よお、俺だ。シン・アスカだ。
何をしてるか、だって?――それが、俺にもよくわからない。
気がついたとき、既に俺は此処にいた。
暗闇のような、光の中のような、よくわからない空間。
あの甲殻類じみたモビルアーマーの砲口がこっちを向いて、それが光ったのまでは覚えている。
けど、そのあとのことがまるではっきりとしない――まるで、死んだかのように。
???「ご名答~っ♪ そのとおりさシン。君は死んだのさ!」
シン「……!?」
何処からか聞こえてきた声に驚いて、周りを見渡す。
“それ”は背後にいた。
ザフトの制服を着た若い女、いや、違う。
“これ”は人じゃない。
???「どうしたんだい、シン・アスカ…ああ、びっくりしてるんだね? 何度も言うけど君は死んだのさ」
シン「俺が、死んだ?」
???「そうさ、あのモビルアーマーにインパルスごと焼き尽くされて、ね」
冗談だと、思った。
俺が死んだなんて信じられなかったから。
……だけど、それ以外に説明がつかない。
???「納得はできていないようだね。でも事実だから仕様がない……それに、いい加減慣れてきただろう?」
シン「納得できるわけないだろ……慣れてきた?」
???「ああ、やっぱりまた覚えてないのか。君は何度もここに来てる。もう五回にはなるかな」
シン「な……なんだよ、それ!」
???「それだけ君が死んでるってことさ。最初は……うん、確かアーモリーワンでコクピットに直撃を受けてだったかな」
混乱する俺を尻目に、ソレは語り続ける。
曰く、俺は今までに何度と無く死んでいて、そのたびに此処にきているという。
デブリベルトでガイアに両断されたり、ユニウスセブンでテロリストの道連れにされたり。
本来なら一度死ねばそれで終わりだ。だけど、俺はこのモノに気に入られたらしい。
???「と、まあこんなところかな? さぁて、シン。この質問も五回目だけど『君はやりなおしたいかい?』
シン「当たり前だ。俺は、俺はこんなところで死ねない!」
???「そう言うと思ったよ……じゃあ『巻き戻そうか』
ソレが何処からか取り出した時計がキリリと巻き戻されるのを見て、否、見たと思った瞬間、シンの意識は弾けとんだ。
巻き戻す瞬間、ソレが浮かべた楽しそうな笑みに気付くことなく。
???「さて、頑張るんだよ、シン。頑張って頑張って――ボクを楽しませておくれ。ハハハハハハハハハっ!」
シン「……がっ!?」
頭に走った衝撃に、目が覚めた。
目の前には、レイがいる。
レイ「何を居眠りしている、シン。わかっているのか? 新型が来ているんだ、気を抜けば死ぬぞ」
シン「……あ、ああ…」
その呟きを肯定と受け取ったのか、レイは自分のザクへと歩いていく。
それを見た俺も、奇妙な違和感を振り切ってインパルスへと乗り込んだ。
よお、俺だ、シン・アスカだ……前にも同じことを言った気がするな。
何をしているかだって? 前と同じさ。何処とも知れぬ空間に漂っている。
何故か、だって? それは、多分、俺が死んだからだ。
あれ以来、俺は死ぬたびに此処へ来るようになっていた(不思議なことに、此処での記憶は現実に還ると消え、来る度に再生した)。
そして、この今までの記憶が正しければ、次に来るのは……。
???「いらっしゃい、シン!」
やっぱりだ。毎回姿は変わっているが――例えば神父、三つ目の鼠や褐色の肌の使用人など――気配は全く同じ。
この絡みつくような、楽しげで邪悪な気配。いい加減慣れ親しんでしまった気配に振り向くと、ソレは其処にいた。
胸元が大胆に開いたスーツを着た女――この姿は二度目だったろうか?
