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東方種子語13話(前編)

―――紅魔館の修繕の傍ら、美鈴に武術を教わっていた時のことだ。
なにか自分向けの即戦力になりそうな技は無いかと何の気なしに切りだしてみたところ鍛錬次第ならすぐにでも使えそうなものが一つあるとのこと。
まさかあるとは思ってもみなかったシンは驚きながらもどんな技なのか少しワクワクしながら待っていると、美鈴がおもむろにシンの腹に掌を押し当ててきた。
「あ、あの?」
「ああ、じっとしていてくださいね、内臓痛めちゃいますから」
美鈴の言い回しに凄まじく嫌な予感を感じ顔を引きつらせる。
彼女の発言は裏を返せば下手に動くと内臓を痛めるようなことをすると言っているようなものだ。
何気ない一言のはずだったのに何かとんでもないことになりつつあることに気付くがもう遅い。

「ちょ、美鈴さん、アンタ何する気」
「ふぅっ!」
一気に吐き出された吐息と共にシンの全身に衝撃が走る。助走など一切行っていないにもかかわらず骨が軋みそうなほどの強烈な衝撃。
いや、骨だけではない、内臓はおろか体内に流れる血液まで沸騰しているかの如く体が言うことを聞いてくれない。
苦悶で言葉を発することもできずに地面に崩れ落ちてしまう、しかしそんなシンなどお構いなしに美鈴は講釈を続けていて。
「と、まあこんな技ならありますよー、みっちり鍛えれば多分技術としてならそこそこいけるんじゃあないかと」
「………どう見ても聞こえてないみたいだけど?」
「あははー、仕方ないですよ咲夜さん、痛くなきゃ覚えませんから」

びくびくと体を痙攣させるシンを咲夜は不憫そうに見ていたが、何か言ったところでこの師弟は聞きはしないだろうということも分かっている。
ほどほどにね、とだけ言い残して紅魔館の掃除へと戻っていった。後に残ったのはシンと美鈴、それと物陰から恐る恐る覗き見ているフランだけ。
だがそのフランもシンがむくりと立ち上がり赤い瞳が見えるとぴぃっと鳴いてすたこらと逃げ去っていった。
「…………しょうがないとは思いますが、俺、嫌われてますね」
「やー、どうでしょうねえ………で、どうですか?」
ン、と一声呻いて美鈴が行ったことを吟味する。単純な掌底ではない、ただの掌底は崩れるより先に吹き飛ばされてしまうものだ。
今の物はまるで、そう、妙な言い回しかもしれないが、全身に衝撃が浸透するかのような物で。

「………すごい、とは思いますけど、何が起こってああなったのかはよう分からんのですが」
「それをこれから教えるんじゃないですか、あせらないあせらない」
それもそうですねと軽く笑い、拳を掌にぴたりとつけて姿勢を真っ直ぐに正す。
組み手の中で見出していけばいい、言われたからと言ってすぐに理解できるほど出来がいいわけでもないのだ。
シンの姿勢に満足げに頷くと美鈴も構えてくる。さあ、後はいつもの鍛錬の時間だ―――





『ひぃぃぃいいッ、殺ッ!!』
甲高く殺気のこもった声と共にミョルニルがデスティニー目掛けて投げつけられた。
その速さはデスティニーの反応では避けられるものではない、そう判断すると距離を測るために前にのばして広げていた左腕を手刀に切り替える。
破砕球が機体に直撃するよりも早くその手刀をワイヤー目掛けて叩きつける。
特殊繊維で作られたワイヤーはその程度では千切れはしないだろう、しかし破砕球の軌道を変えることは可能だ。
払うように手刀を振り、軌道が変化したミョルニルがフェイスガードを掠め火花を散らす。
勢いを殺されてしまったミョルニルをレイダーは引き戻そうとするが、その動作よりも一手早くデスティニーがレイダー目掛けて走り寄る。
『このぉっ!』
打ち下ろすように放たれる鉄拳をレイダーは機体を捻って避けるがそんなことは読んでいる。
避けられた右腕を引き戻しそのままレイダーを見ることなく肘を腹に叩きつけた。


金属同士が激しくぶつかり合う音と共にレイダーがその衝撃に耐えきれずに機体をくの字に折る、装甲は無事であっても衝撃は機体内部を突きぬけるのだ。
そして怯んだレイダーの腹に掌を押し当て、そのまま一気に踏み込みながら押す。
だが、何もおきない。攻撃が来ると身構えていたレイダーも怪訝そうに押し当てられたデスティニーの掌を見ているだけ。
(踏み込み………いや、捻りが足りなかったのか!?)
(だからって止まらないっ、いい加減戻ってくるぞ!)
『言われんでもーっ!』
舌打ちをするも前へと飛びこみながら地面に前転してレイダーから距離を離した。
再びレイダーに向き合うとほぼ同時に引き戻されたミョルニルがレイダーの左腕にマウントされる、離脱が遅れたのなら後頭部に叩きつけられていたことだろう。
武器を失っているデスティニーはもう一度接近しなくてはならないのだが、しかしそれはレイダーだって同じことだ。
防盾砲が無い以上MS形態で使える兵装はミョルニルかツォーンの二択となる、だがミョルニルを下手に投擲したら今の様に距離を詰められるのは明確。
だからと言ってツォーンも軽々には撃てない、口部についているために射角が狭く、撃ったなら撃ったである程度視界も遮られてしまう。
ならばMA形態に、とも考えるが一秒にも満たない僅かな時間とは言えども変形中は隙が出来てしまう。
それを突かれたら構造上どうしたって脆いMA形態ではただの鉄拳でも致命傷になりかねない。

(………へッ、こんな奴相手に馬鹿馬鹿しい!)
そうは思うのだが、クロト・ブエル自身の勘がどうしても油断を許さない。
デスティニー、というよりそのパイロットの反応そのものは間違いなく遅い、これは演技でも何でもないはずだ。
少なくともクロトならば先ほどデスティニーがミョルニルを避けたとき、あのタイミングでなら機体に掠らせはしない。
加えてデスティニーの状態だ、兵装もバックパックもないというこの状況で勝ち目があるはずが無い。
自分が負ける要素は微塵もないはずなのに、どうしてだろうか、自分が負けるイメージが脳裏にちらついてしまうのは。
(ビビってんじゃないよ、こんな雑魚なんかっ!)
勘なんて物に恐怖する自分を奮い立たせるようにミョルニルを振り回す。ぶんぶんと風を切りながら加速していくそれの狙いをしっかりとデスティニーにつけて。
反応速度自体は間違いなく自分の方が上なのだ、ならば臆する必要などない。

