第2話『接触~いせかい~』
翔子の診察のためにシンが寝ている部屋を出てから30分たったころ、ようやく遠見はシンの元へと戻ってくる。
「ごめんなさい、待たせてしまって」
そういいながら遠見は部屋に入ってくると、同時に窓のほうへと向かい、昼であるにもかかわらずカーテンを閉める。
「あの・・・羽佐間は?」
翔子の姿が見えなかったので、シンはそれに疑問を感じ遠見へ問いかける
「彼女は診察が終わったので帰ってもらいました。これから話すことはあまり人に聞かれてはまずいことなので」
そう言うと遠見は上着の白衣から携帯電話を取り出し
「戻ってきたばかりで申し訳ないのだけれど、また少しはずさせてもらうわね」
「え、あ、はい」
未だ状況を把握できていないシンにはこう言う他に言葉が浮かばず、遠見はシンの言葉を聞くと再び部屋の外へと出て行った
『遠見です。例の少年が目を覚ましました』
『はい・・・はい、先ほど少々錯乱していましたが、普通ならありえませんが、4ヶ月もの間、昏睡状態だったにもかかわらず、今は意識もはっきりとしています』
『ええ、唯・・・いくつか聞き慣れない単語を口にしていました。』
『はい、ここでは少々話しづらい内容なので、アルヴィスに収容し、聴取を行うのが最善と思われます。』
『はい、解りました。では20分後にまた』
「ごめんなさい、待たせてしまって」
そう言って再び部屋に入ってくる遠見に向けてシンも口を開く
「用事は良いんですか?」
ややぶっきらぼうに問いかける
「ええ、それより、もう少ししたらあなたを助けた人がここにくるから、悪いのだけれど、もう少し待ってもらえないかしら?」
その言葉にシンはやや目を細める
「俺を、助けた人?」
「ええ、この島に“墜ちて来た”あなたを助けた人」
シンは遠見の言葉を聞いて驚いた顔になる
「墜ちて来た!?俺が?どこから!?・・・いや、そもそもここはもしかして地球なのか!?俺はあの時月に墜ちたはずなのに!?」
ひどく混乱するシンに流石の遠見も困惑する。
突然、ここは地球なのかと尋ね更には自分はつきに落ちたといきなり言われてもどう対応すればいいのか解った物ではなかった。
「落ち着いて、その人がくればわかる範囲はちゃんと説明しますから」
遠見はできる限り平静を保ちつつシンをいさめる
「くそ・・・俺は・・・」
シンもどうにか自分を落ち着かせようとしているのか、動かすことのできない体でただただ悔しそうに天井に向かってつぶやいた。
―――20分後
ガチャ
『遠見先生お待たせ―――た』
部屋の外から知らない男の声が聞こえる。
『わざわざご足労――――申しわけありません――――。』
あの遠見とか言う医者と何か話しているようだがドアが閉まっているためか、うまく聞き取れない。
『それで遠見先生、例の少年は?』
最初に聞こえた男の声とはまた別な男の声が聞こえてくる
『隣の部屋で寝ています』
『フム、――、――、少年には私が会う、お前たちは――――準備を頼む』
最初の男が誰かに指示を出し、それに応じる声が聞こえてきた
(来たのは・・・3人くらいか?)
そんなことを考えながらシンは自分の状況を分析しようとしていた。
(最後に覚えてるのはメサイアでアスランに撃墜されて月に落ちるところ・・・そういえば・・・あの時俺はもう一度ステラとあって・・・それから・・・何か声が聞こえたような気がする・・・なんて言ってたかな・・・たしか・・・)
シンが考え込んでいると部屋の扉が開き遠見ともう一人髭と眼鏡が印象的で軍人とも学者とも取れる風貌をした中年の男性が入ってきた
「はじめまして、シン・アスカ君」
ベットの近くまでやってきた男は傍においてあった椅子に腰掛け挨拶をしてきた。
「・・・あんたは?」
「私の名は皆城公蔵という。この島の責任者のようなものだ」
その言葉にシンが眉をひそめる
(責任者・・・?)
