「…………ここ、は?」
墜落するディスティニーのコクピットで伸ばした腕は、空しく中を掴んだまま。どういうわけか俺はディスプレイ越しに青空を見ていた。
宙を焼くビームの閃光も、爆炎を吐く戦艦も、全てが静かな青に塗りつぶされている。まるで、何かを許すように。
息が漏れた。
「…………アスランは? レイは? キラ・ヤマトは? あの、戦いは?」
何がなんだか訳が解らない。疑問符だけが頭の中に渦巻いていく。応えてくれる者は誰もいない。
ここはどこだ。あの時気を失ってプラントの中にでも運び込まれたのか。それとも――――
這い寄る恐怖から眼を逸らしたくて俺は機械的に機器のチェックをしていく。
フレームはガタガタ。そもそも片腕がない。センサー類は生きてはいるが、まず大破と言っていい。
「くそっ、一体何が――――」
外部の集音マイクが反応する。…………人の声?
《なんだこりゃあ? ヒュッケバイン系に似てるが……》
《所長ー、うかつに近寄っちゃ危ないですってばー》
《しかしこりゃひどいな。墜落したにしても、上空で戦闘があったなんて反応はなかったぞ?》
《所長、まずパイロットの確認を》
《おお、すまんすまん。おうーい、パイロット生きてるかー? 生きてるなら所属を――――》
「あ。は、はいっ」
慌てて俺も外部スピーカーをオン。人がいる。ちゃんと話が通じそうな人がいる。そのことに自分でも驚くほど安堵を憶えながら俺は応えた
「俺はザフト、ミネルバ隊の――――」
それがもっと大きな混乱を生むなんて、思いもしなかった。
少年の言葉は届かない。人々はザフトなど知らないと言う。ミネルバ隊などないと言う。どこか決定的な齟齬を感じながらも、彼は少女たちと出会う。
「くそっ、いったい何だってんだ。《ショックによる記憶の混乱》? ふざけるなよ!」
テスラ・ライヒ研という(当然俺の知らない)基地の中庭で俺は寝転がっていた。ここでは常識が通じない。コーディネーターすら知らないと言う。
俺の頭がおかしくなったのか、それとも、世界そのものが――――おかしく、なったのか。
ぎりぎりという自分自身の歯噛みを聞いていると、俺に二人ぶんの影がさした。
「あの、あなたがシン・アスカさん?」
「…………あ、ああ。そうだけど」
オレンジ色の髪の、子犬みたいな目をした女が、俺のことを覗く。その後ろの長い黒髪の女がやれやれと呟く。
「あたしはアイビス。アイビス・ダグラス。ね、あなた宇宙から来たんでしょ? あのディスティニーってパーソナルトルーパー、完璧に宇宙用
に調整されてたって聞いたんだ」
戸惑っているこっちの様子など眼に入らないような勢いでそこまで言うと、アイビスっていう女はきらきらとした笑顔でこう言った。
「ね、宇宙の話、聞かせてよ!」
呆気にとられた俺の肩を、同情するように黒髪の女が軽く叩く。
「私はスレイ・プリスティ。――――すまないが、しばらくこいつに付き合ってやってくれ」
夢があるという。その少女には夢があると。いつか、この空を越えて――――
「いつか、この空を越えて宇宙に行くんだ。地球圏の外。太陽系の外。この銀河の外。…………ううん、そこよりももっと、ずっと遠くへ」
まだまだ落ちこぼれだけどね、と空を見上げたままアイビスは照れたようにそう言った。
「お前はいつも宇宙、宇宙だな」
スレイが呆れたように肩を竦める。
「――――そんなにいいもんじゃないけどな、宇宙ってのは」
ぼやいた俺にくるりと振り向くと、アイビスはにこりとした。
「いいよ。じゃあ、《そんなにいいもんじゃない》話も聞かせてよ」
その笑顔が眩しくて眼を細めた。そして、こいつは空気のかわりに夢を吸ってるんだな、と俺は思い、少しだけ笑った。
あとから思い出すに、それは《ここ》に来て始めて浮かべた笑みだったかもしれない。
戦禍はやってくる。突然に。平和を削り飛ばしながら。――――彼の故郷のように。
「リオンシリーズ!? た、大量です! 第二防衛ラインまで突破されました!!」
「――――カザハラ所長。俺のディスティニーは出られますか」
「…………出るつもりかい、君は。《関係ない》んだろう?」
ああ、確かに関係ない。俺には関係ない。それが《ここ》に来てからの俺の口癖。
ああ、確かに関係ない。だけど、俺はここに拾われた。でなければ、もしかするとあっという間に野垂れ死んでいたかもしれない。
ああ、確かに関係ない。だけど、俺はここで出会った。世界の厳しさを知っているくせに、何も知らない子供みたいな顔で夢を語るやつに出会った。
