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「――やあ諸君! ごきげんよう!!」

 昼食をとる隊員達で賑わう機動六課の食堂に、男が一人悠々とした足取りで入ってくる。
 名前をジェイル・スカリエッティ。
 彼は一応六課から追われる立場なのだが……度重なる奇行が原因でそれを最近忘れられかけている節がある。
 なので珍しく集合していたシン+新人ズ+隊長三人も食事の手を止め、『うわまた来たよ』と眉根をひそめる程度だ。
 唯一デスティニーだけはガン無視で猛然と食事を続けているが。
「何しに来たんだよ? つうか真正面から堂々と入ってくるな」
「実は前々から制作していたものがついに完成してね」
 ああこの世界って何でこうも人の話を聞かないやつが多いのかなーとシンは思う。
 そんなシンをガン無視し、スカリエッティはどっから取り出したといわんばかりの大型モニタをデンとテーブルに置く。
 それからこれもどっから出したんだといわんばかりに各種ケーブルをそのモニタに接続していく。
「名付けて! 平行世界観測機!!」
 パンパカパーンという酷く安っぽい効果音と共に周囲に紙ふぶきが舞う。
 恐らくセイン辺りがこっそり撒いているのだろう。

「……で? 何なんだよそれは」
「よくぞ聞いてくれた!」
 シンの質問に対し、スカリエッティが吼える。
 無駄に熱くてうるさい事この上ない。
「『if』というものがあるだろう。もしあの時こうしていれば、こうなっていれば今と違う結果になったのでは?
この装置は何と設定した条件に近い『if』の世界を映し出すことを可能とした装置なのだ!!」
 拳を突き上げて朗々と語るスカリエッティ。
「……つまり平行世界って事か」
「ちょっと面白そう、かも」
 既に女性陣は興味を失ったらしく、食事と談笑に戻っている。
 だがシンとエリオは興味を引かれたのかスカリエッティの持ち込んだモニタへ向かっていた。
 スバルも微妙に興味ありそうだったが、ティアナに耳を引っ張られて止められている。
「駄目だよエリオ。馬鹿が移っちゃうから」
 保護者同然のフェイトが注意を促すが、エリオもそこは年頃の男の子なのか、好奇心が勝るようだ。
 シンとエリオは共にモニタとそれに取り付けられたボタン類をつつくも反応がない。
「どうやって使うんだ、コレ?」
「まずは条件を設定する必要がある。『if』の数はそれこそ無限だからね。
最低でも複数の『人物名』と『状況』が必要だ……まあまずはやってみせようか」
 スカリエッティがモニタ下部に取り付けられたコンソールを操作する。
 表示されたのは『シン・アスカ』と『八神はやて』。
「俺と部隊長?」
「人選は適当だよ。後は条件が要るのだが……何がいいかね?」

「あ、じゃあ『恋人』とかどうですか?」
「ぶっ――何言ってんだエリオ!?」
「いや……普段の様子からもし成立しちゃったらどうなるのかって興味が……」
「何でもいいからはよ表示し」
「「何時の間にッ!?」」
 シンがエリオに詰め寄ると同時、モニタのゼロ距離正面に居座っていたはやてが恐ろしく低い声で告げた。
「どうせ観測不能になるに決まってるの」
「ですよねー」
「まあそれが妥当かな」
「でも本当に映ったら面白いかも!」
 なのは、ティアナ、フェイト、スバルもモニタ前に集合していた。
 さっきまでの無関心ぶりが嘘のようである。
「ふむ……面白そうだからそれでいってみるとしよう。では観測開始、と」
「面白そうで争いの火種を蒔くなぁ――!!」
 慌ててシンが止めようとするも時すでに遅し。
 スカリエッティがポチッとスイッチを押した。


