1
ラウラ・ボーデヴィッヒは短冊に願い事を書き上げ、満足げに一つうなずいた。
七月七日――日本では七夕として知られるこの日。
短冊と呼ばれる紙片に願い事を書きつけて笹に飾ると、その願い事が叶う。
日本行事に詳しい一夏から情報を聞くと、手早く購買で短冊セットを買い求めて行動に移していた。
たかだか年中行事、それも願掛けの域を出ないような代物である。
日ごろ「願いは誰かに頼むものでなく、自分で叶えるもの」と考えているラウラからすれば、幼稚にも思えた。
それでも、そんな年中行事を楽しむほどの心の余裕が、今のラウラにはあった。
心境の変化に少しばかり驚き、そして同時に願いが――自分の想いが届くことを期待する。
短冊を手にして微笑む様子は、何の変哲もない十代の少女のそれだった。
だが、しかし。
『お兄様が私に手を出してくれますように』
その恋する黒ウサギの想いがコレである。
本来は純粋無垢な気持ちであるべきものが、うら若き乙女にしては非常に危険で破廉恥な望み、妄想の類に変換されていることは言うまでもない。
この短冊がシンの目に触れてしまえば、果たしてどうなることか――
「その手に持ってるのは短冊だよな?」
「ああ、書き終わればボヤボヤしてはいられん。行くとするか」
「行くって、どこに?」
「屋上だ」
「それはまた、どうしてだ?」
「願い事はなるべく高い所に飾った方が良いと聞いた」
「つまり、その短冊を屋上で吊るすってことか?」
「そういうことになる」
「だったらその必要はないな」
「? 何故だ?」
「……今すぐその願いごと、俺が叶えてやるから」
「なにっ、本当か!? し、しかし、突然のことで心の準備が……そうだ、まずはシャワーを浴びて――」
「ああ、そのままで良いって。ほら、こっちにおいで」
「お兄様……」
「ラウラ……俺がお前に手を出せば良いんだよな? だったらすぐに出してやるよ――」
「 ゲ ン コ ツ で な あ あ ぁ ぁ っ ! 」
「ふぐっ!」
――まさに一閃。ラウラの頭頂部に、シンの怒りの拳が見事に炸裂した。
「お、お兄様ぁっ! この短冊の何がいけなかったんだっ!?」
「『兄貴が妹に手を出しますように』なんて願い事のどこに良い部分があるんだっ!」
「だが私の愛を空の星に届けるためにはこの程度――」
「認められるかっ! 書き直し、書き直しだああああぁぁぁぁっ!」
「そんな、お兄様ああああぁぁぁぁっ!」
短冊を取り上げるシンに、ラウラが涙目でそれを取り返そうと縋りつく。
大抵の人間が予想する通り、やはりラウラの短冊はシンの怒りを買うことに――
「ふふっ、お兄様ぁっ! 返せ、返してくれっ!」
「ダメったらダメだっ! ハハハッ!」
――当初の怒りと涙はどこへやら。
しばし部屋の中をグルグルと回り、次いでベッドに倒れこみ、そこでまた短冊の攻防戦が繰り広げられた。
やはりシスコンとブラコンということか。
二人とも表情をほころばせて、布団の上でふざけあっている。
願いが天に届くことこそなかったが、ラウラにはそれなりに良い七夕となったようだ。
2
(シンが探しに行った時点で嫌な予感はしてたけど……まさかこんなことになってるなんて)
自室に戻ったシャルロット・デュノアの目の前には、壮絶に甘ったるい光景が繰り広げられていた。
ベッドの上でキャッキャウフフとじゃれあう二人。片や自分のルームメイトである。もう片方はあろうことか、自分の意中の男性だ。
部屋に入った自分に気付いても、へらへらと暢気に、そしてこれまた嬉しそうに笑っている。
人知を超えたシスコンかつ、人類の範疇を越えた鈍さを誇る男。