『消えろよ、滅殺ゥッ!!』
発した言葉こそ狂乱じみているが思考自体は彼にしては比較的冷静だ、デスティニーでも十分避けられるよう速度を落とした投擲。
当然だが何の意味もなく速度を落としたわけがない、デスティニーをさっさと片付けるための策だ。
こんな奴相手にわざわざ策を弄するのはクロトにとってはあまりいい気分はしないが、だからといってデスティニーにこれ以上付き合うつもりもない。
だが、そんな気持ちで考えだした杜撰な策などデスティニーに通用はしない。
(遅い………? ってことはっ)
投げつけられたミョルニルの速度に感じる違和感、先ほどまでよりもはるかに遅い物だ。
自分でも簡単に反応できるほどの遅さのそれを見て何かあると直感、即座に理由を分析し始める。
当然だが当てるつもりはないということ、わざと避けさせて自分に隙を作らせるためだろう。
では作り出した隙で何を成すか。当たり前のことだが隙はそれ単体では何の意味もない、攻めるなり守るなりに活かさなければ。
守るため、これはない。ああは啖呵を切ったもののどう考えてもレイダーの方が有利なのだ、守りに入る理由が無い。
ならば攻めるため。ではどうやって攻めるのか、だ。読み違えればそのまま撃墜されかねない。
ツォーンか、しかしあれは射角を合わせにくいだろう、わざわざ隙を作ってまで撃つには不確定要素が多い、よって否。
それなら後は。
(MAへの変形………か!)
構造からみてもMAへの可変機能、それも航空能力を持った形態へ変形できるはずだ。
MAへ変形してデスティニーが接近できないほどの上空へ離脱、その後射撃で仕留めるのが狙いだとミョルニルが投げつけられた一瞬で看過。
単純だが決まれば強力だ、バックパックが無い今のデスティニーでは空に上がることはほとんど不可能に近い。
爆発するかのような推進力が失われているのだ、どうしたって時間がかかる。戦いで一々敵が待つわけがない以上空は飛べないと割り切るしかない。
そこを突いてきた、空に上がっての一方的な砲撃が決まったのならそのままデスティニーの負けは決定的だろう。


そう、決まれば、である。
『やらせるもんかぁっ!』
腕を前へと突き出す、その動作はミョルニルを叩き落すために行ったものではない、むしろ逆だ。
相手がよけてもらいたいのならわざわざその思考に付き合ってやる道理はない、その思考を利用してやれば良い。
突き出した腕をミョルニルが掠め火花を散らす、しかしそんなことに構っていられない、集中力を乱すわけにはいかない。
完全に伸び切ったワイヤーを掴み、引く。MAに変形しようとしていたレイダーはつられて前へとつんのめってしまう。
(や、ば、い―――!)
すでにMAへの変形は始まっているのだ、いくらTP装甲があると言えど構造上脆いMAでは装甲はともかくフレームが耐え切れない。
開始された可変機構を強制的に終了、MSに形態を戻すがすでにデスティニーは眼前に走りよっていて。
駆けてきた勢いのまま足を上げ、レイダーの顔面に膝を叩き込んだ。
『が、あッ!?』
かろうじて腕を割り込ませカメラアイとツォーンは無事だったが、衝撃そのものはダイレクトにセンサーを揺らす。
走るノイズと意識まで揺さぶる衝撃で前が一瞬見えなくなってしまう、そしてその一瞬こそが命取りとなる。
一瞬前まではつんのめって前のめりになっていたレイダーの機体が仰け反るがデスティニーが握ったワイヤーが吹き飛ぶことを許さない。
そしてデスティニーは拳を振りかぶると、仰け反り無防備となった腹に鉄拳を打ち込む。

がぁん、と金属同士がぶつかり合う音が早苗達の耳を震わせる、ただ一発で終わらせることもなくもう一度殴りつける。
そうしておきながら掌をまた腹に押し当てながら踏みこみ、全身を使って捻りを加える。しかし先ほどと同じようにただレイダーを押すだけに終わってしまい。
(今度はタイミングがずれたかっ?)
(こだわり過ぎるなよ、身を滅ぼすぞ!)
(分かってるよっ、分かってるけど………くぅっ!)
レイダーの機体がくの字に曲がり頭が下がっていくのを確認するとデスティニーは突如ワイヤーを手放した。
破砕球を戻す暇もなく距離を離そうとしたレイダー、しかしその頭部に先ほどの膝蹴りとは比べ物にならないほどの凄まじい衝撃が走る。
何が起きたのか、意識が揺れ地面に崩れ落ちながらもデスティニーの姿を見る。
先ほどの膝蹴り以上に右足を上げ、曲げていた脚部を真っ直ぐに伸ばしたその姿。
踵を叩きつけられたのだと理解するのと同時にデスティニーが上げていた足を下ろしてレイダーを踏みつぶそうとしてくる。
転がってどうにか回避し、そのままMAへ変形しようとするがそれも読まれていたのかデスティニーは腕をレイダーのバックパックへと伸ばす。
(ここを、抑えればっ!)
可変機と言うものは第二次ヤキン戦以降増大の傾向にあるが、その可変機構自体は大きくは変化していない。
大別すれば可変機能をフレームに仕込んでいる物とバックパックを変形に使用する物、細かな違いはあるが大体はこの二種類だ。
レイダーは後者、バックパックによる変形。改造を施されている可能性もあるが、フレームを見る限りでは可変構造自体に手は回っていないと判断する。
それならばバックパックを固定してしまえば変形自体行うことが出来なくなる。

『んなっ、テメェなんてことすんだよっ!?』
展開しようとする大型可変翼を掴んで強引に変形を阻止する、無理な力が加わった可変翼からはギシギシと軋む音が聞こえてきていて。
これ以上の変形は無理とOS側が判断したのか可変翼が元に戻ろうとする、だががっちりと掴んだこの体勢ならば。
『う、お、りゃああああっ!!』
気合いのこもった咆哮と共に力任せにレイダーを持ちあげ、背中から倒れ込むように地面に投げつける。
バックドロップにも似た投げによりレイダーは背中から地面に叩きつけられてしまう。
苦悶の声を漏らし、今度は転がることもできない。それほどまでに強烈な衝撃、バックパックが破損していないことがクロトには信じられないほどだ。
立ち上がろうとするよりも早くデスティニーが足を引っ張って引き倒しレイダーの機体の上に馬乗りになる。
動きを封じられたレイダーは機体を何度も動かして逃れようとするが、知ったことかとばかりにデスティニーは頭部に拳を何度も打ち下ろす。
かろうじて動く頭部を捩って直撃だけは避けようとするが、それでも完全には避け切れずに掠めた装甲から火花が散り、ブレードアンテナが拉げていく。
(チクショウッ、冗談じゃあ………ないっ!)
デスティニーの拳を避けつつも足をぶんぶんと振ってデスティニーに当てるが大した効果もない、だがこのままではいくら燃費のいいTP装甲と言えどバッテリーが落ちかねない。
どうにか出来ることはないのかと模索し、ある可能性に思い当たる。しかし上手くいくのかという不安が頭をよぎる。


が、よぎった不安はついに顔面に叩きこまれた鉄拳で粉砕されてしまう。
仰け反って衝撃を逃がすことも出来ないのだ、伝わる衝撃は今までの比ではない。
どうこう言っていられる状況ではないことにいい加減気付く、これ以上は本当に頭部が殴り砕かれかねない。
デスティニーの頭部に狙いを定めての蹴り、しかし今度は脚部スラスターを全て噴射しながらの蹴りだ。
MAを飛行させるための強力な出力を持ったスラスターで加速した蹴りをデスティニーの背中に叩きつける。
完全に裏をかいたはずの一撃は、しかしデスティニーが前転して離脱したことにより装甲を掠めただけに終わってしまう。
それどころかスラスターの勢いで機体のバランスが崩れてしまいすぐには起き上がれない始末。
『目の付けどころはよかったがなっ!』
『うるっさいよ、偉そうにィッ!!』
立ち上がろうとするレイダー、しかしデスティニーはすでに走り出していて。
すぐ目の前に迫るデスティニーにミョルニルを横振りに叩きつけようとる、しかし手ごたえはなく空を切るばかり。
上にも横にもデスティニーの姿は見えない、深く屈んで避けられたのだと理解すると同時に腹に衝撃が。

