今日は特に出撃もなかったシンは夕方から新人の訓練を見ることにしていた。
そして訓練が終わった新人達は皆意気消沈した感じで寮へと戻っていく。
シン「朝から夜までぶっ通しか……俺もアカデミーの頃はよくやったなぁ」
ザフトに入る数年前の事を思い出すシン。
シン「さて、それじゃ俺も戻るとするか」
なのは「シン」
ふと、背後から呼ばれたシンは振り返る。
シン「なんですか?」
なのは「ちょっと話があるんだけど……いいかな?」
シン「?」
翌日。
訓練を開始する新人達。
ヴィータ「さぁて、今日もビシバシ行くからな、スバル!」
スバル「はい!よろしくお願いします!」
フェイト「さて、それじゃライトニングはこっちで昨日の復習だね」
エリオ&キャロ「はい!!」
なのは「さて、ティアナ」
ティアナ「はい!」
なのは「今日はクロスミラージュのモード2の訓練だけど……今日は特別講師を呼んでるから」
ティアナ「特別講師……ですか?」
なのは「うん。多分もうすぐ来る筈……あ、来た来た」
そしてなのはの視線の先を追うと、自分達と同じ訓練服に身を包んだ青年がこっちに向かって走ってくる。
ティアナ「シ、シン!?」
その走ってくる黒髪の紅い瞳の青年は自分もよく知る人間、シン・アスカであった。
シン「おはようございます、なのは隊長」
走ってきたにも関わら全然息切れもしていないシンは普通に挨拶をする。
なのは「うん、おはよう」
ティアナ「あ、あの……なのはさん?」
なのは「ん?何?」
ティアナ「特別講師って……もしかして」
なのは「うん、シンだよ」
ティアナ「…………え?」
シン「昨日、なのは隊長に……」
時刻は遡って、昨日の夜。
なのは「シン、確かナイフの扱いが得意だって言ってたよね?」
シン「ナイフですか?……ええまあ」
アカデミーのナイフ技術の成績はレイよりも上の一番だった。
よって、下手な素人よりも全然扱いに長けている。
なのは「それで、明日から訓練に加わって欲しいんだけど……」
シン「俺がですか?でも俺魔法なんて使えませんよ?」
C.E.から来たシンにはリンカーコアのカケラもないので、魔法の素質など皆無である。
なのは「ううん、やって欲しいのは魔法じゃなくて……」
なのは「ティアナのクロスミラージュのモード2の接近戦用にって事で」
シン「……俺が選ばれたそうだ」
ティアナ「…………」
信じられないといった表情で二人を交互に見つめるティアナ。
そしてようやく言葉を発する。
ティアナ「で、でもシンは魔法なんて使えませんよ!」
なのは「それなら大丈夫」
なのはの言葉の後に懐から一本のナイフを取り出すシン。
なのは「今シンに渡してあるのはゴム製のナイフだから怪我をする事はないけど……
ちゃんと刃の部分には防御魔法が常に展開しているからクロスミラージュの魔力刃も受け止められるよ」
シン「だから、魔力を持たない俺でも接近戦の相手にはなるって事だ」
なのは「ティアナ、クロスミラージュをモード2にして」
ティアナ「……モード2」
納得いかないといった表情でコールし、クロスミラージュからオレンジ色の魔力刃が形成される。
なのは「それじゃまず模擬戦でもしてみようか」
その言葉に驚きの表情を浮かべるティアナ。
今日ばかりはなのはの行動の意味がよく分からない。
なのは「シン」
シン「なんですか?」
なのは「手は抜かなくていいからね」
シン「……いいんですか?」
なのは「もちろん」
