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第一話『接触』

 天を見上げる。突き抜けるような青空の中、人影一つ。
 無限に広がるような空が、そこに集約してゆくような錯覚。

「……っ!」

 上がりそうになる悲鳴を押し殺す。そこにいるというだけで威圧されそうな姿。空中にある、杖を構えた白い人影。

「どうして?」

 問い掛けには答えない。代わりに背中のブースターをふかす。
 相手がどうあれ、今は自分の相棒を信じるしかない。そう自分に言い聞かせ、シンは己を包む相棒、インパルスのスロットルを開ける。
 体を宙に押し上げる推力に任せるまま、右手に握ったライフルの引き金を引く。こちらが放つ一撃は、同じ色のバリアにあっさりと防がれる。

「どうして戦わなくちゃいけないの?」

 こちらの攻撃など意にも介さず、話し掛けようとする声。この期に及んで話し合おうとする言葉に、歯軋りしながら届かない言葉を投げる。

「あんたは俺か討つんだ! 今日、ここでっ!」

 戦う気配を察知したのか、人影が動く。杖を一降りすると、桜色の球体が空間に生まれる。その数、八つ。
『Accel Shooter』
 一つがライフルに当たり、手からこぼれる。それでも止まれない。言葉の代わりに、白い筒を手にした。
 ブースターで体勢を戻す間に、筒から光の剣が生まれる。ビームサーベルだ。
 飛び交う桜色の誘導弾を切り払う。シールドで防ぐ手間が惜しい。
 続けざまに打ち込むサーベルの一撃を、手にした杖に受け止められる。

「戦わなくていい方法があるのかもしれない。一緒に頑張れるのかもしれない!
 でも、話してくれなくちゃ何もわからないよ!」
「あんたが! あんたがそうだから戦うんだ!」

聞こえた声に押されたのか、わずか白い人影が押し込まれる。姿勢制御用のバーニヤさえも推力に変え、前へ。ただ前へ!

「高町なのはっ!」

 突き進む。着地など考えない突撃。ライフルでの射撃戦では、どうやったって勝てはしない。
 相手は砲撃と射撃のエキスパート。活路を見出せるのは接近戦以外にありえないのだ。
『Divine Shooter』
 少しだけ開いた隙間にねじ込むように、射撃魔法が舞う。桜色の弾丸を打ちながら後退するなのは。
 流石にそれを追うことはできず、バルカンでの迎撃によって弾丸を撃墜する。低威力の弾頭だが、それなりに役に立つ。今のような迎撃とか。

「止まれないんだね。自分では、もう」

 杖を振るう、なのは。距離を稼いだら、彼女のやることはただひとつ。

「止めるよ、この一撃で。そうしたら、ゆっくり話そうか。本当に分かり合えないのかどうか、
 やってみないと分からないよ」

 さっぱりとした言葉に迷いはない。こうやって彼女は勝ち続け、敵とも分かりあってきた。
 相手の内側にふみこんで、友達になるために邪魔な障害を木っ端微塵に吹き飛ばす。
 それが高町なのは。時空管理局が誇るエースオブエース。

「……」

 だからこそ、シンはブースターを高めて行く。アフターバーナーまで使えば方向転換は出来ない。
 もしもこの状態から彼女の得意技が炸裂すれば、避けることの出来ない自分はもう立ち上がれない。
 だが、と。そこでシンは考えるのを止めた。全て分かった上で、あえて真っ正面から突っ切る。

「あんた一人で終わりにする。だから、越える!」

 そう、不意打ちでは意味がない。真っ正面からの対決で乗り越えなくては、ここで戦う意味はない。
 稼いだ距離のうちで、なのはがシンを貫くか。チャージが終わるその前に、シンがなのはを貫くか。
 分かりやすい結果に落ち着いた勝負の行方。

「全力、全開っ!」
「フルブースト!」

 救われるべき人を救うために戦い、勝利してきた機動六課の英雄、高町なのは。
 戦争を憎み、誰も争わなくていい世界を望み、敗北し続けてきた男、シン・アスカ。
 彼らが何故出会い、こうして戦っているのか。
 それを知るためには、少し時間を巻き戻す必要がある。


 人の出会いが物語を作り、運命を変えていくというのならば。
 人は皆、運命という鎖につながれた、眠れる奴隷なのだろう。
 どんな形であれ、成された一つの出会いが一つの運命を切り開く。
 これは、守るべきもののために走り続ける、不屈のエースたちの物語。

 魔法少女リリカルなのはDestiny 第一話『接触』

 新暦75年、4月。機動六課設立を数日前に控えたある日のこと。
 高町なのはは、哨戒任務の応援ということでミッドチルダ郊外の山地を飛んでいた。

「申し訳ありません、一等空尉。こんな仕事を押し付けてしまって……」
「いいの、気にしないで」

 空挺ヘリに乗った士官の通信に、なのはは片手を振って答える。
 未確認地域での魔力反応があったということで出撃したが、該当地域の哨戒を担当していたヘリからでは目標が見つからないということで、予定の開いていたなのはに出番が回ってきた形になっていた。
 装置の故障ならば笑い話で済むが、そうでない可能性が考慮されて依頼されたのをなのはは知っている。
 最悪の可能性は常に考慮するべきだった。

(見つからないってことは、レリック絡みの可能性もある。慎重に行かないと)

