プの字 ◆vAh > Wszp5I氏の艦これ小ネタ-01

「甘ったれないでください!」

司令室を切り裂くような声を挙げたのは白いセーラー服をワンピースのように着た幼い少女だっ
た。少女はその大きな目に明確な怒りを爛々と燃やして目の前の青年を見上げていた。青年は部
下である少女に反抗され、憤慨するよりはむしろ狼狽するようであった。

「あなたはいったいなんなんですか!あなたがいるのはそこでしょう!?その場所なんでしょう!?
それなのにいつも、いつも……!」

怒る少女の眼は、口に出すのが追いつかない程の気持ちを目一杯吐き出していた。いつもはだ
れよりも明るく無邪気にふるまっている少女の熱量は今にも溢れ出んと震えている。少女の肩を小
さな手が優しく撫でて、小さく、それでいて不思議に通る声で言う。

「そこまでだゆきかぜ。しんにはおれからよくいっておく。まだわかってないみたいだからな……。し
ぐれ、すまないがゆきかぜをたのむ」

長い金髪に奇妙な赤い制服を着た手のひらに乗るほどの小人――鎮守府でようせいさんよばれ
ている存在――は先ほどからずっと心配そうに雪風を見ていた少女、時雨を見た。
おさげを不安そうにゆらして、時雨は頷く。

「行こう、雪風。レイさんに任せてみようよ」
「……はい」

少女二人が去った部屋で未だに茫然自失としていた青年、シンを見てレイは可愛らしい見た目で
どうにも様になった溜息を吐いた。

「ようやくいわれてしまったな、しん。おれとしてはいったのがゆきかぜだったのがいがいといえばい
がい……いや、そうでもなかったか」

シンは力なくデスクの椅子に座る。レイにはシンの姿が枯れかけた植物と重なった。

「何が悪かったんだ、レイ?俺は彼女たちには傷ついてほしくなくって、だから」
「“おれがまえにでてたたかえたらいいのに”といった。これまでなんどもな。ちんじゅふのちかくにて
きがきたときはほんとうにでていったときもあった」

レイはシンと目を合わせるためにデスクの上に立った。

「ゆきかぜがおまえにおこったりゆうがほんとうにわからないか?おまえのいまのかたがきはなんだ?
かのじょたちのやくわりは?」

「それは……提督だよ。雪風達は、艦娘」

ポツポツと出てくる言葉は終始戸惑った調子だ。これは少し強引にいくしかないか、とレイは思った。

「そう、ていとくだ。たたかうのはかのじょたち、しきをとるのがおまえだ」
「でも!そんなの納得がいかないじゃないか!なんであんな子供たちが戦わなきゃならない!?なんで
パイロットだった俺なんかが艦隊の指揮をとる!?理不尽じゃないか!従えない!レイだってそうじゃ
ないのか!?」

椅子から乱暴に立ち上がったせいで揺れたデスクの上の書類が散乱する。急に声を荒げたシンを見
てレイはもう一度溜息をついた。これが最後の溜息ならいい、そんな考えが頭をよぎった。

「しん、おまえそんなにじぶんのてでせんそうがしたいのか?」
「え?」

シンが話を聞く気になったらしいの確認したレイは少し安心し、そしてそれを出さないよう気を付けて話す。

「おまえはせんじょうをおまえのじこひょうげんのばにしようとしている。ていとくであるおまえがあたえられた
やくわりをなげだしてせんじょうでたたかって、それでなんになる?せんじょうではかのじょたちのほうがよ
ほどつよいんだぞ。あしでまといになるだけだ」

「そこは、なんとかMSを手に入れるとかして……」

「まだいうのかおまえは!かてればまだいいだろう、かのじょたちのなかにもおまえにかんしゃするのがい
るかもしれん。だがまけたら?ていとくをうしなったかのじょたちはせんじょうでどうすればいい?なによりじ
ぶんよりよわいものをたたかわせて、あまつさえころしてしまったというおいめまでせおわせるのか?」

「でも、やっぱりこんなの納得が……」

「なっとくがいく、いかないのもんだいじゃないんだ、しん。めいれいだからしたがうとか、そういうことでも
ない。わからないか?やくわりなんだ!」

レイはシンの肩に飛び乗った。シンの視線が少しだけ上を向いた。

「おれはもうこんなすがたになってしまった。できることといったらおまえやかのじょたちのさぽーとぐらい
だ。だからせめてぜんりょくでさぽーとする。かのじょたちもそうだ。たたかいというかのじょたちのやくわ
りをぜんりょくでつとめている。それがひつようなことだからだ。いきるために!だというのにおまえはなん
だ?げんじょうにふまんをもつだけでじぶんのまんぞくのためだけにふるまう。それがおまえのやくわりな
のか?」

ようやくレイの言うことが掴めたシンは今度こそがっくりと項垂れた。後悔と反省がシンの体を重くしてい
るのがレイにもわかった。けれど確信もある。シンにはこの重さを背負って歩く強さがあると、レイは信じ
ている。ずっとずっと信じてきたのだ。

顔を上げて、シンが口を開いた。

「ごめん、レイ。俺、まだどうしようもない馬鹿野郎だったみたいだ」
「あやまるあいてがちがうだろう?……いってこい、しん」

フン、とちいさく鼻を鳴らしてレイは小さな手でシンの背を叩いた。
ああ、と答えてシンは司令室から小走りで出て行った。一人残ったレイは半開きのままの扉を見つめ
ている。

おまえは今とてもつらいだろう、シン。あのときああしてなければ、あれをやれていたら、なんて誰にもぬ
ぐえない思い枷だ。

けれど、よかったじゃないか、ともレイは思うのだ。

自分の間違いを気づかせてくれたのが、ほかでもない雪風だ。お前は知らないだろうけれど、彼女は俺
たち以上の無力感を味わってきているんだ。

悔しさと悲しさの涙を双眼鏡に隠して、明るくふるまう彼女、とても強い雪風。
そんな彼女の許してもらうのはきっと大変なことだけれど、お前たちが本当の意味で力を合わせれば、
どんな困難も乗り越えられるさ。

だから、頑張れシン。お前と雪風が力を合わせて静かな海を取り戻す日を、俺は信じている。

開いた窓から潮風が吹きこんでくる。半開きのドアがぎしりと音を立てて完全に開いた。廊下から良く知
った声が聞こえてくる。

やれやれ、今度は二人の仲裁かな。

結局二度目の溜息をついたことに気づき、レイは笑った。これが最後の溜息だと、今度は信じることが出来た。

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最終更新:2017年02月11日 23:33
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