シン「……わかりましたよ」
ナイフを逆手に持ち、腰を低く構えるシン。
なのは「勝敗条件は簡単、相手に参ったと言わせばそれでOK」
向き合う両者、沈黙する空間。
なのは「それじゃ…レディ、ゴー!!」
勝敗はすぐに決した。
踏みこんだシンはティアナの両手を弾き、ナイフを喉元へと突きつける。
反応が遅れたとかそういうレベルではなかった。
ティアナが負けた最大の原因。
それはシンの実力を見くびりすぎていた。ということ。
最初の一回からは認識を改めて挑んだ。
けれど、それでも結果は変わらなかった。
何度やってもシンには勝てなかった。
なのは「はい、それじゃ今日はここまで!」
疲労の表情を浮かべながら新人達は寮へと戻っていく。
なのは「シンも、今日はお疲れ様」
シン「別にこれくらいは構いませんよ。でも……」
なのは「?」
シン「いや、何もないです。じゃ、お疲れ様でした」
そしてシンも寮へと戻っていった。
夜。
寮の裏手に走る橙色の光。
ティアナはクロスミラージュのモード2の特訓を密かに特訓していた。
ティアナ「はぁ、はぁ、はぁ……」
体が重い。それでもへこたれるわけにはいかない。
今日の訓練で思い知らされた。自分がいかに接近戦に弱いか、を。
がむしゃらにクロスミラージュを振る。そして何回か振っていると、
ティアナ「あっ!?」
握っていた手が滑って左手のクロスミラージュが空中を舞い、地面を滑る。
そして、止まったそのクロスミラージュを拾う人影。
そしてその人影はこっちに歩いてきて、影が段々と月明かりを帯びてその影が消えていく。
ティアナ「シ、シン!?」
シン「……やっぱり」
シン「ほら」
ヒュッと自販機で買った缶コーヒーを投げるシン。
それを受け止めるティアナ。
ティアナ「あ、ありがと」
熱を帯びた手に冷たい缶の感触が伝わる。
シンはティアナが腰掛けてるベンチの横へと座る。
シン「それ飲んだらもう寮に戻って寝ろよ」
カシュッと缶のプルトップを開けて口をつける二人。
ティアナ「……なんでわかったの」
コトと二人の間に缶を置くティアナ。
シン「……俺もそうだったからな」
ティアナ「え?」
シン「俺もさ、アカデミーに入った頃のナイフ訓練でさ、教官にボコボコにされたんだ」
ティアナ「……」
シン「それで、夜コッソリと一人で特訓してたんだ。だからティアナももしかしたらって思ってさ」
コトと二人の間に缶を置くシン。
ティアナ「……シンは」
シン「ん?」
ティアナ「どうして、軍に入ったの?」
シン「……力が欲しかったから、かな」
ティアナ「力……」
シン「そういうティアナはどうなんだよ」
ティアナ「……私は」
そしてティアナは話をする。
自分の兄、ティーダ・ランスターの事を……。
ティアナ「だから私は……」
強くなりたい。強くなって、証明しなければならない。
シン「……お前が力を求める理由ってのは分かったけど、でもさ」
ティアナ「?」
シン「お前の兄さんは……お前にそうしてまで証明して欲しいって思わないんじゃないか?」
ティアナ「……え?」
シンの口から出た以外な言葉に驚愕するティアナ。
シン「お前の兄さんは、きっと自分の証明よりもお前の心配をすると思うぜ」
その言葉に自分の思いを否定されたような感覚を覚え、頭に血が上る。
ティアナ「な、なんでアンタにそんなことがわかるのよ!!」
シン「…………俺も、お兄ちゃんだったからな」
ティアナ「え?」
"だった"?