ああ、確かに関係ない。だけど、俺はここで出会った。兄のために、そして自分自身の誇りのためにナンバー01を守り抜く強い女に出会った。
「ああ、確かに関係ない。だけど――――名誉と恩は知っている」
カザハラ所長はにやりと笑うと親指を立てた。
「オーケイだ。ただ、ノウハウもなしに君の機体をあのまま直す訳にはいかなくてね。《ちょっとばかり》弄らせてもらったよ」
そして彼は新たな剣を手にする。《運命》を受け継ぐ剣。その銘(な)も、超闘士――――
“大破した君の機体からデータを取ってテスト用の《超闘士》に反映させてある。使えそうなパーツも無理矢理組み込んでみたし、コクピットブロックはそのまま全移植さ。使用感はあまり変わらない筈だ”
BOOT UP OK
“そうだな。コードも今決めておこうか。…………うん、君の名をとって――――”
STAND BY ALL GREEN
超闘士、発進よろし。どうぞ。
「――――シン・アスカ! グルンガスト《真式》、出るぞ!!」
たったひとり。だが、背中には守りたいもの。守るべきものがある。
《シン! 一人でなんて無茶だよ!? 模擬戦用のリオンなら直ぐ出せる。あたしとスレイもそれで》
「――――アイビス、家族はいるか?」
《え!? あ、うん……》
「家族がいるやつは、死んじゃダメだ」
《いきなり何を言って《アイビスどけっ、私が話す!》わわっ、スレイ!》
《シン・アスカ、いいから戻って来い。お前はただの客員だろう? 私が出るから》
「武装は基本的に音声入力か……。何考えてんだ? カザハラ所長」
《聞いているのかシン!》
「…………スレイ。お前たちのプロジェクトは何だ」
《? 外宇宙探索だが》
「――――じゃあ軍人にまかせとけよ! 以上、通信終わり!」
伊達に俺だってザフトの赤服を纏っていたわけじゃない。
久しく忘れていた緊張感。戦場の匂い。耳を貫く轟音。眼を焼く閃光。その全てが、俺に《おかえり》と言っていた。
突っ込んできた莫迦に拳を打ちつける。鋼鉄のぶつかり合う音。装甲を砕く感触に、俺は錯覚だというのに身震いした。
「ブースト――――」
そして、拳を振りぬく。
「――――ナッコォ!!」
零距離。欠片も残さない。
「彼をヒリュウ改へ? 確かに初めての機体であそこまでの戦果はちょっとばかり異常だが…………」
――――。――――――――。
「ふむ。まあ、彼の身分は確かなものではないし、かといって遊ばせておくには惜しすぎる、か」
――――――――、――――?
「ま、あそこはハガネと並んで問題児の巣窟だからな。いいだろう、話だけは持ちかけてみるよ」
新たな生活の場。少しずつ少年はこの世界を受け入れていく。そして新たな、出会い
「レフィーナ艦長。逃げ遅れた子供がいる。最短でこのポイントに――――」
《え……!? このルートでは敵陣を中央突破しなければならないではないですか!》
「そんなことわかってる!」
《いいえ、わかってません! まず他の機をいったん集めて――――》
「《子供》だって言ってるだろうが! もういい、俺は行く!!」
ウイングガストに変形。前面に螺旋状のフィールドを構築させたままフルブースト。敵弾は弾き飛ばし、さえぎる物は全て貫く――――
「スパイラルアタック! いけぇ!!」
《ああん、もうっ。ちょっと横柄だけどやっと普通の人が来てくれたと思ったのに――――!!》
「――――君、もう大丈夫だ。自分の名前、言えるかい?」
「い、イルイ。わたしは、イルイ」
「イルイ、か。俺はシン。ちょっと狭っ苦しいけど我慢してくれよ。俺が、何があっても守ってやるから」
「…………う、うん。お願いします、シンさん」
「はは。シンでいいさ」
再会と、ささやかな休息と、ちいさな火種。
「シン!」
「シン・アスカ!」
「アイビスにスレイ!? どうしてここに」
「うん。あたしたちもアステリオンとベガリオンが完成したから」
「いや、そういうんじゃなくて。あんたら、軍属じゃないんだろ」
「エースがぐだぐだ言うな。戦力は多いほうがいいだろう、《軍人》さん?」
「スレイまで……」
「――――ねえ、シン」
「ん? どうしたイルイ」
「この人たち、だあれ?」
「…………私も聞かせてもらいたいな、シン。さっきからお前の制服の裾を握っているこの子供は、《何》だ?」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ !!
