第一話 ―終わりと始まり―
どうすればよかったのだろうか。
『平和』を作るための最後の戦い。その中で、俺はふとそう思ってしまった。
議長から俺の新しい『剣』であるデスティニーを託され、議長が言う『平和』を妨げるロゴスを撃ってきた。
そのことに後悔は無い。だが、プラントに撃たれたレクイエムや、議長が用意したネオ・ジェネシスを見ていると、
俺の心の中に、見えないしこりのような感情が生まれていた。
デスティニー・プラン。生まれながらに刻まれた遺伝子によって将来が決まる。
そこにあるのは争いがない、『平和』な世界。俺はそれに縋った。
俺やレイ、そしてステラのような戦争によって生まれた存在をこれ以上生まないために、俺は議長の言葉に縋った。
いや、それしか俺にはなかった。俺には、あのラクス・クラインやフリーダムのパイロットのように、
自分たちで『平和』を得ようと動くことはできない。だから……
「……ッ!」
突如、アラートが鳴り響く。こちらに接近する機体をモニターで確認する。
モニターから見えるのは、赤を基調としたカラーリングに、背部にリフターを搭載したデュアルアイの機体。こいつはまさか、
「ジャスティス、アスランか!?」
「シンッ!」
向かってきたのはやはりアスランだった。スピーカーから、アスランの声が響く。今更、敵である俺に何を言いに来たんだ!
「これ以上はもうやめろ! そんなことをしても、何も残りはしない!」
「今更お説教かよ! アンタの言葉を聞くと思ってるのか!」
アスランの言葉を聞き流し、俺はデスティニーの背部に装備されているアロンダイトを構える。
背部のウイングスラスターを展開し、一気に加速。ジャスティスへと近づき、一閃。
だが、ジャスティスも瞬時にシールドを構えると、アロンダイトの一撃を受け止めきった。
「なっ!?」
驚愕の目で俺はジャスティスを、アスランを見る。
アロンダイトは対艦刀として、大振りながらも一撃でMSを叩き切れる威力を持っている。
それこそ大型のMSである、あのデストロイすらも容易く破壊できるほどだ。
しかし、眼前の機体、ジャスティスはシールドで防御しているが、その一撃を受け止めきった。
「ハアアアァァァッ!!!」
「ッ!? グゥゥ!」
一瞬、動揺した隙を突かれ、アスランは右脚に装備されたビームブレイドでアロンダイトを弾き、
もう一方の脚でデスティニーの左腕を狙ってきた。咄嗟にシールドで防ぐが、予想以上の一撃によって、シールドが切断される。
「(くっ、何でこんなに……!)」
押されるんだ、と悪態をつく。再びアロンダイトを構え、ジャスティスに接近。
ジャスティスもビームサーベルを装備し、こちらに接近する。距離がゼロになった時、
アロンダイトが振り下ろされ、ビームサーベルが振り上げられる。
一瞬の剣閃。直後、アロンダイトが切り落とされ、爆発する。
「………!」
信じられないほどの、夢ではないかと錯覚してしまう。
圧倒的な実力差。それを嫌でも俺は痛感した。どうして? 何故? と頭の中で反響する。
これがアスランの本気なのだろうか。本能が、勝てない、無理だと告げる。だが、
「(それでも……!)」
負けるわけにはいかない。平和を得るために、これ以上戦争で『シン・アスカ』という存在を増やすわけにはいかないのだ。
「シン、これ以上戦うのはやめるんだ! こんな戦いに、何の意味がある!」
「意味ならありますよ! 俺やレイ、そしてステラのような戦争によって生まれる人を無くすために、俺は戦う!」
「シン…ッ!」
肩に取り付けられたフラッシュエッジを両手に装備。ビームサーベルにして、ジャスティスに切り込む。
一瞬、意識が揺らいだのか、アスランの攻撃は先ほどよりも散漫としたものであったため、
その隙をついてビームライフルを破壊する。
「くっ、気迫が増している! 本気なのか、シン!?」
「アンタはどうなんだよ。 アンタこそ、何のためにここに来たんだ!」
一隅のチャンス。デスティニーの背部のウィングユニットを展開。ジャスティスに再び接近戦を挑む。
ジャスティスも右手にビームサーベルを持ち、もう一方のサーベルと連結させる。
二度目の剣閃。
「ッ……!」
「くっ!」
左腕に装備していたフラッシュエッジとビームサーベルの一方がともに爆散する。
