――天空に紅い月が昇る時、闇の眷属エミュレイター達が人の世界へと侵入してくる。
彼らには、科学という「常識」で生み出された力は、一切通用しない。
闇に対抗しうる唯一の力、人々が遠き過去に忘れ去った「魔法」を駆使して戦う者達。
彼らの名は、夜闇の魔法使い「ナイトウィザード」――
エリス「(OP曲)空に浮かんだ~♪ 月のいざない~♪ 妖しくひ~か~る~♪ ……って、出番これだけなんですか!?」
ゴメンネー、君の出番は本編がすすまないとね。どう転ぶかわからないし。
-ナイトウィザード『流星変』-
柊蓮司、赤羽くれは、緋室灯の3人はアンゼロットの命を受け、行動していた。
その目的は「月匣(げっこう)に潜むエミュレイターを討ち果たす」こと。
月匣とは、エミュレイターが生み出した異空間。それはエミュレイターの狩り場であり、身を守る為の砦ででもある。
物理法則すら歪んだ魔の迷宮。其れに潜む敵を討てるのは、やはりウィザードだけなのだ。
月匣に突入し、数時間はたった頃だろうか。進む先の空間が歪み、3人は開けた場所に出た。
どこか草原の丘のような風景。紅い月が3人を見下ろしている。
「ハアッ、ハアッ、やっと中心部か?」
「外? 開けたところに出たね」
柊は肩で息をしている。見れば彼の制服は穴だらけで、焦げ跡まである。
ちなみに、くれはと灯の二人はピンピンとしている。
「もう柊、しっかりしてよ」
「ちょっと待て。ボロボロの俺を見て、他に言うことはないのか?」
くれはは気にした風もなく言う。
「落とし穴が3回、釣り天井にボムに魔導砲台にデスローラーまで……柊が罠にはまりすぎなのよ」
「……さすが、柊蓮司。見事な漢探知ね」
「ほめるな!」
灯が無感情な声で応じ、柊は思わず叫んだ。
「そういえば、アンゼロット様がもう一人、増援を送るって言ってたけど……」
「俺は初めて聞いたぞ。誰だそれは」
「詳しい事はわからないわ。アンゼロット様は教えてくれなかったし」
「ハア……どうせロクなことじゃないだろう。さっさとコアを捜そうぜ」
コアとは月匣を生み出す為に、必要な「モノ」のこと。コアを取り除くか、月匣の支配者(ルーラー)を倒せば、月匣は破壊される。
しかし……
「待って……誰かいる」
灯の強化人間の感覚が、魔の気配を捕らえる。
「……来たか」
各々、武器を構える3人。そして……涼やかな声が、彼らの耳に届く。
「いらっしゃい。ウィザード達。おめでとう、ここがこの月匣のゴールよ」
「お前は……」
「お久しぶりね、柊蓮司。まさか、あなた達が来るとはね」
紅い満月をバックに浮かび上がる小柄な少女のシルエット。柊達は知っている。
数多の魔王が存在する裏界においても、1、2を争う実力を持つ彼女の名は……
「魔王ベール=ゼファー!!」
「フフ、さあ、ゲームの始まりよ!」
地面に描かれた召喚陣から、姿を現すは巨大なキマイラ。
「GAAAAAAAAAAAA!!」
「……出たわね」
「どうやらそいつが「コア」のようだな……行くぜ!」
叫びとともに、魔剣を構え、柊は敵に向かい突進した。
……一方その頃。シンもまた、紅い世界にいた。具体的に言うと、アンゼロットの城から射出され、大気圏突入の真っ最中である。
アンゼロットがくれた(?)“大気圏突入用箒”の能力は、幸いなことに本物であり、シンは熱を感じるようなことはなかった。
が、しかし、口からでる叫びを止めることは、誰にもできないであろう。
「うわああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ……!!」
シンは堕ちて行く、紅い空間に向かって……
その頃、柊達は3人は苦戦していた。「常識」の世界では高校生にすぎないが、ウィザードとしては歴戦といってもいい彼らである。
いまさら、化け物にひるむようなことはない。が、魔王ベール=ゼファーの魔法による妨害は、厄介なこと極まりないのであった。
「でやあっっ」
柊が魔剣を横薙ぎに振るい、キマイラに斬りつける、が、浅い。
柊は、素早く間合いをとろうとする。そこへ、ベール=ゼファーは、魔法を打ち出す。
「そこね、《ヴォーティカル・ショット》!」
「!」
手のひらから生まれた黒い球体が、柊を襲う。かわしきれないと見えたが……。
「させない! 《ダークバリア》!」
くれはの破魔弓から呪符が飛ぶ。唱えたのは、敵の魔力を防ぐ魔法。これまた黒い球体が柊の前に現れ、
