1
―――バッドエンド城
「きゃはは。バッカみた~い」
現在人間たちの間で非常に人気作のドラマを見て大受けするバッドピース。
ドラマの内容は大きな力を手にしたことにより善意の行動をした筈が回り回って不幸に転じていく作品だ。
テレビを見て大受けするバッドピースを見てわかるように他四人も似たようなものだ。
なお、専用の五人掛けのソファに腰かけている。
「何かを得ようとすれば必ず衝突が起き、勝者は得ることでき、敗者は奪われ堕ちる。
生きている以上の必然であるのに、得体の知れん力に頼ったのだから不幸になるのは当然だな」
「その通りです。そのような軟弱な覚悟しかないのなら早々に他者に『道』を譲ってしまえばいいのです。
ですが、そんな生き方は見るに堪えない醜さですが」
「結局自分が幸せになるにはその分誰かが不幸になってるんだからね。
認識と方法の違いでこの様ってやつね」
「せやせや。誰もかれも幸せにしたいっちゅうどっちつかずの考えやと必ず自分が燃え尽きてまうわ」
この姿だけ見れば普通の少女たちだが、実態は強大な力を持ち世界をバッドエンドにさせようとしているのだから恐ろしい。
「随分寛いでいるな」
後ろから掛けられた声。
喋り方からしてウルフルンと思い気だるげにそのまま上体を傾けて後ろを見たのだが……
『カ、カオス様!?』
普段自室から滅多に出ないはずの主がそこにいるではないか。
急いで姿勢を正そうとするもソファが倒れ短い悲鳴が起きる。
その後急いで立ち上がり自分たちは訓練を終えて休んでいるだけと必死に弁明する。
その姿を見て鎧の奥から微笑する声が漏れる。今まで感情を感じさせない、
見た目通りロボットのような無感情と見られていた為(バッドピースは大好評だったが)目を見開いてしまった。
まるで自分たちとそう変わらない少年のように感じる。しかしそれもすぐに消え、いつもの無感情な声に切り替える。
「ちゃんとした実戦を経験してみないか?」
先日初の実戦となったが、バッドハッピー・ピースは戦闘に参加できず。
仲間であるはずのアカンベェと戦うという呆れた内容だった。
「私達の全てはカオス様の物。
ですから必要とあればどの様にも使ってください」
バッドマーチに出し抜かれたことにより他の四人はかなり面白くない。
確かに力の片鱗を見た際は恐れはしたが、忠誠心の高さは変わらない。
故にバッドエンドプリキュアは主の命令を待つ。
「いいだろう。それでお前達が戦う相手だが……」
「お化けだ」
カオスから思いもよらぬ相手の正体を聞きが呆気にとられてしまった。
一名だけ思いっきり身を強張らせたが……
「雑用を押し付けたのですか?」
BEプリキュアが人間界へ行った際にカオスの背後の闇から現れたのはジョーカー。
正直彼だけがカオスに隔てなく接するので三幹部達に対するほど悪感情はない。
特にアカオーニに対しては何回殺しても殺し足りないほどに。
「実戦、それも『殺しに来る』相手の経験は積ませたかったからな」
「雑用は否定しないがな」と付け加えたが。
「左様ですか。しかしタイミング悪く本日はプリキュア達が通う学校の登校日ですよ?」
それを聞き時間を確認する。
既に正午を過ぎ、一般的に考えれば十分に生徒たちは帰宅する時間だ。
しかし何らかの理由で一般生徒が校内にいる可能性はある。
実際にマジョリーナが生み出した校舎型アカンベェを撃退し、帰路途中に忘れ物をした緑川なおが学校へ戻っていたのはさすがに知る由もな
いが。
「……しかたない」
踵を返し、向かう先は出口。
それはカオス自らが出陣することを意味する。
「行かれるのですか?」
これには本当にジョーカーは驚いていた。
協力するにあたって互に必要以上の干渉はしない条件があったからだ。
自分達の目的は自分達で達成しろということだ。
にも拘らずカオス自ら動くということは……
「差し当たり『お化け』というのは貴方の世界関係の怨霊か何かで?」
「いや」
「希望と絶望の残りカスだ」
第2話「呪いに終止符を」
2
「誰もいない校舎っていかにも異常な何かがあるって感じだよね~」
目を輝かせなが言うバッドピースだが、まだ十分明るい為言うほど不気味には感じない。
正面から入っていくには目立ってしまう為校舎裏の非常口から侵入する予定だ。
「それにしてもお化け、ね」
オリジナルの星空みゆきはお化けが怖かったがバッドハッピーは違う。
むしろ死んでも現世に留まり続ける無様さに滑稽を感じずにはいられない。
ただ不安な点がもしも主カオスの言うお化けが世間一般的な存在だった場合、
こちらからの攻撃が通用するかという不安はあるが……
「ハッ!何が来ようが全部燃やし尽くしたるわ!」
「や~ん頼もし~」
「カオス様が私達に命令を下した以上それを遂行するのみ、でしょうバッドハッピー?」
「……それもそうね。ならさっそく」
「待て!」
いざ校内へ侵入しようとしたとき、待ったをかけたのはバッドマーチだ。
「確かにカオス様から託された命令である以上、全力を持って遂行するのはわかる。
だが相手の情報が全く不明な状態で戦うのは不利だ。」
脳筋と全員から思われていたバッドマーチからまさかの道理にかなった忠告ではあるが……
「ねえ、もしかしてお化け怖い?」
リーダーは時として直観も冴えてなければならない。
それを遺憾なく発揮したこの発言に……
「……………何をバカなことを言っている」
非常に長い沈黙が肯定を意味していた。
「ええからとっとと来ぃ」
こんなわかりやすい反応をしても否定している以上、説得では不可能だろう。
背中を押し入口に無理やり引き込もうとするも……
ガシィッ!!
