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そろそろ多重クロス-05

1

※下ネタ注意





ギル「今日も今日とて複座式コクピットシートの実験を行う事にした」
QB「へぇ、今回はどんな体位…配置方法だい?」
ギル「前々回と同じ背面座…膝抱っこ式だ。ただ今回は座席ではなくパイロットスーツの方を改良したよ」
QB「なるほど、だからシンとほむらは一つのパイロットスーツを二人で装着しているんだね」
ギル「日本の二人羽織と言う伝統芸能を参考にした開発させた物だ」
QB「これなら操縦桿に手が重なって操縦の障害になると言う問題点を解決出来るね」
ギル「加えて、更なる密着、いやがおうにもお互いを意識させる。その結果二人の集中力は極限まで高められ、精神コマンドの相乗に繋がると私は推測する」
QB「人類の発想には本当に驚かされるよ。これなら以前の時よりも更に多めのエネルギーを回収できそうだ」
ギル「ただし問題がある」
QB「問題?」
ギル「過度な密着はメインパイロットに…つまりシンに対して大きな負担を与えてしまう」

シン「…ごめん」
ほむら「…最低ッ!」
シン「わざとじゃない…頑張って耐えようとしたんだよ…俺は」
ほむら「言い訳しないでよ…ぬるぬるしてるから気持ち悪いのよ」

ギル「…結果、あの様な状況が発生してしまう」
QB「無我の境地、明鏡止水、クリアマインド…様々な名を持つ、人類の雄が一瞬の間だけ到達すると言う領域。
   一瞬とは言え隙を作る状態だ。改善すべきだ」
ギル「それは無理だ。あれくらいの年頃の男子とはそう言う物だからね」
QB「面倒だね、人類の雄は」
ギル「手厳しいね。あははは」
QB「あははは」

おしまい


ほむら「あなたには言いたい事が山ほどあるけど…」
シン 「うん…あいつらを」

ほむ&シン「始末しよう」

ほんとうにおしまい

2

一人の少女が、朝の柔らかな空気の中を、今の空模様に似た青色と白を基調にした学生服を身にまとい、軽やかな足取りで駆けていた。
今日はどんな一日になるのだろうか、今日は一体どんな出来事が、ウルトラハッピーなと出会う事になるのだろうか。
そのように考えながら、期待に胸を躍らせながら、少女は――星空みゆきは、学校へ続く道を駆けていた。

そんな彼女の軽やかな足取りは、通学路の途中に差し掛かった辺りで段々とゆっくりなものになり、やがて立ち止まる。
立ち止まって、みゆきは顔を上げて青空を見つめる。

「なんだか、ずっと昔の事みたいだなぁ…」

そっと閉じた目蓋の裏に、自身の運命が大きく変わった、今日の様に青空が広がる朝の光景を浮かび上がらせる。
まだ一年も経っていないのに、何年も前の出来事の様に思えるのは、その日から積み重ねてきた一日一日が、とても濃密で充実しものであったからだろう。

「みゆき?」
「…」
「みゆきっ!」
「わっ、キャンディっ?」

空を見つめ、思いを巡らせるみゆきに声をかけたのは、彼女が肩にかけたカバンの中から顔を出す、小さなぬいぐるみの様な生き物。
みゆきの日常と運命が大きく変わる切欠となった妖精、そして何よりも大切な友人、キャンディ。
黙って空を見つめるみゆきの様子を不審に思い、みゆきに呼びかけたきたのだ。

「みゆきボーっとしてるクル! どうしたクル?」
「あはは、ごめんねね。実はね、キャンディと初めて会った時の事を思い出してたの」
「みゆきと初めて会った時クル?」
「そうだよ。丁度この辺かな、絵本が飛んでるのを見つけて…」
「みゆきにぶつかったクル!」
「あの時はびっくりしちゃった…でもね、それ以上に嬉しかったよ、ウルトラハッピーだったよ。だってキャンディと出会えたんだもん!!」
「クルッ! キャンディもみゆきと会えてよかったクル! ウルトラハッピークル!」