「で、あんたが俺を助けてくれたのか?」
「いや、正確には私の息子が君を助けた」
その言葉にシンはあえては触れず、まずは自分の気になっていることを率直に皆城にぶつけることにした
「・・・それで、ここは一体どこで、あんたたちは何なんだ?」
シンの言葉に皆城の表情こそ変えないがやや警戒を強める
「どういう意味かね?」
皆城の問いにシンが静かに答える
「そのままの意味ですよ。ここは地球なのかコロニーなのか。あんたらがどこの所属なのかって事さ。それと・・・」
シンはやや間を空けた後に語気を強め
「デスティニーを、俺が乗っていた機体をどこに隠した」
その言葉に皆城は目を見開いた
「フム・・・そこまではっきり自分のことを覚えているのならば、回りくどいことは抜きにするべきだな。真壁、溝口。」
皆城が名を呼ぶと二人の男性が入室してきた。一人は日焼けした色黒の肌に癖っけの強しいウェーブがかかったような髪形が目に付き、もう一人は角刈りの厳つい男だ。
「シン君、これから君にこの島の本当の姿を見せよう。そこに君の乗っていた羽付きの巨人、君の言うデスティニーはそこにいる」
―――竜宮島地下施設・格納庫
「これが、この島の秘密だ。ようこそ、アルヴィスへ」
皆城の言葉を聞きながらも、シンは現在自分がいる場所動ける範囲で見渡す
「なんだよこれは・・・!?」
病院でベットから担架に移し変えられたシンが連れて行かれたのは先ほどまで見ていた平和な風景とは打って変わり、どちらかといえば今のシンにとってはなじみのある風景。かなり、巨大ではあるが、そこは間違いなく格納庫と呼べる場所であった。
「さて、驚いているところ申し訳ないが君にはまだ、見るべきものがあるだろう?」
そう言って皆城は更に奥へと進んでいくと“それ”の前で立ち止まった。
「溝口、彼の体を起してやってくれ」
皆城がそう言うと先ほどからストレッチャーを押していてくれた真壁の後ろから着いて来ていた溝口という男がシンの上半身を引き起こす
「あいよ。坊主、辛いかも知れんが、少し我慢してくれ」
その言葉と共に引き起こされたシンは改めて体に激しい倦怠感と同時にひどく体の節々が痛むことに気づかされる。
「どうも・・・」
その痛みと倦怠感に耐えながら無愛想な謝辞を述べるシンに対し
「何、気にするな、真壁と違っておれぁ、ここまで何もしてなかったからな」
そう言ってからから笑う彼にシンはわずかな好感が持てることを感じた。
「真壁、照明を」
皆城がそう言うとシンの後ろで真壁が何かの端末を操作すると、“それ”に照明が当たり暗がりでよく見えなかったその姿が映し出される。
「デスティニー・・・」
そこにはシン・アスカの愛機とも相棒ともいうべき機体『ZGMF-X42S デスティニー』が見るも無残な姿でつられていた。
肘から先がない右腕、肩から切り落とされた左腕、膝から下がない右足、無残に切り裂かれた一対の翼、月面での決戦の際にレクイエム破壊のためにアスランに奪われ、爆炎に消えたアロンダイトもあるべき場所には無く、フェイズシフトダウンしたその装甲は、既に力尽き、死んでいるかのような印象を与えられた。
「何度見てもひどい有様だな・・・」
そうつぶやく溝口に
「止せ、溝口」
うしろに居た真壁から叱責が飛ぶ
「っと、すまねぇ、坊主・・・」
溝口がシンに足し謝辞を述べるもシンはそんなやり取りなど耳には入っていなかった。
無残なデスティニーの姿を見たシンの頭の中にあったのは月面でのアスランとのやり取りが思い起こされていた。
―――シン・・・やめろ!!そんなものを守って戦うんじゃない!!
―――守るさ・・・守って見せる・・・・・・そして終わらせる・・・!
―――お前が今守っているものは何なのか・・・わかっているのか!?
―――後ろにあるものをよく見ろ!
―――あれは人でも国でもない!従わないものを焼き尽くすための兵器なんだぞ!
―――黙れ!!裏切りものがっ!!わかっているさそんな事!!
―――でもあれは戦争のない平和な世界を作るために必要な力だ!!
―――デスティニープランを成功させるために!!
―――間違っている!!そんな力で・・・強制された平和で・・・
―――本当に人は幸せになれるのか!?
―――世界はもう変わらなきゃいけないんだ・・・
―――戦争ばかりで・・・人の命を弄ぶヤツがいて・・・!