case1.『シン・アスカと八神はやての場合』


「――ただいま」
「あ、お帰り~。はやかったね?」
 ドアを開け、部屋へと入ってきたシンをはやてが満面の笑みで出迎えた。
 はやては即座に椅子から立ち、スリッパをパタパタと鳴らしながらシンに駆け寄る。
「ああ。思ったよりも仕事が速く片付いてさ……でもはやて。遅くなるって言ってなかったっけ?」
「私の方も予定よりずっと速く仕事が終ってん」
 シンが脱いだ制服と鞄を受け取りながら、はやてが言う。
「ひさしぶりに時間があったから今日の晩御飯はがんばってみました」
 えへへとはやてがテーブルを指す。テーブルには湯気を立てる無数の料理が並んでいる。
 数もそうだが、どれも手の込んだものばかりだ。
「凄いな……! でも大変だったんじゃないか? 待っててくれれば手伝ったのに」
「…………」
 はやては返事をせず、軽く俯いたまま服の端を指先で弄ぶ。
 シンは怪訝そうな顔で見ていると、はやてがぽつぽつと呟き出した。
「……そりゃ最近シンは料理上手くなってきて……私も普段は忙しいから……助かるけど……こういう時くらい……」
 赤くなった顔を隠すように、はやてがより一層深く俯いた。
「こう……女の子らしいと、いうか……こ、こ恋人らしい事しとかんと……シンに……愛想……つかされるかもしれんし……」
「はやて」
 肩に置かれたシンの手に、はやてがびくりと震える。
 俯いたままの真っ赤なはやての顔をシンはついと持ち上げ、そのまま――――


「「「「「アウトォォォォ――――!!!!!!!!」」」」」

 アロンダイトと金色の長剣によるX斬りでモニタを両断し、跳ね上げ、雷の長槍が下部の入力装置を粉微塵に粉砕する。
 宙に舞ったモニタには極太の桜色の閃光が突き刺さり、難を逃れた僅かな破片すらも飛び交うクロスファイヤーが蹂躙する。

 ――後に犯罪者達から恐れられる『六課デストロイコンビネーション・タイプA』誕生の瞬間であった。

「あ、危なかった……後一瞬でも遅れてたら…………ッ!!」
 青ざめた顔でぶるぶると震えながら搾り出したように呟くシン。
 他の面子も似たような感じである。
 ちなみに本来なら破壊を阻止する立場であるはやてはというと、鼻血で床を赤く染め上げてぶっ倒れていた。
 傍らには『いつか必ず』という犯行予告と思しき血文字が描かれている。
「全く何も壊さなくてもスイッチを切ればいいだけだろうに……モニタのスペアにも限りがあるのだよ?」
「あるのかよ!!」
「あるともさ。そもそも此処に持ってきたのは装置のほんの一部分。
これはラボにある本体からの情報を受け取る端末でしかないのだよ」
 そう言いつつ新たなモニタをテーブル上に設置するスカリエッティ。
 ――瞬間、入力される『シン・アスカ』の文字。
 そして、物凄い勢いで変換され続ける二人目の部分。

「駄目だよフェイトちゃん。ここは譲れない。
何故か付いて回る魔王やら冥王やらの不名誉なあだ名を挽回するチャンスなの……!!」
「私も譲れないよ。便乗的な意味でも。たまにはメインに据わりたいという意味でも……!!」
「凡人の底意地を甘く見ないで下さいね……!!」
 押し合いながらもガチガチガチとコンソールをぶっ叩く三人。
 しばらくしてラチが開かないと判断したのか、各々デバイスを構えて向き合い――撃ち合いを始めた。
 余談だが一般隊員たちはとっくの昔に食堂から退避しているので、被害は食堂の備品のみである。
「……何やってるんだ? スバル?」
 輪に加わらず黙々と何かを書いているスバルに気づいたシンが声をかける。
 スバルの手元にはあみだくじの描かれた紙が一枚。
 ノートに乱雑に引かれた線の先には六課の面子の名前がいくつか書かれている。
 そして何故かヴィータの所に丸が付いていた。
「よしでーきた!」
「……スバル?」
 スバルがばっと立ち上がり、装置へ向き直る。
 戦闘中の三人はそもそもスバルに気付いていない。
「こうしてこうして……ポチっとな」
「だから何してんだスバルゥ――――!?」
 慌ててシンが叫ぶも時既に遅し。モニタにぼうっと光が宿り――


case2.『シン・アスカとヴィータの場合』


「……似合ってるな」
「何だよ意外そうに言いやがって」
「こういう時くらい言葉使い直したらどうだ?」
「う、うるせえなー!」
「まあそこが可愛いんだけどさ」
「なッ……バッ……何言ってんだよ……!!」
「ほらほら暴れるなって、乱れるから」
 今のヴィータの服装は六課の制服ではない。無論バリアジャケットでは無いし、私服でもない。
 それは白一色。滑らかで絹やかな布が精密に折り重ねられたその衣装。
 ――名称をウェディングドレスという。

