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第二話『バリア・アーマー』

 理想を手にした者。理想に裏切られた者。始まりも目的も同じながら、その二つには明確な差がある。
 夢を掴む者は自信と栄光を、裏切られた者には挫折と苦渋を手にする。
 しかし、挫折を知る者だけが、理想の重さを知っている。私はそう思う。
 敗れてなお理想を追う者達が、諦めを凌駕する。そういう物語こそ、描かれるべきだと思わないか?

 魔法少女リリカルなのはDestiny 第二話『バリア・アーマー』

 翌日。機動六課のオフィスには、慌しい空気が満ちていた。組織が正式に発足するからではない。原因は、昨日の

回収物にあった。

「それじゃあ、中にいた奴は魔力適性がなかったのか?」

 組織として集まる時間でもある、昼食の時間を利用したちょっとした会議。ヴィータが切り出したのは、先日回収

した物についてだった。

「ええ。搭乗者に魔力適正はなし。ブラックアウトの原因はなのはちゃんの砲撃によるものね。金髪君の方はヴィー

タの打撃も効いてるみたいだけど」

 首をかしげながら答えるのはシャマル。流石に本部に回収を依頼するのもはばかられたので、機動六課で傀儡兵ご

と回収したのだが、その結果彼女たちによるチェックは正確なものとなっていた。
 おそらく、他に回していたら何やかやと誤魔化されたに違いない。そんなデータが次々と、解析班の努力の結果明

らかになっている。
 ちなみに、いきなり解析の仕事が回ってきたシャーリーは、目を輝かせながら仕事をしていたのをシャマルはそっ

と意識から外した。あの目は何と言うか、怖かったというのもある。

「搭乗者に魔力的資質を求めず、魔道士と同等の戦闘を可能にするための物なんでしょうね。あの鎧は。
 焼き切れていたけれど装甲に対魔力コーティングも施してあったし、バックパックにはリンカーコアと同等の機構

が内蔵されていたわ。
 着る事で魔道士になれる鎧……。そう言った方がいいかしら」

 あご先に指を当て、シャマルがそう結論する。まだ操縦していた二人は目を覚ましていないため話を聞いていない

が、解析が進む鎧の方から大体のことは想像できる。
 エクセリオンバスターには打ち負けたものの、崩壊した砲口とバックパックの魔力集積装置から算出すると、楽観

視できないデータも出ている。
 結果論だが、なのはクラスの砲撃で一気に黙らせたおかげで最小の被害で済んだ、とも言えるのだ。

「でも、妙な話だよね。魔法士は今もそれなりの数はいるのに、さらに数を増やしてどうするつもりなんだろう……

?」
「戦闘をこなせる魔法士だったら、いくらいたって問題はないと思うわ。現に、陸士隊の方では戦力不足になってい

るとか言う噂も聞いたし」

 パスタを片付けたなのはが会話に参加してくる。シャマルは小さく笑いながら、彼女の言葉をたしなめた。

「確かに、強力な魔法士が一人いればその場の戦況は安定する。けれど、それだけじゃ散発的に起こる問題には対処

できない。
 不足分を数で埋めるという考えに立ったら、あの鎧は画期的と言えるかもしれない」
「だから、今日は朝からはやてが呼び出されてるのか。あのオッサンに……」

 少し拗ねたような声で呟くヴィータ。珍しく地上本部の方から呼び出しがあったということで、はやては朝から出

張していた。この場にはいないフェイトも、管理局の仕事引継ぎがあるため外出している。
 まだまだ彼女の仕事はあるだろうに、こういうところで手間を取られたくない、という不満以上のものがヴィータ

の口調からはにじみ出ている。

「ヴィータ、個人的感情はあんまり表に出したら駄目よ?」

 拗ねた口調のヴィータを、シャマルは小さく笑いながらたしなめた。


「時間をとらせてすまないな、八神はやて二等空佐」

 時空管理局地上本部、来賓室にて。出頭したはやてを出迎えたのは大物中の大物であった。
テーブルの向かい側で腕を組むその様からは、確かな威圧感が漂ってくる。
 レジアス・ゲイズ。事実上の地上軍トップである。

