第1話『漂着~いほうじん~』

―――ここはどこだ?

『――、この少年か?例の漂流者というのは?』
一人の少年が横たわるベットのまで少年を見ながら男が言葉を発した

―――俺は・・・一体誰だ?

『ああ、未だに目覚める気配は無いがな』
そして、もう一人の男がその問いかけに答える

―――なんで俺はここに居るんだ?

『司令、副司令、検査の結果が出ました』
新たに現れた女性の言葉に二人は彼女の元へと近づく

―――俺は、ここに居るのか?

『結果は?』
『検査結果は白です。ただ・・・』
言葉を濁す女性に違和感を感じた一人が問う
『ただ?』
『彼の遺伝子にはここの子供たちと同様に遺伝子を調整されたと思わしき形跡が見受けられます』
『なんですって!?』
女性の発言にもう一人が驚きをあらわにした
『残念ながら間違いありません。この1ヶ月の間に検査して出た結果が、彼は・・・私たちの子供たちとは別の方向性で遺伝子に手を加えられていると言うことです。』
『なんということだ・・・』
『だが、そうなるとこの少年の乗っていたあの機体は一体どこで作られた物なのだろうか?』
『解らん、技術班が言うには既存の技術でも再現可能な部分もあるそうだが、主要な部分がオーバーテクノロジーの産物だそうだ』
そう言って男はため息をつく
『なんにしても彼の目覚めを待つしかないということなのだろう』
『そうだな・・・今は彼の目覚めが我々アルヴィスにとって災いでないことを祈ろう。』



―――わからない・・・俺は、一体・・・

―――だいじょうぶ

―――え・・・?

―――私はあなたを感じるよ

―――君は、一体・・・

―――ねぇ

―――・・・?

―――あなたは、そこにいますか?

―――俺は・・・

第1話『漂着~いほうじん~』

―――3ヵ月後

「おはようございます、遠見先生」
開け放たれた診療所の扉から少女が屋内にいる白衣を着た温厚そうな雰囲気の女性に対し、そう言って診療所へと入ってくる
「あら、おはよう翔子ちゃん。今日はお母さんは?」
「今日は体の調子がいいので、一人できちゃいました」
翔子がそう言うと遠見は驚いた様にしながら
「まぁ、それはいいことだけど、あまり無理はしないようにね」
医者としての意見を交えた上で、遠見は翔子にやわらかく伝える
「はい、私もできるだけ、周りに心配かけたくはありませんから」
翔子もそれを理解したらしく、軽くうなずきながらそう言って診察室に入ろうとしたとき、翔子は診療所内の異変に気づいた

「あれ?あの、遠見先生、そこで寝ている人は・・・?」
そういった翔子の視線の先には一人少年が寝かされていた
「ああ、この子はちょっと訳ありで、今日だけここで預かっているの」
「へぇ・・・」
見知らぬ人物が自分の知る場所に居たということに興味を引かれたのか翔子は少年の眠るベットに近づき彼の顔を覗き込む。
「うわぁ・・・綺麗な人ですね、この人」
自分とはまた違う病的なまでに白い肌と、それとは真逆な夜の闇のような漆黒の頭髪を持つ少年に翔子は思わず見入ってしまう。
「一応男の子なんだけどね」
遠見はやや苦笑い気味に翔子に告げる
「え、そうなんですか!?」
翔子は驚きながらも再び少年の方に向き直ると彼の顔へと手を伸ばし、その頬に手を当てた。
「でも、本当に綺麗な顔ですね」
翔子がそういいつつ彼の頬をなでていると
「・・・う・・・んうぅ・・・こ・・・こは・・・?」
少年が目を覚ましたのである。
「あ、ごめんなさい、起こしてしまって」
そのやり取りを見ていた遠見は驚きのあまり数瞬ほど呆然としてしまった。
この3ヶ月間、一向に起きる気配の無かった少年が、本来収容していた施設の改修に伴い一時的にこの診療所に移動させていただけのはずだったのに翔子とのわずかな接触で、突如目覚めたのである。