 そこは古びた教会だった。居るのは祭壇の前で向かい合って立つ二人け。
 白いタキシードを着て正装したシンと、髪を下ろして純白のドレスを着たヴィータ。
 他に誰も居ないので、二人が黙ってしまえば周囲から音は消える。
「……牧師も居ないし。カタチだけの真似事だけどさ」
 すっとシンがヴィータの小さな手を取り、その薬指に指輪を嵌めた。
 次いでヴィータがシンの手を取り、同じように指輪を嵌めた。
「これからも――」
「待て」
 ヴィータがシンの言葉を遮る。
「――私が言う」
 ごほんとわざとらしい咳払いを数回して、それからさらに深呼吸を数十回繰り返してからヴィータが言葉をつむぎ出す
「私はそもそも人間じゃないし……性格も結構捻くれてるし……おまけにいろんな部分が小さいし……」
 自覚あったのかというシンの呟きを噛み付かんばかりの形相で威嚇。
 それから咳払いをして、

「でも。お前とずっと一緒に居たい――幸せにしてくれ、私を」

「ああ。勿論だとも」
 指輪を交換して、今誓いの言葉を交わした。
 後残っているのは一つ。
 シンは眼前に立つ小柄な女の子に目線を合わせる位置まで屈み、ゆっくりと――


「何っっじゃこりゃあァァァ――――――ッ!!!!!!」

 冗談としか思えないほどのドリルハンマーが横薙ぎにフルスイングされ、装置を下のテーブルごとブチ砕いた。
 通常形態に戻ったグラーフアイゼンを構え、肩で息をするのは副隊長のヴィータ。
 たまたま通りかかったところ、先程の映像を見てしまったらしい。
「説明しろシィィンン――!!」
「頼んだスカリエッティ――!!」
「これは私が開発した――」
「ごちゃごちゃうるっせえ――!!」
「スカリエッティ――――!」
 場外ホームラン。
 バッター、ヴィータ。審判、シン・アスカ。
 バットはグラーフアイゼンで、ボールはジェイル・スカリエッティである。

 激化するなのは、フェイト、ティアナの三人の戦闘。
 血の止まらないはやて。
 爆笑するスバル。
 ヴィータに本気で狩られるシン。
 食堂内は実に混迷を極めていた。

「ど、どうしよう」
「全く人をボールか何かと勘違いしていないかね」
 食堂の隅で呟くエリオの横に、顔面血まみれになったスカリエッティが顔を出した。
「あ、生きてた」
 ここで初登場のキャロが呟く。
 彼女は最初の装置起動前にこうなる事を予期し、隅に避難していたのである。
「まあいいだろう。スペアはまだいくらかあるしね。とりあえず落ち着くのを待つとしようか」