カバンから体を出し、みゆきの胸元へと飛び付くキャンディ。
みゆきは最初こそ戸惑うが、すぐに満面の笑みを浮かべると、キャンディを優しく抱きしめる。

「わっ!?」
「みゆきっ! 今日もウルトラハッピーな一日にしようクル!」
「うん! 今日も一日、ウルトラハッピーにがんばるぞー!」
「おーっ! クルーっ!」

胸に抱いたキャンディをカバンへと戻し、再び歩き出そうとするみゆき。
だが突然、柔らかなはずの空気が、刺す様な硬さと冷たさを帯びて肌を覆う感覚に襲われる。
ぞわりとした冷たいものが背筋を走る不快さに驚き、その場で固まってしまう。


「っ!? 何だろう? …ひょっとして?!」

何事かと辺りを見渡すみゆきの脳裏に過ぎったのは、バッドエンド王国の怪人の襲来である。
だが近くに怪人の気配を感じる事もなければ、周囲のバッドエンド空間へと変容しているわけでもない。
そもそも、バッドエンド空間の空気とはまた異質の空気だった。


「違う…のかな?」
「クル~みゆきぃ? どうしたクル? 何かあったクル?」

気が付けば、空気も先ほどの柔らかな物へと戻っている。
勘違いだったのだろうか?
そう考えるみゆきに、再びカバンから顔を出したキャンディの声が届く。

「…え? あっと…なんでもないよ。ねぇキャンディ、さっき変な感じがしなかった?」
「クル?」

キャンディは何も感じていなかったらしい。
と言う事はやはり気のせいかと、気にしすぎたかと、溜息と共に張り詰めていた緊張と不安を吐き出す。

「きゃっ!?」
「くる~!?」

まるでみゆきの緊張がほぐれた時を見計ったかのように、今度は空気の震えと同時に、みゆきの華奢な体を突き飛ばさんばかりの強い突風が巻き起こったのは。
カバンから身を乗り出していたキャンディの体は、風の力に押されてカバンの中へと転げ落ちてしまう。
風の吹き付ける方向を見ると、先ほどまでは雲しか浮かんでいなかったはずの空に、何かが浮かんでいるのが分かった。
最初は親指程の大きさ、数秒後にはこぶし大、さらに数秒後にはサッカーボール程の大きさと、段々と膨らむように大きくなっていく。
大きさが増すに従い、物体の輪郭かはっきりしだすと、その物体が人の形をしているのが分かる。

だがみゆきは、それが人だとは思えなかった。
人のシルエットにしては体に丸みが少なく、代わりに鋭さが目立ち、さらに形もどこか歪さを感じさせる。

大きさを増していくのは物体だけではない。
風の力もどんどんと強くなり、今では踏ん張っていなければ、体を突き倒されてしまいそうになる程に強くなっている。

その間にも大きさを増していた物体は、ついに人間の大きさを超える。
この大きさになると、物体の全身は金属質な体をしていて、みゆきの制服と似たような青と白の配色である事が分かる。
歪さの正体は、両腕の長さが不ぞろいであった事と、その背に生えた、血の様に真っ赤で、そして鋭角な翼のせいであった。

「ひょっとして…ロボット?」

みゆきの言う様に、物体の正体はロボットであった。
それもテレビや本の中でしか見る事の出来ない、巨大なロボット。
そんな巨大なロボットが空を飛んでいる、自分達の方へと滑空するように近づいて来ている。

いや、こちらへと落ちて来ている。

「う、うそ、でしょ…?」

自分達にぶつかってしまう、あるいは近くに落ちてしまう。
その事に気付いたみゆきは、当然逃げ出そうとする。
だが足は棒の様に固まってしまい、一歩も動かすことが出来ない。
それは強い風の影響なのか、それとも圧倒される程の巨大さに気圧されたからか、あるいはその両方か。
ようやく出来たのは、その場にしゃがみ込む事だけ。
巨大ロボットが頭上に差し掛かり、その影がみゆきの体を黒く塗りつぶした時だ。
地上と、そこにいるみゆきと巨大ロボットとの距離は、もはや十メートルもなかった。


辺りの木々をへし折らんばかりの暴風と共に、みゆきの頭上を通り過ぎていく。
みゆき達に直撃しなかった事は幸いであったが、どちらにせよ近くに落下すれば、その際の衝撃が自分達を襲う。
せめて小さな友人だけは守ろうと、キャンディの入っているカバンを庇うように力強く抱きしめ、襲い掛かる衝撃に備え、きゅっと眼をつむる。