確かこの姿のときのみ、愛称で呼べと言われたのを覚えていた。
シン「……ナイアさん…」
ナイア「そうそう、やっと覚えてくれたんだねシン……それはさておき、本題に入ろうか」
シン「ええ……でも、返事はもう決まっています。俺は」
ナイア「こんなところで死んでいられない、だろう? でも、今回ばかりは少し事情が変わってしまったんだ」
シン「事情、だって?」
ナイア「そう、今回は巻き戻してもあの時間には行けない。ちょっと後になってしまうね」
シン「ちょっと後でも俺は構いません、お願いします」
ナイア「うん、わかったよ……じゃあ、眼を閉じて」
今までとは違う、ちょっとした違和感。
その違和感の正体に気がついた瞬間、俺の唇に、柔らかい感触が奔った。
ギョッとして眼を開くと、悪戯が成功した子供のような顔をした女と、時計が眼に入る。
その時計が、キリリと巻き戻され――。
ザザンと、波の音が聞こえる。
眼を開くと、目の前に立っている者…キラ・ヤマトやアスラン・ザラの姿が眼に入った。
俺は何をしていたんだったか。そうだ、オーブの慰霊碑を訪れて、そこで偶然、こいつらと出くわして……。
キラ「何度吹き飛ばされても僕達はまた――を植えるよ。だから、手伝ってくれないかな?」
……今、この男はなんていった?
何度吹き飛ばされようが、植える、だって?
……ふざけるな。
???「そう、怒ってもいいのさ、シン。いや、もっと怒るべきだ。何故なら――」
頭の中に、知っている声が響く。
???「――君の大切なモノを悉く奪っていったのは、この男だろう?」
そうだ、こいつは、こいつが――!
シン「…………えだ」
アスラン「おい、シン。返事くらいしたらどうだ?」
シン「………おまえだ」
キラ「……え?」
シン「俺の家族を、ステラを殺したのは、お前だッ! 俺の家族を殺したお前が、何を言う――!」
伸ばされた手を払いのけ、怒鳴りつける。
キラ「僕が……殺した?」びくりと、身体を強張らせる男。何を言っているのか判らないと言った顔で戸惑いを見せる。
それを庇うようにアスランが一歩前に出てきた。
アスラン「何を言っているんだシン! キラはお前を受け入れようとしているんだぞ!」
何を、だって? 本当のことをいっただけだろ?
???「その通りさ、シン……ああ、そういえばそいつも君の仇だったね。いっそのこと、殺してしまえばいいんじゃないかな?」
殺す……そうか、殺す……。
ナイア「そう、殺してしまえばいい。こんな世界なんて、こんなにも君に優しくない世界なんてねぇ!」
いつの間にか背後から俺を抱きしめていたナイアさんの体が一瞬膨れ上がって異形となり、すぐに戻る。
それを見た連中――キラは顔を強張らせて一歩下がり、メイリンは悲鳴を上げた。
アスランは顔を引き攣らせながら怒鳴ってきた。
アスラン「シン……ソレから離れろ!」
なんで怖がるんだよ。酷いなぁ、ヒトの恩人を化物みたいに。
ねぇ、ナイアさん。
ナイア「そうだねぇ。酷い酷い。ヒトを化物みたいにいうなんてねぇ!」
その言葉と同時にナイアさんの体が再び膨れ上がった。俺にとっては心地いい、奴らにとっては禍々しい風が吹き荒れる。
ナイア「さぁ、シン……一緒に行こうか」
炎を噴き上げる三つの眼を見開き、巨大な黒翼を広げたナイアさん――否、ナ■アルラ■ホ■■プが、俺にその触腕を伸ばす。
俺は躊躇せず、その腕を掴んだ。何故躊躇しないかって?
それは、俺がもう、このヒトに近いモノになっているからさ。嫌悪なんかするわけないだろ?
ナイア「ねぇ、シン……こんな世界、もう要らないよね。『巻き戻しちゃってもいいかな?』
シン「当たり前でしょう、ナイアさん……どうぞ? いっそのこと最初の最初まで戻しちゃったらどうです?」
ナイアさんに包まれながら、空に舞い上がる。愕然とした顔で見上げる者たちが、米粒ほどに小さくなる。
??「シン……シンーーーーーーーッ!」
誰かの声が聞こえた――気がする。でもだれだろう?
心当たりが無いと言う事は……俺には関わりがないのだろう。
ナイア「ふふふ……ははははははハはハハははははハハハハははははははははははははははっ!」
ナ■アルラ■ホ■■プの哄笑と同時に、その体躯が爆ぜる。その僅かな爆発音の後――その世界、C.E.は巻き戻され、崩れ去った。
最終更新:2008年11月22日 23:26