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第三話『伸ばされた手』

同じスタートラインから走り出して、待っていたのは正反対の結末。
 全てを手に入れたエースオブエースと、全てを失った狂戦士(バーサーカー)。
 失ったものは戻らないなら、せめて確かめるしかない。自分の何が間違っていたのか。
 守りたかったものを、今度こそ守れるように。俺は、戦う。鏡の向こう側と。

 魔法少女リリカルなのはDestiny 第三話『伸ばされた手』

 機動六課(予定)隊舎一階、ガレージ。ある程度調査も済んだ後なのか、緑色の機械人形、ザクウォーリアは放置されていた。
 装甲もぼろぼろのまま放置された姿は痛々しくもあるが、妙ないじられ方をして機体がおかしな事態になっているよりはマシである。

「追尾機構(トレーサー)が生きていてよかった、ってところか」
「ダメージの方はどうしようもないが、な。それに技術漏洩も避けられない」

 メンテナンス用のハッチを開けてダメージを確認しながら、口々に語るシンとレイ。一通りのメンテナンスも学んでいるため、現状はすぐ分かった。
 大規模砲撃に晒されたシンのアーマーは対魔力コートが吹き飛び、全部位にイエローのダメージ。挙句ガナーウィザードは砲身から吹き飛んでいる。
 強力な魔力含有の物理衝撃を受けたレイのアーマーは該当部位を中心にレッドのダメージ。他に打撃はないが、機構としてはほぼ終わっている。
 ちなみに、ダメージは色で表示され、青を無傷として緑、黄色、オレンジ、赤の順番にダメージは酷くなる。
 装甲とは別でダメージが表示されるため、実質レイのザクは行動不能であった。
(追尾機構も含め、BAの情報はFaithバッジを通じて利用者が把握、情報共有する事が可能である。また、バッジはセキュリティも兼ねる)

「ウィザードを付け替えるとしても、実質一体は行動不能、か……」

 冷たい計算を働かせるレイの横で、重い音がこだまする。
使用不能になったウィザードの交換は半自動で行われるため、こちらから手出ししなくてもいいのは利点である。
 そのため、二人ともが外部から接近する存在に気付けた。

「何か、来る!?」
「レイはザクを起動してから来てくれ! 時間を稼ぐ!」

 言いながら走り出したシンの背中に、レイはさらに声を続ける。

「丸腰で行くつもりか!?」
「アレを使う! そもそもどうにかしないと脱出できない!」


 その時フェイトが戻ってきたのは、全くの偶然だった。はやてを陸軍本部に送り届けた後、長引きそうだということで先に戻ったのである。
(免許持ちが自分しかいない為、時折こういうことが起こるのである)
 ともあれ長時間の運転に疲れて伸びをしているところに、外部から近寄る何かの存在に感づいた。
「バルディッシュ!」
 懐から自分のデバイスを取り出し、戦闘態勢を整える。長柄の斧となったデバイスを握りしめ、市街地のほうからつっこんでくるゴーレムの存在をすぐに見つけだす。
 即座に応対しようと一歩を踏み出した彼女の横を、走り抜ける赤い服の少年。
「――っ! 下がって!」
 危険だから、と続けてフェイトが声を張り上げる前に、少年は襟元の勲章に声をかけていた。
「インパルス! セットアップ!」
 彼の背後に現れる、人型の機体。その中に彼が飲み込まれてゆく様を、半ば呆然と見据えるフェイト。
 灰色だった機体が、赤、青、白の三色に色づいてゆく。それが自律稼動するゴーレムの類だと、理解するのに一瞬かかった。

 これが、シンとフェイトの出会いであった。

(ああもう! 何をやってるんだ俺は!)
 インパルスの内部で、シンは自分に対して毒ついていた。第三者の接近は向こうにも混乱を呼ぶはずで、そこをついて脱出するべきだと理性は訴えている。捕まったままでいいはずがないし、隠し通せたインパルスという手札をさらす意味はないはずだった。
 しかし、同時に胸の底でこれでいいのだと思いもする。自分たちが逃げ出さなくても、ここにいる連中があのゴーレムを片づけるだろう。
 だが、そこには少なくない被害が出る。どんな状況であれ、それを許容できる自分ではない。
 守るために力を欲し続けたシン・アスカという少年の根本が、今この状況を見逃すべきではないと強く訴えていた。
 守るために、戦う。それが自分の変わらない信念だから。

『―――お前たちなんかっ!』

 そこまで思考して、シンは考えるのをやめた。敵はすぐそばに迫っている、もうそんなことに思いを馳せている余裕もなさそうだった。
 腰から二本の対装甲ナイフを抜き、円筒形をしたゴーレムの一つに切りかかる。今は魔力を使う装備をほとんど使えないし、実体弾兵装は持っていない。白兵戦しか有効な戦術がなかった。
 鈍い手応えが返ってくる。装甲を切り裂き、目前のゴーレムが沈黙したのをほとんど見ず、自分を取り囲む彼らに向け刃を次々に振るう。

(対魔力コートはない、か? だとしてもこの数は脱出の邪魔に……!)

