ストレイドMK-Ⅱ氏の艦これネタ02

‐鎮守府・レイの執務室‐

その日の正午過ぎ位の事であった。

「ヘーイ、参謀。ちょっとお尋ねしたいことがあるネー!」

その良く通る声と共に、珍しい人物が俺の執務室に入ってきた。

「金剛か。お前が俺のところに来るとは珍しいな?」

俺が反応すると現在この鎮守府の提督であるシンの秘書艦である金剛が俺のデスクの元まで駆け寄ってきた。

「今日は朝から提督の様子が変なのデース!提督と付き合いの長い参謀だったら何か知ってると思ってきましたネー」

そうまくし立てる彼女を片手を挙げて制する

「シンの様子が変とは?一体何が変なんだ?」

そう言うと

「提督、今日は朝からずっと上の空なのデース。それに、何か悲しそうな顔でずっと海の方ばかり見ているネー・・・」

そこで金剛は一呼吸おいて更に言葉を続ける

「それに今日は鎮守府の艦娘が誰も出撃していないネー・・・いつもだったら、輸送任務とかで誰かは出撃しているのに今日に限っては誰も出撃していないなんて変なのデース!」

確かに金剛の言い分はもっともだろう。うちの鎮守府は決して資源が潤沢というわけでもないしな。

だが、今回のシンの状態については正直なところ俺には心当たりがあった。

それを確かめるためにデスクの上においてあるカレンダーに目をやったところでそれは確信へと変わる。

「そうか・・・ふむ。」

正直なところ日ごろの激務もあって俺も少々忘れていたが、そういえば今日はそうだったな。

「やっぱり、参謀は何か知っているのデスカ?」

俺は少々思案する。このことを彼女に伝えてもいいものなのか、と。彼女もまたシンと同じで少々優し過ぎる所があるというのが俺の認識だった。

だが・・・彼女ならば、伝えても受け入れて、シンを支えてくれるだろうという結論にいたり、俺は彼女に伝えることにした。

『今日』という日が一体何の日なのかということを


「そんな・・・じゃあ、提督のファミリーは・・・」

真実を聞いた金剛は今にも泣きそうな顔で口元を押さえる。

「ああ・・・おそらく今日のシンの状態はそれが原因だろう」

そう言いつつ俺は引き出しから1枚のメモ用紙を取り出すとそこにある内容を書き記す。

「さて、金剛。すまないが一つ遣いを頼まれてもらえるか?」

俺がそう言うと金剛は不思議そうな顔をする

「お遣い?」

「ああ、ここの警備室に俺宛で荷物が届いているはずだ。すまないがそれと、この書面をもってシンの所にまで言ってきてくれ。書面はシンに渡すまで中を見るんじゃないぞ?」

そう言って今したためた書面を金剛に渡す

「それはかまわないデース。それでは、参謀失礼しましたネー」

そう言って金剛は部屋を出て行った

「フゥ・・・俺も甘くなったものだな・・・」

レイはそう呟き、椅子にもたれかかり窓から空を見上げ、今は亡き兄と父の眠るもとの世界に思いをはせるのだった

‐鎮守府・シンの執務室‐

今日は6月15日。元の世界ではかつて連合によるオーブ進行戦のあった日だ。

そして、俺が全てを失った日でもある。

「はぁ・・・」

一人だけのため息が空しく木霊する

今日、この鎮守府はとても平和だ。

誰も戦いには赴かず、各々が鎮守府内で各自のやりたいことをしている。

正直、これは俺のエゴだ。

この家族の命日を静かに過ごしたいという思い。

皆に、たまにの休息を与えてやりたいという思い。

そして・・・今日という日を更なる悲しみの日にしたくないという・・・怯え。

それが今の俺の中にはあった

そんな想いが頭の中で渦巻いていると、突如執務室のドアが開き、常に自分の傍で補佐を担当してくれている少女が花束を持って入ってきた。

「提督!これ、参謀から頼まれてもって来たネー!」

シンの元までやってきた金剛から花束と風呂敷につつまれた何か、そして先ほどレイが書いた書面がシンに手渡された。

そして、シンは受け取った書面を開くと目を見開いた

「・・・ハハ・・・まったく、あのお節介やきめ・・・」

シンはそう言うと椅子から立ち上がり金剛のほうへと向き直る

「金剛、これから少し行きたい所がある。一緒に来てくれ。」

突如放たれたシンの言葉に金剛は驚きつつも、親愛なるシンの言葉にただ頷いた



さて、少し本題からは外れるが、この鎮守府にシンとレイが着任してから、この鎮守府の近くの見晴らしの良い岬に、とある石碑が建造されたことが有名になったことがあった。

その石碑には何も書かれておらず、ただその岬に立っているだけ。

人々や、艦娘たちはその石碑のことを不思議がり、それが何のための石碑なのかと議論するものもいた。

曰く、深海凄艦によって命を落とした者たちへの鎮魂であると。

曰く、航海の無事を祈るためのものと。

曰く、深海凄艦そのものを鎮めるための物と。

さまざまな憶測が出たが、結局のところ、事の真相を知るのはそれの建造を支持した提督と参謀だけであった。

そして、その石碑はいつの間にか人々に忘れられ、思い出したものたちからは無名の石碑と呼ばれるようになっていた。

さて、ここで話を本筋戻そう。

‐鎮守府近郊・無名の石碑‐

「提督ぅ・・・ここは確か、無名の石碑でしたっけ?」

シンの後ろを付いてきた、金剛が問う

「みんなからはそう呼ばれているみたいだな」

シンはそう言うと石碑に備え付けられた献花台に花束を供えると、持ってきた風呂敷をあける。

そこには一束の線香とマッチに新聞紙、それ以外にも数点のお供え物が入っていた。