屈んだ状態でのボディブローを連打、先ほどまでの様な全身を捻じった渾身の一撃とは違い下半身を固定し腰の回転を使っての打撃ががんがんと響く。
一発撃ち込むごとにレイダーの頭が徐々に下がり、これ以上殴られまいとスラスターを噴射してデスティニーから飛び退り距離を取ろうとする。
だが、そんなことは分かっているとばかりにレイダーの足が地面から離れた瞬間にデスティニーもまた前へ。
右脚を軸にして頭部目掛けてのハイキック、しかしレイダーの反応はそれを捉えている。防ぐ、或いは捕まえるつもりなのか腕を構えようとしている。
このままいけば捕えることはともかく悠々と防がれてしまうだろう、その後はすでにエネルギーが集束し始めているツォーンを撃たれて終わりだ。
『へっ、これで瞬殺ゥッ!!』
レイダーの甲高い勝利を確信した声を聞きながらもデスティニーの心は揺れない。
当たる、ではない。当てる、何が何でも当てて見せる。重要なのはそこだ、戦いでは確信など呆気なくひっくり返る物だ。
だからこそ戦いで必要となるのは状況次第で揺らぐ確信ではなく、心次第で揺らがない意思。

(デスティニー、細かい調整は任せるぞ!)
(転ばんようにはするがねっ、無茶はしすぎるなよ!)
軸足に力を込める、デスティニーの調整だけではきっと足りない。パイロット側からもフォローしてやらなければ。
だからと言って自分一人の操縦技術だけではとても届かない、OSからのサポートは必須なのだ。
機体と乗り手、両方揃わなければMSはただのマシンだ、ロボットにはなりえない。
(分かってるさ、お前のスペックぐらい知り尽くしてる。十分……)
『やれるっ!!』
レイダーの腕が上がりきるよりも早く左脚のスラスターを噴射、蹴りは加速し勢いはレイダーの予想を超える物。
防ぐことも避けることもできずに、スラスターで勢いを増したデスティニーのハイキックがレイダーの頭部に打ち込まれてがぎぃん、と派手な金属音が響く。
側頭部を綺麗に蹴り抜かれ、デスティニーに照準を定めていたツォーンはあらぬ方向へと発射されてしまう。
蹴り抜いた左脚を地面につけ、その勢いのままに軸足を入れ替えて今度は右脚によるこめかみを狙ってのハイキック。
また蹴られてなる物かと先ほどよりも早く腕を上げてデスティニーの足を掴もうとしている。
タイミングはもう掴んでいる、スラスターによる急加速だってその可能性を頭に入れておけば不意を突かれるような速さでも無いのだ。
センサーが拾う風切り音からもうすぐに当たることを予測し、防いだ瞬間に掴めるよううマニュピレーターの制御に思考を回す。

だが―――こない。いくら待っていても蹴りを防いだ衝撃が伝わってこない。
何故なのか一瞬分からずに思わず一瞬前まではただ視界に映しているだけだったデスティニーの足をしっかりと見据えた。
レイダー目掛けて打ち込まれるはずのそれは空中で停止している、そんな無茶な体勢をとりながらもデスティニーは微動だにしていない。
フェイントだったのだと理解すると同時に停止していた脚がスラスターを噴射しながらより高く跳ねあがり。
『砕けろォッ!!』
そのままレイダーの頭頂部目掛けて叩き下ろす。かろうじて反応して避けようとするがそれよりもデスティニーの踵落としのスピードが速く。
頭部そのものへの直撃は避けられたものの、ブレードアンテナが被弾してしまい半分に折れてしまった。
そのことに激昂してしまい遮二無二にミョルニルがマウントされている左腕をデスティニーに叩きつけようとする。


だが、そんな感情任せの大振りな攻撃がデスティニーに通用したりはしない。
腕を軽く添えていなして肉薄しながらぎゅるりと反転、いなされたことで体勢が崩れたレイダーに背中を密着。
何か不味いと機体を引き戻そうとするレイダーだがもう遅い、レイダーの腕を掴み体勢を屈めてそのまま腕を前へと引き下ろす。
最後に背中を使ってレイダーの機体を軽く跳ねあげてやればそれだけでレイダーは宙を舞う。
柔術において一本背負いと呼ばれるその技法、地面に叩きつける際には首のフレームをへし折るべく頭から直下に落とす。
(こいつ、こんな馬鹿な戦い方があるかよォッ!?)
地面目掛けて直下に落とされながらも機体をよじらせスラスターを目茶苦茶に噴射する、その行動でどうにか首から直に落とされることだけは免れる。
しかし肩から叩きつけられてしまい、機体の重量をモロに受けた肩のフレームは大きく歪んでしまう。
衝撃で意識が遠のきそうになるが、ここで意識を失ってしまってはそのまま命まで失うことになる。
全てのスラスターのベクトルを合わせ、出力を全開にして一気にデスティニーから距離をとる。
その有様に無様とも感じるが歪んでしまい動きを相当に制限された腕を見ればいくら警戒しても足りないほどだ。
恐らく頭から落とされたのなら本当にフレームが折れていただろうことに気付き、同時にやっと目の前のMSに対する認識を改める。

―――こいつは強い。どう少なく見積もってもかつて戦ったあの青いのと赤いのと同等程度には、だ。
万全とは到底言い難いこの状況ですら自分を圧倒する、自身の油断が無くとも勝てると断言できない。
兵装が無い状態ですらこれなのだ、もしも兵装が一つ二つあったのなら間違いなく勝負にすらならなかっただろう。
認めることは口惜しくただひたすらに悔しくてたまらない。頭に血が上って今すぐにでも殴りかかりたいぐらい。
だが………だが。そんな軽率なことをやってしまっては今度こそ終わりかねない。
そんな隙だらけの雑な攻め方が通用する相手ではないことぐらいいい加減分かっている。
今のレイダーの兵装ではどちらも仕留めきれないか隙を突かれる、このまま押し切ることは出来ない。
どうにかしてMA形態に変形する必要がある、しかしどうやってだ。
理を重ねていき奴の思考を上回る、出来るのならばそれが一番だろう。だが今すぐにそんなことが出来ると思えるほどクロトも愚かではない。

(ムカつくけど………多分読まれる、よな。んじゃあ………クソだっさいけど、あれっきゃないか)
レイダーの出方を窺うためあえて大きく動くことなくじりじりと距離を詰めていく。
次はどう出るのか、それによって対処は変わってくる。決してレイダーの動作を見落としてはならない。
じ、と緑色のカメラアイを輝かせながら注視しているとレイダーのバックパックの可変翼が動くのが見えた。
MAに変形しようとしているのを確認、デスティニーはスラスターを噴射して一気に接近しレイダーの左腕を掴む。
そう、「掴めた」。本来なら上手くいったと喜ぶべきことだろう、しかしデスティニーはそれとは逆のことを考える。
いくらなんでも簡単に掴ませすぎる。それに何故掴まれたままで振りほどこうとしない、いや、それ以上にだ。
一体どうして、MAへの変形を続けようとするのか。膂力で勝るデスティニーに掴まれ無理な負荷がかかっているにもかかわらず、だ。
機体からはぎしぎしとフレームが軋む音が聞こえてくる、そうまでしてまで変形するより一度離脱して変形すべき状況。
だと言うのに、何故。腕を離すことなく思考を回しレイダーの全身を観察する。