シンがそういう人間であることはシャルには分かってはいたのだが、この行動は流石に笑って流せるものではない。
シャルも普通の女の子である。
自分の好きな男性が他の女性と仲良くしていれば、あまり喜ばしいことではない。
嫉妬もいっぱいする。
絶対に離れない、離さない、離したくない。渡せるもんか、シンは僕のものだ。
そんなことだって思ってしまう。
それほどシンのことが好きになってしまったのだ。
自分を守ってくれる人。自分の明日を守ってくれる人。ずっと一緒にいてくれると約束してくれた人。
独占欲が湧くのを抑えられるはずもない。
とはいえ、シンに抱きついているラウラも、シャルの大事な友人である。
アッサリと自分の素性を受け入れ、全く気にする様子もなく接してくれるのだ。
彼女が同室であることで、随分と心救われている面もある。
シンとイチャついているのは確かに面白くないが、仕方ないかなとも思えてしまう。
自分と同じだ。孤独から救ってくれた人物に心を開き、信頼し、甘えてしまう。
それは当たり前のことだと、孤独だった自分だから理解できる。
(まぁ、二人をこのままにはさせないけどね)
「どうしたシャルロット、私の短冊を取り返すのに助力してくれるのか?」
「? シャル、いったい何を――」
にこやかな笑顔を一つ作り、シャルはベッドの上に置いてある健一くん人形の首を取りあげた。
そして軽く助走を付けて、一直線。
「ていやぁっ!」
「ぶふっ!?」
「なあっ!?」
緩んだシンの顔面に、健一くんの首を叩きつけた。
そしてシンの手から短冊を引ったくり、飛び掛るラウラを避け、自分のベッドに素早く戻る。
「へへへっ、返してほしかったらコッチにおいで~!」
「あっ、こらぁっ! 返せって、シャル!」
「それは元々私のものだ! 私に返すんだっ!」
シンとラウラがシャルのベッドに飛び込み、ぽーんと健一くんの首が部屋を舞った。
布団が、枕が次々に放り投げられ、部屋の中に三人分の笑い声が響く。
二人だけで遊んでいるなら、自分も混ざって遊べば良い。
大事な友人と、大切な人が一緒にいること。
そんな明日が、とても幸せなのだから。
「シン、後ろがガラ空きだよっ!」
シンの背後からシャルが抱きつき。
「おのれ、シャルロット!」
さらにラウラがへばり付き。
「ぐえぇ、離れろ二人とも~!」
シンがベッドの上を転がりまわる。
笑い声が絶えることなく、部屋と――三人の心を満たしていた。
◇
「織斑先生~、隣の部屋から男女三人の嬌声が聞こえま~す。アスカくんがデュノアさんとボーデヴィッヒさんと一緒にベッドの上で暴れてるみたいで~す」
「ああ分かった、すぐに向かう。まったく……寮内での不順異性交遊は禁止だとでも校則に加えるか? アホらしい……」
3
シャル「次の装備はオレンジ色だよ。僕と一緒だって約束してくれたんだから。そうだよね、シン?」
ラウラ「次は黒に決まっている。私はお兄様の妹なのだからな。そうだろう、お兄様?」
シン「そんな、俺に言われても分からないって……」
シャル「……オレンジ色だよ」
ラウラ「……黒に決まっている」
シン「いや、だからさ――」
シャル「オレンジだって」
ラウラ「黒だと言っているだろう」
シン「あの――」
シャル「オレンジだってば!」
ラウラ「黒だと言っている!」
セシリア「……鈴さん、今日の痴話喧嘩の理由はいったい?」
鈴「色、だってさ」
セシリア「色というのは、ISの機体カラーのことで?」
鈴「ほら、シンの機体って装備によって色が変わるでしょ?」
セシリア「ええ、特殊装甲の影響だと聞きましたわ」