それから何秒も経つ。
だがどれだけ待っても、衝撃が体を襲う事も、それ以外の何かが起こる事も無かった。
逆に吹き付ける風の力は弱まりはじめ、ついには消えてしまう。
恐る恐る目を開いて辺りを見渡すと、自分の体を塗りつぶしていた黒い影は無くなっていた、巨人の姿も無くなっていた。
どこか遠くに落ちた様相もない、まるで風と共に消えてしまったかのように。

先ほどまでの光景が嘘であるかのように、周囲は静けさを取り戻していた。

「なに…なんだったの…」
「クル~苦しいクル~!」

事態の変化を飲み込めず、ただ呆然と立ちすくむみゆきの耳に、抱きしめたカバンの中からくぐもった声が届く。
カバンを開けると、乱れた荷物に押し潰されそうになるキャンディの姿があった。

「キャ、キャンディ!?」

みゆきは大慌てでキャンディを救い上げる。
自分を潰す荷物の圧迫感から解放されたキャンディは、新鮮な空気を求めて大きく呼吸をする。

「ひどいクル! ぺしゃんこになっちゃうクル!」
「ごめんねキャンディ! 本当にごめんね!!」

みゆきの力であっても、力いっぱいで抱きしめてしまえば、小柄なキャンディにはたまった物ではない。
今にも泣き出しそうなキャンディに対し、みゆきはひたすら謝るばかりであった。

「ところでキャンディ」
「クル?」
「さっきの…見た?」

キャンディの機嫌が直りはじめた所を見計らって、みゆきは先程の出来事を、巨大ロボットの事を尋ねるが。

「さっきのって何クル?」

風に吹き飛ばされ、カバンの中で潰されていたキャンディが知る由もない。
みゆきは小さく肩を落とす。

「だよね…」

幻覚だったのだろうか。
確かに幻覚であるのなら、ロボットがどこかに消えてしまった理由も説明が付く。
だがあの風や空気の震えは間違いなく本物、全てを幻覚と一蹴してしまうにはリアルすぎる。
バッドエンド王国と関係しているのだろうか、何か悪い事の前触れではないのか。
湧き上がる不安を抑えられない、心が埋め尽くされていく。

「みゆき?」

不安に飲み込まれかけたみゆきの心を呼び覚ましたのは、彼女の様相を心配するキャンディの声だった。

「どうしたクル?」
「ううん、何でもないよ…」

いらぬ心配させまいと、キャンディにいつも通りの笑顔を振舞う。
ここで立ち止まっていても、一人で悩んでいても仕方がない。
学校に行って、友人達に今回の事を相談しよう。
あの光景が現実なら、他に目撃した友人がいるかもしれない。
自分一人では答えを出す事が出来なくとも、皆の智恵を借りれば、答えを出す事も可能だろう。
そう考えたみゆきは、学校への道を再び歩みだした。

だがやはり心に引っかかってしまう。
そのせいだろう、先ほどまでの軽やかさは、今のみゆきの足取りには無かった。

3

真っ暗闇が広がっている。
全てを塗りつぶす程の真っ暗闇、目蓋は開いているはずなのに、光すら通さぬ程に真っ暗な世界が。

そんな中に、たった一人で置き去りにされている。

暗闇の世界は身を切り裂くように冷たい。
体はおろか指先一つ動かす事が出来ないのは、単に力が入らないだけなのか、あまりの寒さに体が凍り付いしまったからなのか。
そんな冷たい世界の中にいると言うのに、体のあちこちに焼けるような熱い痛みが広がっている。
特に腹部に広がる一文字に切り裂くような痛みと熱は尋常ではない。
もしかすると本当に切り裂かれていて、体の半分が失っているのではないかと思う程の痛みと熱を感じている。

凍て付くような寒さ、焼かれるような熱。
相反するはずの二つの感覚が一つの苦しみとなって容赦なく全身に襲い掛かる。

どうしてこんな思いをしなければならないのだろう、どうしてこんなに苦しい場所にいるのだろう。
原因を思い返そうとしても、何一つ思い出す事ができない。
それどころか自分が何者なのかさえも思い出す事ができない。

怖い。
このまま訳も分からないまま、たった独りでこんなにも苦しい世界に居続けなければならないのかと思うと怖い、とても怖い。

誰か助けて、ここから出して。
そう叫ぼうとする、声を上げようとする。
だが口を開く事ができない、唇を震わせる事すら出来ない。
それでも何度も口を開こうとする、何度も何度も声を上げようとする。
諦めずに何度も、諦めずに何度も何度も。