―――こんな世界はもう終わらせるべきなんだよ!!
―――だからオーブは・・・撃たなきゃならないんだ!!
―――な・・・
―――ふざけるな!!そのためにオーブ国民は犠牲になれと!?
―――お前が欲しかったのは本当にそんな“力”か!?
―――俺だって!!
―――守りたかったさ
―――俺の“力”ですべてを!
―――だけど・・・俺が撃っているのは敵じゃないって
―――撃つのは奪うことだって・・・
―――“力”で解決できることなんて何もないって!!
―――あんたが俺に言い続けてきたんじゃないか!!
―――シン・・・俺は・・・お前を絶望させていたのか?
―――できるようになったのはこんなことばかりだ・・・っ!
―――違う!俺がお前に言いたかったのは・・・・・・
―――だったらどうすればいいっていうんだ!?
―――あんたらの理想ってやつで戦争を止められるのか!?
―――なに!?
―――議長とレイは戦争のない世界を作るために・・・
―――俺の力が役に立つって言ってくれたんだ・・・!
―――戦争のない以上に幸せな世界なんて・・・
―――あるはずがないっ!!
―――この“力”で全てを終わらせて・・・
―――その先に平和があるなら俺はっ・・・!!
―――諦めるな!
―――こんな風に“力”を使ってしまったら・・・
―――お前は永遠に“力”の呪縛から逃れられなくなるんだぞ!!
そんな事はとっくの昔に理解していた。
それでも俺は、どうにかしてあの狂い切った世界を変えたかった。
たとえ、自分の全てを犠牲にしてでも。
父さんと母さんが生きれなかった世界を
ハイネとレイが託してくれた世界を
マユとステラに生きて欲しかった世界を
創るためなら・・・俺は・・・
―――絶対に・・・撃たせるわけには行かない!!
―――間に合え・・・!
―――やめろオオォッ
―――だめだ・・・それはぁっ!!
―――シン・・・
―――!?
―――よく見ろ!!
―――こんな“力”に・・・縋るんじゃないっ!!
―――あああっ
―――よくも・・・よくもやったなぁ・・・
―――アンタって人はぁっ!!
―――シン・・・もうやめろ・・・
―――自分の無力さを呪いただ闇雲に力を求めても・・・その先には何も無いんだ!
―――心は永遠に救われない!!
―――だからもうお前も過去にとらわれて戦うのはやめろ・・・
―――明日に・・・未来に目を向けるんだ!
―――今さら何を!!
―――もう俺はこの道を選んだんだ!!この道を!!
―――なら行くしかないじゃないかっ!!
―――これでやっと終わる・・・この戦争も・・・
―――俺の戦いも!!
―――全てがっ!!
―――まだだ!!
―――!?
―――まだ終わらないっ!!
―――くそぅっよくも・・・
―――ハっ・・・
―――ああっ・・・
―――アスラン・・・・あんたやっぱ強いや・・・・
まるで走馬灯のようにシンの脳裏によみがえる最終決戦でのアスランとのやり取り。それはシンにとって自分の道を否定され、更なる絶望の淵へと追い込まれたものでもあった。
527 :ストレイドMK-Ⅱ:2013/09/05(木) 23:11:02 ID:xa/UiMn.