鈴「だから今度の追加装備で、いったい何色に変わるのか――」
セシリア「……あのお二人が揉めていると」
鈴「はい、正解。まあアイツのことだから、絶対にオレンジと黒は来ないわね」
セシリア「期待をことごとく裏切る方ですものね。そろそろ真っ白な武装でも増えそうですわ」
鈴「一夏が大喜びするでしょうね~……そんなもん追加したらタダじゃ済まさないわよ」
セシリア「……既にシンさんはタダで済んでいないようですけど」
シャル「オレンジっ!」
ラウラ「黒だっ!」
シン「二人とも、引っ張るのは止め――あだだだだだだだだだっ!」
4
一夏「俺は木造の和風建築が良いと思うんだが、シンはどうだ?」
シン「俺もそれで良いけど、他に何かリクエストは?」
一夏「庭と縁側は絶対に欲しい。悩むのはシンプルに平屋にするか、いっそ三階建てぐらいにしちまうか……」
シン「屋根に出れるようにしたいし、そこは三階建てにしてみないか? ほら、あとは屋根裏部屋も作ってさ」
一夏「お、それ良いな! あと庭には物置も必須だよな!?」
シン「ああ、分かる分かる! アレがあると何だか雰囲気でるもんな!」
一夏「あとは茶の間に客間に押入れに……ははは、流石に子ども部屋はいらねーか」
シン「俺たちだけで二人暮らしだもんな、ちょっともったいないぐらい広いや」
一夏「構わねーって。人数もそのうち増えるかもしんねーし」
シン「それもそうだな。へへっ、完成が楽しみだな!」
一夏「良い家にしようぜ、シン!」
シン・一夏「「あははははははっ――」」
鈴「何を考えてんのよ超弩級鈍感男たちがああああぁぁぁぁっ!」
――ちゅどおおおおおおぉぉぉぉーーーーんっ!――
シン・一夏「「だああああああああぁぁぁぁっ!」」
セシリア「男性二人で住宅談義に明るい将来設計なんて、お二人とも気は確かですのっ!?」
箒「何が増えるんだ!? 子どもが増えるのか!? 男同士で増えるわけがないだろう目を覚ませ痴れ者どもがぁっ!」
シン「いきなり何すんだよっ!? 止めろ、撃つな! ああもう、みんなが何を言ってるか分かんないって!」
一夏「お前ら落ち着けって! 俺たちはただゲームの話をしてただけだっての!」
箒・セシリア・鈴「「「……ゲーム?」」」
鈴「つまり……二人ともコミュニケーションゲーム『あいえすの森』にハマッてて」
セシリア「ゲーム中ではまだ小屋に二人暮らしという生活をしていて」
箒「資金が貯まったから立派な家を建てようと相談をしていたと……そういうことか?」
一夏「そういうことだ、ったく……まーたいきなり撃ってきやがって」
シン「ゲームのデータが消えたらどうしてくれるんだよ。ここまで大変だったんだぞ?」
セシリア「紛らわしい会話をしていたお二人のせいですわよ」
箒「ゲームでまで男の二人暮らしとはな……呆れて言葉にならん」
鈴「ていうか一夏、あんたゲームってアクションとか格ゲーとかの方が好きじゃなかった?」
一夏「アクションはISのシミュレーションでお腹いっぱいです」
箒「これがそのゲームか? 何だ、この健一くんに昴輝くんとは……」
一夏「ああ、それが俺たちのキャラクター。名前は適当に本からとったんだ」
シン「一夏、建築の依頼は今やっておいたから。一週間ぐらいで完成するって」
一夏「おお、サンキュ。いやあ、完成が待ち遠しいな」
シン「完成したらお隣さんにお返ししないと。お隣さんの家ができた時は招待してもらったんだし」
セシリア「お隣さん? シンさん、お隣さんとは?」
シン「ええっと、こっちの庭が花でいっぱいのフランス建築の人。いるかどうか分かんないけど、ちょっと挨拶しておこうか」
