トリステイン魔法学院 タバサの部屋
虚無の曜日といわれる休日のその日、サイトと共に休暇を貰う事になったシンはタバサに部屋に呼び出されていた。
ちなみにシンの衣服は仕事中以外はパイロットスーツのままだったりする、その理由はそれ以外の着替えが存在していないからである。
「で、渡したいものって何なんだ?」
その呼び出された理由をシルフィードから聞いていたシンは回りくどいことはせず直球でタバサにたずねる。
タバサはそんなシンの態度に気分を害する様子も無く、タバサは一本の鞘に納まっているナイフをシンへと差し出す。
そんなタバサの態度にシンは「之が渡したいものなのか」と言う判断をするとそのナイフを受け取り、鞘から抜き出す。
そうするとどうした事だろうか、急にシンの体は金縛りにあったかのように動かなくなってしまったのだ。
「な……!? な、なんなんだ…よ、これ……は…!!」
シンはその『金縛り』を必死に解こうと体を動かそうとするも、体は言う事を聞いてくれない、声を出すのだけでも精一杯だ。
そんなシンの様子を見てタバサは杖をその手に持つと呪文の詠唱を開始し始めると、その体から稲妻が迸り始める。
タバサのその行動にシンは『殺される』覚悟を決めたかのように目を瞑り、その稲妻が自分の肉体を焼き尽くす瞬間を待った。
「ウギャァアアアアアアアア!!!!」
稲妻が襲い掛かり、凄まじい悲鳴がシンの口…からではなく、その手に持っていたナイフから飛び出る。
其れと同時に無傷のシンの手からナイフが転げ落ち、まるで糸が切れたかのようにシンもその場に座り込む。
そしてタバサは杖をもう一度確りと構えると呪文を詠唱し始め、再び稲妻がその転げ落ちているナイフへと襲い掛かる。
「ち、ちょっ!?ま、まってくれ、ライトニングクラウドは…わぎゃぁああああああああ!!」
其れと同時にナイフから再び激しい絶叫が飛び出し、シンはそんな光景を呆然と見ながらも、命が助かった事に安堵を覚えていた。
「で、一体何なんだ?その変なナイフは…」
さらにその後二回ライトニングクラウドを喰らい、まるで打ち揚げられた魚のようにピクピク震えているナイフを見ながらシンはそう問いかける。
「意思を持った魔剣、インテリジェンスナイフの地下水」
シンの問いに簡潔に答えるタバサ、そしてその答えから導き出された一つの仮定を、シンは再びタバサに尋ねる。
「…つまり、俺の体がさっき動かなくなったのはこのナイフのせいなんだな?」
その問いに頷いて答えるタバサ、そして其れを見たシンはおもむろに腰に備えていたナイフを抜刀すると地下水の刀身にカツカツとぶつける。
「なぁ、俺は一応元軍人で、流石にナイフに対するやり方なんか知らないけど、多少の拷問の仕方位は知ってるんだぜ?」
「ち、ちょっと待った!! 少し、少し刺さってる刺さってる!! わ、わかった、キチンと丁寧に答えるからもうやめてくれよ旦那!!」
流石に自分の体を勝手に束縛された事に腹立っているのだろう、シンは無表情のままのその言葉に地下水はおびえながらそう答える。
そしてタバサはそんな光景を軽く一瞥すると近くにあった本を手に取り読書に没頭していくのであった。
「じゃあ、何で俺の体を操ったりしたんだ?」
「旦那を試す為だよ、そこのお穣ちゃんに頼まれた事とはいえ、俺も裏ではちょっとは名の知れた傭兵メイジだったんだ。
スクウェアクラスのメイジだって操ってた事もあるこの俺がメイジでもない奴に使われるってのはちょっと癪だったんでね」
その地下水の言葉を聞きながら、シンはナイフを収め、地下水をその手に持ちながら近くの椅子に腰をかける。
「で、その試した結果っていうのはどうなんだ?」
「ギリギリ及第点かね、旦那の潜在魔力は平民の平均よりちょっと上程度、それだけなら失格もいい所だがちょっと気に入った点があったんでね。」
「気に入ったところ?」
「まずは俺の操作魔法を喰らって抵抗してた旦那の精神力の高さだ、初見であんだけ抵抗できる人間はかなり少ないからな。
後もう一つは旦那筋肉のつき方さ、そこらの馬鹿な傭兵みたいに無駄な筋肉はほとんどついてない、まるで野生の獣みたいな筋肉だったからな。
俺は『地下水』って名前が示すように静かに潜入してから相手を屠る方が得意なんだ、そういう場合旦那みたいな筋肉と精神的にタフな人間が一番向いている」
自分が『暗殺家業』に向いているといわれて少し眉をしかめたシンだったが、地下水はそのまま言葉をつむぎ続ける。
