ひぐらシンのないた後に-05

「あれは、飛鳥真が雛身沢に来て一週間後のことだ。入部編と付けるべきか。
 今でも懐かしい。あれは、まだひぐらしが鳴いていた頃だった。
 俺の最高の友であり、最高の仲間達が奮闘したのもあの頃だったな。
 飛鳥真――いや、シン・アスカ。最高の友であり、最高の仲間。
 お前はすごいよ。まさかあの沙都子のトラップを切り抜けるとはな」

ひぐらシンのないた後に

入部(裏山)編


 俺がこの世界に来て――俄かに信じがたいが――既に六日が過ぎていた。
 バイトも大変だし節約も大変だし何よりこの時代に適応するのが大変だった俺も、今では馴れてきた頃だ。
 ここは俺が居た場所よりも住みやすいし、安全だ。
 当初は村の人たちもよそよそしかったが……いや、今もそうか? 難しいことは分からない。
 大雑把に考えねばやっていけない、というほうが正しいのだろうか。
 普通に考えてたら発狂しててもおかしくはないさ。いや、発狂して駄目だった覚えがある、とも言えるが……
 デジャブみたいなものだろう。

 ともかく足長おじさん――誰かは分からないが、校長の知り合いらしい――のおかげで学校通えてるのだが……
「シンちゃんを部活にぃ? 圭ちゃん、あたしらの部活動を甘く見てるわけ?」
 いちいち見逃してくれないのは圭一様だ。
 黙っときゃ良いのに圭一が俺の意思と反して切り出すものだから魅音が怪訝そうな声を上げた。
 ちなみにここは放課後の教室。窓は閉まっているが教室の扉が開けっ放しのせいか、ひぐらしの鳴き声が聴こえてくる。
 ああ、いい場所だな、と思えてくる。まるで、ずっと昔に聴いたことのあるような――そんな感じだ。

 まぁいい。とにかく俺が帰り支度をしていた時に圭一が魅音に、
『シンも部活に入れてやってくれ』
 等と勝手に俺の意思をまったくもって尊重しない内容を提案しやがったのであります。どうしてくれようか。
「そう、シンをさ。いいだろ?」
 圭一は更に魅音に承諾を求めた。だから俺の意思を……と思いつつ帰り支度中なので手が離せない。
 そんな俺に気づいているのかいないのか、魅音が切り返す。
「圭ちゃん、うちの部活はそう簡単に入れるもんじゃないよ? いざとなったら……」
 びしっと話についてこれない沙都子を指差し、震えながらにして魅音が叫ぶ。
 さながらあなたが殺したのはあなたの親なのよ! みたいな感じだ。
「沙都子のトラップ地獄、裏山を体験しなきゃならないほどなんだよ!」
「うげぇ、それはキツいぞ!?」
 裏山……トラップ? 沙都子ちゃんは罠が得意なのか?
 作業を中断して沙都子ちゃんをじっくりと眺める。少々性格がアレだが、いい子だ。それが……罠?
 うーん、皆ではそういうことになってるのか。じゃあ乗ってやらないとな。
「裏山だっけ? 良いよ、行ってやるさ。で、裏山に行って何をすればいいんだ?」
 いっせいに俺のことをじっくりと、突き刺すように見つめる一同。心なしか目がクリアで怖い。
「シンちゃん知らないんだね……可哀想かな、かな……」
 レナが明日出荷に出される家畜を見るような目で、
「シン、危ないことはやめるのです」
 梨花ちゃんが子供を諭すような声で、
「シンちゃん、正気かい?」
 魅音が正気を疑っているような視線で、
「あなたのような都会のもやしっ子が私の超難解複雑孔明の罠だ! トラップを抜けられるとでもお思いで?」
 沙都子が獲物を前にして舌なめずりをするような仕草で、
「シン、やめておけ。入ったら二度と戻れないぞ」
 圭一が俺を制するように手で遮って言った。
 あんたら、小さい沙都子ちゃんのためにこんな……なんて優しいやつらなんだ!
 ようし、その男気に惚れた! やぁってやる!
「よーし、そこまで言われたらやらなきゃ男が廃るってもんだ! やってやるよ!」
 皆がキチ○イを見たときの表情――所謂通夜のような沈痛な面持ちになった。皆演技上手いなぁ? すごいすごい。

 結局、明日の日曜、裏山の頂上にある資材置き場のハンカチを取ってきさえすれば入部許可、ということになった。
 うーん。時間かけてきたほうが良いかな? それとも罠が激しくてとってこれなかった、が良いかな。
 沙都子ちゃんのためだから悩むなぁ……ん?
 歩きながら考え込んでいた俺は、診療所の前でなにやら話しこんでいる二人の男女を見つけた。
 一人はメイドの先生と、誰だろう……? 綺麗な女性だが……
 さっと物陰に隠れ、聞き耳を立てる。
「……ン君は、や……ベル3以上……の判断が良いですかね?」
「……も、身体能……は異常な……」
 レベル? 身体能力? 何のことだ……? 
「……か、信じろって言うんですか!? どう……も、精神……」
「冗……じゃ、これで」
「……はい」
 物騒な内容らしい。あのメイド先生がメイドの話題意外で声を荒げてるぐらいだからな……
「……っ!?」
 やべ、こっちに女の人が来た! こりゃあ退散だな……
 それ以上の情報の入手は無理と判断して、俺は帰路を走っていった。

 雲に隠れて月が見えない夜に、梨花は一人、いや二人でワインを飲んでいた。
「……足長おじさん……シンがこの雛身沢に初めて来た、前の世界ではいなかった存在……」
 その呟きに答える者は、居た。
『あうあう、シンが一体何者なのか、僕にもさっぱり分からないのです……ただ、足長おじさんの存在は……』
 羽入――巫女服姿の少女が、その呟きに答えた。
「シンがこの雛身沢に来たせいで私には予想のつかないことだらけよ。この入部だってそう……」
『梨花……余り……』
 羽入の消え入りそうな声を無視して梨花は続ける。
 この態度と反応にももう馴れているように見える。
「気になる……それにシンは一度惨劇を起こしたけどそれ以来……いえ、もう寝ましょう」
『……』
 羽入は答えない。俯き、沈黙を保っていた。
 窓を閉め、梨花は沙都子を起こさないように床に入る。 声はそれっきり、発せられなかった。辺りに静寂が戻る。
 木々が風に当てられ踊り、葉がこすれて歌う。平和な夜だ。
 まるで、何度も起きた、そしてこれからも起こる、総ての始まりを合図するような――そんな静けさだった。

入部(裏山)編 その2 に続く






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最終更新:2008年07月15日 17:50
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