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第2話「長刀と杖」

『迷える魂達の長き夜』 第2話「長刀と杖」

高町なのはは困惑していた。
ロストロギア『魂の揺り篭』で相対した初めての敵は、
素性は知れないながらもどこか皮肉気な空気を漂わせた黒髪赤瞳の長刀使いだった。
無論、この場に召喚された以上、相当な強者だろうという事は予想していた。
しかし、それにしたところで、その戦い方には戸惑いを覚えずにいられなかった。
長刀というものは、基本的にその長大さ故に攻撃が大振りとなり、
振り下ろす、薙ぎ払う、突き出す、という3つの攻撃方法を大味に使用していく事が多い。
得物の長さを生かし、大味な攻撃方法を使って懐に入らせないようにして倒す、
それが長刀の基本であり、長所にして短所である。
相対する黒髪赤瞳が手に持つ長刀は、常識的な長刀から見ても長さに不足はない。どころか多少長いように思われる。
長刀よりも小回りが利く杖を得物とするなのはからすれば、相手の大味な攻撃を凌ぐかかわすかして懐に入り込み、
一挙に決着をつけたいところであり、戦闘開始からその機を伺っているものの、どうにも為しえない。
生前のなのはからすれば、杖を用いた近接戦闘自体にはそこまで熟達していたわけではなかったのだが、
彼女自身が敵に語った通り、この世界における自身は生前の彼女をベースとしつつも、
複数存在する並行世界から様々な要素を取り込み、デフォルメして構築された存在である。
それ故、今の彼女は生前にはそれ程縁が無かった杖による近接戦闘も相当な技量でこなす事が出来る。
どうやら並行世界の自分の中には、こういった戦い方を得意とする存在がいたらしい。
反対に防御力の方はだいぶ下がっているようだが、
攻撃力においては生前と比べても、見劣りしないレベルで保てている事が感覚で『理解』できており、
後はこの世界において獲得している杖術の近接技量と機動性を活用すれば、
勝機は決して小さく無いはずなのだが、現時点では目の前の敵相手に苦戦を免れないでいた。
理由は男の活用法にあった。男は長刀を得物としつつも、その戦い方は酷く手堅いのだ。
振り下ろされた刀の軌道は間髪入れずに横薙ぎに代わり、
それを後ろに下がって回避すれば、それを見透かしたように突き込みがやってくる。
突き込みが外されれば、すぐさま薙ぎ払いに持ち込み、
そこから自身の体を小刻みに動かして常に自身の体勢が流れないように整える。
間合いに多少のずれが生じれば、すぐさま動いて一定の間隔を保つ。
かと思えばフェイントやわざと隙を作っての誘い込みなども所々に混ぜており、
迂闊に飛び込もうものなら、すぐさまからめ捕られそうになる。
まさにその動きは精緻にして細密、そして堅実であった。長刀を使いながらも、
まるで小太刀を扱うのような細緻と精密、その技量に輪をかけて厄介なのが、
戦闘開始されて以降、絶えず黒髪赤瞳の男の全身を取り巻くように展開されている無数の光の粒子だ。
その粒子にはどうやら光を屈折させる効果があるようで、
男の体が動く度に複数の細かな残像が発生している。
男の堅実な技量に加えて、動く度に発生する残像がなのはに微妙な間合い間隔のズレを誘発しそうになる。
無論、この敵相手に間合いをずらせば、その隙を突かれて敗北する事はなのはにはわかる。
大技を使おうにも、男がそれを許すとは到底思えない。
ならば―――
襲い来る敵の薙ぎ払いを常より力を込めて強く弾いた後、
不意になのはは後方に飛びし去って距離を取る。
すかさず黒髪赤瞳の男が追撃をかけようと直進してくるが、それは予想済みだった。



「アクセルシューター!」

なのはの言葉と共に桜色の光玉が複数投射される。
黒髪赤瞳の男はすぐさまそれに対応し、無数の光玉をあるいはかわし、あるいは長刀で切り払う。
かわされた幾発かの光玉は男の動きを追尾し、反転してさらに襲い掛かる。

