1
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
――しいていえば狂いたかったのだろう。
出来るだけ沢山の人のために。世界のために。未来のために。そんな言葉に躍らされて戦い、殺しつづける日々。憎い相手に膝を折り、全てを奪われた憎悪を肺腑の奥に封じ込め。
ああ狂いたかった。狂ってしまいたかった。他の何者でも無く、己のために……殺したい。
されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。
――あるいは似ていたのかもしれない。
嫌悪と憎悪を違いはあれど故郷と呼ばれる場所を嫌うこと。救いたい少女のために、理不尽な望まぬ運命から救うために、敵と呼ばれるものと交渉しなければならなかったこと。
大丈夫だ、君は死なない。だって……オレが守るから!
汝三大の言霊を纏う七天、
――それとも単に呼ばれたのかも。
実のところ、彼の父が用意した触媒は贋物だった。どこかで何かの間違いでアロンダイトと呼ばれただけの剣の欠片。
彼がかつて振るったのはそう呼ばれた鉄の塊。
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!
『――――――――――――!!!!!!!!!!!』
「うぐ、なんだ……こど……ぅぐああぁあぁああぁあ!!!!!」
その日間桐雁夜の手で、最弱でありながら最大最狂のサーヴァントが召喚された。
「間桐邸が爆破されただと! 馬鹿な!」
「近隣住民の話では、特に音や光りは無く、むしろ内側から破れたようだったと」
「お、おい、坊主? 聖杯は何時からあんなものを呼べるようになったんだ?」
「ぼ、僕だって知るもんか!」
「AaaAaaaAKATUKIiii!!!」
「ほう? 我を太陽の昇る様に例えるか。その姿勢やよし! だが我を見下ろす事を許可した覚えはない!」
「FREEeeeEDAaaaM!」
「く、アーチャーの次は私ですか! 見境の無い、正しくバーサーカーめ!」
「……マユ」
「私、サクラだよ」
「ステラ!」
「違うよぅ」
「…………マユ?」
「おじさぁん……」
2
Oh, stand by me
Oh, stand ,stand by me
Stand by me.......
電化製品店の店頭のオーディオ機器から流れてきた音楽を聞き流し、俺、シン・アスカは一人太陽の照りつける街を歩いていた。赤い目を隠すためにつけた黒いカラーコンタクトを入れた目を、駅前の液晶画面に向ける。
そこでは、威勢のいいこの国の元首サマが今日も元気に演説をかましていた。
『今この世界に起こっている異常気象を見てください。砂漠地帯で洪水が起こり、アジアでは初夏だというのに雪が降っている。今こそ人類は手を取り合って……』
相も変わらずきれいごとばかり並び立て、いや、成長がないという意味では自分も同じだろうかと自問する。
月でのあの戦いのあと、俺はクライン政権の元でやはり兵士として戦った。あの女の元についたのは世間でいうような「英雄による説得」だとか「悪魔の改心」があったわけではなかった。ただ、あの場で戦場から去るということに俺自身が耐えられなかっただけだ。
あの日から一月ほどたったある日、ちょっとした感傷で友人の名前が見たくなり戦没者名簿を見た俺は、その名簿の中に想像していた以上に見知った名前があったことに衝撃を受けた。そこにはアカデミーで共に競い合った仲間や、テスト飛行の時にインパルスの整備をしてくれていた技師、そのほか大勢の仲間がいた。彼らが守りたかったもの、散って行った理由。それを思えば俺一人安穏とした世界を生きることは我慢できなかった。
ルナマリアとは俺が兵士として再び戦う決意を決めた日に別れた。彼女の心は「戦う」ということにもう限界だった。彼女は元々プラントに住む家族を守りたくて軍に入ったのだという。この戦争の中で、守りたかった家族と敵対し、殺しあっていたという事実は彼女の心を深く傷つけ、苦しめていたのだ。
俺が戦う決心を伝えた時、彼女は今にも張り裂けそうな引き攣った笑顔で「ごめん」といって、自分はもう戦えない、とだけ俺に言った。
責めも、止めもしなかった。幸いなことに、彼女の家族はまだ生きているのだ。俺は彼女に家族との時間を大切にしてほしかった。