「ま、条件付でなら旦那の相棒になってもいいぜ、自分で言うのもなんだが、持ってりゃ魔法だって使える超お買い得物件だと思うぜ?この地下水様はな」
「…条件って何だ?」
『魔法を使える』という、確かに魅力的な誘いを目の前にしながらも、シンは慎重に条件を尋ねる。
そんなシンの態度に逆に好感を覚えながらも、あくまで其れを気取られないように押し隠しながら地下水は条件を語り始める。
「な~に、簡単な事さ、旦那の体を徹底的に『暗殺』用に鍛え上げて貰うだけさ、一日二時間位の訓練を毎日続けることでな。
魔力が少ない分は肉体を鍛え上げてカバーして貰わないと俺も困るんでね、どうだい、この条件を飲むかい?」
「………体を鍛え上げるだけだな?」
「そうさ、別に旦那に暗殺家業をやれって言う訳じゃない、鍛え方はこの地下水様が指南してやる、悪い条件じゃないだろ?」
普通の平民ならば戸惑う事無く食いつくほどの好条件を出されながらも、それでも確実に『譲れない一線』を確かめていくシン。
そしてそんなシンの態度を見てさらに好感を深めながらも、それ以上の譲歩をしようとはしない地下水。
しばらく睨むように地下水のその刀身を見つめていたシンだったが、やがて決心がついたのか口を開く。
「わかった、その条件を飲む、これからよろしく頼むな、地下水」
「あいよ、旦那が良く判んないだろうメイジとの戦い方も確り指南してやるさ、この取引を損したなんて思わせないほどに有能なところを見せてやるよ」
地下水のその言葉に苦笑したシンだったが、地下水を鞘に収めると自分のナイフの真上辺りに備えて、礼を言おうとタバサに近づこうとしたその時。
「タバサ!!今から出かけるわよ、急いで支度をして………あら、お邪魔だったかしら?」
この部屋の主であるタバサの無二の親友、キュルケがタバサの部屋に突然入り込んできたかと思ったら、シンとタバサの姿を見てそう呟いた。
「…は? って、あんたは何を誤解しているんだ~~~!!」
一瞬何を言っているんだ? と混乱しかけたシンだったが、『男と女が二人部屋の中』だったと言う認識にいたると顔を真っ赤にしながら否定をし始めた。
「って、そんなこと言っている場合じゃなかったわ!! お願いタバサ、力を貸して、貴方の使い魔じゃなきゃ追いつけないのよ!!」
そんなシンの否定をあっさりとスルーしながらキュルケはタバサに抱きつくとまるで泣きつくかのように懇願し始める。
そしてタバサはほんの少しだけ溜息をつくと本を閉じ、キュルケにその「理由」を尋ねるのであった。
キュルケの理由は一言で言えば簡単、「最近気になっているサイトをつれてルイズが街に行った、追いかけたいから力を貸して!!」と言うものだった。
何でもキュルケ曰く「あのどこか抜けて居るところがまた良いのよね~」という事らしいが、とりあえずシンにもタバサにもそんなことは関係ない。
しかし『親友』の頼みは断れないのかタバサはシルフィードを呼び出すと、シンを残して街へと向かおうとしたのだが。
「きゅいきゅい~(お兄様だけ一人ぼっちなのは可愛そうなのね)」
という、タバサを「御姉さま」と慕い、最近シンを「お兄様」として慕いだしたシルフィードがシンの上半身をパクっと甘噛み。
そんな光景にパニックを起こしかけているキュルケをスルーしているタバサの指示に従い其のまま街へと飛んでいったのであった。
トリステイン王都
なんとか無事―甘噛みされっぱなしのシン以外は―王都にたどり着いたタバサ御一行だったのだが、肝心のルイズとサイトは見失ってしまっていた。
その理由は一つ、長い間シルフィードの口内に入っていたシンが見事に気絶してしまっていたからだった。
その事からタバサはシルフィードに軽いオシオキを、そしてキュルケはパニックになりながらもシンの手当てをする事になった。
幸いシンは早期に気絶から復帰したが、キュルケがパニックから復活したときには完全に見失っていたのだ。
その事からどうした物かと頭を悩ませたキュルケだったが、シンが「武器屋ってあるのか?」と言う質問をしたことから。
とりあえず武器屋から順番に店を回って探していこうと言う結論になり、早速武器屋に向かったのだが、そこで偶然が重なる。
そう、ちょうど『サイト』が持つ武器を購入しに来たルイズ御一行と出会うことになったのだ。
「で、急にどういう風の吹き回しなのルイズ?」
「ギーシュに勝ったそこの使い魔程は求めないけど、多少は戦ってもらわなきゃ困るから武器を買いに来た、それだけよ」