「――さあ。次は『誰』の『どんな』ifが見たいかね?」


「六課の建物が持たないと思います」
「的確な判断だ、少年」
「エリオ君プリン食べよう。持ってきといたから」
「何か動じない君がすごく頼もしく見えるよ……キャロ」




今回までのあらすじ。
スカリエッティが傍迷惑な装置を開発したよ!
あらすじ終わり。



「ちょ、だから言ってるじゃないですか! あれはスカリエッティが――ッ!!」
「問答無用だらアアァァ――――!!」
「ぎゃああアアアアァァ――――――」

 BGMは未だヴィータ副隊長に追われているシンの絶叫でお送りしています。

 もはや廃墟寸前となった機動六課隊舎内の食堂。
 シンとヴィータを除いた面子は再び装置付近に集合していた。
 とはいえ、
「あかん……血が足らへん……」
「相変わらず……一発の威力が……異常だね……なのは……」
「フェイトちゃんも……相変わらず……速……あと、強くなったね……ティアナ……」
「………………凡人の…………意地です………………」
 そのうち四人は貧血を起こしていたり、魔力体力を使い切っていたりでグロッキー状態で行動不能。
 実質的に動けるのは、エリオとキャロとスバルとスカリエッティだけだ。
「もう止めた方がいいと思うんですけど」
「「「「ダメ」」」」
「エリオ君は心配性だね」
「えー、まだ見たいよー。これ面白いのにー」
「折角作ったのだから活用すべきだろう?」
 常識的なエリオの提案は、無常にも七対一で撤廃された。地味にグロッキー四人も口だけ出している。
 ああごめんなさいシンさん僕はあまりにも無力ですとうな垂れるエリオ。
 だが相手が悪すぎるのであって別にエリオは悪くない。
「しかし一々論争が起こっていては面倒なのでね。ランダムで人選する機能をさっき追加しておいた。
――これなら文句は無いだろう?」
「いつの間に……」
「何。騒ぎが一段楽するまで暇だったのでね」
 得意げに言うスカリエッティ。
 ちなみに紙一重で避け続けているシンやグロッキー四人には実質的な外傷は無い。
 比べて、スカリエッティは一回グラーフアイゼンでお空の星にされているので普通に重傷である。
「じゃあ早速試してみよ~っと。ルーレットスタート!」
 スバルがぽーんとボタンを叩く。それにしてもこの天然メカ娘、先程から実にノリノリである。
 でろでろでろと非常に安っぽいメロディと共に表示内容がめまぐるしく回転する。
 まず表示されたのは『シン・アスカ』。そして次に表示されたのは――

『フェイト・T・ハラオウン』


case3.『シン・アスカとフェイトT・ハラオウンの場合』


「あの……この体勢、何とかなりませんか」
「ふふ。動いたら危ないよ?」
 シンの頭はフェイトの膝の上、そしてフェイトの右手にはみみかき。
 俗に言う『ひざまくらみみかき』状態である。
 しばし真っ赤な顔で身をよじっていたシンだったが、観念したのか大人しくなる。
 それを見計らってフェイトがみみかきを再開した。
「頭動かさないでね?」
「動かしてませんよ――いてて」
「あ、ゴメン。痛かった?」
「……別になんともないです」
 恥ずかしさが勝るのか、シンの口調はぶっきらぼうだ。ただ顔は真っ赤に染まっていく。
 その様子を満足げに見て、フェイトは微笑む。
「不精なシンが悪いんだよ? こんなにたまるまで放っておくなんて」
「しょうがないでしょ……なんか忘れちゃうんですよ」
「敬語」
 それまでの会話の流れを断ち切るかのごとく、唐突にフェイトが言う。
「敬語使わなくていいって言ってるよね――――その、もう恋人、なんだし」
 しどろもどろになりながらも、フェイトの口調は不満そうだ。
「何か昔のクセが抜けなくて……それに、フェイトさん年上だし。雰囲気が大人っぽいし……」
 自分の言葉で恥ずかしさが増したのか。シンは更に顔を赤くして、身をよじる。
「誉めてくれるのは嬉しいけど……でもやっぱり不満、かな。はい反対側」
 さりげなく逃れようとするシンの頭をくるりと回して抱えなおしながらフェイトが呟く。
「フェイト、さん」
 ぽつりとシンが呟いた。
 シンの頭はフェイトの膝の上にあるが、顔は向こうを向いているので二人の視線がぶつかる事は無い。
「……俺、フェイトさんに釣り合ってますか?」
「関係ないよ。私はずっとシンと居る。同じものを見て、同じ感情を共有して――同じものを背負っていく」
 逡巡すらない即答。あくまで優しく、けど真っ直ぐに、迷う必要すら必要ないとフェイトはシンに告げる。
 それを聞いたシンは微かに笑って、全身の力を抜いてゆっくりとまぶたを閉じる。