やがてそれすらも苦痛へと変わりはじめ、諦めを感じはじめる。
諦めは絶望と恐怖に形を変えて行く、心に恐怖を生みつけていく。
生みつけられた恐怖に、心と意識が食いつくされていくのが分かる。
痛みと苦しみに、さらに気持ち悪さが加わる。

もう、どうする事もできないのだろうか。
このまま苦痛に体と精神を永遠に蝕まれ続けるだけなのか。

そんなのはいやだ、誰か助けて、早く助けて。
再び声を上げようとする、叫ぼうとする。
だが相変わらず、声を上げる事は出来ない。

誰にも助けてもらえない、この暗闇の中に、永遠にひとりぼっち。


そんなのはいやだ、解放されたい、今すぐこの苦しみから解放されたい。

感じる心が消えてしまえば、苦痛も気持ち悪さも無くなる、何もかもから解放されるのではないか。

そうしてしまえば、もう二度と目蓋を開く事が出来なくなる。
だがその見返りが苦痛と孤独と恐怖からの解放だと言うのなら十分につりあっている。

解放されるのなら、それがいいのかもしれない。
解放されるのなら、それが唯一最善の方法なのだ。

そう考えるだけで苦痛が和らいでいくように思える、恐怖が薄れていくように感じる。
これでいい、このまま消え去ってしまおう。
やすらかな世界に近づくために目蓋を閉じる。

何かに体を塗りつぶされていくのを感じながら、眠りの世界へと堕ちていく。


――…


その間際。
薄れ、消え、落ち行くを待つだけの思考に、何かを感じる。


――……


それは小さな音の様に思える。
目蓋を開き、落ち行く思考を必死で繋ぎ止めて、耳を澄ます。


――ダメ…


それは小さな声、何処からか聞こえる誰かの言葉だった。
ダメ、その言葉は何に対して向けられているのだろう。


――目をさまして


それは今まさに、眠りに付こうとしている自分に向けられた言葉だと理解する。
どこか聞き覚えのある声色、だがそれが誰のものであるのかを思い出す事ができない。

どうして邪魔をするのか、誰なのかを尋ねようにも相変わらず声を上げる事ができない。
声の主を見つけようにも視界は真っ暗闇が広がっている、体も凍りついた様に動かないまま。


それっきり声が聞こえなくなる、幻聴だったのではないかと思いはじめる。
小さな小さな希望が大きな絶望へと変わる。
希望を感じて目を覚ました、そうしたら心はさらなる絶望を味わってしまった。
絶望から逃げるために、再び目蓋を閉じていく、今度こそ堕ちて行くために。


――眠ったらダメ


再び声が聞こえる。
今度はやわらかくぬくもりを伴って。
幻聴ではなかった、誰の声かは思い出す事は出来ない、けれども声が本物であった事だけでも嬉しい、心の中の恐怖が薄れていく。
再び目蓋を開く、その目は何も捉える事が出来ない。
だが例え姿を見る事は叶わなくとも、その事実だけでも心が安らぐ。


――明日が来る…


言葉と共に、真っ暗闇だった世界を光が切り裂きはじめる。
闇に覆い包まれた体に光が届きはじめると、光に触れた部分から徐々に体温を取り戻していく。
それと同時に寒さと痛みも和らいでいく。

光が広がっていくにつれ、その中に何かが浮かび上がってくる。
それは逆光を受けた人の影。
声の主なのだろうか、自分を助けに来てくれたのだろうか。
だったら自分はここにいる、早く見つけて、早く助けてと腕を伸ばそうとする。

寒さが薄れ、熱と痛みが和らぎはじめていても、まだ体に力が戻っている訳ではなかった。
腕を伸ばすどころか、指先一つ満足に動かす事が出来ない。
このままでは気付いてもらえないかもしれない、折角の希望を逃してしまう、今度は焦りが広がりはじめる。


――見つけてあげて…


動かす事の出来ない腕を何かが包みこむ。
やさしく、やわらかく、あたたかな感触が、力の入らない腕を取って人影の方へと導いてくれる。

自分に伸ばされる腕に気付いたのか、人影も同様に腕を伸ばす。
互いの手が触れ合うと、人影は手を加減知らずに強く握りしめてくる。
少しばかりの痛みを与えるが、その痛みを苦痛と感じる事はない。
むしろ心地よい痛みだと感じるのは、相手の手の平からぬくもりが伝わるからか。

