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みつめてナイト-02


「ここが教会か。」
 ドルファン首都城塞における神の家を前にして俺、シン・アスカは呟いた。
 白い壁、茶色の屋根を基調とする教会。周囲をよく手入れされた植木や植花
で規則的に囲まれたその建物は俗世から一つ壁を隔てた穏やかさを感じさせる。
 南部を海に面した国であるドルファンの首都、通称ドルファン首都城塞は国土の南端に
属しており、その南端はこれまた海に面している。
 その海に面した地帯を通称「シーエアー地区」と呼び、この教会もそれに属する一角にある。
「綺麗な教会ですね、主様。」
 俺の肩の上を浮遊する妖精少女もどきの運命がいう。弾んだ声と落ち着きのない浮遊、そして
 付近の植木や植花を見つめる興味深げな眼差し。これはまさか……。
「遊びたくても駄目だぞ、運命。」
「え!? な、何を言っているんですか、主様!」
 半眼で釘をさした俺の言葉に動揺する運命。どうやら図星だったらしい。
「これから俺達はバイトに行くんだからな。寄り道してる時間はないんだよ。」
 俺の言葉に運命は困った顔をしてむー、と呻く。……本当にこいつ元MSか?
「で、でもこの教会すごいんですよ! なんでも女の子の不満を減らしたり
できるらしいんですよ! 見ておいて損はありませんよ!」
 拳を握り締めて力説する運命。いきなり何を言い出すかと思えば……。
「何を言っているんだよ。そんな事があるわけないだろ? そんなものにすがりたくなる
なんていろいろ終わってる状況に決まってるさ。ほら、さっさと行くぞ。」
 はっきり言い捨てて早足で教会から遠ざかる俺に悄然としながら付いてくる運命。
 今度機会があったら寄ってみるのもいいかも知れない。
 そう思いつつ俺はバイト先に向かって歩き出した。


 海に面したシーエアー地区。その一角にある漁港。そこが俺の今日のバイト場所だ。
 漁獲された魚を運搬するアルバイトで体力は使うが収入は非常にいい。
 これでも軍にいた俺は体力には自信がある。
「よっこいしょ、と。」 
「頑張れ、頑張れ主様~!」
 運命のお気楽な応援を受けながら黒の作業着を身に纏った俺は魚を運搬する。
 くそ、こいつら動くな……。一抱えほどある大きな魚、それもまだ生きているのを
運搬するのは中々大変だ。
「きゃっ……やだ……そ、そんなに暴れないで。」
 不意に向かい側で声がした。なんか高い声だな。
 俺が声のしたほうを向くとそこには俺と同じように魚を抱えている奴がいる。
 俺と同様に黒の作業着を見に纏い魚を抱えている。背は俺より低く体つきも華奢。
 おそらくはこの作業用に栗毛の髪を黄色い頭巾でまとめているが、
本来は長いであろう事は肩にまで達しているもみ上げからうかがえる。
 よくも悪くもパランスの取れた顔立ちに善良そうな輝きを宿した瞳。
 大人しそうではあるが健気な印象を受ける。えーっと……こいつは……。
「君、ひょっとして女の子なのか?」
「え、ええ。そうです。」
 俺の問いに多少戸惑いながら答える彼女。
「お、おかしいですか?女の子がここで働いているのが。」
「おかしいに決まってるだろ。」
 多少戸惑いながらも勇気を出して反問してきた彼女の言葉に俺は即答する。
 あ、なんか顔を俯かせてる。
「ここはお給料がいいんです……。」
 彼女が搾り出すようにして呟く。
「私、お金が必要なんです。家族の為にも!」
 声を張り上げ彼女は俺に訴える。魚を抱えたままというのが
いろいろぶち壊しにしてるけど。
 悪いことを聞いちゃったな。
「それ持ってやるよ。」
「え?」
 俺の申し入れに彼女は驚いた声をあげる。
「俺は今ちょうど手が空いてるから……。」
 背中がくすぐったい。ついついぶっきらぼうな言い草になってしまう。
「あ、ありがとうございます。」
 そういって小さく彼女は笑みをこぼした。なんだか心が温かくなるような笑顔だった。
「君の名前は?俺はシン。シン・アスカ。」
「私はソフィアです。ソフィア・ロベリンゲです。よろしくお願いします、シンさん。」


 互いの自己紹介を済ませた後で俺は彼女の魚を受け取ろうと歩み寄る。ん?
 不意に足元がぐらつき、彼女の顔が近づく。しまった! 転んだか。
「う、うわ!」
「きゃっ!」
 衝撃が走り視界が流転する。痛てて……。
 倒れた体勢からなんとか首を持ち上げる。下についた手の先に柔らかな感触。なんだ?
「あ、あの……。」
 下から聞こえるソフィアの声。ちょうど俺が押し倒した格好になっている。
 そして俺の手はちょうど彼女の胸の辺りに置かれていた。
「ご、ごめん!」
 ソフィアに謝罪して慌てて身を起こそうとする俺。今の体勢は危なすぎる。
 もし誰かに見られでもしたら……。
「あら、シン。何をしているの?」
 静かな声が俺の後方から聞こえる。振り返るとそこには黒髪の三つ編み、
黒の長袖の上着に赤と白を基調としたスカートを身に纏い頭には赤い丸形の帽子を被った、
人形のように端正な顔立ちと静かな眼差しをした少女が立っている。
「ラ、ライズ!」
「あ、ハイマーさん。」
 彼女の名前を呼ぶ俺とソフィア。ん?なんでソフィアまで?
「ソフィアは知り合いなのか?ライズと。」
「ええ、ハイマーさんとは同じ学校なんです。」
 あ、そういえばそうか。納得する俺。
「そういう事よ。それでここで何をしていたの?」
 静かに無表情でたずねてくるライズ。
「い、いや別に何も……。」
「そ、そうです。私達はただバイトをしていただけで……。」
 口々に弁解じみた事を言う俺とソフィア。
 それに対し彼女はふうん、と相槌を打った後
「まあいいわ。ソフィア、これは差し入れよ。」
 といってソフィアに包みを渡した。
「あ、ありがとうございます。」
「いいのよ。頑張ってね。それじゃあ私はこれで。」
 そういって淡白に去っていくライズ。
 彼女は少し行った先で何かを思い出したように立ち止まり、こちらを振り向く。
「ああ、それからシン。」
「え?」
 不意に俺に言葉が向けられる。なんだ?
「今度からは場所を選んだほうがいいわよ。」
 その言葉と共に鉄槌のような衝撃が俺の心を打ちのめす。
 そして彼女が立ち去った後では呆然とした俺とソフィア、そして闇よりも深い沈黙が残った。


「………………。」
 時刻は夕方。バイトを終えた俺は教会の礼拝堂の一席で無言の祈りをささげている。
「あら、あのお方は随分と熱心にお祈りをされているのですね?神父様。」
「弱者は己に頼らず天に頼るしかないということですよ。はっはっは。」
 若い女シスターの感心した声や長身で長髪眼鏡の神父様のやたらと楽しげな口調も
気にしない。
「あの、主様。日中に来た時はこんな所で祈るなんて
いろいろ終わっているっていっていませんでしたか?」
 俺をいろんな意味で気遣っているような運命の声も気にしない。
「……何を言っているんだよ、運命。お祈りの邪魔をするなよ……。」
 重い口調で運命に答えながら俺は神に祈り続ける。
 彼女の誤解が解けますようにと


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最終更新:2008年06月17日 16:09
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