「フェイト」

 なに? と嬉しそうに聞き返すフェイトに還ってきた言葉は一言だけ。
 とてもぶきらぼうで素っ気無い、けど真摯な一言。

「大好き」



「――――――――――――きゅうぅぅ」

 顔から湯気を噴出しつつ、ばったーんとぶっ倒れるフェイト。
「ああっ! 普段便乗ばっかりしてるせいでガチな恋愛展開に耐性が無いフェイトさんが限界を超えちゃった――!」
 叫ぶエリオ。
 間違っちゃいないが、地味に酷い事を言っている。
 あと周囲でうんうんと頷いている残りの連中も漏れなく酷い。
「おお。今回はモニタが無事だな」
 別のことでうんうんと頷くスカリエッティ
「……何か今回はシンさんが受けっぽかったですね?」
「あ、これじゃない? さっきまでと名前の表示位置が逆になってるよ?」
 凄まじくマイペースなスバルとキャロは冷静に装置を分析していた。
 確かに二人の言うとおりで、今回はシンと相手の名前の表示位置が入れ替わっていた。
「ふむ……先に設定したほうの優先順位が高くなるのか。実に興味深い現象だ」
 スカリエッティも予期せぬ効果だったようで、目を輝かせる。
 しかしこのマッドサイエンティスト。装置に気をかける前に自分の出血を止めるべきである。
「なにぃ!? それマジか!!」
 ずざーと猛烈な勢いでヴィータがスカリエッティに詰め寄った。
 スカリエッティが肯定すると、ヴィータは装置に向き直る。
「よし!!」
「まあヴィータちゃん。何がよし、なのか説明してもらえる?」
 ガチリとヴィータに突きつけられるレイジングハート・バスターモード。
 振り返ると、出番が無さ過ぎて我慢の限界が来ている冥王の姿がある。
「どうしちゃったのかな? ヴィータちゃん、さっきは嫌がってたよねぇ?」
「あ、あれは……いきなり過ぎ……じゃ、じゃなくてだなぁ! 
やられっぱなしが気にくわねーだけだよ! こっちがやり返してるのも見ねーと不公平だろ!!」
「ふーん、そう……でもね――私はどっちも見てないんだからぁ――!!」
 警告なしでぶっ放されるディバインバスター。
 桜色の砲撃は辛うじて回避したヴィータを掠め、食堂の壁をブチ抜きつつ青い空に吸い込まれていった。
「なのは……本気か? その疲弊した状態で私とやろうってのか!?」
「本気だよ。この程度、ちょうどいいハンデ程度……おいで鉄槌の騎士。遊んであげる……!」
「上等ォ!」
 炸裂するカートリッジ。弾ける様に溢れ出す赤い魔力と、チャージされる桜色の魔力。
 そして両者睨み合いが続く。
「ルーレットスタート~!」
 その最中で、欠片の躊躇い無くボタンを押す天然メカ娘の間抜けな声が響き渡った。
「「「「「スバルゥ――――!!!!!」」」」」
 エリオとキャロと未だ気絶中のフェイト、そしてスカリエッティを除く残りの面子が絶叫する。
 叫んだ面子の脳内でスバルのあだ名が『KY』に設定された瞬間だった。


case4.『シン・アスカとスバル・ナカジマの場合』


「シン~」
「んー、何だー?」
「別に~? 呼んでみただけ~」
「何だよそれ」
 無茶苦茶な言い分にシンが苦笑する。
 街中の、人気のない場所にポツリとあるベンチに二人は居た。
 シンの手にはコーヒー缶があり、スバルの手には先程まで食べていたアイスの包装紙がある。
 スバルはシンの肩にもたれかかりながら、シンの名前を何回か呼ぶ。
 それから、先程と似たようなやり取りが何回か繰り返される。
 意味のない会話だが、スバルはとても楽しそうで、シンも微かながら笑っている。
「し……んー…………えへへ……へ」
「眠いのか?」
「うん……ちょっと…………」
 スバルのまぶたは既に半開きで、意識が眠りの淵にあると見て取れる。
「シンは……あったかいね…………」
 とうとう目を閉じて、シンにもたれかかったまま、スバルは静かに寝息を立て始める。
「まったく……ほんと無防備だなコイツ」
 シンは苦笑いで溜息をつくと、飲んでいたコーヒーを傍らに置く。
 空いた手でスバルの頭をゆっくりと撫でる。
「デート中に寝る奴があるかー?」
 シンがスバルの頬をつつくも、スバルはくすぐったそうに身をよじるばかりで起きる気配は無い。
 更により深くシンにもたれかかり、シンの腕にしがみつく。
 シンは諦めたのか、空いた方の手でスバルの頭をゆっくりと撫でつつ、預けられているスバルの頭に自分の頭を預ける。
 少しだけそのまま時間が過ぎて、シンのまぶたも閉じていく。
 やさしくスバルの頭を撫でていた手の動きも緩慢になり、シンも意識を手放しかけていた。
 意識を手放す寸前に、