ティアナ「それって……どういう」
シン「……俺が軍に入った理由、それは……」
シンの口から語られる過去。
両親と妹の死、守ってくれなかった故郷、守れなかった無力な自分。
それが嫌で、力が欲しくて、ザフトに入った。
シン「もし、あの時マユが、妹が生きていて俺と同じように軍に入るって言ってたら……俺は反対する」
ティアナ「どうして?」
シン「軍に入るって事は、戦場に出るって事だ。つまり、死と隣り合わせのリスクを背負わなきゃいけない。そんなの、俺は絶対に嫌だ!」
誰かを失う痛みを、悲しみを知っているシンの気持ちが痛いほど伝わってくる。
シン「だからさ、誰かの為に頑張る事は否定しないけど、そういうのはやめておけ。きっと、死んだお前の兄さんはお前にそんなことは望んで
ないはずだ」
ティアナ「……じゃあ、アタシはどうしたらいいのよ」
知ったような口ぶりだが、説得力のあるシンの言葉に、ふと涙が零れ落ちる。
シン「ティアナ……」
ティアナ「アタシは!お兄ちゃんの汚名を晴らす為に……!!今まで頑張ってきたのに……」
下を向き、とめどなく流れてくる涙。
そしてベンチから立ち上がるシン。
数歩歩いてティアナの前に立ち、しゃがむ。
シン「俺はお前の兄さんじゃないけど……これだけは言える」
ティアナ「?」
シン「お前は、お前の為に強くなればいい。お前の夢の為に、頑張ればいいんだ。他の誰でもない、お前自身の為に……」
それは言えなかった言葉。今はもういない、妹へと向けるはずの言葉。
涙のせいか、目の前の景色が霞んで見え、シンの姿は一瞬兄と被って見えた。
ティアナ「おに……いちゃん……」
突発的に動く体。ティアナは目の前のシンを抱き締めていた。
シン「お、おい……!!ティ」
ティアナ「うわあああああああ…………!!!!」
泣きじゃくるティアナ。溜まっていた感情が溢れ出す。
シン「…………」
シンは黙ってそのまま泣かせてあげることにした。
数分後。
シン「……落ち着いたか?」
ティアナ「……ごめん」
シン「ならいいんだけどさ……」
ティアナ「?」
言葉に詰まりがありハキハキしないシン。
シン「そろそろ離れてくれない……?」
ティアナ「!?!?!?!?!?」
意味を理解したティアナは即座にシンから離れる。
ティアナ「ごごごごごごごめん!!!」
シン「……少しはスッキリしたか?」
ティアナ「え?」
さっきまでモヤモヤしていた気持ちが雨上がりの空のように晴れていく。
ティアナ「……した」
シン「そっか。ならよかった」
そういい、隣に置いてある缶コーヒーを取り、一気に飲み干す。
ヒュッと投げられた缶は弧を描きゴミ箱へと入る。
シン「んじゃ、俺はそろそろ戻るよ」
ベンチから立ち上がり、歩き始めるシン。
ティアナ「あ……」
なぜそんな声を出したのか、ティアナ自身も分からなかったが、その言葉に反応するシン。
シン「大丈夫だって、今日の事は誰にも言わないから」
ヒラヒラと手を振りながらまた歩き始めるシン。
違う。自分の聞きたい台詞はそんなことじゃない。
ティアナ「シ、シン……」
思わず名前を呼ぶ。
シン「ん?」
ティアナ「……ううん、何でもない。おやすみ」
シン「?変な奴だな…まぁいいや、おやすみ」
そして今度は呼び止める事なくシンは六課の寮へと入っていく。
ティアナ「……シン・アスカ……か」
ティアナの中でシンに対する何かが変わり始めていた。
それが何なのか。それはまだ今の彼女にはわからない。
そして自分も缶コーヒーを持って飲む。そこで何か違和感を感じたが、まぁ気にしないでいた。
ティアナ(……そういえばコーヒーの中身ってこんなに少なかったっけ……?)