腕こそ動かない物の変形自体は続く、脚部は向きを変え右腕は収納、バックパックの可変翼が展開していき機体全体のシルエットを変えていく。
そして腰部に供えられた大型クローが展開されデスティニーに向けられる、その中心部には短距離プラズマ砲、アフラマズダの砲口が見えていて。
これで撃つというのか、しかしそんなことをデスティニーが許すはずもない。
レイダーの腕はまだ掴んでいるのだ、思い切り引いてやればロクに機体を動かすことのできないMAでは体勢を簡単に崩せる。
そうなればアフラマズダを当てることは難しいだろう、ならばクローでデスティニーを掴んで固定してから当てる?
それこそ馬鹿馬鹿しい、クローはともかく接続アーム部にはTP装甲は用いられていない。デスティニーの膂力をもってすれば容易に引き千切れる。
そのまま撃つのならば体勢を崩した時に偶然当たる可能性があるが、クローそのものを千切られれば打つこそすら出来ないのだ、策としては下策もいいところ。
ならば一体何を、そこまで考えたところでクローがデスティニーの腕目掛けて動き出すのを確認する。
下策に走ったのかとも思うがしかし背筋が泡立つような嫌な予感は消えてくれない。何をしようとしているのか、それさえつかめれば、と。
突如鳴ったアラートがデスティニーの思考を中断させる、何が起きたのか聞こうとするよりも早くデスティニーが口を開く。
(砲口にエネルギー反応、サーベルの反応の仕方だっ!!)
『―――ッ!』
デスティニーの言葉だけでレイダーが何をしようとしているのか瞬時に理解、即座にレイダーの腕を離そうとする。
しかし逃す物かとレイダーはアフラマズダにビームサーベルを形成、そのアフラマズダでデスティニーの腕を切り裂こうとしている。

だが、デスティニーはレイダーの腕を掴んでいるのだ、マニュピレーターで握るビームサーベルならまだしもクローではあまり精巧な動きは取れない。
だから、デスティニーの腕を切ると言うことはつまるところに自身の腕ごと叩き切ると言うことなのだ。
『チィィィィッ!?』
避けようとするデスティニーを追い詰めるのに自分の腕など避けていられないのか、自分の腕に構うことなくサーベルを振り抜こうとしている。
サーベルがデスティニーの腕を掠めて火花を散らす、そんなギリギリのタイミングで手を離せたが、もし一瞬でも遅れていたらレイダーの腕ごと切られていただろう。
事実レイダーの左腕はざっくりとフレームに至るまで切り裂かれ電装でかろうじてぶら下がっているという有様だ。
だが、例えそのような有様だとしても、だ。MAへの変形にも飛行にも支障はない。レイダーにとって腕とはそういう箇所だ。

『今日び流行んないんだよねェッ、肉を斬らせてなんてさァッ!!』
そんな流行らないことをやってまでレイダーはデスティニーから離れながらMA形態に完全に変形、全てのバーニアを噴射して地上から遥か大空へと飛翔していく。
ウイングバインダーがないこの状況でどうやって追いつくか思考をフル回転させて絞り出す、しかしその思考の中には僅かばかりの驚愕が混じっている。
(くぅっ、あいつ、この手の返しが出来たのか!?)
頭の中にはレイダーが自分の腕ごと切り落とすという選択もなかったわけではない、事実それを防ぐためにミョルニルをマウントしてある左腕を掴んだのだ。
しかしそれにすら構わずに切り落としにかかってきた。なりふり構わない、というよりも勝つために必要な取捨選択を行い始めたといったところか。
雑な戦い方だし、わざわざ本当に腕を切り裂く必要なんてない。デスティニーから見ればまだまだ荒い戦い方だ。
だが何の考えも無しにミョルニルを投げつけてきた先ほどまでとはまるで違う。ほんの少しづつだが、何かを学び取ってきているのかもしれない。

(意外と………やるっ)
(敵を褒めてどうするっ、届かなくなるぞ!)
(届かせるさ………デスティニー、動体制御頼むっ!!)
メイン、脚部、両方のスラスターを噴射して加速しながら周囲にある中で一番高い木目掛けて走り出す。
地上から直接飛んだのでは一秒ごとに高度を増していくレイダーに届かない、少しでも高い位置から飛ばなくては。
跳躍しながら幹に手をかけ、そのまま一気に天辺の枝まで駆け登る。細かな枝が機体に触れるたびに折れ、青々とした葉が舞い散っていく。
枝葉を抜けカメラアイに青空を映す、しかしレイダーはすでに遥か高くへと上っていて。
せめてウイングバインダーが片方でもあれば確実に届かせられるのだが、贅沢は言っていられない。
自分が倒れたのならアリスや早苗にも危険が及ぶということだ、何があってもレイダーを止めなくてはならない。
例えそれが、戦わずともよい人を巻き込むのだとしても、だ。

『上がってきたぞ魔理沙、ばら撒けェッ!!』









――――来た。デスティニーからの合図を受けて遥か上空、地上から豆粒ほどにしか見えないほどの高さで魔理沙は唇を引き締める。
今地上でチカチカと緑のカメラアイを光らせるデスティニー、その合図があるまでは上空で待機するよう申し訳なさそうな顔で言われていた。
魔理沙としてはシンのすぐそばにいたかったのだが、それでまたあのときの一つ目の様にシンに負担をかけてしまっては元も子もない。
大丈夫だという自信はあるけれど、決してそれは確信ではないのだ。無理は出来ない。
無理をして自分が傷つくのなら別にいい、死ぬことさえ回避できれば痛みなんて歯を食いしばればいくらでも我慢できる。
だけど、誰かの痛みは、傷つく姿は歯を食いしばったって耐えられない。ましてやそれが好きな人なら尚のことだ。
きっとシンは無茶をする。彼の戦う姿は二回しか見たことが無いけれどきっとそうなのだろうという確信が魔理沙にはある。
自分が並び立っても多分シンの気を揉ませ、何でもない攻撃から庇われるだけに終わるのだろう。
強い弱いではない、シンも自分と同じように誰かの痛みが、傷つく姿が耐えられない人のはずだから。
(どうして、耐えられないんだろうな、あいつ)
自分は好きな人だから耐えられない。ならシンは、どうして誰かの痛みを耐えられないのだろう。
まだまだシンのことは知らないことがたくさんある。それはこれから知っていきたいことだ。
だから。その「これから」を重ねるためにも今は眼下に見える存在に集中する。

豆粒のようだったレイダーはぐんぐんと高度を増していき、今や魔理沙の目でもしっかりと存在を捉える事が出来るほどだ。
デスティニーの目を光らせたら上がってくる機械を足止めしてくれ。それがシンから受けた頼みだ。
倒す必要はない、ただ足止めをするだけだ。絶対に無理はしないでくれと本当に申し訳なさそうなシンの顔が頭をよぎる。
(怪我したら……きっとあいつ、悲しむんだろうな)
興味が無いわけじゃない、どんな表情になるのか知りたくないと言えば嘘になるだろう。
だが、そんな顔は見たくないと言う思いの方が遥かに強い。シンには笑っていてもらいたい、あの優しい笑顔を曇らせて欲しくない。
それこそが嘘偽りない魔理沙の本心、そのためには絶対に怪我なんてするわけにはいかない。
怪我なんてしない、その上でばっちりと足止めをする。出来れば倒すのが一番だが、そこまでは望まない。