「……お前の方が……あったかいよ…………」



「………………これ」

 呟くスバルの右腕には、リボルバーナックルが装着されている。
 そしてカートリッジロード。
「恥ずかしいいいぃぃィィ――――!!!」
 叩き込まれるリボルバーシュート。
 ど真ん中に綺麗な穴の開いたモニタは、数メートル程吹っ飛んだ後に派手に爆砕した。
「もー! シンのぶぅわかぁぁぁ――――!!」
「何でこっちに来るんだよオオォォォ――――!?」
 ヴィータの攻撃をかわし続けて疲弊しきったシンにスバルが襲い掛かる。
 気力を振り絞ってギリギリで回避するシン。
「なあぁぁのぉぉォはあァァ――――!!」
「ヴィイィタちゃぁぁんんn――――!!」
 仕切りなおしといわんばかりに激突を開始したなのはとヴィータ。
「おっと、やらせはせんで?」
「そうだよそうだよそうだよ♪ や・ら・せ・な・い・よっ♪」
「くっ! 予想よりも復活が早い……!」
 今のうちと装置にこっそり近づいたティアナは復活したはやてとフェイトに妨害され、交戦を開始した。
 どうもさっきの幸せが残っているのか、フェイトのやる気が五割り増しである。

「また乱戦になっちゃいましたねー」
「あ。また天井に穴開いた」
 再び隅に避難したエリオとキャロ。
 スカリエッティはというと、戦場の真っ只中で流れ弾を回避しながら装置の改修を始めていた。

「いつ終るんだろう……これ」
 エリオの呟きに、答えてくれる人はいなかった。



今回までのあらすじ。
冥王がそろそろ我慢の限界だよ!
あらすじ終わり。




 もはや屋外と大差ない程まで廃墟と化したその食堂にて、その集団は装置の前に集合する。
 とはいえその内で万全なのはもはやエリオとキャロのみである。
 はやては貧血をおしてティアナと交戦したせいで再びグロッキー寸前。
 フェイトは前回(case3参照)での刺激が強すぎたのか、五秒に一回は違う世界へ旅立っている有様。
 ティアナは底力全開のはやてと幸せ全開のフェイトにフルボッコされて生ける屍と化している。
 シンはヴィータとスバルとの連戦で色々出し切ったのかぶっ倒れている。
 激戦を繰り広げていたなのはとヴィータは、零距離ディバインバスターとラケーテンハンマーが
クロスカウンター風に決まった直後にダブルノックアウト。以降どちらもピクリとも動いていない。

 ちなみにKY認定されたスバルはほぼ全員からバインドをかけられてその辺に転がっています。

「……なあ、そろそろお開きにした方がいいと思うんだが」
「物凄く……同感です……」
 疲れた声でスカリエッティに言うシンに、これまた疲れた声でエリオが同意する。
 エリオはエリオで精神的ダメージがたまっているらしい。
 物凄く元気に装置を弄繰り回していたスカリエッティが手をとめ、二人を振り返る。
「……ふむ。まあ確かに、もうテストには十分な回数は稼動させたからな。
私としても今日見つかった特殊事象を研究したくはあるし」
「「「「「え゛――っ」」」」」
 不満そうな声が×5。
 即座に復活したなのはとフェイトとはやてとヴィータとティアナがスカリエッティの前に横一列に並んで講義する。
 こいつらの活力は底無しか!? とシンとエリオが驚愕しているが、そんなのお構いナシである。
 ちなみに転がっているスバルも、陸に上げられた魚のように跳ねつつ不満の意を示していた。
「私にやりかえさせろー!!」
「今度は私主体のでよろしくな!」
「わ、私はシン主体のが見たいなぁ……♪」
「あんな幸せ蜂蜜オーラを展開しておいてまだ足りないなんていうのはこの口なのフェイトちゃん!?」
「い、いひゃいよなのひゃー」
「一回でも出た人達は引っ込んでてください! こちとらまだ主役張ってないんです!」
「むー! むー!」
「スバルさん大丈夫ですか? ケリュケイオン、バインド解除っと」
 さっきまでの死屍累々ぶりはどこへやらである。
 とはいえそれぞれが牽制し合っているので、騒がしくはありながらも場は膠着状態だ。
 流石に何度も大暴れしているせいでそれぞれ魔力体力が残り少なく、直接的な戦闘には発展しない。
 更にスカリエッティも気になる事があるのか、さほど乗り気でない。
 事態の収束を感じ取り、シンは胸をなでおろす。
 同じように安堵の表情を浮かべたエリオと目が合い、握手を交わす二人の男(苦労人)。