 二体目のセンサーとおぼしき部位にナイフを突き立てながら、シンは残ったゴーレムを確認する。レイが出てくるにはもう少しかかる。少しでも数を減らさなければ脱出が難しくなる。


 そう思うシンの背後を、雷光が走り抜けた。

『あれは……!』

 スピーカー越しのくぐもったつぶやきが、空中に溶ける。常識を逸脱したスピードで三体のゴーレムを砕き、さらに雷光が前方のゴーレムさえも粉砕する。
 駆け抜ける金色の髪が稲妻に見えるほど、その姿は鮮烈で華麗だった。

(これだけのスピード……。「黄金の雷光」か!?)

 時空管理局のAAA級魔道士、フェイト=T=ハラオウン。最速とも称される彼女の名前ぐらいは、シンでさえ知っている。
 彼女も「標的」の一人であり、速度差がありすぎるという理由で優先目標からは外れているから。
 次いで空から降り注ぐ、桜色の閃光。一度見たからこそ、その正体には感づいている。
 上空に、彼女がいる。時空管理局が誇るエースオブエース。ここにきて、シンは一つ覚悟を固めた。
 逃げ場はもはや、ない。フェイトを振り切ることは事実上不可能に近いし、空をも塞がれてはそもそも逃走経路がない。ならばせめて……。

『シン!』
『レイ……。記録を、頼む』

 装備を完了したレイの声に短い通信で頼みごとをして、シンはきっと天を見上げた。覚悟をきめた声で、装備を要求する。

「セット、フォースシルエット」
『Roger!』

 システムから返ってくる、短い宣言。
対装甲ナイフが腰に格納され、代わりに銃と楯が転送される。背部に大型のブースターも装着され、重量バランスが整えられる。
 相手が何か言う前に、頭上の敵、高町なのはに向かって引き金を引いた。短く、そして明確な敵対のサイン。
 ビーム・ライフルを速射しながら、シンはなのはに向かって飛び上がる。

『可能性があるとはいえ、無茶をする……』
『戦うことが?』

 ザクウォーリアのカメラ越しに戦場を見上げるレイの耳に、第三者からの通信が入る。あっさりと通信機の波長を見破られた事実に奥歯を噛みしめながら、隣に来る姿に一瞬だけ視線をやった。

『なのはは、強いよ?』
『シンには、負けられない理由がある。高町なのはに対しては、特に』

 アクセルシューターに翻弄されるシンを見据えながら、フェイトは念話を飛ばす。意外にも、短い返答が返ってきた。
 不利な状況から逃れようとビームサーベルを振るい、バルカンを打ちながらなのはに肉薄する、シン。

『満足するまでやらせるしかない。どの道、俺たちは手詰まりだ。ここからは逃げ出せない』
『シン、だっけ。彼は逃げないよ。そしてきっと、なのはに捕まえられる』

 距離が離れた。本来ならしなくてもいいチャージの時間をとるなのはと、そこにわずかな希望を託すシン。

『どういうことだ?』
『あんなに必死に、何かを守ろうとする人を。なのはは絶対に見捨てないから』

 シンが加速するのを見送りながら、フェイトはそういって空に舞い上がった。なのはに加勢するのか、と一瞬だけ思ったが、それにしては遅すぎる。


 稼がれた距離を詰めるべく、シンは飛ぶ。全推力を前進に当て、落ちる前に貫く。取れる行動はそれしかないからこそ迷いはない。

(前へ!)

 呪文のように念じながら、飛ぶ。しかし、運命はほんの少し、なのはの方に味方した。

「ーーバスターッ!」

 完成する、なのはの砲撃呪文。視界が桜色に染まり、体が後方へと押し流されてゆく。
 それでも、シンは諦めなかった。

(前へ、前へ、前へ!)

 桜色の砲撃の中、それを振り切るようにインパルスが飛ぶ。装甲をほとんど吹き飛ばされ、内蔵機構を所々露出しながら、その姿は、よろよろと斜め前方に墜落する。
 力尽きかけたフォースシルエットのブースターが、最後の一瞬、吼えた。

『とど、ケエエエエエッ!』

 壊れかかったスピーカーから、ノイズ混じりの絶叫が走る。先ほどの三分の一、もう小刀ぐらいの長さしかなくなったビームサーベルを、なのはに向かって突き出す。
 その一撃は、確かになのはの右袖を裂いた。

(ここ、までか……)

 全対魔装甲剥離、並びに砲撃のダメージにより全部位にレッドダメージが入っている。フォースシルエットも沈黙し、もはや墜落するしかないインパルスの右手首を、白い手が掴んだ。
 確認するまでもない。今さっきバリアジャケットの袖を切り裂かれた、高町なのはの細い腕。

「捕まえた……っ。結構重いね、これ」
「手伝うよ、なのは。この中に人が入ってるから落としたら駄目」

 それなりの重量があるバリアアーマーを掴んで離さない、小さな手。少しして後ろからも浮力を感じ、自分がどうなったのかを悟るシン。

(あそこまでした俺の手を、それでも捕まえるのか……)

 求めて伸ばしたその手に、捕まえるまで決して諦めない姿。それはまるで、あの日の自分と重なるようで。

「インパルス、兵装解除」

 諦めたような、憑き物が落ちたような声でシンが小さく命じる。何も掴めなかった自分の手は、こうして高町なのはに捕まった。

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最終更新:2013年04月20日 17:55
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