「問題ありません、レジアス中将。それで、本日の用件は?」

 相手から発せられる無言の威圧感に負けることなく、はやてが用件を促す。
レジアスが自分たちを含めて機動六課についてどういう感情を持っているのか知っているが故である。
 地上軍の独立・武装化を推し進めようとしている彼らにとって、ミッド地上を軽視する本局やそれと連携する聖王教会、彼らが強力に後押しする機動六課は目の上のこぶ。
 一方の機動六課としても、強大な後ろ盾である聖王協会の主がレアスキルによって年に一度精製し、彼らの行動指針として役立っている預言書の取り扱いに置いて明確に差がある。
(この預言書にある被害を食い止めるために、機動六課が組織されているという事実からも明らかである)
加えて、組織運営の方針に明確な差があるため時空管理局本局や次元航行部隊等とは明確に仲が悪い。
 お互いに良い感情を持っていないのは、明らかであった。

「先日、そちらで回収された人員と設備。それをこちらに引き渡してもらいたい」

 やはりか、とはやては内心溜息をつく。昨日なのはたちが回収した物資類は、高度な技術がなければ成しえない物だった。
背後に誰かがいるとは思っていたが、まさか軍本部とは。
 可能な限り最速で引渡しを求めるレジアスの動きには感心するが、はやてにも引き下がれない要因はある。

「応じかねます。彼らはミッドチルダの人間ではない上に、身元もはっきりしていません。それがあれほどの武装をしていたとなれば、保護観察処分に置くのが賢明かと」
「それは仕方ないことなのだ。システムの都合上、身元引受人がいなければ保護観察処分にもできない。
 私が引受人になれればよかったのだが、それはそれで問題がある。ある程度以上の技術秘匿をするつもりはないからな」

 中に入っていた二人の人物照合を行ったところ、魔力適性を持っておらず、
管理外世界から何らかの理由でミッドチルダにやってきた人であるという見方が濃厚になっている。
(身元照合の方はいまだ継続中だが、おそらく該当者無しで帰ってくるだろうと推察されている)
 それがあれほどの武装を使っていたということが問題になっており、発見した側である機動六課としては
彼らの武装については安全が確保されるまで封印しておくべきである、という公式見解がある。
 その線で攻撃しようと思っていたはやての出鼻は、レジアスの述懐であっさりと挫かれた。
脇に置かれていた資料をやや乱雑な手つきで前に出し、はやてに読めと目で合図する。

「このプロジェクトは、時間も金銭もかかっている上に秘匿扱いだ。信用のない人間には任せられない。
 彼らは信用できるが、引受人に引っ掻き回されるのも問題だ。
 止むを得ない措置だった、と認識してもらいたい。その資料を見ればわかるだろう」


 資料を追うはやての目が、段々と険しいものに変わってゆく。レジアスとしてもこれを出すつもりはなかったが、
相手の論旨を挫き目的を完遂するためには仕方ないと割り切った。
 割り切ってしまえば、あとは行動に迷いはない。伏せておくべき持論をも使い、結果を勝ち取るまでのこと。

「現在、地上軍は慢性的な戦力不足だ。なのに上層部はミッド地上を軽視し、外部へと貴重な戦力を出す考えを固持
し続けている。
 それならば、自分たちでかき集めるしかあるまい。君たちが重要視していない場所からでも、な」
「そのために、魔力的資質のない者達に目をつけた、と?」
「彼らに正当な機会を与えたに過ぎん。そもそも、魔力的資質のある者達だけで防衛を行うということが誤りなのだ。
 人々を守るための力が欠けている状態で、戦力をふるいにかけて門戸を狭くするなど言語道断。
 ならば、守りたいと思う者達に、守るための力を与えることをどうして誰も考えようとしない?
 一握りのエースオブエースなど、犯罪全てを防ぐにはあまりに足りぬ。
 だからこそ、私は誰にでも使える、防衛のための力を生み出すことに着手した」