――ありがとう…明日がもらえて、うれしかった

それと共に、今まで自分の腕を取っていてくれたぬくもりが薄れていく。
体をやさしく抱きしめると、まるで自分の役割は終わったと言わんばかりに、薄らぎ、消えていった。


――みんなと笑顔でいてね…シン


ぬくもりが去り行く刹那。
そんな言葉が聞こえたようにシンは感じた。

“ありがとう…ステラ”

シンはそっと、心の中でそう呟いた。

4

女性と言うのは、色事には機敏な生き物である。
それは青春を謳歌する乙女であっても同じ。
いや、ひょっとすればこの位の年頃が、最も敏感であるのかもしれない。

「ねぇねぇ星空さん」
「わ、どうしたのみんな?」

週明けの月曜の朝。
いつもと変わらぬ様に登校した星空みゆきの席に、二年二組の少女数名が詰め寄る理由。

「昨日、一緒に歩いてた人って誰? ひょとして彼氏とか?」

そう言った乙女の琴線を刺激する目撃したからである。

集まった少女達の中の一人、ウェービーヘアの気の強そうな少女の発した“彼氏”と言う単語。
その単語を耳にした現在二組の教室に存在している生徒全員の動きがピタリと止まる。
二組はおろか七色ヶ丘中学校でも最も色事と縁遠い存在であろうと思われるみゆきに彼氏がいるかもしれないと言う事態に対し、皆一様に驚きの表情を浮かべていた。

「え、昨日?」
「そう、昨日の夕方、この子がね、星空さんが帽子を被って杖をついてた男の人と一緒にいたのを見たって言うの」
「…ひょっとしてシンさんの事?」
「シンさんって言うんだ…ねぇ、その人とはどんな関係なの? やっぱり彼氏なの?!」
「えっと…えーっと、ね…シンさんはね…」

みゆきが言葉を選ぶのは、相手の事を名字でなく名前で呼ぶ事を加味して、やはりただならぬ間柄だからだろうか。
そう言った関係ならば、一体どこまで進んでいるのだろうかと、下世話の領域に入る想像をする者もいる。
単純な好奇心、先を越されたかもしれないと言う焦り、相手への嫉妬の念を抱いている男子もいた。
様々な思いを抱きながら、教室にいる全員が黙ってみゆきの言葉を待った。

「シンさんはね、私の…」

みゆきの言葉を遮るように聞こえてくる予鈴と、僅かに遅れて教室に入ってくるクラス担任のなみえ、遅刻をどうにか免れた数名の生徒。
なみえの登場で、これ以上の追求は無理と判断した少女達は、それぞれの席へと戻る。
もちろん、授業が終わり次第再び追求するつもりである。

「なんやぁ、みゆきにもついに春が来たんやなぁ」
「わっ、あかねちゃんまで…」
「なぁなぁ、そのシンさんってのはどない人なん? ウチにこーっそり教えてみ?」

上体を後ろに傾けた体勢でみゆきにひそひそと話しかけてくるあかね。
彼女は少女達の輪に加わってはいなかったが、話はしっかりと聞いていた。
むしろ聞こえて来ない方がおかしい位置である。
あかねはみゆきの前の席と言う利点を活かし、他の友人達に先駆けて情報を得ようと言う魂胆で話しかけてきたのだ。

「日野さん、ホームルーム始めるわよ」
「えっ? あはは…すんません、先生」

だがそれも、担任のなみえと授業開始の鈴によって阻まれてしまう。
今日もまた、普段通りに一限目の授業が始まった。



 ・ ・ ・


一限目の授業の最中の七色ヶ丘中学校の敷地内を、一人の男が歩いていく。
表情を隠す様に黒いキャップ帽を目深く被った男。
左足に怪我をしているのだろうか、右手で松葉杖を付きながら、若干不自由な足取りで歩いている。
松葉杖がコンクリートの地面の上を付くたびに、コツ、コツと言う小さな音が響く。

響く音と共に進み続け、やがて“外来者用玄関”との張り紙が出された玄関へとたどり着く。
玄関で靴を履き替えようとする男の前に、タイミング良く初老の男性教員が現れた。