箒の柄を地面に向けて急降下していく、その速さは落下するよりも尚速く。
同時に、身体を黄色い光で包みこみながら箒の先から大量の星屑をまき散らす。
本当なら体当たりの一つでもしてやりたいのだが、はしたないし見るからに堅そうなアレに当たったら痛そうなので止めておく。
降下の速度を尚も加速させ、上昇するレイダーとすれ違うように交差する。
レイダーも機首を上げて直撃を避けようとするが、まき散らされた星屑はレイダーの装甲に当たって甲高い炸裂音を響かせる。
だが、魔理沙も分かっていたことだがその程度では決定打にはならない。ただレイダーの気さえ引ければ十分だ。
『なんだかわかんないけど、ついでに滅殺ゥッ!!』
そして魔理沙の狙い通りにレイダーは機首から機関砲を出して魔理沙目掛けて打ち込んで来た。
機関砲などMSならば当たりどころが余程悪くない限り大したダメージを受けることはないが生身ならば話は別だ。
口径こそダウンサイジングされているものの、下手に当たれば腕が千切れかねない。その予感を発射された時の音で敏感に感じ取る。
(あの音からすると単純な、鉛弾かなんかを火薬を爆発させて加速させてるっぽいな。弾自体は特殊なものじゃなさそうだぜ)
軽快な火薬の爆ぜる音、その音と共に銃弾が真っ直ぐに飛んでくる。
その弾を気持ち大きめに動いて回避する、本来ならもっと引きつけてから華麗に回避してやるのだが当たれない以上無理は出来ない。
自分の腕に絶対的な信頼があるわけでもないのだ、ここは安全策でいく。少しでもシンの顔を曇らせないためにも、だ。


『ちょこまかと………さっさと瞬殺されろよ、落ちろってんだよォッ!!』
「お前の言うことは聞かんぜ、鳥だかロボだか分からん奴め!」
帽子が落ちないよう抑えながらくるりくるりとバレルロールを連続で行い銃弾の雨をかわしていく。
天地が視界の中で何度も逆転し重力もどちらから受けているのかも分からなくなる、そんな状態でありながらもレイダーを視界から外すことはしない。
相手の動きから先を予測しそこから自分に有利な状況を作り上げる、そのためには相手の動きを見逃してはならない。
魔理沙には霊夢のような未来予知じみた直感なんて持っていない、少しでも一つでも自分に出来ることをやっていくしかないのだ。
そんな丁寧さを感じる魔理沙の回避にレイダーは苛立ちを募らせていく。
MSであるデスティニーならばまだしも相手は生身の人間だと言うのに掠りもしないのだ。
ただでさえ地上戦でデスティニーに自信を揺らがされているのに、これ以上は彼のプライドが許さない。
『当たれよ、当たれェッ!』
「言うだけで当たるんなら苦労するかいっ、って、ちょっとヤバいか?」
半狂乱になりながら両肩の機関砲も展開させ、アフラマズダからもプラズマの光線を乱射してくる。
直撃こそしていないが髪や服に掠りだし、時折あわやという一撃も混じってきた。
回避能力は弾幕ごっこで培ってきている、当たらない自信はあるがこのままではという思いも確かにあって。

ミニ八卦炉からビームを回転させながら放ち銃弾を蒸発させ、プラズマ光線を弾く。
パチュリーのモノマネの癖にやたら有効だったのが少し癪だがこの際贅沢は言っていられない。
何せ、全てを撃ち落としたと言うのに乱射を止めようとしないのだから。
(完全にプッツンいってないかアレ、ちょ、ちょっと本格的にまずいかもしれん!?)
魔理沙が思った通り、レイダーからは理性と言うものがほとんど蒸発してしまっている状態だ。
武器を持っていないはずのデスティニーからは勝負にならず、生身の少女には攻撃をひらひらとかわされる。
元々理性的とは言えない彼だ、デスティニーと対峙して取り戻したはずの理性が吹き飛ぶのも無理のない話である。
乱射される数々の銃弾を避けるが、少しずつ追い詰められてしまう。

『落ちろよ、落ちろ、落ちろ、落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ――――!』
喚き散らしながらレイダーが機首を上げる、機体の底には顔があって。
その口に光が灯る、何かが不味いと感じ大きく距離を開けようとするが乱射される銃弾を避けるので精いっぱい。
マスタースパークで一気に吹っ飛ばしてやろうと思うも最早ミニ八卦炉を構える隙もない。
避けようもない、待っているのは直撃だけという完全な詰み、そのことを理解し魔理沙の顔が引きつる。
だが、その引きつった顔はレイダーの背後から浮かび上がった機体を見ると快心の笑みへと変わっていった。


「―――――シンっ!」
『お前が、落ちろォッ!!』


地上からようやく上がってきたデスティニーが右拳をレイダーの翼に叩きつける。
硬質な金属同士が激しくぶつかり合う轟音が慌てて耳をふさいだ魔理沙の鼓膜を揺らす。
周囲には音を吸い取ってくれるようなものが何もない空中だ、ひょっとしたら妖怪の山にまで届いたのかもしれない。
轟音に魔理沙が目を白黒させるなか、殴られた衝撃でレイダーは機体のバランスを崩すがスラスターを噴射してどうにか立て直す。
同時にエネルギーを集束し終えたツォーンをデスティニー目掛けて放とうとするが。
『やらせるか!』
距離を詰められ、スラスターを噴射して勢いを乗せた足の甲で思い切り顎を蹴り抜かれる。
その衝撃でツォーンはデスティニーから狙いが逸れ、装甲を僅かに掠めただけで空中へと消えていく。
蹴ったデスティニーは勢いが付きすぎて空中で一回転、ちょうどサマーソルトキックと呼ばれる蹴り方となった。


だが、それで終わらせるつもりはない。一回転した勢いのままにレイダーの背に取りつき、脚部のスラスターに拳を叩きつける。
スラスターまでTP装甲が使われているはずもなく、あっけなく拉げて使いものにならなくなる。
それを確認するとデスティニーは魔理沙に向かって右手の親指を立てた。
サムズアップと呼ばれるそれを見た魔理沙が目を瞬かせるが、さらにデスティニーは人差し指と中指を立てて額に当てるとしゅっと指を振り。
そのまま一気に地表目掛けてスラスターを噴射してレイダーと共に魔理沙の視界から消えていった。
しばらく呆気にとられて地面を見ていたが、あれがデスティニーなりの感謝なのだと言うことに気付くとふつふつと喜びが込み上げてくる。
今度こそは力になれたのだ、助けになったのだと思うと誇らしさを感じて両手を握りしめてガッツポーズをする。
同時に、デスティニーが行ったサムズアップからの指振り、普段のシンらしからぬ、しかしカッコいいと思うそれを思い出して自然と頬が緩む。

「………へへぇ」
今は緊張を途切れさせるべきではない、まだまだ油断は出来ない。そんなことは分かっている。
しかしそれでもだ、シンに何かをしてやれたのだと思うと喜びが止まらなくなる。
今だけだ、この一瞬だけだと、嬉しさとシンに見惚れるその緩んだ表情はまさに恋する乙女のもの。