 最近増えてきていた事件のことを考えつつ、該当地域に向かって飛行する。迷いのない飛行をしていたなのはを違和感が襲った次の瞬間。

 山間の一角から、強力な魔道光が空に向かって放たれた。

 ヘリや自分たちに当たる軌道にはないが、分類から言って砲撃魔法に属する、強力な破壊の光。
 その様子を見た瞬間、なのはの頭が戦闘モードに切り替わる。小回りの効かないヘリに後退するように指示すると、該当区域に向かって飛行を開始する。

『ヴィータちゃん、該当区域に高魔力反応あり。こちらから急行するね』
『了解。位置特定だけでいい。あたしが行くまで無茶するな』

 これから同じ小隊になるということで別区域を捜索していたヴィータに念話を送り、戦闘態勢に移行。目に見えた場所に光を放った何かがいるはず。
 サーチの必要性もない。なのははそのまま、該当区域に向かって飛行を開始した。先ほどまでは感じなかった場所に魔力反応を感じ、そのまま急行。
 最初にたどり着いたなのはの目に飛び込んできたのは、周囲を警戒しているらしい二つの影。緑色に塗られた、人の形をしたロボットのような姿。
 一体は小型の突撃銃、もう一体は背中から回された大型砲。地上に立ち武装しているそれに、なのはは記憶を一瞬だけ掘り返した。

(傀儡兵? 何でこんなところに!)

 10年前の事件で戦った、機械仕掛けの兵士。その一体が天に向かって銃口を振り上げた瞬間、なのははレイジングハートに魔力を収束させた。
 相手の動きによって反射的に起こした行動ながら、唱えかけた呪文は飛び込んできた相手によってすんでのところで止まる。

「牽制はこっちがやる! なのははでかいの頼む!」

 横合いから突っ込んできた、真紅の影。二体いた傀儡兵のようなものを、まとめてなぎ倒さんと回転しながら鉄槌が走る。なのはが小さく頷いたのも恐らく見えていないだろう。
 ただ、そうすると信じている。同じチームだからというわけではなく、そういう信頼関係が既に、なのはとヴィータの間にはできていた。

「ラケーテン! ハンマァァァァッ!」

 回転しながら突進するヴィータ。その回転圧力に銃を持っていた傀儡兵は吹き飛ばされ、砲持ちは左肩にジョイントされていたシールドをへし折りながらどうにか耐える。
 追撃しようと砲を振る傀儡兵が目にしたのは、上空で既に準備完了したなのは。突撃して来たヴィータは既に撤退済み。モノアイに写るのは、桜色の魔方陣。

「エクセリオン……」

 発射のタイミングにあわせて、砲口がなのはに向く。チャージされたエネルギーと、上に向いた体。しかし、お互い止まることはなく。

「バスターッ!」

 瞬間、桜色の魔力流が地上に向かって炸裂し。一瞬だけ輝いた砲の一撃をも飲み込んでいった。


「ちょっと、やりすぎちゃったかな……?」
「まあ、向こうも迎撃の態勢とってたしいいんじゃないか?」

 自然の豊かな地域の一角に開いた、クレーターのような破壊痕。そこに降り立ちながら、なのはとヴィータは状況を確認し始めた。思ったより破壊規模が狭まったのは、あの傀儡兵が砲を撃ったせいだろうか。

「なのは、あれ!」

 程なくして、ヴィータがそれを見つけた。膝立ちになり、こちらに向かって砲口を向けていた緑色の傀儡兵。
 装甲はシンプルで、人間型。大きさも3メートル弱と魔力出力に比べてはかなり小さい。ヘルメットのようなつるんとした頭部と、背中に装備した大型のランドセルが異彩を放っていた。
 その指が数度動き、頭と胴の部分に露出した動力パイプのような部位から水蒸気を吐き出す。

『Black Out Damage. Equipment release』

 思わずそれぞれのデバイスを構えたなのはとヴィータの前で、傀儡兵の頭部が真上に傾いた。そのまま90度頭が後方に倒れ、黒いものが外気に触れる。
 一瞬吹いた風にそよいだそれは、人間の髪。

「えっ? これって……」

 思わず駆け寄る。なのはの目の前で、傀儡兵はさらに胸部か左右に割れ、中にいた人間を吐き出していた。空中に投げ出された体を、片手で受け止める。
 色の白い、黒髪の少年。息はあるがかなり消耗しているように見え、とりあえずその場に寝かせる。

「ヴィータちゃん、もう一体いたのは?」
「こっちもだ……。この傀儡兵、中に人が乗ってる!」

 隣にいたヴィータに声をかけると、先ほど吹き飛ばしたもう一体の方に近寄っていた彼女から返答があった。
 木の幹に叩きつけられていた傀儡兵もまた、頭と胸部が展開していた。中から出てきたのは、金髪の少年。黒髪の少年と同年代に見えるし、赤を基調にしたどこかの制服っぽい服装も同じ。

「一体、これは……。気を失ってるだけみたいだけど……」
「とりあえず、調べてみないとだな……」

 傀儡兵から出てきた、二人の少年。年のころで言ったら自分よりやや年下ぐらいだろうか。人が乗り込んで操作する傀儡兵など資料にはない。
 わずか風が吹きつける中、なのはたちは気を失った二人をしばし見つめていた。

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最終更新:2012年07月03日 11:10
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