「シン……あ、あたし、なんか怖い」
「諦めろアイビス。俺も怖い」
戦い、傷つき、それでも前へ。待っているのは、残酷な現実。
《ワタシはガンエデン。神の巫女……》
「イルイを、イルイをどうしやがった、あんたっ!」
《あの子はワタシ。ワタシの端末》
呼吸が覚束ない。バラルの園の中心に鎮座するソレは、確かにさっきまでイルイだった。ちいさな女の子のはずだった。
「イルイの記憶喪失ってのは、嘘だったのか……?」
《いいえ。彼女は何も知らない無垢な少女。その純粋な眼で、世界を測定する》
「測定、だと?」
《ええ、測定です。そしてワタシは判断した。アナタ達はまだ弱い。守るべき存在だと」
――――こいつはけして《悪》じゃない。今まで俺たちが切り捨ててきた奴らとは違う。
そこにあるのは慈悲。暴力的なまでの慈愛と庇護。
《すこし狭苦しいかもしれないけれど我慢してくださいね。ワタシが、何があっても守ってあげますから」
同じ言葉を、あの子供に告げたのは誰だったか。
指が震えた。こいつは、俺と同じだ。ただ守りたいものがあるだけなのだ。
ギアから、指が離れかける。
《――――ふざけないで! あたしは、あたしたちは外宇宙へ行くんだ! 地球なんて揺り篭で眠っている暇なんてないんだ!!》
「…………アイビス」
《その通りだな。循環しない水はただ淀むだけだ。宇宙に何があるか解らない時代だったら良かったのかもしれない。しかし私たちは知ってしまった、外の世界を。もう、歩き出せるはずだ》
「…………スレイ」
《全砲門開け。これよりグルンガストの直援に入る!!》
「…………艦長」
《困った人たち。仕方ありませんね、まず眠らせるのは、アナタたちにしましょうか》
「――――黙れ、ガンエデン……!!」
《シン?》
操縦桿を握り締める。弓引くように、一直線に引き絞る。
大切なものを守るだけの力がほしかった。そして確かにそれを手に入れたはずだった。それなのに、一番守りたかったものは帰ってこない。
もう二度と帰ってこない。
運命なんてクソくらえだ。もしも運命というものがあるのなら、あの時流した涙も、あの時零した嗚咽も、あの時吼えた赤い空も。全てが、避け得ない必然になってしまう。
運命なんてクソくらえだ。だけど、もしも、運命というものがあるのなら――――俺が《ここ》にやって来たことが運命なのだとしたら――――!!
ああ、お願いだ。運命よ。マユを、ステラを、見殺しにした俺の運命よ。せめて、せめてあの少女達の夢だけは。
――――運命よ。俺にあいつらを守らせろ。
「俺にだって、守りたい世界があるんだあぁぁぁぁぁっッ!!」
吼えると同時、世界が一変した。《向こう》での戦いで、何度か受けた感覚。あらゆる五感が研ぎ澄まされる。ゆっくりとたゆたう海の中を泳ぐような錯覚。
全てが遅い。いや、俺が疾いのか。
今こそ世界は 君だけ 待ち続けて
「天に二つの凶つ星……!!」
機体の拳を掲げる。ばちりと中空に帯電する一振りの剣。
最悪の運命を司る轟剣をしっかりと握り締める。最悪がどうした。それは眼前の敵にのみ叩き込められるものだ。
辛苦の時代を 君が描く 愛に満ちた日々へ
「その名も計都羅睺剣!!」
ガンエデン。俺の、俺たちのイルイを返してもらう。
ヒトはただ守られるだけの弱い存在じゃない。全てが弱いものじゃない。
弱いヒトを守るのは、俺たちのような、ちょっとだけ強い、同じヒトであるべきだ――――!!
Stop the WAR!!
「ゆくぞガンエデン! この運命(ディスティニー)からは、たとえ神でも逃さない…………ッ!!」
フルブースト。リミッターオールカット。超闘士の由来を教えてやる。天まで射抜けと機体を加速させる。そして、限界点まで上り詰めたあと。
「計都羅睺剣! 暗! 剣!! 殺!!!」
一気に上部スラスターを解放。ブラックアウトしそうなほどのGに、奥歯が割れるほど噛み締めて耐えながら、全重量と加速の一切を乗せた斬撃を叩き込む!
「――――――――斬ッッッ!!!!」
おまけ
「――――ねえ、シン」
「ん? どうしたイルイ」
「この人たち、だあれ?」
「…………私も聞かせてもらいたいな、シン。さっきからお前の制服の裾を握っているこの子供は、《何》だ?」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ !!
「シン……あ、あたし、なんか怖い」
「諦めろアイビス。俺も怖い」
このあたりに女難を感じたが……
ヴィヴィオ「………(シンの左側の腕をつかむ)」
イルイ「………(シンの右側の腕をつかむ)」
マユ「………(シンの正面からしがみつく)」
3人「「「(お兄ちゃんは渡さない……)」」」
シン「俺の意見は?(´・ω・`)」
シン(それにあそこの人々は………)
クロスしてきた女性陣達(-_-#)ピキピキ
シン/(^o^)\オワタ
最終更新:2008年09月23日 19:35