今では普通に親しい友人としての付き合いが続いている。結局、時々飲みに行く程度の気安い関係がお互いの性分に合ってもいた。
それから二年、俺はひたすら戦い続けた。デブリ地帯で虎視眈々と輸送船を狙う宙賊と。プラント転覆を狙うブルーコスモス過激派の残党と。死と隣り合わせの世界で、今生きている友を守り、いつか訪れる死を待つことだけが俺のリアルだった。
これまでの人生で、俺は何か変われたのだろうか。きっと、何も変わっていない。家族を失ったあの日から、俺の心は何も変わっちゃいなかった。
身体検査の結果判明した、俺の予想以上の疲労具合を見越して与えられたこの二か月の休暇も、特に暇を持て余しているだけになるだろう。なぜって俺の人生には戦うこと以外、やりたいことも、出来ることもないのだから。
たった一つのやるべきこと、家族の墓参りも終えて、日差しの照りつける初夏のオーブで胡乱な目付きで周りを見渡していた俺は、そんなことばかり考えていた。そう、「彼女」と出会うその瞬間までは。
それは確か俺が公園のベンチでジュースを飲んでいた時だった。名前は覚えていないが斬新かつ珍妙な味だったことは記憶に残っている。
ひときわ暑い日だった。時間を持て余していた俺はオーブでやる最後のことのつもりで、かつて住んでいたあたりを回ってみていたのだ。結果は面影など全くなく、ここ最近にできたばかりだという風な建物が建っているばかり。俺は意気消沈して公園のベンチに腰かけて、暑さにあらがうための清涼飲料水をすすっていたのだ。
そんな時「彼女」は俺の目の前にと唐突に舞い降りた。小柄な体に纏ったひらひらとした純白のドレスのような装束、小さな手に握り占めた身の丈ほどの大きな杖、絵にかいたような「魔法少女」。
俺は中空から「彼女」が現れストンと落ちる様をあんぐりと口を開けてみていた。
想像してみてほしい。十歳ぐらいの少女が何もない空間から急に現れる様子を。きっと驚愕のあまり腰を抜かすに違いない。誰だってそーする。俺もそーする。
つまりまあ、俺と「彼女」、高町なのはとの出会いは、のっけからこんなとんでもないものだったって訳だ。
3
シン「まいった、お金がない・・・。しかたない、今日はもやしか」
マイドアリガトーゴザイマシター
シン「ふぅ、特売セールでもやしが安くてたすかった。これでしばらくは食事に困らないな」
詠「私のもやしがない・・・。これも大金持ちのせいだわ。」
シン「あれは、お隣さんの・・・。どうしましたか?」
詠「あら、お隣のシンではないですか。困りましたわ、今日の食事がなくて困っていますの」
シン「…さっき、もやし買ったんですが食べます?」
詠「本当ですか是非ともお恵みいただきたいのですが?」
シン「わかった、わっかたから?帰ってからな」
詠「はい!」
シンの家
シン「もやしは庶民の見方だな」(もやしを食べつつ)
詠「そうでね、シンはわかっていて嬉しいですわ。それに、イメージと違って貧乏なんですね、てっきりあのお嬢様に援助してもらい綺麗な部屋に住んでいるのかと思いましたの」(丼一杯のもやしを食べつつ)
シン「貧乏なのは、よく物を壊して弁償がおおくてな、昼も最近はまともな物をたべてないな…。援助申し出もあったけど、断ったよ。それに斑鳩さんに頼るわけにもいかないしな」
詠「あら、そうなの。でも援助を受けていたら、こうしてもやしを一緒に食べることも部屋がおとなりっだったこともなかったのね」
シン「そうだな、ごちそうさま。しまった、服のもつれを直していなかった。明日着ていく服がない。」
詠「ごちそうさまでした。あら、お礼に直してあげましょうか?」
シン「本当か!ありがとう。あと、今度裁縫教えてくれないか?貧乏生活はこれからも続きそうだし」
詠「あら、構いませんわ。貧乏仲間同士助け合うのも大切ですわ(それにあのお嬢様や仲間たちと違ってお隣同士というアドバンテージもありますし)」(ほつれた服を直していく)
シン「いや~助かるな、そういや俺こんな倹約術をつかっているんだど…」
詠「まぁ、今度試してみようかしら。うちではこんな倹約術を…」
アスカ「いつになったら太巻き渡せるかなって、焔ちゃん!?」(人がいるようなので家の前でずっと待機している)