「おい、坊主大丈夫か!?顔が真っ青だぞ?」
その溝口の呼び声にシンは不意に意識を引き戻らせられた。
「え・・・あ、溝口さん?」
ぼんやりとした口調で反応するシンを見た溝口は心底呆れ返った様な表情となり、天井を仰ぐ。
「大丈夫か、アスカ君?だいぶ、ショックを受けたように見えるが?」
溝口に変わり今まであまり口を開いていなかった真壁が口を開く。
「・・・はい・・・ただ、ちょっと・・・こいつで落とされたときのことを思い出して・・・」
シンの返答を受けた真壁は少し考えるそぶりを見せた後に
「ではやはり君はこれを操縦していたわけだな?」
真壁が静かにシンに確認を求める
「はい。この機体。それにこの損傷。俺の機体で間違いありません」
シンがそう言うとその答えを待っていたと言わんばかりに皆城が声を上げる
「フム・・・では、神君。私たちは先ほどの君の要望どおりに君の機体の所在を君にしめした。少しは我々に対する警戒は解いてくれたかね?」
皆城はできうる限り穏やかな口調でシンに問う
「確かに・・・少なくともあんたたちに敵意がないのは解った。ただ教えてくれ、ここは一体どこで、アンタ達は何者なんだ?」
対するシンもまた警戒こそ解かないものの、彼に対する認識を改めるにはいたったが、それでも拭い切れない自分の置かれた状況の解明を優先することにした。
「踏む・・・ではシン君。すまないが先に君に質問させてもらうが、大体でかまわない、君の認識では『今日』はいつだね?」
真の問いに対して、質問で返す皆城にシンはやや苛つきを覚えるも、そこは情報を得るためと、抗議の言葉を飲み込み、返答する。
「C.E74年の5月ぐらいじゃないんですか?」
シンの答えに溝口と真壁は眉をひそめ、皆城もまた険しい顔つきになる
「なるほどな・・・皆城、どうやらお前の予測は当たっていたらしい。」
険しい顔つきの真壁が皆城へと語りかける
「シン君。君は理解できないかもしれないが・・・今は西暦2144年だ」
皆城が淡々とシンに告げるが
「え、西暦・・・?あの、待ってください、それって、一体どういうことなんですか!?」
心からすれば、皆城の言っていることが理解できなかった。シンも西暦という年号は知っている。
だが、それはシンの知る時代よりも遥か数十年も前に終わりを告げている年号というのがシンの認識だった。
しかも、シンの知りうる限り、西暦という年号はそこまで年数は進んではいなかったはずなのだ
「シン君、今更になってしまうが君には我々は君に謝らなければならないことがある。実を言うと、君のこの機体”デスティニー”を解析させてもらった」
「な!?」
皆城の唐突な告白にシンは驚きのあまり言葉を失う。しかし、皆城はそんなシンの反応を確認しながらも更に続ける
「そして、解析した君の機体からはわれわれにとっては未知の技術や材質が使用されていることが判明した。」
更に皆城はまくし立てるように語る
「それも、我々を含めた世界中のどこの国も組織も保有していない技術だ。」
そう言うと皆城は一息置き
「加えて君自身を検査し発覚したこともある。それは・・・君の遺伝子構造が自然の流れではまず発生し得ない塩基配列をなしていたことに加え、君のDNAの中に、この未だ世界で見つかったことのない謎の塩基が発見された。これがどういうことかわかるかね?」
そう言って皆城はシンの方を向くが、当のシンからすれば、言ってることの意味がさっぱりだった。
「わかりません。」
隠したところでどうなるものでもないので、シンは素直に答える
「これは、あくまで仮定の話だが、おそらく君はこの世界の住人ではない」
皆城の言葉に真壁と溝口は面食らったように目を丸くし、シンも皆城のあまりにも飛躍した予想に戸惑いを見せる
「はぁ?アンタ、本気で言ってんのかよ?」
呆れた口調でシンが抗議する
「そうかね?では、これから君が居る、この世界の情勢について説明しよう。おそらく君の知らない事象が多々出てくると思う」
そう言うと、皆城は今時分たちの居る世界について語り始める。
※前レスに少し修正漏れがあったので修正版です
「おい、坊主大丈夫か!?顔が真っ青だぞ?」
その溝口の呼び声にシンは不意に意識を引き戻らせられた。
「え・・・あ、溝口さん?」
ぼんやりとした口調で反応するシンを見た溝口は心底呆れ返った様な表情となり、天井を仰ぐ。
「大丈夫か、アスカ君?だいぶ、ショックを受けたように見えるが?」
溝口に変わり今まであまり口を開いていなかった真壁が口を開く。