激しくベール=ゼファーの魔法と拮抗する。
……そして爆発。
「くそっ」
柊は転がり爆風から逃れる。
「……どいて」
灯が巨大な“射撃戦用箒”ガンナーズ・ブルームを構え、射撃する。
轟音とともに魔力弾が撃ち出され、キマイラに命中する。しかし、キマイラが動きを止める様子はない。
「GYAAAAAAAAA!」
「……しぶとい」
灯は身を翻し、キマイラが吐いた炎をかわした。
……闘いは続いている。3人は、ベール=ゼファーの魔法に押され、キマイラにうまく攻撃することができない。
しかも、キマイラを狙えば、魔法を放ち、離れれば追わないというやり方。明らかに手を抜いている。
「もう、息切れ? あなた達の力はこんなものではないでしょう?」
「馬鹿にすんな!」
「注意して……魔王はまだ十分に余力を残している」
「世界の崩壊をかけながら、遊びのつもり?」
ベール=ゼファーは妖艶に微笑む。
「せっかく仕掛けたゲームだもの。 すぐに終わっちゃつまらないでしょ。 世界を滅ぼすにしても、私が楽しめなくちゃ意味がないわ」
「相変わらず、悪趣味な……!」
3人に焦りと、疲労の表情が浮かんだその時。
「何か、来る……?」
灯は、また新たな気配を感じて、空に目をこらす。
「……鳥?」
「……UFO?」
「……いや、人だ! 落ちてくる……!」
「な、何よ? へ?」
ベール=ゼファーは3人に気をとられ、気付くのが遅れた。それが致命的であった。
ふと空を仰ぐと、人間……シンが落ちてきた。……魔王に向かって。
「……ぁぁぁあああああああああああ!!」
「え、わ、私のほうにぃ!?……って、きゃあああああああぁっ!?」
地を揺らす爆発が巻き起こり、シンと魔王の姿は土煙に消えた……。
シンが意識を取り戻すと、辺りは土煙に覆われていた。なんとか自分の体は無事のようだ。ウィザードの技術、おそるべし。
「ゴホッ、ゴホッ。た、助かったのか?
……ん?」
シンがなんとか体を起こそうとすると、体の下に柔らかな感触を感じた。
(し、しまった…!?)
どうやら自分の落下に人を巻き込んでしまったようだ。シンは、その人を押し倒したような体勢になっている。
幸いケガはない(!)ようだが、気絶しているのは……
(女の子……?)
シンが巻き込んでしまった少女は、美しかった。
ウェーブがかった銀の髪は、肩で揃えられている。肩を包むショールが、ある種のはかなさを連想させていた。
そして、控えめながらも、柔らかな感触が手のひらから伝わってくる。
(アレ?)
そこで、少女が目を覚まし、ふと二人の目が合う。そして、胸を鷲づかみにした手へ……。
「「あ」」
「うわあああぁぁぁぁっ!?」
「きゃああああぁぁぁっ!?」
一瞬で間合いを取る二人。
「彼が、アンゼロット様の言っていた……?」
「できるな……あいつ(いろんな意味で)」
「魔王の懐に潜りこむなんて……何者?」
少し呆然として、感想をもらす3人であった。
シンは混乱した思考を必至でまとめようとしていた。
(え~と、な、何が起こった? アンゼロットに飛ばされて地球におちて女の子に激突した、と。 よく生きているなオレどんだけ~
そういえば女の子は大丈夫なのかキレイな子だな……胸も柔らかかったステラやルナには負けるがって何考えている
落ち着けシンこんなときは素数を数えるんだ……じゃない! と、とりあえずあやまらなくちゃ……)
「あ、あの、ごめ……」
「……名は?」
「え?」
「あなたの名は?」
少女は笑顔を浮かべて、尋ねてきた。
「シン、シン・アスカ……」
「そう……シン、私の名はベール=ゼファー。 覚えてくれたかしら?」
笑顔でありながら、何かを押し殺したような彼女の声に、知らず気圧されるシン。
「……あ、ああ」
「ならば」
その刹那。ベール=ゼファーから爆風が巻き起こる! 風に押されながらもシンは、彼女の体から湧き上がる黒い奔流を見た。
魔法というものに縁がなかったシンでもわかる。少女は、人という存在を凌駕している。
その手に収束していく圧倒的な『力』、なにより怒りに輝く黄金の瞳がそれを物語っている……!
「魔王の名を魂に刻み、死・に・な・さ・い!」
ベール=ゼファーの手から放たれるは必殺の魔法!
「ま、まずい! くれは!」
「ダメ! 遠すぎる!」
「……く!」
咄嗟の動きも間に合わない。
「あ……」
黒い光に飲み込まれ、シンの意識はアッサリと途絶えた。
最終更新:2008年07月18日 16:58