焔「おいシン、勝負だ!」(人がいようがお構いなしに戸を突き破ろうとしている)
オチはありません。なんとなくだが詠とシンは貧乏同士仲良くできそう。
4
死塾月閃関係の中学校の夕暮れの屋上
此処にひと組の男女がいた
この日は丁度春休みの終わりの日
今、学校には先生や関係者か部活の関係者しかいない
そのひと組の男女は一番高い所に陣取り男はクーラーBOXから
かき氷(小豆を)取り出し、女の方に渡した後に自分の分を取り出した
ひと組の男女の男の方は シン・アスカ
女の方は 雪泉
二人は屋上から街を見ながらかき氷(あずき)を食べていた
「なぁ、もう春休みは終わりだな」
「そうですね、それがどうしましたか?」
二人の会話は任務や特別なことがない限りいつもの他愛のない話からはじまる
だが、この時は違った。
「今まで黙っていたけど、俺、国立半蔵学院に進学することにした」
「・・・おじい様がお許しするはずがございません。それに月閃には男子校もあるではないですか」
「いや、黒影様から許可はもらっている。自分の視野を広げたくて、あえて別の所にした。入学式に出ることはないが入学祝として住居を手配してくれたよ。バイトなどで学費や家賃など払うって言ったのに黒影様はそれも支払うと言って譲らなくて、結局甘えることにしたよ」
「おじい様がお許しになるとはきっと何か考えのことでしょう。ですが、私としてはいつも一緒にいた貴方がいなくなるのはさみしいです。」
雪泉は突然の別れ話に今まで無い感情を抱きつつ、かき氷を食べていた。
いつもなら、もう半分を食べているかき氷もまだ半分以上も残っている。
こんな事は、今まで一度も無かった。
「めずらしいな、雪泉のかき氷がこんなに残っているなんて」
「私にも、今まで無かったことだから何とも言えません。しかし、叢の仮面外れた時や、夜桜の歯止め役、四季の指導役、美野里の遊び相手などしていたが抜けると正直まとめきれません」
「大丈夫、雪泉なら皆をまとめることができるさ、今まで俺とまとめてきただろ?」
シンはこの世界の人間では無い、メサイヤ攻防戦で撃墜された後、この世界に小さくなって何故か拾ってくださいと書かれたダンボールにいた。その時、雪泉を引き取ったばかりの黒影に拾われた。雪泉とは同じ日に引き取られ、ほかの引き取られた四人よりも付き合いが長いし気心を知っている。また、いつも二人一組で他の四人のリーダーとして、死塾月閃の中等部の生徒を二人でまとめてきた。だが今の雪泉なら一人でも月閃をまとめることができる。この三年間の中学時代で感じた。雪泉の幼馴染みとして他の四人の兄貴分として、黒影様の願っている自分の道を他の五人に歩ませないために、そして雪泉達の成長を願ってシンはあえて月閃の男子校に進学せず黒影のライバルであり親友の半蔵の名がついており、来年は半蔵の孫が進学する予定の共学の国立半蔵学院が進学先に決まった。
「ですが、私よりもシンがまとめてきたではありませんか。それに、私よりも後輩たちにも慕われていたではありませんか」
「そうか?俺は雪泉の方が好かれていたと思うんだけどな。でも一年の双子姉妹にしたわれていたな。いつも雪泉達がいないときはよく指導などしてやったな。そういえば、あの二人の世話、誰に任せようか・・」
「あの二人ですか、・・・それは先生方に任せましょう」
「そうだな、でも・・・何かあのふたりからは不安を感じるのだけどな・・」
と、一年の双子姉妹に慕われていた事を聞いて。私は知らず嫉妬していた、それだから先生に任せればいいと答えてしまった。彼はきっと純粋に彼女達の未来を考えていたのであろう。それを裏切る形となってしまったが雪泉は気づかなかった。
シンはその時、彼女達から聞いた両姫が死んだ事故について考えていた。自分も先生から聞いた話だと
「深淵血塊で暴走した悪忍の学生に殺された」と同じ答えが返ってきた。だが、本当にそうであったのだろうか、近い未来真実を知らずに仇討ちを行いそうで自分が面倒を見られる内に見ようと思ったがどうやら先生達に託すか無いと雪泉の話を聞いて判断したのであった。
嫉妬で機嫌が悪くなっていたのか、シンに対する愚痴を言い始めた。
「シンは、少々突発的なセクハラはやめてくれませんか。こけた際に胸を鷲掴みにしたり胸に突っ込んだりすことはできないのですか?何度、夜桜が怒らせればいいんですか」