「おや、おはようございます。どの様な用件でしょうか」
「…おはようございます。星空みゆきと言う生徒に届け物があります」

教員の穏やかな声と、男の抑揚のない声のやり取り。
男が脇に抱えた鞄から取り出したのは、七色ヶ丘中学で使用されている教科書とノートの二冊。

「これは忘れ物ですか? ご家族の方ですか?」
「あ、えっと、はい。俺…いや、自分は星空みゆきの…」

教員の言葉に、男は帽子の下に隠れている瞳が僅かに揺れ動く。
誤魔化すように男は小さく咳払いをすると、改めて顔を向き合わせると、今まで帽子の影に隠れていた目元が、赤い瞳が僅かに見える。

「…兄、です」

険しさを浮かべる赤い双眸を持つ、星空みゆきの“兄”と名乗った少年。


いつもと変わらない、月曜日の朝の出来事。
星空みゆきが巨大ロボットを目撃してから十日経った日の出来事であった。

5

少女達の前には、とても奇妙な事態が広がっていた。
その中心に存在しているのは、知り合いの、一人の少年であった。
少年の存在自体は普通であるのだが、その少年――シン・アスカが女装し、形容しがたい変な生物達に囲まれていれば、十分に奇妙な光景である。
加えて、ビデオカメラを手にした、黒色の長い髪をした一人の男性と、小さく白い四本足の耳が長い生物が、その光景を見守っていれば、より一層奇妙である。

「なんやねん、アレ」

日野あかねの開口一番が、疑問とツッコミのセリフになってしまうのは当然の事である。
理解と想像の範疇を超越したこの事態に遭遇し、呆気に取られない方がどうかしている。
呆気に取られ続けている、あかねを始めとした五人のプリキュア達の前で、シンと変な生物達との間で、突如として戦闘が始まった。
我を取り戻した五人が、慌てて助けに入ろうとするが、シンは数的不利をものともせず、軽快かつ巧妙な立ち回りで、かかり来る変な生物達を次々と返り討ちにしている。

「すごい……」

五人の内の、誰か一人の呟き。
だが、五人が共通して抱いた感想だ。
シンと言う少年は、華奢と言うほどでは無いが、比較的、線の細い体躯である。
変な生物の攻撃をいなし、逆に一撃を持って殴り倒し、体を宙に浮かせる程の蹴りを繰り出せる様な膂力を持っている様には、とても見えない。
それに、シンの戦い方は力任せではなく、相手の隙を窺い、すばやく懐に潜り込んでは急所に一撃を加えて倒すと言う戦い方。
傍から見ても、戦い慣れしている事が分かる動きだ。
彼女達は素直に、すごいと感心し、こうも戦いなれている彼の姿に、いささか疑問を感じた。
同時に、涙を堪えながら戦っているシンの姿に不憫さも覚えた。
彼の今の姿は、自分達とシンの間で、何か楽しそうに会話しながら、ノリノリで撮影している一人と一匹に原因があるのだろうと少女達は考え、そして正解であった。

「うぅ……」

五人の内の、誰かの、恥ずかしさの篭ったうめき。
動きが激しくなるにつれて大きくなるシンの動きが、その原因である。
彼は今、自分達プリキュアの様な衣装を身にまとっている。
上半身は肩と胸元を大胆に露出させ、下半身もかなりきわどいミニスカートの組み合わせたデザインである。

拳を突き上げる度に、脇があらわになり、見えてしまうのではないかと危惧してしまう。
足を大きく蹴り上げるたびに、スカートはひらりひらりと翻り、その下に隠された、スパッツに包まれた太ももが見え隠れする。
すらりと細く、だがやせすぎと言う訳でもない、程よく肉の付いた肢体。
キメ細やかな白い肌に包まれたその体には、女性にも劣らぬ魅力が存在している。
今だ発育中とは言え、女性である自分よりも美しいと思えるシンを目の当たりにする事で、五人の少女達の心中に、嫉妬と敗北感が植え付けられて、徐々に大きさを増している。
そればかりではない、それだけなら、まだ良かったかも知れない。
本人も気付かぬ内になのだが、五人の内の何人かに、決して踏み入ってはならない倒錯的な世界へと目覚めようとしている者がいるのだ。

奇妙な光景は、混沌の空気を伴い始めている。
いずれ取り返しの付かない事態へと陥ってしまいかねない。
戦えば戦うほど、一刻も早く事態を解決しようとするほど、事態はより複雑に、そして泥沼なっていく事を、涙を堪えながら戦うシンが知る由はない。
知らせるべきではない、彼に責任はないのだ。

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最終更新:2013年04月20日 20:24
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