『くそっ、放せ、放せよこのピエロ野郎!』
「だそうだが、どうするね御主人。後誰がピエロか」
『放せと言われて放す馬鹿がいるかよっ、このまま落とさせてもらうぞ!』
皮肉と冷笑の混じった彼女の言葉に答えるデスティニーの言葉通り、地面目掛けて真っ直ぐに落ちていく。
落下速度を落とすために胸部と腰部スラスターを噴射するがほとんど抵抗できていない。
脚部スラスターが無事だったのなら抵抗も出来ただろうが、それを予期してしてのか既にデスティニーに潰されてしまった。
だが、例え無事だったのだとしても完全な抵抗は出来なかっただろう。
メインと脚部、そのスラスターだけでレイダーを抑え込むほどのデスティニーの出力では落とされるのが十秒二十秒変わる程度か。
(どういうバカ出力なんだよこいつ!?)
世代の差など問題にならない、そもそもレイダーの出力も第二次ヤキンで撃墜された「後」も改修を重ねて上昇しているのだ。
にも関わらずこの在り様、出力に差がありすぎるとしかクロトには考えられない。
それこそがデスティニーの思うつぼなのだとしても、だ。

(上手く、抑えられた!)
確かにデスティニーは高い出力を誇る、例えウイングバインダーが無いのだとしても、だ。
だがそれだけの、いわば力任せなやり方だけでレイダーを抑え込むことなどは出来ない。
ただでさえウイングバインダーがないこの状況では出力は大幅に落ちているのだから。
レイダーは単純にスラスターの出力だけで浮かんでいるわけではない。あくまでも航空力学に基づいて飛んでいるのだ。
胸部、及び腰部スラスターは機体の安定と飛行の補助に使われるものだ、出力そのものはさほど高いわけではない。
推進のために使われるのは主に背部と脚部スラスター。内脚部はすでに潰してある、後は背部スラスターを腕で強引に向きを変えてやればまともに推力を得ることは出来ない。
そうすればウイングバインダーがないこの状況であってもデスティニーの出力だけで十分に抑え込める。
後はレイダーがデスティニーを振り落とそうとする、或いは攻撃を加えようとしてくるのを防ぐことに専念する。
案の定アフラマズダを左右から伸ばしてきた、デスティニーを撃つか切り裂こうと言うのだろうが、しかし甘い。

『軟いんだっ!』
二つの大型クローの基部を掴みアフラマズダの照準を物理的にずらす、これだけで当てることはほとんど不可能となる。
無論そのままでは手を離しているのだから簡単に振り落とされるだろう、だからと言ってアフラマズダを放置するわけにもいかない。
だったらどうするか。答えは決まっている、掴んでいるクローの基部を引っ張る、しかしそれは何度か行ったレイダーの体勢を崩すための物ではない。
力任せに引っ張られることでアームからぎしぎしと金属の軋む音が聞こえてくる。
しかしそれでもデスティニーは力を緩めることなく、むしろさらに強く引っ張っていく。
接続しているアームや基部は「装甲」ではない、ある程度の頑健さは備えているとはいえ所詮ただの金属だ。
デスティニーの膂力には到底耐えられるものではない、ばきんと金属が一箇所千切れる音が響くと後は早かった。
残りの外装もねじ切られていき、内部のケーブルがぶちぶちと千切れる。
さらに一際強く引くと大型クローはレイダーの機体から完全に引き千切られてしまった。


『な………なにすんだ、バカじゃねーのお前!?』
『上手くいってるんなら問題ない!』
両手に握っていた大型クローを投げ捨ててレイダーの可変翼をがっちりと掴む。
これで攻撃を受ける心配はない、心おきなく「落とせる」というものだ。
(くっそ、このままじゃ地面まで引きずり落とされるじゃないか!)
デスティニーの背後を抑えられるクロトの心には苛立ちこそあるが、しかし焦燥はない。
また地上戦に移るだけだ、即機体がどうこうなるわけではないのだからまた空に上がるチャンスはある。
今回は甘んじるしかないが次は同じ手は食わない。あの箒にまたがった少女なんかには構ったりしない、デスティニーから距離を開けることだけに専念しよう。
デスティニーは自分を地面に叩きつけようとするだろうが、胸部腰部スラスターを全開にすればまずそんなことにはならないだろう。
Gには苦しめられるがクロトは下手なコーディネイターよりも肉体は頑丈だ、まず気絶はしないだろう。

そこまで考えて、デスティニーが手を離していないことに気付く。まあまだ地面との距離はある、自分でも離さないだろう。
そう、大して問題はないのだ。だのに、何故だろう。こうも不安を感じてしまうのは。
(………まだ、離さないのかよ?)
いい加減離したっていい距離だ、これ以上はデスティニーも着地しきれないはず。
なのに、離さない。いや、それどころか。
(加速、してる? ………………ちょっと、待てよオイ?)
心の中に湧きたった強烈に嫌な予感。その予感を決定づけるかのようにデスティニーはさらに地面に向けて加速し続ける。


それこそ、一切の減速など行わずに、だ。


『くぅ』
『……オイ』
レイダーの声が震えていることになどお構いなしに加速する。


『だぁ』
『テメェ』
さらに加速、減速などするものか。


『けぇ』
『……ハァ!?』
加速、加速、加速、加速、加速、加速、加速、加速、加速、加速、加速、加速、加速、加速、加速――――――!


『ろぉぉぉおおオオオアアアアアアアアアアアア!!!!』
『イカレてんじゃないかああああアアア!?』






ずどぉん、と大質量の物体が墜落した重々しい音が魔法の森中に響き渡る。同時に、衝撃で周囲の木々が揺れ土柱が上がった。
吹き飛ばされてくる土と草に離れたところで経緯を見守っていた早苗とアリスは目をつむる。
小石が吹き飛ばされ肌に当たる、しかしその痛み以上に早苗の心は目の前で起こっていたことに衝撃を受ける。
あれが、デスティニーなのか。自分の知っているデスティニーガンダムの戦い方とは違う、シン・アスカが駆るデスティニーなのか。
武器が無ければデスティニーガンダムは戦えない。それが早苗にとっての常識だった。
外の世界にいた時クラスメイトともそのように談笑したことがあるし、実際アニメでの活躍からもそれは窺えた。
だからこそ武器も、武器を扱うための腕もデスティニーにとっては絶対に失ってはならないもの。
そう考えていた。自分がデスティニーとなって戦った時もそのことを念頭に入れて戦ったのだから。
だけど。だけど、今目の前で繰り広げられていた光景は。デスティニーの本来の乗り手であるシン・アスカが繰り広げている戦いは―――


機体の持つ可能性を限界まで引き出すその戦い方、性能に頼っているわけでも技量のみで戦い抜くわけでもない。
シンとデスティニー、技量と知識、性能と特性。MS乗りとしては素人の早苗にもはっきりと分かるほどその二つが噛み合っている。
武器が無ければデスティニーガンダムは戦えない。早苗にとっては当然ともいえるその事実をあっさりと目の前のデスティニーは覆していく。
(デスティニーガンダムのこと全部、分かってるんだシンさんは)
それがシンと自分との根本的な違い。腕の差など瑣末な問題に過ぎない、いつかはシンと同じ、或いはより高みへと辿りつける。
だが、ここまでデスティニーガンダムのことを知ろうとするだろうか。ここまでデスティニーガンダムの可能性を模索するだろうか。
機体に対する信頼。それこそがシンにあって早苗、ひいてはデスティニーを嗤った者たちに欠けている物。