サイトに思いっきり抱きついた後、キュルケは「何故武器屋に?」と尋ね、ルイズも其れに簡潔に答える。
そのルイズの答えに、『シン』よりも『サイト』が劣ると言う意見にサイトが一瞬反応したが、其れに気づいた人間は居なかった。
ルイズとキュルケは其のまま雑談―というよりもキュルケがからかいルイズが食いかかっている―しているし、タバサは本を読み始めている。
そしてシンはシンで武器を、特に銃器を集中してみて回っていたので気づけなかったのだ。
「……何か欲しい?」
武器を手にとっては戻しているシンにタバサは本を読んだままそう問いかける。
「いや… こいつの予備弾薬が手に入るかなと思ったんだけど… 無理そうだし、こっちの銃は整備の仕方も知らないしな…」
そう呟きながらシンは自分の腰のガンホルダーに備えているハンドガンに手を触れると、タバサは少し考えるそぶりを取り…
「……ナイフ、投擲用を10本位なら買っていい、これで足りるはず」
そうシンに声をかけると、エキュー金貨を20枚ほど手渡すと、再び本に没頭し始める。
弾薬の補充が難しいなら、比較的補充が容易なナイフを投擲武器にすることである程度カバーすればいい、ということである。
特にメイジは『杖』を用いての魔法攻撃がメインである為、詠唱妨害の意味合いで『刃物』が飛んでくるナイフ投げは地味に効果があるのだ。
本来そういう攻撃は盾として召還された筈の使い魔が防御するものだが、案外メイジ達は戦闘に使い魔を連れてこない時のほうが多かったりもする。
流石にシンはそこまではしらないのだが、タバサに「サンキュー」とだけ声をかけると即座に武器屋の親父にこの金額でナイフを購入したいと声をかける。
「投擲用ですか?そうですねぇ… 名工が鍛えた品なんで少々根を張るんで、一本でエキュー金貨一枚って所になりますが…」
「…これが、名工の鍛えた武器?」
「そうですぜ、一見普通のナイフですが固定化の魔法もかかってますんで生半可なナイフよりは頑丈ですよ」
明らかにゴマすりをしながらシンにナイフを売ってこようとするその態度に何か嫌な予感がしたシンは地下水を抜き出す。
「なぁ地下水、このナイフって本当にそれだけ価値があるのか?」
「は~はっはっは!! 旦那、馬鹿言っちゃいけねぇよ、こんな二束三文使ったら犬っころを殺す前にポキッと折れちまう」
ナイフから発せられた声とその内容に店主は顔面を蒼白にしていき、まったく違う方向から物音がして、そちらにサイトが向かっていく。
「…投擲用としても価値は無いって事か?」
「そうだね、旦那の腕力なら刺さるかもしれないけど、まともに芯もなさそうだし一回投げればそれでぽっきりだと思うぜ」
「なるほど、ね」
そういうとシンは笑顔で、しかし目が笑っていない威圧を与える笑顔で店主の方へと向きなおす。
「あのさ、俺は確かに投擲用っていったけど、流石に実戦に使えないようなナイフはいらないんだけど?」
「へ、へへへい!! い、今別のナイフを持ってきますんで少しお待ちください!!」
流石に修羅場を幾度も潜り抜けているシンの威圧は辛いのか、店主は脂汗をかきながら店の奥に向かい、新しいナイフを15本ほど持ってくる。
「こ、これは質はいいんですが平民の鍛冶師が作ったんでまともな買い手が出てない品でして、これなら15本でエキュー金貨三枚で十分です!!」
「…地下水?」
「ん~… 今度のは上等だね、投擲用どころか普通に使えるぜ、この鍛冶師の武器なら贔屓にしてもいいくらいだ」
新しく持ってきたナイフを見て、シンは念のためにと相談役の地下水に訊ね、地下水も太鼓判を押したことで店主の顔色が戻る。
そしてシンはナイフと其れを保持する為のホルダーを購入すると残ったお金をタバサに返し、早速ナイフホルダーを装着していく。
そんなシンを横目に、サイトは発見したインテリジェンスソード―デルフリンガーと名乗った―を買いたいとルイズに要求していた。
ルイズは見た目が錆びているその剣を購入することに難色を示したが、サイトに耳打ちされると納得した様子でその剣を購入した。
店主はその口が悪く、何かと客に喧嘩を売っていたデルフリンガーに手を焼いていたのかエキュー金貨50枚で其れを販売した。
その剣をサイトに売っている間、店主はシンの方をちらちら見ていたのでまだ怯えていたから安くしたと言う部分もあった。
ちなみにサイトがルイズに耳打ちした言葉とは… 「シンが喋るナイフを持っているなら、こっちは其れより上の喋る剣を持った方がいい」と言う言葉だった。