健一くん『どうも、こんにちはー』
???『こんにちはー』
鈴「あ、返事がきた」
シン「この人がすっごく親切で優しくてさ、俺も仲良くしてもらってるんだ」
鈴「そっか、それってオンラインゲームなのよね。待てよ、ってことはあたしもプレイできるのか……」
セシリア「すると、わたくしも一夏さんと二人暮らしが可能と……」
箒「庭付き一戸建ての……私と、一夏で、二人の家……」
箒・セシリア・鈴「「「…………(妄想爆発中)」」」
箒「……私は用事を思い出した。ちょっと街へ買い物に行ってくる」
鈴「待ちなさい箒、私も用事があるから一緒に行ってあげる」
セシリア「わたくしも用事がありますので外出でもいたしましょう」
シン・一夏「「…………?」」
一週間後――
シン「一夏、とうとう俺たちの家が出来上がる日だな!」
一夏「よっしゃ、早速見に行ってみようぜ!」
シン・一夏「「イェイ、家。イェイ、家。イェイ、家――」
シン・一夏「「――なああああああああああああぁぁぁぁっ!?」」
シン「お、俺たちの家が!? 和風建築三階建ての予定だったのにっ!?」
一夏「和・洋・中の三拍子揃った奇怪な建物になってるぞっ!?」
シン「だ、だだ、だだだだ、誰がこんな酷いことを!?
一夏「し、シン! 画面の奥を見てみろっ! 何か知らない奴らが暴れてるぞ!」
麻美ちゃん『ちょっと二人とも、ここはあたしと昴輝の家なんだから出ていきなさいよっ!』
ゆかなちゃん『趣味の悪い部屋を増設しておいて何を言ってますの!? ここはわたくしと昴輝さんの家ですわ!』
陽子ちゃん『バカも休み休み言え! 私は昴輝の好みに合わせてちゃんと和風に建築していたぞっ!』
シン「俺たちの家が乗っ取られてる!? くそ、何なんだよアイツらっ!」
一夏「さっさと運営に連絡して追っ払ってもらうぞ!」
シン「家もマトモに直してもらわないと――って、ブルドーザー?」
一夏「何でそんなもんが――っておい待てよ! アレ、俺たちの家に向かってるぞ!?」
麻美・ゆかな・陽子ちゃん『『『……へ?』』』
――バキバキバキバキッ! ガラガラガラガラッ!――
五人『『『『『なああああああああああああぁぁぁぁっ!?』』』』』
麻里奈ちゃん『フン、ここは私とお兄様の愛の巣――いや、愛の要塞の建造予定地だ! 箒、セシリア、鈴! 貴様らはどこへなりとも消え失せるが良い!』
一夏「あのブルドーザーの女、箒にセシリアに鈴って言ったぞ!? つーかアレってラウラじゃねーか、間違いなく!?」
シン「ら、ラウラぁっ!? どこでゲームのこと知ったんだ!? ああくそっ、とにかく全員何を考えてるんだよっ!?」
昴輝くん『箒、セシリア、鈴! てめーら俺たちの家に何しやがったんだっ!』
ゆかなちゃん『わたくしは無罪でしてよ! 他の二人が原因ですわ!』
陽子ちゃん『痴れ者が! 私は家屋の違法改造に手を染めてはいない!』
麻美ちゃん『最初に家に侵入したのはあんたじゃないのっ!』
健一くん『こらあっ、ラウラぁっ! ゲームだからって人の家を壊したらダメだろうがっ!』
麻里奈ちゃん『ああお兄様、もう少しだけ待っていてくれ。今私たちの愛を阻む愚か者どもは全て粉砕してくれるからな』
健一くん『ばかっ、これ以上暴れるな! やめろ、思いなおせ――』
――バキバキバキバキッ! ガラガラガラガラッ!――
四人『『『『『ああああああああああああぁぁぁぁっ!』』』』』
一夏「うわああああああっ!? おおおお、俺の、俺のキャラクターがああああっ! ブルドーザーの下敷きにいいいいっ!」
――ガクッ――
シン「一夏!? しっかりしろ一夏、一夏あああああぁぁぁぁっ!」