 しかしながら、またも響き渡るは天然のシャウト。

「ルーレットォ――スタアァァトォォ――――!!」
 KY、くじけない。

「「「「「「「また貴様かスゥバァルゥ――――――!!!!!!」」」」」」」
 余談であるがエリオも混じっていたりする。


case5.『シン・アスカとティアナ・ランスターの場合』


 時刻は昼下がり。けれども窓の外では雨がざあざあと降り、暗い。

「――っくしゅ」

 薄暗い室内で、口元を押さえてティアナが小さくくしゃみをする。
 濡れた服は全部没収されたので、今は大き目のシャツと毛布を羽織っている程度だ。
「ったく。完全にズブ濡れだったな。寒かったろ?」
「うぅ……うっさいわね」
 濡れた服を洗濯機に放り込んで戻ってきたシンの言葉に、ティアナが口を尖らせて不満げに呟く。
「自業自得な――ほいコーヒー」
 シンがティアナに湯気の立つマグカップを手渡し、傍らにかかっていたタオルを取る。
「あり……がと」
「髪ふくぞー」
「ひゃ」
 カップを渡した直後に、シンがティアナの髪をわしゃわしゃとふく。
 シンのそれは多少乱雑な手つきだったが、ティアナは特に文句を言うでもなくされるがままだ。
「ウチに寄るんだったら連絡くらいしろよ。迎えくらい行ってやったのに」
「…………びっくりさせたかったのよ」
 ティアナがぼそりと言う。小さな声だったのでシンは気付いていなかった。
 髪からあらかた水気が消えたのを確認して、シンがタオルを傍らに放る。
「コーヒーのお代わり要るか?」
「し、シン!」
 ややどもりながらティアナが大声を上げる。
「な、何だよ?」
 いきなりの大声に面食らいつつもシンが聞き返すと、たっぷり十秒沈黙した後に、ティアナがぼそりと呟く。
「……さむい」
「じゃあ毛布もう一枚――」
 歩き出そうとしたシンの動きが止まる。服の端をティアナが掴んでいるせいだ。
「ぎゅって、して」
 シンは顔を手で覆って天を仰いで一旦青くなってから真っ赤になって猛烈な勢いで頭をぶんぶんと振る。
「…………ほ、本当に寒そうだからな。と、特別だからな」
 それからティアナの後ろにまわり、覆いかぶさるようにティアナを抱く。
 ティアナは自分後ろからまわされたシンの腕をきゅっと掴んで、

「うん。ありがと――」



「あああああああああああああああ――――――ッ!!!」

 よほど恥ずかしかったのか真っ赤な顔で瓦礫塗れの床をゴロゴロゴローっと転がるティアナ。
「ね!? これいざ自分来るとすーごい恥ずかしいよね!?」
「うっさいバカスバル! 今の私に話しかけるなぁ!!」
 理解者得たといわんばかりの嬉々とした表情で迫るスバルを跳ね除け、ティアナが叫ぶ。
 転がって逃げるティアナとそれを走って追うスバルという奇妙な構図が出来上がっていた。
 さて、ここで一つ確認しておこう。
 この食堂内では先程から数回に渡って戦闘が行われている。
 それはつまりここで魔法が使われ続けたという事だ。
 そして魔法が使われたという事は、

 ――そこには魔力の残滓が大量に残っているのである。

「ちゃららららららら、っちゃんちゃちゃん」
 その人物は某冥王のテーマを口ずさみながらレイジングハートエクセリオン・エクシードモードを高らかに振り上げる。
 彼女の名は高町なのは。いい加減出番が来なくて我慢の限界を超えてしまったらしい。
 物凄い勢いで収束していく魔力。
 かつて金色だったり白だったりオレンジだったりしたそれらが桜色に塗り潰されて膨張していく。
 今発射用意されているのは、高町なのは全力全壊の象徴とも言うべき魔法――スターライトブレイカーである。
「ちょ、落ち着いてくださいなのはさん!!」
「その大きさはヤバいですって! 食堂どころか六課の隊舎ごと消し飛びますよ!?」
 シンとエリオの必死の説得に帰って来た言葉は、