「……何やっとんねん?」
扉の縁を両手で掴み、両足は地面がめり込むほど踏ん張っている。
今のバッドマーチはたとえ核兵器をもってしても不退転の構えだ。
「わからないのなら何度でも言う!
わざわざ敵が待ち構えているであろう場所に無防備に突入するのは下策だ!
それ以外に他意はないッたらない!!」
「ざけんなや!怖いのをそれっぽいこと言うて誤魔化そうとすんのは百万年早いわ!!」
押すバッドサニーと耐えるバッドマーチ。
五人の中で特に身体能力が高い二人だが、必死になっているバッドマーチに対しビクともしない。
馬鹿馬鹿しい光景に半眼で見ていたバッドハッピー・ビューティはどうしたものか、
と悩んでいるとバッドピースがバッドマーチへと歩を進め、人差し指をバッドマーチの頭につける。
何をする気なのか、と思う前に恐ろしい想像がバッドサニーに過る。
バッドピースの能力は……
「あびゃびゃびゃびゃ!!??」
電撃が放たれるのとバットサニーが跳び下がったのは同時、まさに間一髪であった。
美少女にあるまじき叫びを上げ、数秒間の後放電をやめた瞬間バットサニーが慌てて抱き留める。
「ほら、早く行くよ」
歯牙にもかけない校舎へ進むその姿に戦慄を感じずにはいられない。
「も、もしかしてうちらん中で一番怒らせたらアカンのはバットピースなんとちゃうん?」
「ええ。どことなく抜け目のないところもありますし」
「……いつの間にかリーダー乗っ取られそう」
だがこれでようやく校舎の中へ入ることができるのだ。
そう全員が中へ入ったとき、
―――世界が変わった―――
固い床がどことなく弾力のある物に変わり、壁や天井も捻じ曲がったものになっている。
バッドエンド空間とも違うドロドロとなった空間、おそらくカオスの言っていたお化けの作り出したもの。
既に全員が戦闘態勢、かと思いきやバッドマーチだけはバッドサニーへしがみつく。
「へ~、歓迎してくれるみたいだよ」
廊下の奥や扉から現れるのはおばけ。
体のどこかが欠損している中学生の姿、ご丁寧にこの学校の制服を着たゾンビたち、
人体模型、二宮金次郎の銅像といった怖い話に出てくる有名な数多のお化けたち。
ゆっくりと近づいてくるお化けらが発する殺気は常人には恐怖のあまり震え上がってしまうだろう。
しかし彼女達、バッドエンドプリキュアには通じない。
戦うことへの昂揚感から美しく妖しい笑みを浮かべる。
その内側はいかに相手を完膚なきまでに叩き潰すか。それを考えるだけで体の昂りを抑えきれない。
「こんなに盛大な出迎えてくれるんなら……」
一歩前に進んだ瞬間、バッドハッピーの首筋を食い千切らんと襲い掛かったゾンビの頭部を蹴り飛ばした!
許容範囲を遥かに超えた一撃を受けた頭は容易く首から千切れ跳び、哀れにも後ろにいたゾンビの頭に激突し、目玉を飛び出しながら崩れ落ちた。
「きっちり全部受けてあげるよ!!」
真夏の学び舎は今、美しき死神達によって亡者たちの棺へと変わった。
なお、涙を浮かべるバッドマーチは誰が見てもわかるほどに震え、しがみつかれているバッドサニーは顔色を悪くしながら必死に引きはがそうとしていた……
「こわい、こわいよ……」
見る影もないほど変貌してしまった校舎内を必死に走る少女が一人。
筆入れを教室に忘れてきたことを思い出し、一人戻ってきた緑川なおだ。
その表情からは普段の強い意志ではなく、親元から逸れた子供のように泣きじゃくり、
いつどこから襲い掛かってくる捕食者に怯える子羊のようだ。
ちょうど自分のクラスの扉を開けようとした瞬間、この空間が展開された。
バッドエンド空間と思ったが、全身に粘り付くような負のエネルギーはバッドエンド空間とは違う。
その異質さに戸惑いが生じ、変身するのが遅れた。
―――それは致命的な隙だった。
扉の窓を破り、なおの首を圧し折らんとする腕が伸びる。
かろうじて反応ができたが、代わりに鞄が奪われてしう。
相手の姿は体全てか黒く塗りつぶされている。
しかし顔、口だけは三日月状につり上げ、血のよう赤い光を放っている。
「アハハハハハハハハハ……!
「ヒッ!」
再度伸ばされた手から逃れることができたのは生命の危機故か、今までの戦闘経験か。
しかし状況の先延ばしにしかならない。
どこまでも続く螺旋状の廊下を走り抜けていくなか、地に落ちた鞄の中身が散乱するなか、スマイルパクトが落ちている。
つまりなおはこの地獄の中を自分の力のみで生き抜かねばならない。
黒い亡霊はゆったりとした足取りでなおの後を追う。
背中ほど伸びている髪と思われる部分からして少女と思われる。
生者に害を成す亡霊の衣服が光の戦士プリキュアのようなドレスのような物
これを意味するものは……
3
最終更新:2014年02月02日 14:02