なんなんだよ、この場所は? 俺、シン・アスカはすでに何度と無く繰り返した言葉を胸中で反芻する。
辺りを見渡せばそこはいわゆる別世界。中近世風ヨーロッパとでも言えばいいのだろうか。
ところどころには煉瓦を用いた建築物があり、レトロな雰囲気の町並みだ。
それだけじゃない。街にはまばらだが剣を腰にさし、鎧を身にまとっている人間もいる。
街を勢いよく疾走しているのはいわゆる馬車って奴か?
まるで映画の世界に紛れ込んだような錯覚を覚える世界。そんな所に俺はいる。
あの裏切り者を追いかけている途中だったというのに、突如雷に打たれて気がついたらこの世界に
飛ばされていた。不条理にも程があるとは思うけど現実は非情だ。
「主様~。」
頭の上から声が聞こえてくる。
「なんだよ、運命。」
俺は顔を上げ、ややげんなりとしながら答える。そこにいるのは俺がこの世界において感じた
不条理の最たるものだ。俺の頭上では手のひらサイズの美少女妖精が赤い羽根を生やして浮遊している。
これがなんと俺の愛機デスティニーのこの世界での姿だという。
「あんまり周りをきょろきょろしながら歩くと変な人に思われてしまいますよ。」
「しょうがないだろ。まだこの世界に慣れないんだから。」
「でも慣れて行きませんと。明日は皆に来るんですから!」
ビシっと一指し指を天にかざしていう運命。やたらと前向きな元MSだと思う。
ちなみに運命の姿は俺以外には見えない。周囲に不審者と思われない為にも会話には細心の注意を
必要とする。最初それを知らずに周囲から冷たい視線を受け取ったのは苦い思い出だ。
「主様はこの世界ではこの国、ドルファンの傭兵なんですから。衣食住はとりあえず保障されてますし。」
「俺もこんな格好をする事になるとは思わなかったよ。」
改めて俺は自分の格好を見直す。着ているのはパイロットスーツではなく、ザフトの赤服でもない。
青の上着と黒のズボン。この国の軍の制服としては標準的なものだ。
「こんな世界に来ても戦争か。正直やってられないな。」
俺がそう呟いて建物の角を曲がったとき
「きゃっ!」
短い悲鳴と共に俺の身体に衝撃が走り、軽く何かが地面に着く音がする。
前を見ると少女が座り込んでいる。どうやら俺とぶつかってしまったらしい。
「ご、ごめん。大丈夫か?あんた。」
俺は慌てて駆け寄る。
黒髪を三つ編みにし、いわゆるセーラー服を身にまとった少女。学生か。
顔はまだ伏せられている。大丈夫か?
「ごめんなさい。周囲に気をとられていて……。」
少女が静かな声で謝罪する。
「立てるか?」
俺は少女に手を差し伸べる。
少女の顔が上げられる。人形のように端正な顔立ち、何かを見通したような静かな眼差し。
場違いながら俺は一瞬見とれていた。すると少女の眼が不意に厳しくなる。
「あなた……傭兵?」
「あ、ああ。一応そうだけど。」
少女の問いに俺は多少どもりながら答える。胸がわずかに早く鼓動を刻んでいる。
「私はライズ・ハイマー。よければあなたの名前を教えて欲しいわ。」
「俺はシン、シン・アスカだ。」
答えた俺が差し伸べていた手を彼女はとる。赤い手袋に包まれた手で。
「そう。シン、っていうの。」
ここに二つの運命が交錯した。
最終更新:2008年06月17日 16:08