「・・・はい・・・ただ、ちょっと・・・こいつで落とされたときのことを思い出して・・・」
シンの返答を受けた真壁は少し考えるそぶりを見せた後に
「ではやはり君はこれを操縦していたわけだな?」
真壁が静かにシンに確認を求める
「はい。この機体。それにこの損傷。俺の機体で間違いありません」
シンがそう言うとその答えを待っていたと言わんばかりに皆城が声を上げる
「フム・・・では、シン君。私たちは先ほどの君の要望どおりに君の機体の所在を君にしめした。少しは我々に対する警戒は解いてくれたかね?」
皆城はできうる限り穏やかな口調でシンに問う
「確かに・・・少なくともあんたたちに敵意がないのは解った。ただ教えてくれ、ここは一体どこで、アンタ達は何者なんだ?」
対するシンもまた警戒こそ解かないものの、彼に対する認識を改めるにはいたったが、それでも拭い切れない自分の置かれた状況の解明を優先することにした。
「踏む・・・ではシン君。すまないが先に君に質問させてもらうが、大体でかまわない、君の認識では『今日』はいつだね?」
真の問いに対して、質問で返す皆城にシンはやや苛つきを覚えるも、そこは情報を得るためと、抗議の言葉を飲み込み、返答する。
「C.E74年の5月ぐらいじゃないんですか?」
シンの答えに溝口と真壁は眉をひそめ、皆城もまた険しい顔つきになる
「なるほどな・・・皆城、どうやらお前の予測は当たっていたらしい。」
険しい顔つきの真壁が皆城へと語りかける
「シン君。君は理解できないかもしれないが・・・今は西暦2144年だ」
皆城が淡々とシンに告げるが
「え、西暦・・・?あの、待ってください、それって、一体どういうことなんですか!?」
心からすれば、皆城の言っていることが理解できなかった。シンも西暦という年号は知っている。
だが、それはシンの知る時代よりも遥か数十年も前に終わりを告げている年号というのがシンの認識だった。
しかも、シンの知りうる限り、西暦という年号はそこまで年数は進んではいなかったはずなのだ
「シン君、今更になってしまうが君には我々は君に謝らなければならないことがある。実を言うと、君のこの機体”デスティニー”を解析させてもらった」
「な!?」
皆城の唐突な告白にシンは驚きのあまり言葉を失う。しかし、皆城はそんなシンの反応を確認しながらも更に続ける
「そして、解析した君の機体からはわれわれにとっては未知の技術や材質が使用されていることが判明した。」
更に皆城はまくし立てるように語る
「それも、我々を含めた世界中のどこの国も組織も保有していない技術だ。」
そう言うと皆城は一息置き
「加えて君自身を検査し発覚したこともある。それは・・・君の遺伝子構造が自然の流れではまず発生し得ない塩基配列をなしていたことに加え、君のDNAの中に、この未だ世界で見つかったことのない謎の塩基が発見された。これがどういうことかわかるかね?」
そう言って皆城はシンの方を向くが、当のシンからすれば、言ってることの意味がさっぱりだった。
「わかりません。」
隠したところでどうなるものでもないので、シンは素直に答える
「これは、あくまで仮定の話だが、おそらく君はこの世界の住人ではない」
皆城の言葉に真壁と溝口は面食らったように目を丸くし、シンも皆城のあまりにも飛躍した予想に戸惑いを見せる
「はぁ?アンタ、本気で言ってんのかよ?」
呆れた口調でシンが抗議する
「そうかね?では、これから君が居る、この世界の情勢について説明しよう。おそらく君の知らない事象が多々出てくると思う」
そう言うと、皆城は今時分たちの居る世界について語り始める。
今の世界情勢、この島の成り立ち、そしてシンの知る世界『C.E』とは決定的に違う珪素生命体『フェストゥム』の存在について。
初めは訝しげに聞いていたシンも、皆城があまりにも事細かに話す、自分のまったく知らない歴史。
そして、にわかには信じがたい、人類に敵対する『フェストゥム』という存在。
しかし、あまりにも真剣に話す皆城の態度と、シンの周りにいる真壁、溝口の様子と、シンから皆城への『フェストゥム』に関する質疑応答で得られた回答を踏まえた限りでは、シンには皆城の言っていることが嘘ではなく真実だと思えるようになっていた。
「と、言うことだ。おそらくだが、君の知らない歴史がかなりの割合いだったと思うが違うかね?」
そう言うと皆城はシンへと回答を求める
「・・・正直、信じられる内容じゃないと思います。けど・・・俺には、あなた達が嘘を付いているとは思えません。だから、今は信じようと思います。」