「わざとじゃないんだ、わざとでは」
「それに美野里を甘やかしすぎです。遊びと任務は違う事をいい加減に教えてやらないのですか?それに叢の仮面を用意するのもいいですが・・・・」
「美野里には何度も教えてやってんだがな、それに叢の・・・」
「それに、後輩や美野里と関わっていると、私との時間が・・・」
だが、雪泉の愚痴やお叱り(たまに小言で何言っているのかわからないのもあったが)を受けていて、ふと気づいたら頬に流れる光の筋に気づいた
「雪泉・・・、ないているのか?」
「泣いてはいません・・・」
「・・・確かに継ぐことはしなかったけど、雪泉の幼馴染みであることは変わりないさ。
そして、一生の別れではない、生きている限り明日はやって来る、なら再会することはきっとできるさ」
その言葉を聞いて私は泣き止んでいた・・・
「そうですね、これが今生の別れでも別れではないですね」
「ああ、俺の帰る場所はここだからな・・・」
「シン、かき氷溶けていますよ」
「わぁぁ、そういう雪泉のも溶けているぞ」
「・・・私としたことが、いけませんね」
ふと、二人は無言で溶けているかき氷を食べつつ育った街を見ていた。
もう、なくなる頃
「なぁ、黒影様は病良くなるのだろうか・・。進学の際に世話になったのに一人前になる前に死んで欲しくない・・・」
「おじい様は、きっと良くなると思います。そして、私たちに元気なお姿を見せて欲しいです。ごちそうさま」
「そうだといいな。ごちそうさま」
合掌を終えた後、また無言になる。日が闇に隠れ夜の街の光が照らす頃に
シンがふとつぶやいた
「この街も一旦お別れか・・・。なんだか淋しいな・・」
「シン、私達はここにいますから。何時でも帰ってきていいんですよ」
「ああ、そうだな。もう日が暮れてしまった。帰ろうか」
「そうですね。・・・シンお願いがあるのですが校章交換しませんか?」
「俺のでよければ、いいよ」
「・・・ありがとう。シン」
この中学三年間で一番の笑みを彼は見たのであった。
このあと、お別れ会で半蔵学院の校章などの取り合いがあった事や
斑鳩と葛城との一年生の生活はまた別のお話
5
ある夏の日のことでした。川で溺れて死にかけて、次に目が覚めたら世界に線が引かれていました。
あっちこっち線だらけなので、試しにお布団の線をお兄ちゃんがスイカを切り分けてくれた時に置いていった包丁でなぞってみました。するとお布団はあっさりと切れました。お布団だけじゃありません。御盆や蚊取り線香なんかもお豆腐みたいに簡単に切れます。
大人はマユを恐れ、気味悪がりました。私はとても悲しくなったけど、お兄ちゃんやフェイトお姉ちゃんは「凄い」って言ってくれました。お父さんとお母さんもあまり気にしてはいないようです。
どんなに周りが気味悪がったりしてもお兄ちゃん達だけは味方でした。いつもいつも、マユはお兄ちゃん達とだけ遊びました。
あと、たまに変な物が見えたりしましたが、それは線をなぞれば消えるのでお兄ちゃん達には教えませんでした。
そんな日が続いたある夜、マユはあの人と出会いました。
「ほぅ、ただの小娘がそんな禍々しい物を持ちながら正気を保って居られるとは……御主はきっと周りに恵まれた人間なのじゃろうな」
最近話題の‘いじんさん’って言うのでしょうか、金髪金眼のとても背の高いお姉さんに会いました。「ほう、この国の人間は我を見ると大抵が逃げるんじゃが、それを持ちながらで正気なのは或いはその度胸でか? どちらにしろ……うむ、気に入った」
そう言うとお姉さんはマユの頭に手を置きました。置き方は乱暴だったけどその手には何となく優しさがあった気がします。
「これをやろう」
お姉さんは徐に手を口に突っ込んだと思ったらそこから刀を取り出しました。
びっくりして腰を抜かしたマユを見てお姉さんは意地悪そうな笑みを浮かべます。
「かかっ。そういう顔もできるか、まだ心が死ぬまで時間はありそうじゃな」
ほれ――――と投げられた刀。それはマユの目の前に突き刺さりました。
「妖刀――心渡り。最近手に入れた物の……まあ、簡単に言うと偽物じゃが、お前が持つには丁度良いじゃろ、ありがたく思うが良い」
お姉さんはもう用は無いと言いたげに背を向けました。
「そうじゃ、大事な事を言い忘れておった。
