意味はないのだが。

 ちなみにデスティニーの自爆によってその区域一帯は汚染され、現在では神機使いでさえも近づけない第一級危険地帯に指定されている。

 デスティニーの機体自体もその時にバラバラに吹き飛び、原型さえも残っていない筈だった。
 しかし今、シンのかつての相棒はアラガミとして復活し、シン達の最大の敵(物理的な意味で)として牙を剥いている。オラクル細胞恐るべし、である。



   .


 アラガミ・デスティニーが翼を広げ、虹色の光を噴射しながら空中へ浮き上がる。飛びやがった! とシン達は声にならない悲鳴を上げた。面倒くさい的な意味で。
 シン達の手の届かない遥か上空まで浮上し、アラガミ・デスティニーは遠慮なくレーザー砲を撃ちまくる。

「ドチクショー! あいつ絶対調子乗ってるよ!!」

 降り注ぐレーザーの嵐から逃げ回りながらコウタが悲鳴を上げる。しかし攻撃が届かない以上、今は逃げるしかない。
 どうにかして相手を再び地上へ引きずり降ろさなければ勝ち目はない。しかし撃ち落とそうにも剣は届かず、銃では火力が足りない。

「あれ、詰んだ? これってもしかして手詰まりじゃね!?」
「だ、大丈夫だ! まだ手はある!!」

 自棄になったように叫ぶコウタに、シンが息を切らしながら答える。だが言葉は頼もしいが、バテバテの顔で台なしだった。

「ソーマ、こうなったら最後の手段だ! “アレ”やるぞ!!」
「……本気か?」

 ソーマがぎょっとしたような顔でシンを見る。抽象的な指示だったが、唖然と目を見開いたソーマの顔は明らかにシンの意図を理解したものだった。

「他に方法はないだろ!? 俺を信じろ!!」
「……今度こそしくじるんじゃねぇぞ?」

 必死の形相で説得するシンに、ソーマはそう言って立ち止まり、神機を肩に担ぐように構えた。
 ノコギリ状の刀身を物質化したオラクルエネルギーが包み込み、半透明の巨大な光の刃を形成する。チャージクラッシュの体勢だ。
 しかし如何にチャージクラッシュでも、遥か上空を浮遊するアラガミ・デスティニーまでは届かない。コウタとアリサにはシンとソーマの意図が理解できなかった。

 無論、足を止めたソーマをアラガミ・デスティニーが見逃す筈がなく、大出力レーザーがソーマめがけて容赦なく撃ち放たれる。

「アリサ! コウタ! 身体張ってでもソーマを守れぇっ!!」

 仲間に指示を飛ばしながら、シンはソーマの背後に回り込む。そしてオラクル刃の先端に足をかけ、乗った。

「いいぞ、ソーマ!」

 シンの合図を受け、ソーマは「うおお」と雄叫びを上げながらチャージクラッシュを放った。
 その拍子にオラクル刃に乗ったシンが、ソーマの肩を支点にしてテコの原理でアラガミ・デスティニーめがけて勢いよく撃ち出される。まさに人間カタパルトである。
 ぐんぐんと高度を上げてアラガミ・デスティニーへ近づきながら、シンは神機を構えてチャージクラッシュの体制を取る。

 だがその時、アラガミ・デスティニーが迎え撃つようにシンへ右手を突き出した。掌の中心に破壊的な光が集束する。
 “パルマ”か! シンはゾッとした。パルマフィオキーナ掌部ビーム砲、デスティニーの両手に搭載された隠し武器である。

「うおおおおおっ!!」

 シンは怒号とともに身体を捻り、独楽のように全身ごと回転しながら神機を振り抜いた。
 シンのオラクル刃とアラガミ・デスティニーの掌が激突し、そして――。



   .


 その後、何やかんやありながらもシン達はアラガミ・デスティニーの討伐に成功。今回の任務は完了した。二度と戦いたくない、というのが全員の感想だった。
 どうしてこんなことになってしまったんだろう? 沈黙するアラガミ・デスティニーをぼんやりと見上げながら、シンは自問した。
 既にコアは摘出し、この巨体が再び動き出すことはない。
 いずれはこの形を保っていられなくなり、霧散したオラクル細胞から新たなアラガミが生まれるだろう――ハンニバルのような規格外でない限り。

 かつての愛機と戦うことに抵抗が全くなかった訳ではない。仮にも戦場で命を預ける一番の戦友であり、平和な世界を切り拓くための頼もしい“力”だったのだ。
 しかし今や、かつての相棒は平和を脅かす“敵”と成り果ててしまった。それはシンの願いとは真逆の存在だ。
 だから倒した。それ自体に後悔はない。だが、完全に割り切ることもできなかった。
 悲しさ、虚しさ、他にも様々な感情がシンの中でぐちゃぐちゃに混じり合い、この気持ちを言葉にすることはできない。しかし一つだけ、はっきりと言えることがあった。

「――このデスティニーが最後の一匹とは思えない。いずれ第二第三のデスティニーが……」
「「「縁起でもないこと言うな!!」」」

 フルボッコにされた。

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最終更新:2012年07月03日 08:59
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