1
「ふぅ、いい感じに育ったようでなによりだな」
「ほぅ、なるほど最近では畑のみならず花も育てるようになったか。ふむ、花を
咲かせた薔薇を手に取り喜ぶ姿はその…一部の層に受けそうなところだな」
「せっかくロケーションが良いのに花の一つもないと殺風景だろうよ、ここはさ」
「私は特に気にしていないんだがな」
「そんなんだからここの教会は『最近娘が口を聞いてくれない』だとか『娘が下着を
一緒に洗濯すると怒る』だとかの愚痴はき場になってんだよ」
「ふふ、いい年をした中年男性の悲哀を聞くのも愉悦というものか」
「あんただってこの間まで娘さんが一週間口聞いてくれなくてへこんでたよなぁ、なぁっ」
ここは丘の上の教会、一昔前は殺風景だったこの土地も今では開墾され花畑やら大豆やら
茄子やらが植えられた畑やらで少し華やかになった。これらはこの次元に『落ちてきた』
シンの手によるものではあるのだが。最近ではジョギングのコースの一つとなりどこぞの
黒豹だったりとかが走りにくるようになり街の人間にも親しまれてるようになった。
「しかしながら、散々畑を開墾してから後に花が足りないと気付くとはな。まずはそこから
が最初だと思うのだが」
「話そらすなよおっさん」
「…いやなに、あやつが実をつけ始めた茄子を見て『実をつけ始めましたね』なんぞいうから
ついぞ『そうだな、してお前の方はどうかな。時折忍んではあの赤眼と励んでいるようだが』
と微笑ましい親娘の会話をしてみたら、あの様よ」
「なっ、なっ、なっ………」
「して、どうだ。普段こそああだが、二人でいるとそうではないだろう。あれは妻に似たからな」
「い、いや。確かに二人の時だと…」
「フィッシュ」
「なぁ、この薔薇と教会の背景に木に吊り下げられた野郎二人ってホラーじゃねぇか」
「ふ、どうせ雑種がまたなんぞやらかしたんだろうよ」
「(テムズ河に放り投げられた事はあっても木に吊られた事はなかったな)」
「やれやれだな」
「おい、俺は違うぞ!どっちかっていうとこのおっさんに巻き込まれてっ!
いや、ごめん許して!」
2
「………ただいま」
「やれやれ、こんな時間に帰宅とは一体何をやっていたんだかな」
「普通に働いてきたんだよ!あんたそれ知ってるだろ!」
「それより、つまみを作ってくれないか。今日は家にいるのは私だけなのでな」
「帰って早々…、ああ良いよ。あるもんでいいんだな」
「ふむ、塩キャベツか本当にあるもので作ったのだな」
「(心なしかちょっとがっかりしてるようにみえる)
それにしても珍しいな、あんたが一人酒って」
「妻は婦人会の旅行に、娘はサークルの合宿。同居人のサーバント共は
花札がどうとかで急に温泉旅行に、ならば一人でゆっくりするのもありだろう」
「女性陣はおいといてギルとランサーとアーチャーなんだで仲良いよな」
「それにしても、居酒屋でバイトか。君ならばもっと割りのいいものがあるだろうに。
戸籍だってあるのだし、偽善的な精神の塊をもっているのだから国家権力の犬
となるのも可能であろう」
「………公務員はアシがついたときがな、せっかく世話になってるアンタらにも迷惑
かけちまう」
「ふむ、こちらの世界に来る前はどこぞの不細工地底人相手にチェーンソー振り回していたり
巨大昆虫やら巨獣やらマザーシップやらに単騎で突撃かけたり、自由の町でそこらかしこで
飛び交う銃弾やらメテオやらニトロで急発進してくる車を回避しつつホットドックを売っていたり
する人間の台詞ではないな」
「あれらの世界はそんなところに気を回す余裕はなかったからな」
「平和な世界ほど異邦人には住みにくいか、成るほど皮肉めいた話だな」
「ああ、でも…リバティシティにいるよりはましだ。なんせあの街は生きた心地がしなかった
からな」
「む、風呂にでもいくのか」
「あとは寝るだけだからな」
「ふっ、ここにいるのが私ではなく娘だったならばそれだけでは終わらんのだろうがな」
「ちゃんとしっかり働いて将来設計は考えてますから!」
「ふふふっ………」
3
冬木市某所某ビルに店を構える雀荘『良妻狐』
ここに、冬木の裏社会それもかなりの深度での大物4人が卓を囲っていた。
「切嗣君、君のところはたいそうにぎやかになっているようじゃないか」
「人外魔境もいいところと化しているそうだな」