シン「お前ら、何か言わなきゃいけないことがあるんじゃないか……?」
箒・セシリア・鈴・ラウラ「「「「…………」」」」
シン「どうしてくれるんだよっ! 家も瓦礫の山にされたし、一夏のキャラクターは全身複雑骨折で入院生活! 一夏本人もあまりのショックで寝込んじゃったんだぞ!?」
箒「……すまなかった」
セシリア「……悪いと思っていますわ」
鈴「……ちゃんと反省してる」
シン「……それは全部、一夏が目を覚ましてから言ってこい」
ラウラ「お兄様、だが私は後悔していない」
シン「もうお姫様抱っこ禁止」
ラウラ「私が悪かったお兄様! 私の体を好きにしていいからどうか許してくれっ!」
シン「一夏に謝ってこいってのに……はぁ、俺たちの家が……夢の三階建てだったのに」
セシリア「……滅茶苦茶にしておいて何なのですが、シンさんのキャラクターは今どこに住んでいますの?」
シン「……お隣さんの家に居候させてもらえることになった。ほら、コレ」
鈴「ふうん、そうなんだ――」
健一くん『……香菜ちゃん、俺、本当にここに住んでて良いの?』
香菜ちゃん『だから気にしなくて良いって、健一。それに僕のことは香菜って呼んでって言ったでしょ?』
健一くん『う、うん……ありがとう、香菜』
香菜ちゃん『ふふっ、そうそう。そうだ、健一の部屋なんだけど……ちょっとおっきな荷物を買い込んだから、健一の部屋を空けられそうにないんだ。だから使うのは僕と同じ部屋で良いかな?』
健一くん『え? いや、でもそれは香菜が……』
香菜ちゃん『僕は全然構わないよ。ねえ、どう?』
健一くん『あ、俺も香菜が良いんだったら、まあ……』
香菜ちゃん『えへへっ、決まりだね! あ、でもね……実はベッド、一つだけしかないんだ』
健一くん『なっ!? いや、流石にそれはマズいんじゃ……』
香菜ちゃん『……僕と一緒で、嫌?』
健一くん『あの、そ、そういうわけじゃないけど……』
香菜ちゃん『健一とだったら、僕は良いよ。ううん、健一じゃないと僕は――』
箒・セシリア・鈴・ラウラ「「「「…………」」」」
シン「お、おかしいぞ。お隣さんと何か変な雰囲気になってる……」
セシリア「シンさん、この相手が誰かお気づきにならなくて?」
シン「へ? いや、妙に身近な感覚はあるけど……」
鈴「こーのボンクラ男は……マジで信じらんない」
箒「まさかここまで周到に根回しができていたとは……」
ラウラ「おのれ、仮想空間でお兄様を誘惑しようなどと! そうはさせん、私は部屋に戻るぞっ!」
香菜ちゃん『健一は、僕のこと嫌い?』
健一くん『そんなこと、あるわけ、ない、けど、えっと……』
香菜ちゃん『それじゃあ……僕をどう思ってるのかな?』
健一くん『うぇ? いや、俺は香菜のこと、その――』
シン「ど、どうしてこうなったんだ……?」
5
シン「新年、かぁ」
シン「去年は色々あったなぁ」
シン「今年はどうなるんだろうなぁ」
シン「……こんな風に、世界中が優しくて温かい場所になると良いなぁ」
シン「コタツって幸せだなぁ……一夏もコタツに入れるって大喜びだったもんなぁ……」
シン「だんだん眠くなって、きちゃ…ふぁ……」
◇
シン「……ん、あれ? しまった、寝ちゃったのか……」
レイ「起きたか、シン」
シン「な、レイ!? 何でレイがコタツに入ってるんだよ!?」
レイ「気にするな、俺は気にしない。いつもの夢だと思っておけ」
シン「夢って……まあ夢でも何でも、レイに会えるなら俺は嬉しいけどさぁ……」
レイ「……初夢に男が出てきてその台詞とはな。俺もお前に会えることは嬉しいとは言っておこう。だが、な」