「ここ・・・は、いったい・・・きみは・・・だれだ?」
意識を取り戻した少年の目の前にいたのは病弱そうな白い肌とそれとは対照的な、長髪の美しい黒髪を持ち、少年から見ておそらく自分よりも年下であろう少女だった。
「ここは遠見先生の診療所です。あと、わたしは羽佐間 翔子って言います。あなたは?」
翔子が少年に聞き返すと少年は数瞬考えるようなそぶりの後に
「オレは・・・俺の、名前は・・・」
寝起きで混濁していた少年の意識がはっきりとし始め、虚ろだった、その真紅の瞳に光が戻る
「俺の名前は・・・!!俺の名前は、シン・アスカだ」
ようやく思い出したかのように、シンは己の名前を翔子に対して静かな口調で伝えた。

「え、と、羽佐間だったけ?聞きたいことがあるんだけど・・・」
目の前にいる少女に対して、シンは現在思いつく事を率直に聞くことにした
「はい、なんでしょうか?」
「ここは・・・どこだ?」
当然の質問である。シンにしてみればメサイア宙域での決戦でアスランに撃墜されたのを最後に一切の記憶が途切れているのである
「ここは竜宮島。そしてここはその診療所です」
翔子がシンの問いに答える前に部屋の隅に居た遠見がその問いに答えた
「竜宮島?聞いたことがない地名だな・・・て、いうか、あなたは?」
「私はここで医者をしている遠見といいます。一応あなたの担当医をしています」
遠見がそう告げると
「はぁ・・・それは、どうも・・・」
シンはどうにも要領を得ないといった感じで横になったまま会釈する
「あの、飛鳥さんは遠見先生と会ったのは初めてなんですか?」
翔子が不思議そうにシンに問いかける
「あ、ああ・・・あの、俺は一体・・・うぐ・・・なんだよ、これ・・・身体が・・・」
翔子の問いに答えつつシンは体を起こそうとするが異常な倦怠感と目眩に襲われ、再び横になってしまう。
「無理をしてはだめよ、君は4ヶ月以上も眠り続けていたのだから」
「4ヶ月!?」
遠見の言葉にシンは思わず声上げてしまう
「そんな、何で俺は・・・くそ、何がどうなってるんだ!?」
「お、落ち着いてください、飛鳥さん」
「これが落ち着いていられるかよ!?くそ、どうなってんだよ!?戦争は、メサイアは、ミネルバは、みんなは!?」
翔子から制止されながらも、シンは突きつけられた4ヶ月間の昏睡という事態を受け、唯一人錯乱する事しかできなかった。
「あなたが何故ここに居るかは後ほど説明します。だから、今は少し落ち着いて。」
錯乱するシンに対して遠見は嗜めるように話しかける
「!?・・・あんたは何で俺がここに居るのかしってんかよ?」
「全て・・・ではないけれど。私の元に運び込まれるまでの経緯くらいは。」
「・・・・・・この際、それでもかまわない」
半ば切れ気味だったシンも、遠見から、少しでも情報を引き出すために現在提示されている情報を受け取ることで、しぶしぶながらも承認した
「そう、じゃあこの子の診察が終わるまで、少し待っていてもらえるかしら?」
「羽佐間の?」
遠見の言葉にシンが食いつく
「実は私、生まれつき身体が弱くて、肝臓が悪いんです。」
「そうだったのか・・・ごめん、なんか悪い事聞いちゃって」
翔子の身体の事情を知ってシンは自分のうかつな質問を悔いていた
「そんなに謝らないでください。別に私は気にしませんから。」
ひどく申し訳なさそうなシンの表情を見て翔子もやや申し訳なさそうに言う。
「・・・わかった」
翔子に諭されたシンは了承の意を示した
「それじゃあ、しばらく待っていてね」
そう言うと遠見は翔子を連れて部屋を出た。
しかし、唯一人残されたシンは自分の置かれた不可解な状況に唯一人困惑することになり、その後、遠見が戻るまでの間、彼は今までの短い人生の中でもっとも長い30分を体験することになった。






次回予告

自分の置かれた状況に戸惑うシンに更なる追い討ちをかけるごとく突きつけられる現実。

それは、神の悪戯か、はたまた大いなる意思のよるものか

そして、惑うシンの前に現れる一人の少年。

彼との出会いがシンに何をもたらすのか?

次回

機動戦士ガンダムSEED DESTINY×蒼穹のファフナー
 “The Crimson Wing ”

第2話「接触~いせかい~」

見知らぬ世界の空、何を見るのか、シン。

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最終更新:2014年02月02日 13:15
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