「桜ちゃんの教育に悪い、なんとかならないのか」
「はぁ、なんとかなるくらいならとうにしてるよ」
普段の生活から離れ、多いともいえないこずかいの中のレートで度々囲まれている
この卓は肩身の狭い中年男性達の愚痴吐き場、もといオアシスとなっていた。
「最近じゃ娘達にかまってばっかりで将棋の一つでもうたせてもらってないよ」
「威厳がないものだな」
「しかし、それとは別に綺礼。葵に何を吹き込んだ」
「何!?何かあったのか!!」
「ふふふ、私は何も。大方、妻あたりが教えたのだろう」
「もしかして…あの呼吸法かい?そういえばアイリも何かやってたなぁ」
「おかげでこの前軽い口喧嘩になった時、シャボン弾で頬を切られてしまったではないか」
もちろん、その呼吸法とは人外の者達と闘う為に生み出されたあの呼吸法である。
言峰夫人はかつて不治の病にかかってはいたが、この呼吸法を習得しこれを克服、今に至る。
噂ではどこかのアイドルプロダクションでも必修課題になっているとか。
なお、彼らの奥さん方は絶賛温泉旅行中である。
「葵さんを怒らさせる様な真似をするからだ」
「ああ、アイリにまで伝搬してるって事は他の娘達にもしてるんだろうなぁ」
「まったく、それにしても衛宮家に比べて言峰家は大分落ち着いているんじゃないかい?」
「む、師よ。シンの事ですか」
「ああ、あの赤目の…言峰のばっかりで桜ちゃんには手を出していないようだけどな」
「あれは、まぁ。最近は自立しようともがいているらしいようですな」
「とはいえ、戸籍とかなんとかはこっちで手抜かりなく用意したけど。まぁ、回り道してるようだね」
現在、冬木で一市民として時にはラッキースケベ(対象は主にカレン)しながら平凡に暮らすシンでは
あるが、それは実の所この4人の根回しによるものである(なお、主に切嗣が時止めを利用した住民票
改竄によるところが大きい)。
「まぁ、平凡に暮らしたいっていうのであればそれでいいんじゃないかな。あの武装で暴れられるよりは、ね」
「あれらは一体どうしたのだ」
「はい、今は厳重に保管してあります」
「まったく、異次元だか何だか知らないけど。本当驚きだな」
彼らが懸念しているのはシンではない。正確に言うと彼がこの次元に漂流してきた際にもっていた武装である。
チェーンソーと一体となっているマシンガン『ランサー』(EDF仕様)
ありえないほどの威力を誇るスナイパーライフル『ライサンダーZ』
一度放てばあたりが焦土と化す『ジェノサイドキャノン』
刺すと発火する『危ナイフ』※自分も発火します
殴ると爆発する『ボンバット』※自分も吹っ飛びます
どれもこれも魔術とは関わりない科学の力で作られた兵器である。もちろんこの次元には存在しない。
流出すればそれこそこの世のバランスがひっくり変える物ばかり。これらの兵器にはさすがにこの4人
も危険視せざるを得なかった。
「まぁ、彼自身はそれを持って何かするわけではないとは思うがな」
「本当に、どんな人生を歩んできたんだがね」
「空からメテオが降ってくる内戦状態のL.Aってどんな街なんだか」
「(そんなところでホットドック売ってたのも大概だがな)」
大人たちがひそひそと話している中、どこか狐っぽいオーラを醸し出しているセクシー店員
が天和をあがった声が聞こえてきた。
「まぁ、当面は彼よりも衛宮家の長男のはっきりしなさ加減の方が問題だなっとリーチだ」
「士郎をあまり悪く言わないでほしいね、ロン。スーアンコウ単騎」
「師よ、それです。国士無双でロン」
「それだよそれ、チューレンポウトウ!」
「んなっ!?」
遠坂時臣、うっかり癖により―ここに撃沈
絵とかなんとかで平和な言峰一家とか見てるとなんかムズムズしますね。
そういえば切嗣は実年齢一桁の嫁に色々と夜の技をしこ(どこからかの狙撃音)
この次元におけるシン
最初に漂流したのは惑星セラ、せっかくのコーディネーター処理もSEED能力もローカスト
の前には無力であった。マーカス達に拾われデルタ部隊の一員として死線を駆け抜いた。
次に漂流したのはフォーリナーの侵攻を受けた地球、状況が状況の為特別措置により疑惑の目
を向けられながらもEDF隊員『デルタ1』としてかの英雄『ストーム1』と戦場を駆け抜けた。