シン「ん? どうした?」
レイ「そういうことは無闇に言うものじゃない……まったく、新年を迎えてまでこの有様か……」
シン「……レイ、何だよその顔。今日もお説教ってのは勘弁してほしいんだけど」
レイ「安心しろ、今日は説教に来たわけじゃない。少し頼まれごとがあって来た」
シン「頼まれごとぉ?」
レイ「ああ、お前の大切な人たちからだ。俺としてもお前が世話になっている分、彼女たちにサービスの意味も込めてな」
シン「彼女たちにサービスぅ? え、もしかしてラウラとシャルか?」
レイ「そうだ。初夢ぐらい、文字通り彼女たちに夢を見せてやって来い」
シン「……なあレイ、その言い方だとサービスするの俺じゃないの?」
レイ「シン、お前は彼女たちが大切なんだろう?」
シン「当たり前だろ! どんなことがあったって、俺はラウラとシャルを守るんだ! そうやって約束したんだから!」
レイ「ならお前がやるんだ。どうせ夢だ、何をされたって気にすることはない」
シン「何か引っかかるけど……うん、分かった。で、俺は何をすれば良いんだ?」
レイ「この紙に書いてある。頑張れよ、シン」
シン「サンキュー、レイ。えっと、まずはラウラから――」
『お兄様と姫始め(はぁと)』
シン「レイ、ラウラがどこにいるか知らない? ちょっと拳骨でラウラの頭に鏡もち作ってくる」
レイ「冷静に聞け、シン。今日の夢は明日になったら忘れるように議長が細工してくれている。お前の説教は無駄になるぞ」
シン「だからって俺の気がすむもんかぁっ! いったい誰だ、またこんな変な知識をラウラに吹き込んだ奴はぁっ!」
レイ「気にするな、俺は気にしない」
シン「気にしてくれよっ! しかもラウラのやつ一言しか書いてないしっ!」
レイ「シン、大丈夫だ。お前ならできる」
シン「できるわけあるかああぁぁっ! ああもう、ラウラは後回しだ! シャル、シャルのお願いだったら大丈夫のはずだっ!」
『またシンに手を繋いでほしい――』
シン「良かった、シャルの方はマトモだ。でも……こんなことぐらい別に夢じゃなくたって。俺はシャルのためだったら、どんなことだって」
レイ「……なら続きを読め。それから彼女のところに行ってこい」
シン「続きぃ? そっか、まだ書いてあるな――」
『――手を繋いで、二人で一緒にくっ付いてから……ええっと、それからまた布団の上でふざけ合って僕がシンに抱きついたりしてる内に、シンが僕の上に被さってきちゃうんだ。
そこで僕もシンも顔を真っ赤になって、ちょっと気まずくなったりして……。
『あ、その……ごめん、シャル。すぐに離れるから』
『あ、え、えっと……もうちょっとだけ、このままで、いてほしいから……』
『う、うん……』
なんて風に二人で抱き合って……お互いに見つめ合ってると、どちらともなく唇を寄せ合って……キス、しちゃったり……。
そ、それからね……い、いっぱいキスをし始めて、それでシンが――
『……シャル、好きだ。好きなんだ。俺は、シャルのことが……多分、ずっと前から』
『シン……』
『シャルの気持ち、分かってたはずなのに。どこかでごまかし続けてて、俺、それで……』
『……ねえ、シン。また約束して……?』
『……うん』
『ずっと、僕と一緒にいて? ずっと僕のことを好きでいて、二人で一緒に……死ぬまでずっと。ずっとずっと離れないで、僕の傍にいて……』
『……約束する。俺はシャルのことが好きだから。もう絶対に……離れない』
『シン……』
『シャル……』
えっと、えっと、い、良いのかな……? ゆ、夢なんだし、これぐらい平気……だよね?