 レジアスの弁舌は止まらない。何の考えもない実験かと思われていた裏には、切実な彼の叫びが隠れていた。
 それは、自分自身が魔力的資質を有しないが故に、最前線に立てないという引け目もあるのだろう。
はやてたちが感じていない、飢餓と絶望感がそこにはあった。

「八神二等空佐。君にはいくつもの力がある。機動六課は来るべき災悪とか言う予言に備え、戦力を集めたのだろう。
 それについて文句は言わん。君のジョーカーに手を回すつもりはない。だから私の手札を、三枚のエースを返してもらいたい。
 バリア・アーマーにシン・アスカ、レイ・ザ・バレル。彼らは私の切り札なのだよ」
「……お気持ちは分かりました。だったら、こういうのはどうです?」

 レジアスの弁舌にこもる熱を本物と捕らえたのか。はやては小さく、しかし凛とした声でレジアスに告げる。
 手にした資料を軽く握り締めながら、その言葉には迷いなどなかった。


『02より03へ。第二回試射のデータ計測を完了。そちらに転送する』
『03了解。80%駆動の魔力弾の安定性は変わらず。チャージ時間に目をつぶれば60%より優秀だと思う』
『はいはい、後一発打ってちゃっちゃか終わらせるぞ。シン、レイ!』
『本名を出すな01! 誰が聞いているか……? 総員、非常体制! 何か来る……。Aランク以上の魔道士だ!』
『01は即時撤退を! こちらも向こうに牽制射を入れてから後を……!』

「……んだ、あ、は……!」

 口から声にならない声を上げながら、シンは身を起こした。目に移るのは見知らぬ部屋、そして天井。
着ている物も患者衣になっている。

「起きたか、シン」

 声に顔を向けると、同じく患者衣姿のレイが隣のベッドに寝ていた。覚醒したのは彼のほうが先らしい。
 まあ、ダメージの差もあるのだろう。
高速回転するハンマーの一撃と、純魔力の砲撃ではどちらが深いダメージなのかは判断に苦しむところではあるが。

「レイ。すまない、あの時俺たちも一緒に逃げていれば、こんなことには……」
「気にするな、俺は気にしない。だからお前もそうしろ。
 それに、最後の射撃や、AMコーティングの防御特性をテストしたと思えば安いものだ」

 いつも通り感情を交えない淡々とした口調。しかし、そこにこもっているものを知っているからか、
シンも再び背中をベッドに預けた。
まだ、身体が少し痛む。レイが身を起こしていないのも同様の理由だろう。

「報告が行っているかな……。自力で帰還する方がいいか」
「ここがどこか分からない以上、むやみには動けないな。データの回収を優先するべきだろう」

 寝たままの状態ではあるが、淡々と予定を合わせてゆく二人。
目標を立てれば、それに応じて行動も取りやすくなる。何も分からない状況からすれば、とりあえず動く予定だけでも立てておかなければ不安だった。
 現状、どこか分からない場所。鎧の場所は不明。現在位置も不明。肉体には重度の魔力ダメージ。
考えるだに頭が痛くなるような有様だが、そこは気にしないことにする。

「とりあえず、行動が第一だな。服まで没収されていないのは幸いだった」
「まあ、妙な実験されてないだけマシだろうな……」

 口々に言いながら、お互いの服を確認し着替えてゆく。以前と同じ作りの、しかしその意味合いだけは全く違うザフトレッド。
襟に輝くFAITH勲章さえも同じである。
 どんなに遠く離れても、守りたかった場所はもう見えなくても。込められた願いだけは同じであると、信じているからの衣装。
それを身にまといブーツを履くと、ゆっくりとその場から足を踏み出した。
 その襟元に込められた、信念(FAITH)に背中を支えられて。

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最終更新:2012年12月07日 12:01
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