じっと、言葉も発さずただじっとデスティニーを見ている早苗にアリスは少し苦笑しつつ肩を叩く。
「もう少し離れましょ、ここじゃ巻き込まれるかも」
「え、あ、はい、そうですね」
自分だけならともかく、早苗が巻き込まれてしまっては今ああして戦っている彼に申し訳が立たない。
シンが危機を叩き潰そうとするのなら、自分がやるべきことは早苗を安全へと導いてやること。
それが自分なりのシンへの誠意と言うものだとアリスは考えている。

離れた場所でデスティニーとレイダーの戦いを見守る、今は早苗を守ることだけに専念する。
もっとも、もしもデスティニーが本当にこれ以上どうにもならなくなったのなら多少早苗を危険にさらしてでも加勢するつもりなのだが。
(ま、そうならないのが一番………なんでしょうけど、ね)
それでも、死なせるわけにもいかない。正直なところシンのことは気に食わないし大馬鹿だとも思っている。
だが、確かに嫌っているのだが、だからって何も死ぬことはない。死なれれてもいい気分にならないことだけは確信できる。
嫌ってはいるが死ぬほどではない、死んでいるよりは生きている方がいい。それがアリスにとってのシン・アスカだ。


デスティニーが立ち上がるのが遠目に見える、やはり相当な無茶だったのか機体からモーターの異常音が聞こえてくる。
しかし、それ以上に悲惨な状態なのはレイダーだ。スラスターで抉れた地面に半ば埋まるように横たわっている。
直前でMS形態に変形、全スラスターを使って強引に減速したとはいえ遥か上空から地面に叩きつけられたのには変わらない。
地面に叩きつけられた衝撃と強引な制動によるGでレイダーは苦悶の声を漏らすしかない。
いくら身体能力が強化されたブーステッドマンだとしても相当に堪えたのだろう。しかしそれはデスティニーにしても同じこと。
『くぅっ、流石に、墜落は慣れない、な。慣れたくもないけど』
「まったく、無茶をする!」
『デスティニーのスペック上は問題ないだろ、お前以外でならこんなことはしないさ』
ぐ、と一瞬言葉に詰まり、即座に少し怒った口調で機体の状態を伝えてくる。
「……足周りのモーターが焼けつきかけて大分動かし辛くなっている、それとフレームにも負荷が大きかったので最悪折れかねないぞ!」
『何で怒ってるんだお前………まあ、いいさ』
そう言うが早いかレイダーの頭部を踏み潰そうとする。残りエネルギー的にもレイダーが立ち直れない内に勝負を付けるに限る。


が、レイダーも悶絶しているとはいえそう易々とはやらせてくれない。転がって避けられてしまった。
その勢いを利用して立ち上がり、余程墜落が堪えた、と言うより理解できなかったのか指を突きつけて苦痛以上に怒りで震える声を上げる。
『お前、お前………頭おかしいんじゃないの!? バッカじゃねえの、このバカ!!』
彼の言葉を言いがかりの難癖だと笑える者はいないだろう、それほどまでにデスティニーの行動は非常識な物だ。
もしもレイダーがスラスターを噴射して速度を落とさなければ間違いなく共倒れになっていたはずだ。
そうでなくても地面目掛けて加速するなど自殺行為もいいところ、例えスペック上問題が無いのだとしても心理的にそうそうは行えるものではない。
そんな無茶苦茶な行為は、クロトから見ても命を投げ捨てるようなもので到底理解できない。

『なに考えてるんだよ、お前っ!?』
『わざわざ答えてやる義理はないけどなっ!』
拳を握りしめ、レイダーへと飛びかかる。デスティニーに有利になる行動は徹底的に避けるべきといい加減で学んだのか即座に距離を開けようとするが。
しかしそれこそ狙い目だ、レイダーがスラスターを噴射し終えた瞬間にデスティニーはスラスターで一気に加速、離されたはずの距離を再び詰める。
『あれでしか仕留められないってんなら、誰だってああするに決まってるだろ!』
顎を蹴り抜こうと脚を振り上げる、しかしブーステッドマン故の反射速度で避けられ、掠めた胸部装甲に火花を散らせるだけに終わってしまう。

それ自体はいい、綺麗に当たるとはデスティニーも思っていない。飽くまでレイダーの体勢を崩すための物だ。
掠らせるだけでも御の字、当たらなかったところで気にするまでもない。むしろ下手に当たってフレームを痛めるよりはずっといいぐらい。
気になるのは妙に反応が遅いこと。ブーステッドマンの反応ならば掠ることなく避けられるとデスティニーはふんでいたのだが。
(いや? 反応が遅いって言うより、むしろ………むしろ?)
『するかよっ、バーカ! お前の頭がおかしいんだよ、このド級バカ!』
罵りながらもデスティニーの挙動を観察する、レイダーの行動にデスティニーは嫌なものを感じる。
今の蹴りも軌跡を目で追い続けたからこそ掠ったのだ、完全に避けることに専念すれば掠ることもなかったはず。
反応が遅くなっているのではない、デスティニーの行動を見極め、適切に対処しようとし始めている。
(不味いな……嫌な傾向だっ)
本当に嫌な傾向だ、今は大したことはない、ただ反応が遅くなっているだけとしかレイダーのパイロットも思っていないだろう。

だがいつかは、やがていつかはデスティニーの動きに対応される、追いつかれる。
それがいつ訪れるかは分かりはしない、もしかしたら次から呆気なく対応されてしまうのかもしれないのだ。
『本当に、厄介な傾向だっ』
「うむ、確かにな………だがね」
デスティニーから聞こえてきたのは呆れたような声。一体どこに呆れるような部分があったと言うのか。
聞き返すよりも早く聞こえてきた言葉は。
「敵が成長していると言うのに、なんだって嬉しそうなんだね君は」
図星、とまではいかないが自分の心情を見透かしたようなデスティニーに、ぐ、と言葉に詰まってしまう。
別に嬉しいわけでも喜んでいるわけでもない、だが自分を越えようと模索するレイダーの姿に警戒心以外の何かを感じ入るのもまた事実。

そう、事実。先ほどまで大して考えもせずただ自分の身体能力を嵩にかけて暴れ回っていたレイダーが思考を回し始めている。
思考だけではない、自分の腕もろともデスティニーに切りかかってきたように覚悟も決まってきたのだろう。
敵ではあるがその成長が嬉しく感じる気持ちは確かにゼロではない、デスティニーの言っていることは確かに事実なのだ。
事実だが、だからと言って警戒しないわけにはいかないし私情を挟むわけにもいかない。
『………気のせいだろ。そんなことよりサポート頼むぞ!』
「はいはい、素直じゃない主人だこと………いい加減エネルギーも不味い、長引かせるなよ」
『言われんでも!』

そうだ、長引かせるわけにはいかない。これ以上成長されては戦略的には堪ったものではないのだ。
個人の気持ちなどはともかく、レイダーに成長の機会など与えてやるわけにはいかない、確実に仕留める。
ツォーンにエネルギーが集束し出すのが見える、だが当たってはやれない。
撃たせないのが一番なのだが流石にそれは間に合わない、撃たれてしまい装甲を掠めていく。
だからと言って二射目を許すつもりはない。だから。そう、今できる最善を。