「ちぃっ!」

黒髪赤眼の男が短く舌打ちしながらも、追尾してくる光玉に対し、
その場に立ち止り長刀を鞭のように振り回して迎撃し、面ごとまとめて切り払った。
これにより宙を舞う光玉は全て撃破され、一つとして残る物はない。
しかし、それでもなのはにとっては十分だった。
男が確実に足を止めた一瞬、それこそがなのはの待ち望んだものだった。

「ディバイン―――」

切り札の照射体制に入ったこちらに対し、男が振り向く。
しかし、遅い。次の瞬間にはこちらが放つ魔力砲光が確実に相手を飲み込む。
タイミング的に見て、これまでの敵の動きから見て、これをかわす事は不可能なはずだった。
必勝の予測と共に、なのははその呪名を唱え終える。

「バスタ―――!」

膨大な魔力光が轟音と共に解き放たれ、なのはの視界を埋め尽くす程の規模で展開し、駆け抜けていく。
自身が手に構える杖を揺るがす衝撃と反動をなんとか制御しながら、なのはは自身の勝利を確信していた。
この砲撃を防ぎうるだけの防壁を展開する余裕も様子も、敵には見られなかった。
まず間違いなく敵は己が放った光の渦に飲み込まれたであろう。


「ふう……。」

術が収まり、晴れていく視界の中、制御の重圧から解放されたなのはは小さく息をつく。
構えを解いて、目の前に広がった光景を見渡せば、その中に敵手たる黒髪赤瞳の男の姿は無い。
跡形もなく消え去ったのか?
なのはが胸中で疑問を口にした時、不意に背筋に冷たいものが走るのを感じ、反射的に上空を見上げる。
そこには巨大な光の翼を背に展開させ、長刀を大上段に振りかぶった黒髪赤眼の男がいた。
上空から光翼を煌めかせ、尋常ならざる速度で一瞬にして己へと迫り来る男の姿。
その姿になのはは光翼の機動力によって、自らの攻撃がかわされた事を悟る。
男が大上段から風切音と共に振り下ろす長刀。
男の渾身の力に、上空から迫る勢いが上乗せされた必殺の一撃。
それでもなのはは反射的に杖をかざして受け止めるが、その衝撃は圧倒的だった。
衝撃に耐えきれず、足から崩れ落ちたなのはは、そのまま大地に仰向けに倒れ伏す。
その上に、勢い余って倒れ伏した男が被さる。

「チェック・メイト、だな。」

男は己の長刀を片手でこちらの首筋に向けてかざし、その動きを封じる。
もちろん、こちらにはもはや抵抗するつもりはない。

「うん、私の負けだね。」

そんな言葉が自然に口をついて出た。
なぜかこの敗北の瞬間、
彼女の中にあった張りつめた何かがすっと抜けていく気がしたのだ。
なのはの気持ちの中に広がる心地よい解放感、
しかしそれでもただ一つだけ、彼女は言っておかねばならない事があった。

「ねえ……一つお願いがあるんだ。」
「ん?」

なのはは男の赤瞳をまっすぐに見据えて語りかける。
男の瞳からは油断の色は伺えない。
仮になのはが逃げ出そうとしても隙はあるまい。
しかし、なのはが言いたいのはそういう事ではなかった。
この様子から見ても、やはり男は気が付いていないようだ。
仕方なく、なのはは自ら指摘せざるを得なかった。

「その……胸に置かれている手をどけてくれないかな。」

なのはの指摘通り、黒髪赤瞳の男の長刀を握ってない方の片手は、
ちょうど彼女の胸の上に置かれている。それも強く。

「……あ」

男は思ったよりも間抜けな声を挙げ、驚愕を浮かべた表情で己の片手を見下ろした。

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最終更新:2012年12月07日 10:05
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