結果は相撃ち。しかし今の手数ではジャスティスに分がある。
だが、攻め込まなければじり貧だと判断し、背部の大型ビームランチャーを展開し、撃ちこむ。
しかし、後ろに目でもついているのか、あっさりとかわされ、距離を取られる。
「もう一度聞く、アスラン。アンタは何のために来たんだ」
回線を開き、先ほどと同じ質問をする。普通ならば戦闘中にするべきことではない。ましてや敵である奴に。
しかし、今の俺には、アスランの答えが欲しかった。それが、俺がさっき思った答えに繋がるんじゃないのか、と考えて。
「俺たちは、戦争の全ての原因がロゴスであるという、議長の言葉は信じられない。
議長は、そう言いながらロゴスのレクイエムやネオ・ジェネシスを戦場に使用している。
戦争を終結させるために、大勢の人を殺す兵器を使うことが、俺は正しいとは思えない。
だから、俺たちは議長を止めるために来た」
奇しくもアスランの答えは、俺が感じた思いと同じであった。
「デスティニー・プランにしてもそうだ。人が決められた生き方をするのは間違っている。
人は誰でも未来を自分で決めることができる。人の意思をなくそうとする議長を止めなければ、未来は無い」
その言葉を聞いて、俺はわからなくなった。
何を信じればよかったのか。どうすればよかったのか。
どうしてこんなことになったのか。何が悪かったのか。
頭の中で思考が混ざり合う。
自然に、言葉が口から溢れ出る。
「じゃあ、どうすればよかったんだ?」
「シン…?」
呟きが、徐々に大きくなる。
しこりであった感情が、言葉となって漏れ出す。
「俺だって、戦争は止めたい。 でも、俺は議長の言葉に縋るしかなかった!
俺やレイ、ステラのような戦争の被害者をなくすために、戦ってきた!
平和のために、戦争がない優しい世界を作るために!
俺にはこれしかなかった。俺には、それしか方法が無かった!」
「シン、お前が自分の意思で、平和を作るという思いを持つんだ!
議長ではなく、お前自身が作る平和を!」
「…駄目だ。議長やレイ、ルナやミネルバの皆を裏切るなんて俺にはできない!
アスラン! アンタの理想が、その思いが正しいって言うのなら、俺に勝ってみろ!」
目を閉じると、さっきまでの思考が一気になくなり、クリアとなる。
右手のフラッシュエッジと背部のビームランチャーをパージし、デスティニーの隠し武装を作動させる。
「俺に勝って、証明して見せろ!!!」
光の翼を展開。これまでと比較にならない速度で、接近する。
パルマフィオキーナ。デスティニーの掌に内蔵された隠し武装。
残った武装の中で、俺がアスランに対抗できるのはすでにこれ一つだけ。
ならば、これに賭けるしかない。
「ウオオオォォォッ!」
「この、バカヤロォォォォ!」
掌を、剣を。
互いの武器を相手へと向ける。
そして、
「……アスラン、アンタやっぱ強いな」
勝利は『運命』に授けられなかった。
デスティニーにもはや武器は無い。腕と脚は切り裂かれ、月面に叩きつけられた際にVPSもダウンしたようだ。
ほんの一瞬だった。接近の際にフェイントを入れ、タイミングをずらしたつもりだったが、あっさり見破られ、腕はビームサーベルに、互いに蹴りを繰り出した際に、脚はへし折られた。
「アンタの思いと実力が強かったのかな?」
答える相手はすでにいない。アスランはレクイエムを止めに行ったのだろう。俺は任務を達成できなかった。
「悪い。 ルナ、レイ……後は…頼ん…だ……ぜ」
意識が遠のく。緊張の糸が切れたのか、衝撃や疲れのせいなのか。
底なし沼に嵌るように、俺は意識を失った。
ごめん。マユ……ステラ。
「目標の撃破を確認。作戦は成功です。お疲れ様」
「ああ。 これより……?」
「どうかしましたか?」
「オペレーター、見慣れない機体を確認した」
「機体? まさか、ACですか!?」
「いや、ACにしては大きさも形状も異質だ。 しかも戦争にでも行ってきたようにボロボロだ。 データ照合できるか」
「解析します。……データ無し、解析不能です」
「やはり…か。 企業に持って行っても連中はロクな扱いはしないだろう。仕方ない、この機体を回収する」
「大丈夫なんですか、フォグシャドウ」
「とりあえずは私のガレージにでも置いておくさ。 シルエット、これより帰還する」
最終更新:2012年12月07日 12:06