(くれてやる、さ!)
握りしめた右の拳をレイダーの口部、ツォーン発射口に叩きつける。
高温に熱せられたコロイド粒子により左腕が一気に蒸発していく。
しかしそれは一瞬ではない、即座に腕が全て蒸発してしまうわけではない。
装甲が熱で融解、次いで電装、フレームと順を追ってだ、それにVPS装甲を一瞬で蒸発させられるだけの熱量があるわけでもない。
無論受け続ければフレームまで綺麗に溶かし切られてしまうだろう、だが一瞬もてばそれでいい。
『右手ぇ、持ってけェッ!!』
痛みなんかどうだっていい、右腕が無くなったって構わない。もちさえすれば、ツォーンの砲口に拳が届くのだから。
熱でずたずたになったマニュピレイターが口内の砲口をへし折る、それもビームが照射されている最中に、だ。
行き場を失ったエネルギーが暴発し、レイダーの口から爆炎が上がる。ツォーンはおろか、各種センサーや処理機構にも被害が出ているだろう。

『うわあぁッ、てめ、正気かよ!?』
『正気で無けりゃ出来るかよ、こんな真似!』
スピーカーの一部が破損したのか、割れた声がレイダーから響く。
威勢のいい啖呵を切るデスティニーだが、頭の中は右腕が焼き切れた痛みでがんがんと割れそうなほど。
当然だろう、何せ右腕は肘から先は完全に消失し、残った部分も装甲は焼け焦げ溶けた電装がフレームにへばりついているという痛々しい有様。
それでも蹲らずに動きを止めない、出来たチャンスを高々痛みなどでふいにするようなことは出来ないのだ。
左の掌をレイダーの腹部に押し当て、そのまま踏み込みと同時に押し出す。
だが―――何も起きない。ただレイダーが押されただけだ、舌打ちして距離を開けようとするもそれよりも早くレイダーがミョルニルを振りかぶっていて。

『いい加減、滅殺されろッ!』
反応しきれず、鉄球が顔面に叩きつけられる。がぁん、と強い衝撃に襲われカメラアイの防護ガラスにひびが入ってしまう。
内部処理機能にはかろうじて大した損傷はないものの各種センサー部の被害がいい加減無視できなくなってきた。
モニターには走査線が一部走り色も何色か認識できなくなっている、マイクが拾う周囲の音にもノイズが混じりだしてきて。
(まだ動くけど………いい加減、不味いかっ!?)
いくらデスティニーが頑丈に作られているからと言っても限度と言うものはある。
当たるにしても出来る限り内部機構が損傷しないよう綺麗に当たってはいるがそれもいい加減限界だ。
シンの集中力だってそうそう長くは持たない、エネルギーに至っては言わずもがな。
何としても早期の決着をつける必要がある、だからこその「掌」。振り回されるミョルニルを掻い潜ってその掌をもう一度レイダーに押し当てるのだが。

『――――くぅっ!!』
決まらない。決まってくれない。踏み込みの甘さか或いはタイミングが遅いのか紅美鈴が見せてくれたあの技法を再現しきれない。
人体と遜色ない可動域を誇るデスティニーならば理論上は十分可能、足りていないのは己の技量か思考の集中か。
美鈴との鍛錬では三、四十回に一回は成功しているのだ、限られた時間の中とは言え実戦故の集中力の中での思考錯誤の反復ならば僅かずつでも近づける。
だからこそ、果敢に何度でも挑み続ける。ミョルニルで頬の装甲を削られようと腹部に叩きつけられようと何度でも、だ。
そんなことを繰り返すうち、デスティニーの思考は徐々にその技法への解釈だけが占めだしていく。
決して避けることが疎かになっているわけではない、むしろ思考せずとも自然に体が動くある種理想の状態。
その状態の中でデスティニーの可動域、モーターの出力、シリンダーの圧、全てを一つづつ確実に最適化していく。
ただ一つの思考の元に。技法を再現させるために。デスティニーと共に思考を形に変えていく。
美鈴に教えられたことを守り、自身の記憶にあるあの衝撃を再現するために。


(っ、もう時間が無いぞ、直に―――もう十秒もすればVPSが落ちる!)
(十秒!? ……そうかっ、十秒かっ!)
終わりまでの時間を明確に示され、デスティニーの集中が限界だと感じた位置よりさらに深まる。
もしもSEEDがデスティニーに残っていたのならばとうに発動しているであろう程の深みへと没頭。
そして、その集中が、ほんの僅か、本来の能力をほんの僅かに引き上げて。
レイダーがミョルニルを叩きつけようとしているのが見える、しかしだったらどうだというのだ、やるべきことに変わりはない。
静かに、音もなく掌を優しさすら感じるほどにそっとレイダーの腹に添えて。

(踏み込み―――)
だん、と足跡が付くほどに強く踏み込み。
同時にミョルニルが眼前に迫るが心は揺れなくて。
(捻じり――――)
機体全ての関節を利用して機体を捻じることにより踏み込みにより得た力を増幅。
当たるわけにはいかない、頭部を動かして直撃を避けようとするがもう頬に当たりそうで。
(伝達―――――)
その増幅された力は、同時に関節の捻じりによって足裏から膝、膝から股関節へと伝達する。
股関節から腰、腰から肩、肘、手首と伝わっていき、指の関節に至るまで満ち溢れ。
火花を散らしながらミョルニルが頬の装甲に食い込み抉ろうとしている。

『―――――はぁつ!!』

力の全てを解き放ち、叩きこむ。緩から急、静から動への移り変わり。
そこに全身を利用して力をダイレクトに伝えることによりレイダーの全身に衝撃を均一に浸透させる。
衝撃がレイダーのフレームを揺らし、腹部を中心に電装の接続をどんどんと引き千切っていく、センサーだって機能不全を起こし処理が追いつかない。
最早無事と言える箇所はバッテリーのみ、そこ以外は外部からは分からないが内部機構のほとんどがエラーを吐き出してしまっている。
『――――っ、あ、が』
呻き声を上げてレイダーが膝から崩れ落ちデスティニーに寄り掛かってくる。それとほぼ同時に金属がこすれ合う甲高くも激しい音が響いて。
どさり、とフレームから千切れ飛んだ頬の装甲が地面に落ちる、そしてデスティニーの全身の装甲からは色が抜け落ちていって。
フェイズシフトダウン。本当の本当にギリギリで間に合った、そうだ、間に合った。間に合ったのだ。

『………出来た』

荒い息をつきながらぽつりと感慨深げに呟く。この土壇場で出来るとは、いやこの土壇場だからこそか。
デスティニーのスペックならば出来るということは分かっていたつもりだったが、それでも本当に成功したことに驚きを隠せない。
この土壇場で成功させられた自分自身に、技法を正確に再現できるデスティニーの高い可能性に。
だが、それらは本来ならば驚くようなことではない。相応の技量を持っているのならば出来て当然。
デスティニーとはそのような機体だ、技量が不足していたとしても理解と反復で補うことが出来る柔軟性。
機体の全てを最大限に理解しているシン・アスカだからこそ。
乗り手の努力にストレートに答えるデスティニーだからこそ。
どちらが欠けても起こり得ない、機体と乗り手、両方が揃ったMS、デスティニーガンダムを以てその技法―――発勁は結実し発現する。
がくがくと痙攣を起こしているレイダーを突き飛ばし、その機体目掛けてCIWSを撃ち込む、より正確に言うのなら腰部のスラスターをつぶすために四発だけ。
これで例え意識が戻ってもそうそう簡単に飛び立つことは出来ないはずだ、少なくともレイダーだけで飛び立つことは出来ないだろう。
CIWSを受けた衝撃でとうとう地面に仰向けに叩きつけられる。兵装がほとんど使えずエネルギーも不足していた圧倒的不利な戦い、その決着がついたのだ。

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最終更新:2012年12月07日 08:34
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