御主はこれからその目に惹き付けられる我の様な者達――――‘怪異’と対峙することになるじゃろう。もしかしたら御主の周りの人間も危ういかも知れぬ」
マユの脳裏には様々な人達の笑顔が浮かび上がりました。
キラ様、なのはさんにはやてさん、先生は……自分で何とかしちゃいそうだなぁ。その他友人達。お父さん、お母さん、フェイトお姉ちゃん。そして――――マユの大好きなシンお兄ちゃんの顔が。
「その刀は怪異を殺す刀じゃ。まあ……精々足掻くが良い」
そして、お姉さんは歩き出しました。
「あっ――――」
今更ながらお姉さんから物凄い何かを感じて喋れなくなりそうでした。けど、頑張ってマユは叫びました。
「私は飛鳥マユです。ありがとうございました!!」
お姉さんは立ち止まってくれました。そして、小さく笑みを溢すと一度だけ振り返ってくれました。
「キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードじゃ。じゃあの」
マユはその光景を一生忘れ無いと思います。月の明かりに照らされたその美しい人の姿を――――。
「それから、その子はどうなったんですか、忍さん?」
「さあの。それから直ぐに黒いのに襲われたからその後は知らんが……きっと逞しく生きたであろう」
空に浮かぶ月を見上げ、続ける。
「御主の妹の名で思い出した。あの時も見事な月夜じゃったわい」
「へぇ……それにしても面白い偶然があるもんだなシンの妹と同じ名前の子に忍が会ったことがあるなんて」
「かかっ。我が主様よ、もしかしたら偶然では無いかも知れぬぞ?」
実に愉しげに言う忍。僕とシンは揃って首を傾げたのであった。
「あの小娘はもしや小僧の妹御の前世だったか可能性もあるかもしれぬ。当時は言わずもながら……今の搾り粕となったワシでさえ怪異の中でも特別じゃ。
それに……今回は相手が普通ではない。普通の人間だったなら切れていたかも知れぬが、アヤツは魔眼持ち。しかもそれが‘直死の魔眼’と来た。そんな紛い物同士、縁が残っていたのかもしれぬ」
まあ、戯言じゃけどな。忍はそう言うと食べ掛けのドーナツを食べるのを再開した。
他の誰かが言っても説得力が無い科白。けど、他の誰でもない忍が言うからだろうか、何故か、本当に何故かは解らないけど説得力がある言葉だった。
あっ、コイツ、僕やシンの分まで結局食いやがって。全く……シンは何かを考えている様子だし。
「俺、忍さんの話、信じてみたいです。」
忍はドーナツを加えたままシンを見る。
「小僧よ、先程も言ったがこれは所詮戯言じゃ。たしかに万が一にあるかもしれぬが――――」
「いいんです――俺が信じたいんです。アイツが……マユが暦さんや忍さんに合わせてくれたのかもって可能性の戯言を。
それで俺は、勝手に助かった気になるだけですから」
アイツが――――今は何処に居るかも解らない僕の友人がよく言っていた、人は勝手に助かるだけだ、と。それを聞くとこちらは何も言えなくなる。
忍もなのか、一度だけ何かを言おうとしたのか、口を開きかけたがそれを閉じた。そして、そうかとだけ言って月を眺めながらドーナツを食べるのを再開した。
そろそろ僕やシンの分がなくなりそうなのでシンにポンデリングを渡し、僕はゴールデンチョコレートを食べる。
僕が食べていると忍がこっちを睨んできた。こら、こっち見んな。お前、これ3個も食べたじゃねぇか。
「暦さん、俺――――俺を見つけてくれたのが暦さんで良かったです」
言われて、あれ’なアイツが何故を人を救ってたのか何となく解った気がした。
僕も、そうかとだけ言って月見を再開する。
こんな日常も悪くはない。この出会いも怪異と出会っていたからこその出会いだ。迷惑もかけられるが、それと同じくらいに大切な物や出会いも与えてくれている。
彼とも怪異(?)に巻き込まれたからこそ、出会えたのだ。怪異の先輩として、彼を手助けしてやるのもきっと筋だ。
けどその前に、明日も満月だしまた月見でもしようか。異世界なんて凄いからなぁ、シンの話ももっと聞いてみたい。
そうだ、戦場ヶ原や羽川も誘ってみよう。きっと、シンと仲良くやってくれる。
…………けど何故だろう? 神原にだけはコイツを会わせてはいけない気がする。
エンド。
最終更新:2013年04月20日 18:07