「ここは・・・さ」

作業をしながらシンが話し出す

「俺とレイが、元帥に頼んで作らせてもらったんだ」

「え?」

シンの言葉に戸惑う金剛

「金剛には、俺たちが違う世界の人間だってことは前に話しただろ?」

作業の手を休め、シンが金剛の方へと向き直る。

「はい、それは聞きましたネー」

「ああ、それに、レイから聞いたんだろ今日のこと?」

そこで、金剛はここが何なのかわかってしまった。

なぜここまでヒントが用意されていたのに機がつけなかったのかと金剛は自分自身を攻めたくなった。

「提督・・・もしかしてこの石碑って・・・」

金剛のその言葉を聞いたシンは再び、石碑のほうに向き直ると再度作業を始めながら話し出す。

「ああ、俺たちはもう戻ることができないだろうからな。けど・・・せめて家族のことだけは忘れたくは無いんだ。だから、こうしてここに建てさせて貰ったんだ。」

シンはそう言うと言葉に詰まる。

少しの間の後

「俺たちの・・・家族の墓を・・・」

やや震えた声でその言葉が絞り出された。

それを聞いた金剛は言葉をかけるのではなく、シンの背中をそっと抱きしめていた

「金剛・・・?」

突如抱きしめられたシンは戸惑い、ただ彼女の名を呼んだ

「提督・・・無理をしないでほしいネー・・・」

いつもの元気のいい金剛の声ではなく落ち着いた優しい金剛の声が背中からシンに発せられた

「・・・!」

「私は前の大戦の時にシスターズを守ることができませんでした。今は皆新しい命と体で提督の下にいますけど、私も・・・提督が何を思っているかは解らなくはないデース・・・」

その言葉にシンは作業をやめうつむく

「じゃあ、俺は・・・どうすればいいんだよ・・・」

搾り出すような震えた声でシンは金剛に問う

家族を失い、変えるべき世界を失い、流れ着いたこの世界でシンとレイにできることは、ただ何も記されていない墓標を作り、それを元の世界との接点とすることしかできなかったのである。

「でも、今回のことで私は提督たちの事情を知りました。だから私の前くらいでは素直になってほしいデース・・・」

金剛はそう言うとシンの背中から離れ、シンの側面に回りシンの手をとる。

「私は、提督にバーニングラヴネー。だから、提督には私に甘えて欲しいデース」

その言葉を聞いた時、シンの目から一筋の涙が零れ落ち、シンは金剛を抱きしめた

「て、提督!?」
顔を真っ赤にして慌てふためく金剛を尻目にシンは言葉をつむぐ

「ごめん金剛、少しだけこのままでいさせてくれ・・・」

金剛はその一言を聞くと自分を抱きしめるシンに愛おしさを感じながら再度シンの背中を抱き返す。

「はい、提督がお望みなら。」



―――20分後

「すまんかった。」

顔を真っ赤にしながらシンは金剛に謝った

「フフーン、さっきの提督とっても可愛かったですヨー」

金剛はそういいながらシンと共に作業を行う

「よし、これでOKデース」

献花とお供え物に加えて線香が供えられた石碑を前にして金剛が言う

「ああ、ありがとうな、金剛。」

「いえ、ノープロブレムデース」

金剛がそう言うとシンはうれしそうに目を細める

「そっか、じゃあ、金剛も一緒に黙祷してもらえないか?」

金剛はシンの提案を了承すると胸の前で手を合わせて黙祷し、シンもまた同じく黙祷した。


「さて、そろそろ帰るか。」

黙祷を終え、後片付けを済ませたシンが提案する

「私はノープロブレムネー」

金剛がそう答えるとシンはそのまま金剛を伴って岐路に着いたときであった、海から軽く風が吹く

―――お兄ちゃんをよろしくね、金剛お姉ちゃん―――

「え!?」

金剛が振り返るとそこには誰の姿も無くただ海風が金剛とシンの間を通り抜けて行った。

「どうした、金剛?」

金剛はシンの声ではっとしたように我に返ると

「いえ、なんでもないデース!」

そう言ってシンの腕に抱きつく

「お、おい、金剛?」

やや戸惑うシン

「フフ、さ、早く鎮守府に帰るネー!!でないと、みんな提督のこと心配してしまいマース!!」

いつも以上に元気で愛らしい笑顔を浮かべる金剛に引っ張られシンは鎮守府への帰路に着いた。その顔には朝から金剛が心配していたかげりは既に無かった。

‐その夜・金剛の私室‐

「今日は・・・とても有意義な1日だったネー」

紅茶を飲みながら金剛は一人呟く

「でも、あの時、聞こえたのは私の気のせいだったのでしょうか・・・」

―――お兄ちゃんをよろしくね、金剛お姉ちゃん―――

先日からの帰りの際に聞こえた言葉を金剛は反芻する

「いえ・・・きっとあれは提督のシスターの声デース」

「だって・・・あれは、提督と同じ優しい声でしたから」

そう呟くと金剛はティーカップを置き窓のほうへと行く。そしてカーテンと窓を開けると満天の星空を見上げ

「提督の・・・いえ、あなたのブラザーのことは私が任されたネー。だから、あなたはファミリーと一緒に見守っていてほしいネー」

「私の1番大好きな提督が・・・シンが悲しまないように、見守っていてほしいネー」

金剛のその言葉を聞き届けるように星は輝いていた。

愛する人の悲しみを支えると決意した戦乙女のために。

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最終更新:2017年02月11日 21:44
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