そう言うと、皆城はやや驚いた顔をする
「そうか、ありがとうシン君。今日あったばかりの私たちを信じてくれて」
皆城がシンに対して謝辞を述べると、次の瞬間通路の先から少年の声と足音が聞こえてくる。
「司令!」
一人の少年が皆城の元に駆け寄ってきた
「申し訳ありません、遅くなりました。」
少年は皆城に対し謝辞を述べるも
「いや、むしろ丁度良いタイミングだ。そうだ、シンくん。紹介しておこう、私の息子だ」
皆城はそう言って息子と紹介した少年の肩に手を置く。
シンは紹介された少年のほうに目を向ける。
おそらく自分よりも年下だということが解るまだ幼さが残るが整った端正な顔立ちに、栗毛の色の長髪は先端部分を縛っただけだが、容姿のせいか妙に様になっている。そしてなによりも目ひくのは、彼の右目にある古い傷跡。だが、シンにはそれがある意味少年の存在を引き立てているようにも感じられた。
「始めまして、僕は皆城 総士と言います。あなたは?」
自己紹介をした総士は未だ名前を知らぬシンへと自己紹介を求める
「・・・俺はシン・アスカだ。よろしくな、総士。」
一瞬の間が開くが、シンは極力平静に勤めながら自己紹介を行う。
「はい、よろしくお願いします、飛鳥さん。」
あまり表情は変わらないがやや微笑みながら応対する総士を見たシンの中で決戦の宙域で別れた親友が、かつて自分に打ち明けた秘密。それを語っていたときの彼の姿がとても印象的だったこともあり、そのときの彼の言葉が思い起こされる
―――俺にはもう未来がない
―――テロメアが短いんだ・・・生まれつき
―――俺は・・・クローンだからな
―――キラ・ヤマトと言う夢のたった一人を作る資金のために俺たちは作られた
―――父も母もない・・・俺は“俺”を作ったやつの夢など知らない
―――人よりはやく老化し、もうそう遠く無く死に至るこの身が・・・
―――科学の進歩の素晴らしい結果だとも思えない
―――もう一人の俺はこの運命を呪い、全てを壊そうと戦い死んだ
―――だが、誰が悪い?誰が悪かったんだ?
―――俺たちは誰もが皆この世界の結果の子だ。
(・・・レイに・・・・・・にている・・・。)
容姿などはまったく似ているわけではないにもかかわらず、シンは総士にもはや会うことも叶わないかもしれない親友『レイ・ザ・バレル』の面影を見た。
シンと総士。この二人の出会いは、未だ動き出していない物語に大きく関わっていくとはこの時はまだ誰も知りえないことであった。
「溝口、総士。二人はシン君を遠見先生の診療所に連れて行ってくれ。私と真壁はCDCに行く」
そう言うと皆城は真壁を伴い総士がやってきた通路のほうに歩き始め、溝口は「あいよ」とやる気の無い返事を皆城に返すと総士に指示を出しシンの乗ったストレッチャーを押し始める。
「それではシン・アスカ君。また後日会おう。」
それが、その日シンが聞いた皆城の最後の言葉だった。
その後、遠見の診療所に戻ったシンは昏睡から目覚めたばかりだというのに脳と体を酷使したこともあり、すぐに眠りに墜ちてしまう。
その翌日から、シンは幾度か診療所を訪れる皆城や総士、遠見などからこの島や世界のことなどについての質問を繰り返した。暇だったからということもあったが、自分の置かれた状況を把握したいという考えもあったからである。
そして、シンが目覚めてから2週間後、シンの体は驚異的な回復速度を見せており、既に手でものを書くことができる程度には回復しており、歩行のリハビリも開始していた。
その間、幾度か通院してきた翔子とも顔を合わせシンにとっては数少ない話し相手だったということもあり、入院生活の楽しみの一つであった。
そして、シンが目覚めてから1ヶ月後、シンはリハビリ中に一人の少年と出会う。
シンにとって外見だけで言えば、まるで鏡を見ているかのように映るが、どこか弱弱しい雰囲気の少年。
その名前を『将陵 僚』この二人の出会いこそが、新たなる可能性の始まりだった。
次回予告
未だ思い通りに動かぬ体
それを歯がゆく思いながらも地道なリハビリを繰り返すシン
しかし、未だ実感の湧かぬ異世界の地でシンは新たな出会いに直面する
それは運命の出会いだと思える出会い
竜宮島に新たな可能性の風が吹き始めたのであった
次回
機動戦士ガンダムSEED DESTINY×蒼穹のファフナー
“The Crimson Wing ”
第3話「出会~かのうせい~」
新しき可能性の扉、開け、僚。
最終更新:2014年02月02日 13:27