この言葉の奥に潜んでいる意味―サイトが明らかにシンに対し敵意を持っている―という事にルイズは気付けぬままデルフリンガーを購入した。
貴族とはいえ世間知らずでしかないルイズはサイトの言葉を「主人の立場を気遣って」のものと判断してしまったと言うことだ。
その後、シンはタバサに連れられ衣服屋で着替えを幾つか購入し、ルイズもタバサへの対抗心からかサイトに服を幾つか購入する。
どうやらゼロのルイズと呼ばれていた自分と学年最優秀生徒と謳われているタバサが同じように『平民』を使い魔にしたと言うことでプライドを保っていたのだが。
『ギーシュとの決闘』でシンがギーシュに勝利して見せたことを知り、『格の違い』を見せ付けられたと思い込んだらしく、タバサに対抗心を激しく燃やしていたようだ。
そのおかげでルイズのサイトへの待遇は『タバサのシンへの待遇』に負けてたまるかとどんどん改善されていったことは良かったのだが。
肝心のルイズが何かにつけてサイトに「あの使い魔くらい強かったら」とか「主人の顔に泥を塗るな」と、愚痴をぶつけていたのだ。
そして、それはタバサと張り合うかのように服等を購入している間も収まらず、キュルケがその状況を見て呆れるほどであった。
何かにつけて『シン』と比較されるサイトの瞳には暗い炎が宿り、段々とその勢いは増し続けていた……
そしてその日の晩、ルイズ達の人間関係を大きく揺り動かす原因となる事件がおきた。
メイジ専門の盗賊であり、自身も土のメイジである『土くれのフーケ』が魔法学院の宝物庫を強襲、『破壊の杖』と呼ばれる宝物を盗まれてしまったのだ。
そのフーケに対抗するべく、ちょうど現場へと駆けつけていたルイズ・サイト・キュルケ・タバサの四人とシルフィード・サラマンダーの二匹が奮戦するも。
フーケが操る30メイルにも及ぶゴーレムに打ち勝つことは出来ず、フーケの逃亡を許してしまう結果となったのであった。
ちなみにシンはその時地下水の指導の下鍛錬を行っており、その事件を知ったのは帰ってきたシルフィードの話を聞いた時であった。
強奪された破壊の杖、サイトの心の奥深くで燃え盛る暗い炎、様々な思惑と感情を混ぜ合わせながら物語は次の局面へと進んでいく。
今にもはちきれそうなほどに絞られた弓が射抜くのは光か、闇か…… 双月はただ、静かに彼らを照らし続けていた……
おまけのNGシーン
「で、渡したいものって何なんだ?」
その呼び出された理由をシルフィードから聞いていたシンは回りくどいことはせず直球でタバサにたずねる。
タバサはそんなシンの態度に気分を害する様子も無く、タバサは一本の鞘に納まっているナイフをシンへと差し出す。
そんなタバサの態度にシンは「之が渡したいものなのか」と言う判断をするとそのナイフを受け取り、鞘から抜き出す。
そうするとどうした事だろうか、急にシンの体は金縛りにあったかのように動かなくなってしまったのだ。
「な……!? な、なんなんだ…よ、これ……は…!!」
シンは必死に体を捩ると、僅かに、体がシンの意思に従い動きはじめる、その動きは段々と強いものになっていき…
「クソッ……!! このナイフ、こいつが原因で…!!」
シンは腕を大きく振り上げ、そのナイフを地面に投げつけるようにして手放す。
その事でシンを金縛りにしていた力が無くなったのか、シンは勢いあまってよろけ、何かにぶつかり倒れる。
「いつつ…… あのナイフは……」
シンはそこまで行った時点で現在の状況に気付いた、ぶつかった物とはタバサであり、そして今自分はタバサを押し倒して右手を胸に当てていると言う状況に。
しかもタバサはシンに押したおされているのに顔色一つ変えずシンの顔をじっと見つめている。
そんな不思議な雰囲気に呑まれ動くことを忘れたシンだったが、そんな状況のままずっとして居れば当然…
「タバサ!!いますぐでかけ……… WAWAWA、わっすっれっもの~」
タバサの親友であるキュルケが部屋に入ってきたが、何か忘れ物したらしく全力疾走で去っていった。
「………ハッ!? ご、誤解だ~~~!!」
たっぷり30秒ほどだった後、自分が激しく誤解されたと知ったシンはキュルケを追いかけたが、もはやとめることは出来なかった…
そしてそれから二日後、タバサとシンがなぜか学院公式カップルとして完全に認知されてしまい。
ギーシュが「結婚式には呼んでくれよ」と空気を読まずに発言したことで『ブラックシエスタ』が光臨し、学院を混沌の災禍に叩き込んだと言う……
最終更新:2008年10月13日 20:58