―――機動六課・食堂―――
「えへへ・・・・・・」
ここ数日のことを思い返すとついにやけてしまう。
想いを寄せているシンといられる時間が非常に増えたためだ。
尤も、ヴィヴィオもいるため恋人を通り越して家族に見られているが。
「・・・なのは、随分ご機嫌だね?」
先ほどからパスタをフォークで突付いているるだけでにやけてばかりいる親友の姿は今まで見たことがない。
「だって聞いてよフェイトちゃん、ヴィヴィオと一緒にシン君と出かけたときに~・・・・・・」
より一層に幸せオーラを撒き散らせながら喋りだしたことによって昼食はそのまま食べることは叶わなかった・・・
「う~ん・・・・・・」
「ギン姉ぇ、ご飯まずくなるよ」
姉に対してなんて口を叩くのだろうと思うのはスバルの隣にいるティアナ。
だが気持ちもわかる。
ここ数日ギンガはこのような状態なのだ。
「あ、ごめんね」
「しっかりしなよ。
何があったか知らないけど、手伝えることがあるなら何でもするよ!」
「確かに、見てられませんからね」
「・・・・・・うん、ありがとう」
これによりギンガは得難い協力者を得るのだが、
まさかあのようなことになるとは夢にも思わなかったのです・・・・・・
「え~つまり、ギン姉はシン君のことが好きと?」
「べ、別に好きとかじゃなくて、えっと、えっとぉ・・・・・・」
「すみません、そんなに顔赤くして言っても説得力無いですよ」
「あう・・・・・・」
食堂から変わって現在はスバルとティアの部屋。
しかし予想以上にデリケートな内容だったため、場所を移さざるをえなかった。
「それにしても、まさかシグナム副隊長までシンのことを好きとはね……」
正面から堂々と恋敵宣言をするのは確かにらしいと言えばらしいが、
(ねえティア、シグナム副隊長以外にシン君のこと好きなのって……)
(間違いなくなのはさんね。)
いつぞやの妙な宣戦布告のことを考えるとそれしかないだろう。
(もしかして、なのはさんとシグナム副隊長から頼みごとが多かったのもその関係じゃないの?)
(ティ、ティアさすがにそれは無いと思う…よ?)
「二人ともどうしたの?」
「い、いえ別に。」
「とにかくギン姉!このままだとシン君が取られちゃうんだよ!!」
ハッキリ言って分が悪すぎる勝負だ。
あの美貌と才能なら一人の男を狙い撃つのは造作もないはずだ、と勘違いをしている二人は焦る。
こちらも負けてはいないが、最悪二人が協力したら勝率はやはり低いと言わざるを得ない。
「そ、それは……」
「それ以前にギンガさん、男の人と二人きり、つまり『デート』の経験は?」
「でででデートなんて!?」
未経験と。
「……仕方ないか」
そう言うとスバルは本棚から分厚い本を一つ取り出す。
「ギン姉、試にこれ読んでみて」
「……漫画本?」
表紙に目を向ければ人気作品とうわさに聞く少女マンガだ。
「その様子じゃいきなり専門誌や実践じゃ無理でしょ?
だから参考程度でも読んでみて」
漫画と言えど侮るなかれ。
この作品は読者に恋愛指導といった作風で描かれている。
そのためかそっち方面でも評価が得られている。
「まあ物は試しだからさ。
それに少しは気分転換しないとシン君に心配されちゃうよ」
「……そうね。」
もしこんな顔をシン君に見られたら、お姉さんなのに心配られちゃう。
と思いながら漫画を手に取った―――
「す、すごい!!こんなことまでするの!?」
食堂でため息を吐いていたころと打って変わって今や大興奮で読むギンガ。
少女漫画は不思議なことに『青年向け』、つまり『えっちぃ』描写が多い。
どうやらこの漫画も例に漏れずそういった描写がされているらしい。
普通はこんなにまで興奮はしないはずだが、漫画のキャラを自分とシンに置き換えているのかもしれない。
もしも映像で見ていたら手で顔を覆いながらも指の間からガン見してただろうなと思っていたティアナだが、
ここでスバルの異変に気付いた。
先ほどから部屋の入り口をジッと見ているのだ。
それもただ見ているのではなく無表情で、瞳の光まで失っていると感じてしまうほどに。
だからつい、見なければよかったかもしれない光景に、スバルと同じく固まってしまった。
沈黙してしまった二人とは対照的に一人でキャーキャーと興奮するギンガはなんとも滑稽に映る。
「……あの、ギンガお姉さま。ちょっとよろしいでしょうか?」
かろうじて、本当にかろうじてだが何とかスバルは言葉を発することができた。
そのことにこの場に居合わせたティアナは心に涙を流しながら称賛を送らざるをえなかった。
「もう何よスバル。今すごくいいとk……」
ああ、こちらを見てしまったとそのまま幸せな夢を見させてあげたかったと思うと同時に
『終わった』とスバルとティアナは悟った。
ここで少しだけこの部屋について説明しよう。
六課は本来、特に寝泊りするための部屋は一部例外を除き鍵か中から開けてもらうしか方法はない。
だが昨日からドアの調子が悪く、近づけば自動ドアのように勝手に開いてしまう。
そう、扉の前に偶然借りていた本を返しに来た―――
「…………」
呆然と固まっているシン・アスカのように―――
十秒か、一分か、十分か、大した時間が流れていないはずなのに長く感じてしまう沈黙が続いていた。
ギンガは興奮していた表情はそのままに、赤く上気していた顔は一変、青白く染まっている。
ここでスバルかティアがフォローをすればよかったのだろうか?
しかし誰も動くことができない。
十二分美少女と言える人が漫画のえっちぃ漫画で大興奮しているところを想い人に目撃されたとき、
誰が動くことができるのだろうか?
「……失礼しました」
努めて、努めて何もなかったように無表情に、無感動な声で、シン・アスカは部屋から離れていった……
「い、い、い…………」
『いやあああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーー・・・・・・・・・・・・』
変わってしまった日常 リリカル版 6
ギンガ・ナカジマの受難
「うるさいなぁ・・・・・・」
木々の一つに枝の上で足を伸ばし、幹に身を任せている声の主がいた。
シン、なのは、ヴィヴィオの三人を後ろから見ていた少女だ。
日照りのよい今日、多くの猫達と共に眠っていたようだが、
先ほどの誰かの悲鳴によって彼女だけが起きてしまったらしい。
六課からそう遠く離れていないとはいえ、普通ならまず聞こえないはずなのに。
「まったく、いつまでこの世界で待っていればいいのかな・・・・・・」
残念なことに、自分には世界を渡る能力は無い。
ゆえに可能な限り無駄な行動は避け、帰る手掛り手がかりである『彼』の近くにいなければならない。
たとえどれほど可能性が低くとも、唯一自分の知る人物と限りなく近い人だからこそだ。
「早く迎えに来てください・・・・・・」
緑の帽子を深く被りなおし、いつか迎えに来るであろう『主の主』を思いながら再び眠りにつく。
ずれた帽子から猫の耳を覗かせながら・・・・・・
最終更新:2012年12月07日 08:48