それで、それでね!? 二人で……え、えっちな気分になって、そのまま――
『――ちゅ……ん、んん……はぁ……ん、ぁぁ』
――体が自分のものだと思えない。
シンとキスをするたびに、シンの右手が体を這うたびに、全身がしびれるように震えていく。
熱に浮かされた頭で、僕はぼんやりとシンの顔を見つめた。ずっと僕が焦がれてきた赤い瞳。
今ようやく、僕のことを見てくれている。本当に、僕だけを映してくれている……ずっと、ずっと待っていた瞬間に、心も体も震えが止まらない。
『あ、シャル……ごめんよ、恐い……よな?』
『あの、違くて……嬉しすぎて、何だか変になってきちゃって……ホントだよ? 僕は、大丈夫だから……』
一つだけ小さく頷くと、シンはまた僕と舌を絡ませ始める。
触れ合う舌と舌。唇が離れ銀色の糸がつつと伝わる光景に、ますます僕もシンも胸が高鳴っていった。
背中を手が撫でると立ち昇るような刺激。胸を手が揉んでいくとジワリと広がるような刺激。
ぼやけた思考と反対に体の方は敏感になっていく一方だった。
それでも、最後の一線のように触れられていない場所がある。むず痒いような、ジワジワと濡れたその場所を触ってほしい気持ちが、僕に残る羞恥心を引き剥がしていく。
『ふ、ん、ぁぁ……シン……そこ、ひぁっ……』
首筋をなぞって、胸を通り過ぎ、お腹を撫でて。ついにシンの手が、僕の――』
シン「いったい何だよこれはああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
レイ「ラウラ嬢と違って随分と細かく書いてあるな。×××に×××の要求に、さらに×××か……最後までしっかりと書いてあるぞ、シン」
シン「何だよその最後までって! いやゴメンやっぱり聞きたくないっ!」
レイ「恥じらいながらも筋が完成していて×××までとは、彼女も妄想たくましいことだ」
シン「そ、そんなこと! 俺がシャルにできるわけが――」
――ギルギル、ギルギル――
シン「れ、レイの携帯……?」
レイ「もしもし……シャルル女史にラウラ嬢か。ああすまない、シンの説得に時間がかかってしまい遅くなっている。ああ、ああ……」
レイ「――この際三人一緒で構わないから早くシンを連れて来いと?」
シン「」
レイ「了解だ、これからシンを連行するのでもう少し待ってくれ。それではな」
シン「じゃあなレイ! またいつか会おうな!」
レイ「悪いが逃がすわけにはいかん」
――ドドドドドドドド――
シン「な、何だあのモビルスーツ――れ、レジェンドぉっ!? 違う、いったい!?」
クルーゼ『レイ、そこの少年を連れて行けば良いのかね?』
レイ「すまないラウ、よろしく頼む。そうだ、後でギルも来るそうだ。コタツで一緒にミカンでも食べないか?」
クルーゼ『それは良いな。では私も急いでこの少年を送ってくるとしよう』
シン「誰だよレイ、あのモビルスーツと中の人は!? うわ、くそっ、離せよっ!」
クルーゼ『はーっはっはっはっ! これが君の定めさ! 知りながらも突き進んだ道だろう!』
シン「うわああああぁぁぁぁっ! マユううううぅぅぅぅっ! ステラああああぁぁぁぁっ!」
レイ「……さて、ギルが来る前に将棋盤の用意でもしておこう」
最終更新:2013年04月20日 19:05