(ランサーはここで改修を受けた)
最後に漂流したのは空よりメテオが降り注ぎ、一般市民すらも重武装し町中で発砲し合う内戦状態
のリバティーシティ、戦争ではない文字通りの生き残るための闘いの日常に精神を削られながらも
ホットドックを売り歩く。
なお、冬木に漂流した後はこの地で起こった聖杯の残骸騒動では前述の武装を駆使して魔術を知らない
一般人ながらも生き残った。
この次元の間桐慎二
桜がやってきた当初はグレていたが成長とともに桜のストーカーと化し年々ダメ人間になる叔父。
痴呆が進み介護が必要になってきた祖父。それをせっせと介護するアサシンの姿を見て更生。
今ではすっかり妹思いの真人間の兄になっている、シンとは話が合う友人になっている。
冬木の新しいレジャー施設、わくわくザブーン。
設立からそう日が立っていないという事もあるが、厳しい今夏の暑さに今日も客は
入れ食い状態であった。
「騒がしいところはあんまり得意じゃないけど、こういうところもたまにはいいなぁ」
バイト先の店長から『タダ券もらったんだ、私いらないからシンにあげるよ』とちょうど
二名一組無料の券を2枚もらったので、何かとやっかいになっている言峰一家を誘い
やってきたシン。平日昼間だというのに人が多い事に驚いたが、よく見てみるとちょうど
高校生くらいの者達が多い。今日はあたりの高校は試験休みのようなので、その影響だろう
とシンは思った。
「周りの水着の女性陣に目移りしているのですか」
「人が多いからってそう当たるなよ、カレン」
露出がそれほどない落ち着いた色合いのワンピースの水着を着たカレンが、ベンチで
休憩をとっていたシンに毒づいた。
「確かに人は多いけど、それでも平日だったらまだマシな方なんじゃないか」
「まぁ、そうですね」
「それに見るにしても滅多に見れない水着姿のカレンが目の前にいるからな、そっちばっかり
にめがいっちゃうよ」
「ど、堂々とそんな恥ずかしい事を。よく言えますね」
幾多の修羅場を潜り抜けてきたシンにとって歯の浮いたセリフの一つ二つは最早どうという事
はなかった。カレンは頬を赤らめるとぷいっとそっぽ向いてしまった。
「(普段はSなんだけど受けに回るとやっぱり弱いんだよなーコイツ)」
多少拗ねてしまったとは言え、そばから離れようとしないあたり可愛らしいと思った。
「あらあら、青春ですね」
「あ、クラウディアさん」
と、そこに競泳水着を着たクラウディアが軽食を持って二人の下に訪れた。
高校生の娘を持っているとは思えない若々しさと市民プールならまだしも行楽施設には
不釣り合いな競泳水着がなんともそそる人妻シスターであった。
「もう少ししたら、あの人もやってきますから」
「え、えぇ…っ痛!」
「ふふふ」
少しクラウディアの姿に少々見とれているとカレンがわりとガチで腿をつねってきてシン
は思わず声をあげた。
「ふむ、持ってきてやったぞ」
「ごくろうさまです」
「あ、ありがとうよ…」
と今度はぴっちりとしたブーメランパンツに身を包み、飲み物を持ってきた神父が登場した。
鍛え抜かれた体にそのぴっちりとしたブーメランパンツは男性ながらも得も入れぬセクシーさを
醸し出していた。
「この絵…誰得なんだろうか」
「とりあえず、あまり近づかないでください」
「む、あまりいってくれるな」
「はいはい、さぁせっかくだから頂ましょう」
軽食を済ませるた後は言峰夫妻はゆったりしつつ楽しみ、シンとカレンは体力があまりないカレン
を気遣いながら小休止をはさみながら思い思いに楽しんだ。
途中、同じく遊びに来ていた衛宮一家に遭遇したり。ちょっと人が多くなってきてカレンにパルマしたり、
ぴっちりとしたブーメランパンツに身を包んだ葛木教論とその嫁にあったり。
二人組用ウォータースライダーを滑ったり、それで衛宮家の長男が修羅場ってたり、年甲斐もなく保護者
組が滑ったり、神父と教師のダブルブーメランパンツが人目を引いたりと色々あった。
こうして、言峰一家とシンは一時の休日を楽しんだのであった。
「でも、競泳水着のカレンも見てはみたいよな…」
「盛るのもいい加減にしてください、駄犬。………今度だけですからね」
「え?何だって?」
「っ///フィッシュ!!」
4
最終更新:2014年02月02日 13:45