さっき飲んだ時は一口飲んだだけなのでほとんど残っているはずなのに、中身は半分ほどしかなかった。
ティアナ「…………これって、まさか」
そう彼女の飲んでいたのは、紛れもなく先程まで、シン・アスカが飲んでいたものだった。
ティアナ「!!!!!!!!」
一瞬にしてゆでダコのように赤くなる顔。
どうやらシンは自分のとティアナのを間違えて飲んでしまったようだ。
(しかも本人はそれに気付くことなく飲み干している始末)
ティアナ(シシシシシシシシンとかかかかかかかかんせつキキキキキキスススススス)
どうやら彼女の頭はありえなく混乱しているようだ。
そしてどうにか寮へと戻ったティアナはその事が気になり今晩は寝れずにいたそうな。
翌朝。
なのは「さて、今日も元気にいこうかって……どうしたのティア?」
見ると目の下に鮮やかなクマが出来上がっていたティアナ。
ティアナ「いえ……ちょっと寝不足なだけで……」
スバル「そういえばティア、昨日何ブツブツ言ってたの?念仏みたいに言ってたけど……」
ティアナ「なんでもないわよ……」
なのは「?まぁ大丈夫ならいいけど、無理はしちゃダメだよ」
ティアナ「はい……」
そして走ってくる一人の影。
シン「おはようございまーす」
ティアナ「!!!!!!!!」
寝不足の元凶、降臨。
なのは「おはよう、シン」
スバル「おはよう~」
エリオ&キャロ「おはようございます、シンさん」
シン「ああ、おはようって、うわ何だよティアナその目!」
ティアナ(あんたのせいでこうなったんでしょうが……)
ギロリと視線をシンに向ける。その眼力に圧倒されるシン。
シン(こ、怖ぇ~ま、まさか昨日の事まだ怒ってるのか……)
そ~っとティアナに近付き耳打ちする。
シン「まだ昨日の事怒ってるのか?大丈夫だって誰にも言ってないし、俺も気にしてないから」
プツン。
シン「え?」
今何か切れたようなサウンドが聞こえた。
ガッ!!といきなり胸倉を掴まれるシン。
シン「へ!?」
みるとそこにはわなわな震えているティアナがいた。
ティアナ「…………」
そこでシンは悟った。
まずい、この状況は非常にまずい。
だが、時はシンには味方しなかった。
ティアナ「……なんで」
シン「え?」
ティアナ「なんでアンタの事でアタシが一日中ずーっと考えなきゃならないのよぉっ!!」
シン「え?え?え?」
いきなりなにが起こったのか。展開についていけないその場の人達。
ティアナ「しかも『俺は気にしてないから』ですってぇっ!!?大体アンタのせいでしょーがぁっ!!!」
突然怒り始めたティアナを見て唖然とするフォワードメンバー。
怒りの矛先であるシンはティアナの言っている意味が分からず困惑していた。
そして、
ティアナ「アンタが間違えたから、アタシがずーっとキスの事で悩んでるんじゃないのよぉぉぉぉぉっ!!!!」
核は投下された。
全員「…………え?えええええええええええっ!!!!!」
スバル「え?え?どういうこと?どういうこと?」
エリオ「シ、シンさんと……」
キャロ「ティアナさんが……」
なのは「二人とも……」
ヴィータ「そういう仲だったのか」
そしてティアナはようやく脳内が落ち着いてきたのか、自分の発言を脳内リピート再生する。
ティアナ「あ、あ、あ、あ、あ…………」
ようやく自分の発言の意味を理解し、顔を真っ赤にして、
ティアナ「バカァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!」
バキイッ!!と目の前のシンの顔面に拳を見舞った。
シン「な、なんで……?」
やはり当の本人は理解できなかった。
あれから事情説明をして(いくつかはぐらかして)
なんとかみんなに理解してもらった(納得していない人もいるみたいだったけど)
そして気を取り直して訓練の開始。
シン「……」
ティアナ「……」
シン「……」
ティアナ「……ぷっ」
シン「笑うなぁっ!!お前のせいでこんな顔になったんだろうがぁっ!!」
目の前に対峙する青年の左頬には赤い痕が残っている。
ティアナ「だからそれは何度もごめんって言ってるじゃない」
シン「だったら笑うな……」
なのは「はいはい、それくらいにして。それじゃ構えて」
お互い、目の前の相手を見据える。
シン「今日も手加減しなくていいんですか?」
なのは「もちろん」
シン「OK……それじゃ、行くぞティアナ」
ティアナ「ティア」
シン「え?」
ティアナ「ティアでいいわよ」
シン「え?あ、ああ……わかった」
よく分からなかったが、まぁティアナがそういえっていうんならそれでいいか。と思い、あまり気に留めないシン。
シン「行くぞ!ティア!!」
ティア「今日こそ勝ってみせる!!」
ティア(見てて、お兄ちゃん……私は私なりに頑張るから……)
アスカ家の兄とランスター家の妹・完
最終更新:2008年08月08日 00:06