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そこは、大きな……本当に大きな『世界樹』と呼ばれる木の根元。
「いっちばーんっ!」
人差し指を立て、高らかに腕を天に向ける少女。その表情は満面の笑みだ。
「はぁ……ふぅ……ふぇ……お、お姉ちゃん、速いですぅ……」
遅れること数分、駆けてきた少女が、先ほどの少女に不満をもらす。顔が瓜二つである。
二人の相違点といえば、髪型と目元だろうか? おそらく双子なのだろう。
先に到着した少女は、髪をツーテールに括っていて、釣り目。
後に到着した少女は、同じところにお団子を拵えている。若干垂れ目。
「だって競争だったんだもん、しかたないじゃん。体力ない史伽が悪いんだよ」
「そんなぁ……うぅ」
釣り目の少女は、(おそらく)妹であるところの少女の背後を注視した後、キョロキョロと周りを見渡すと。
「楓ねぇは??」
「ここでござるよ……」
間髪入れずに返された声は背後……若干上方から聞こえた。
「えぇっ!!なんだよもー……今度こそ出し抜けたと思ったのに!」
木の枝から飛び降りてきた……外見的に幾分年上の女性に対して口を尖らせる。
どうやら、此度の競争とやらの勝者は彼女のようだ。
「ま、いーや。ちょっと疲れたから休んでこーよ」
「それがいいと思うです」
「あいあい、でござる」
ようやく呼吸を整え終えた少女と、大柄の女性が同意する。
これが、3人の日常。この世界の日常である。
世界に一石が投じられる、瞬間まであと数秒。
…………
……
2
「ぐえっ!!」
かくて3人の少女は、これまでに例のない現象の第一発見者となる。
彼が住人に認識される数分前。世界に認識された彼は……
世界樹の枝の上には、いつの間にか一人の少年がいる。
寝てはいるが。いることはいる。それはもう奇跡のバランスとしか思えない寝相だが……
外見としては、赤い瞳と黒い髪。そして、細身の体が特徴的だ。
服装は……到底、私服には見えない赤と白のボディスーツ。怪しい。
それはともかく、大方の予想道理、彼がこの物語の主人公である。
名を『シン・アスカ』ということは彼が寝ている以上、誰にも知られぬ事実だった。
が、彼の安眠は、なんでもない風によって破られる。
落下したのだ。まっさかさまだ。こいつは死んだな。
もちろん、都合のよい事態など起こるはずもなく。緑いっぱいの地面とこんにちわ。
いや、生存しているのだから、都合のよい事態が起こったと言えるか。
「ぐぇっ!!」
これが、彼のこの世界での始めての挨拶になるわけである。
さて、またお昼寝の時間だ。少し肌寒いが、いい夢でありますように。ガクッ
ところ……変わることなく、世界樹の根元。
奇妙なうめき声と衝撃音を間近で耳にした少女たちは、しかし冷静だった。
とりあえず、釣り目の少女がつつく。つんつん。……返事なし。
恐る恐る、垂れ目の少女もつつく。つんつん。……返事なし。
彼女らにとって、教習所で習う緊急救護よりもこの行動が当然のようだった。
当然だ、まだなのだから。
次は……わき腹をくすぐりだした。やはりこの行動も釣り目の少女が先行して行う。
と、そこで少々硬直。
(い、意外と……たくましい)
なぜか赤面するお嬢さんたち。つついたときに気づきなさい。
彼女らにとって寝ていることがわかっていることからの行動である。
それなりに信頼のおける基準があるらしい。……微笑ましく見つめている大柄の女性だ。
結局、その女性は笑みを失うことなく少年を抱き上げ、少女二人を伴って保健室へ向かう。
さぁ、そろそろ、自己紹介しましょう。
「ボクは、鳴滝風香。この子のお姉ちゃん。クラスは中等部2-A!よろしくー!」
「えとえと、私は鳴滝史伽ですぅ。お姉ちゃんと同じクラスです。……えと、よろしくです」
「拙者は、長瀬楓。クラスは中等部2-Aでござる。……なにやら不穏な気配。ほんとでござるのになぁ」
皆さん同じクラスだったようです。…………嘘だッ!!!!!!
今度こそ、ところ変わって保健室。
いきなりだが、シン・アスカの顔がえらいことになっていた。くちゃくちゃえらいことだ。
「もう、そのくらいにしておくでござるよ」
「「はぁーい」」
しかし、妹もノリノリですね。
この瞬間、速攻魔法発動……するわけがない。が突発的なことは確かに起きた。
「マユゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウーーーーーーーーーーッ!!!」
「「「ひっ」」」
仕方がなかった。だっていきなり女の名前を叫ぶんだもん。反射的に3人は同じ行動をとる。
「ぐっげぇうぐっ!!」
10分後、10分前には確かにあったタンコブがきれいさっぱりなくなるころ。シンが起きる。
……ついでに、衝撃の瞬間の数瞬前まで確かにあった落書きも消えている。
どうやら、これ以上何かあってはまずいと思った双子が消したらしい。
……大丈夫だ。もういろいろ大丈夫だ。
「ここは……??」
「起きたでござるか?」
先ほどのことは、完全に記憶から消去したらしい。
どちら側も……あ、双子は部屋の隅で様子を見ている。
「あぁ…………!ここはどこだっ!!今は何時だっ!!メサイアはどうなったっ!!
レイとルナ……レジェンドとインパルスはっ!!」
支離滅裂……だが必死だった。彼にとってそのすべての単語がかけがえのないものの名。
精神的に成熟している楓はもちろん、外見通り幼さそのものである双子の少女もなにも答えられなかった。
「お、おちつくでござるよ。拙者、横文字に弱いゆえ。……日本語でおk?」
「冗談に付き合うつもりはないっ!答えろっ!!知っていることを全てだっ!!」
冗談も通じない。が、聞こえていることが分かって、楓には少し余裕ができる。
瞬間、殺気を込める。ふたりに申し訳ないと思いながら。
「なにか今までと変わったことはござらんか?」
やっと理不尽を突きつけていることに気づきシンは押し黙る。
彼自身、何か異質なものを感じていたことも理由のひとつだ。
怒鳴り散らしながらも、冷静な部分は機能していたらしい。
「っ……すまない。確かに、さっきから分からないが何か違う……」
いきなりだが、楓には所見から気になっていたことがある。
彼の存在感……気配、そのような『モノ』がおそろしく希薄であることだ。
先ほどの様子を見る限り『喜怒哀楽』に関しては、手に取るように分かる。
……だが、精神がニュートラルの状態に近づくと、とたんに気配が薄くなる。
彼女には、ひとつだけ心当たりがあった。
彼女自身には感じづらい感覚。すなわち――『魔力』――ではないかと。
一方のシンには心当たりがない。魔法はこの世界でも一部の人間のみが知る存在だ。
しかし、彼には、自身のことよりももっと重要なことがある。
それを聞くために今度は、シンから口を開く。
「今日は……『いつ』だ? できるだけ正確に答えてくれ」
「西暦2002年……11月23日でござるが?」
異質な何か。言葉にするなら……
『この身体は、まさにこの世界のためのものである……そんな奇妙な認識』がある。
C.E.すらその言葉の中には含まれていない。そのことに、シンはなぜか納得できていた。
すなわち……
(違う……世界……)
最終更新:2008年08月27日 03:00