「――何かもう、全部吹き飛んじゃえばいいかなぁって」

 瞬間二人は悟った。これはもう駄目だ、と。
「かくなる上は――!!」
「シンさん、何を――ッ!?」
 シンは装置に向き直って拳を高々と振り上げ、

「一か八か――ルーレットスタァート――――――!!!!!」

 決定ボタンへと振り下ろした。


case6.『シン・アスカと高町なのはの場合』


「……」
 そーっと、シンが忍び足で部屋へと入る。傍から見れば不審者同然である。
「おかえり」
「ただいま。ヴィヴィオは?」
「うんもう寝てる。さっきまで起きてたんだけどね」
「そっか」
 シンとなのはが小声で会話する。
 不審者同然のシンの挙動は、ヴィヴィオを起こさない為の配慮だったのである。
「悪い事しちゃったな。なまじ早く帰れるかもなんて言っちゃったから……」
「しょうがないよ。仕事だもん……何か食べる?」
「あ、じゃあお願い」
「うん。今用意するね」

 一心不乱にサンドイッチを頬張るシンをなのはは頬杖を付きながら眺めている。
「……顔に何か付いてる?」
「ううん。見てるだけ」
 にっこり笑ってなのはが答える。
 気恥ずかしくなったのか、シンは顔をやや赤らめるも直ぐに食事を再開した。
「最近忙しくなってきたね」
「まあ……これでもちょっとは昇進したんだし」
「頑張ったよね、シン」
「そうでもないよ。
でもヴィヴィオと最近全然遊んでやれないのがなぁ……さみしがってないといいんだけど」
「んー」
 なのはが会話を打ち切って小さく唸る。
 怪訝そうな顔になったシンを見て、なのははぷうと頬を膨らませた。
 そのまま手を伸ばして、シンの頬をぐいと軽くつまむ。
「寂しいのは、ヴィヴィオだけじゃないんだけどなぁー」
「う、え――!?」
 ボッと一気に赤くなったシンを見て、なのはは満足げに微笑んだ。
「う、うぅ……でも、俺だって……」
「え?」
 今度はなのはが赤面する。
 互いに赤面したまま数秒だけ見詰め合い――互いに物凄い勢いで視線を逸らした。
 気恥ずかしさが漂うままに、お互いチラチラと相手を見る。
「……シン」
「え、ななんでしょう!?」
 沈黙を破ったのはなのはの方。対してシンは酷く挙動不審に答える。

「そっち、いってもいい?」

 向かい合っていた状態から隣同士の席に。
 会話は無く、視線も合わせていない。けれども互いの手だけはしっかりと握っている。
 それが五分続いたか、十分続いたか。
「……パパの声がしたー」
 愛用のウサギのぬいぐるみを引き摺ったヴィヴィオが寝室から顔を出す。
 ヴィヴィオは寝ぼけ眼のまま、よたよたと歩き、シンとなのはのちょうど中間に倒れこんだ。
「……起こしちゃったな」
「そうだね」
 顔を合わせて苦笑する。
 ヴィヴィオはシンとなのはをガッチリ掴んだまま、安らかな寝息を立て始めていた。
「このまま寝ちゃおうか?」
 シンの提案に、

「――――うん。そうだね」

 なのはが、柔らかな笑顔で答える。


 ――ナイス、ヴィヴィオ

 物凄く幸せな顔をしながら、高町なのはは墜落した。

 シンとエリオが助かったと思ったのも束の間、中途半端に発射準備されていた魔法が暴発する。
 それによって引き起こされる閃光と爆風によりただでさえ廃墟同然だった食堂は完全に瓦解し、崩れ落ちた。
 無論その場に居た人間が無事で済む訳も無く。
 六課はしばらく後処理で大忙しとなるのだが――これはまた別のお話。

 ちなみに、瓦礫の中からは装置の欠片すら発見されなかった。
 そして元凶にして首謀者にして最大の功労者でもあるジェイル・スカリエッティも姿を消している。

 ああ、『シンパパを諦めない』と叫ぶ聖王が某ラボに突入したりするのも別のお話ですよ?






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最終更新:2008年09月22日 12:59
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