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なきむし狼と羊ssss-04

「相変わらず容赦ってもんが無いなボウズ」

無造作に伸ばした金髪を風にたなびかせ、一面焼け野原と化した風景を、半ば感嘆の念を漏らすように見渡す男はオーブ軍のエース、ムゥ・ラ・フラガ。
シンにとってはこの世で嫌悪する人間ベスト3に上げられる男である。
投げ掛けられた言葉に眉を顰めながら振り返ると、その背後に佇む金色の機体が嫌でも目に付く。
一体自分達家族の税金のいかほどがあの機体に次ぎ込まれたのであろうか。
今度、オーブの代表に聞いてやったら、あの女はどんな顔をするだろうかと、嫌がらせでも皮肉でもなく純粋な興味としてシンは疑問に思う。
目障りな機体と、目障りな男の存在に苛立ち、ささくれ立った心が一層刺激される気がする。
口に溜まっていた澱のようなムカつきを吐き出すように唾を吐き捨てると、ムゥは苦笑を浮かべる。
余裕のある男の如き振る舞いを心掛けているのかもしれないが、シンには死に時を逃した男の残骸の滑稽な仕草にしか映らない。

「でかくなったなボウズ。もう俺よりでかいんじゃないか?」
冷めた瞳で見つめるシンにお構いなしに近寄るムゥがシンの肩に手を乗せるが、シンはそれを煩わしげに振り払う。

「気安く話しかけるな……」

嫌悪感を隠そうともしないシンの仕草に増々苦笑の色合いを濃くするムゥの表情にシンは舌打ちをする。飄々とした態度にシンは苛立っているのではない、会う度にこの男の瞳に浮かぶ自分にいつ殺されても構わないといった感情に苛立つのだ。

『彼女』の命を踏み台にした男が、余りにも生に頓着が無さ過ぎる事が許しがたかった。

「それにしても………お前さん……何もテロリストまで皆殺しにしなくたって良いだろうに…」


シン達が立っている場所は街が『あった』場所である。
オーブと他国の国境に位置する関係上宗教で対立したテロリスト達が占拠していたこの街はしかし、政府の決断の遅さと、情報の漏洩によって住民の皆殺しという結末に終わった。
オーブ政府は、国境の内側に占拠されているテロリスト達の亡命の要求を呑んだにも関わらず、その意向を無視した相手国側の派兵が全ての引き金といえた。

亡命の手続きを踏んでいただけに、国民を殺されたオーブ軍は、大義名分の下相手国の派兵したMSを撃墜にあたった。
といっても、既に相手国側に抵抗の意思は無く、投降は時間の問題であった。
しかし、シンは ―――― 立場上傭兵としてオーブに今回雇われていたシンは半ば両政府の思惑を知って知らぬフリをするかのように相手国の派兵されたMSと、パニック状態へと陥った末に住民を皆殺しにしたテロリストを区別無く殲滅した。

「あいつ等は何の力ももっていない人達を殺した…神だ正義だ何だと言いながら」
「だから殺したと?」
「ああ…」
「………変わったな…いや、変わってないのかボウズ…」
「ああ?」

同じ目線にまで背が伸び、顔立ちからはすっかり幼さが抜け、精悍さを増したシンは最早ボウズと呼べる年齢ではなかった。
それでも、尚ムゥには昔と変わらずシンの中にある、潔癖な乙女のような気性に嘆息する。
清濁併せ呑むという言葉をコレほどまでに拒絶する者をムゥは他に知らない。

力を持たない者を傷付ける者へと向ける憎悪はまるで変わらず。
けれども、奪った命の重さ、死んでいった者達にも悲しむ者がいて、守りたい者があると知っている事へのジレンマ。
苛まれる度に強くなっていくのを知っているが、余りにも痛々しい手段にムゥはもっと楽な生き方があると言ってしまいたくなる。
しかし、自分には、自分にだけはそれを言う資格は無い。

(ステラが生きてたら………)

そこまで思い至って首を振る。
視線の先で、MSと人々の残骸を脳裏に焼き付けるように睨み付けるシンの横顔がムゥには眩しく思えた。
傷付きながらも、それでも前を向いているシンに、既に生きているのか、死んでいるのか曖昧な自分が一体何を言えるのだろうか。

「で?アンタいつまで俺の前にいるわけ?」

膨れっ面をしたシンがムゥをねめつける。
その瞳に最早憎悪がない事が、年月の経過を教えてくれるようだった。

「ははは、ホントに嫌われてるな~~なぁボウズ……お前さん…あの機体を受け取る気は無いか?」
「アカツキか?」
「ああ。シラヌイはともかく、オオワシならお前さん向きだと思うぜ。そもそも腕前はずっとそちらが上なんだからな」

シンが乗っている機体、黒に塗装されたMk-Ⅱを見ながらムゥはしみじみと呟いた。
それは負い目であり、スペックの問題もあったが、純粋にシンの方がアカツキという機体に相応しいように思えたからだ。
オーブの理念の犠牲となり、オーブに裏切られ、それでもオーブを撃たずに守ったシン。
だからこそ、オーブの民の血税によって生み出された機体はシン以外に相応しい者はいないと常々思っていた。

それ故の申し出であった。
しかし、シンはハンッと鼻で笑うと視線を遠い空の方へと向ける。

「オーブの馬鹿親父の作らせた機体なんざ願い下げですよ」

その声とその表情にムゥは言葉を失う。
あまりにも、あまりにも何の価値も、執着も、感傷も見出していないシンの表情に。


「もしカガリがくれるって言ってたのならのし付けて返すって言っといて下さい。他人の国のモノを貰う言われはありませんから」


その言葉にムゥは全てを理解した。
シンの中では既にオーブは祖国ではなく『他国』なのだ。
きっと、それがシンなりの結論なのだろう。
憎み続ける事で捕われるのではなく、無理に許そうとするのではなく、ただ、過ぎ去った事として受け入れる。
オーブという国にシンは見切りを付けたのだろう。
シンの視線の先に映る機体、おそらく『彼女』が乗っているのであろう機体。
きっと、シンはもう既に見つけたのだろう、不器用な生き方をするが故に傷付いたとしても、その傷を癒し共に歩いていける存在を。
そして、だからこそ見切りを付けて、自分の中で消化したモノを捨てた。

いらないものを、おそらく先に進むために不要なものであるから。
シンの瞳が、初めて微かに和らぐ。
青い機体の中にいる彼女を見つめているのだろうか。

きっと、彼の視線の先にオーブという国が映ることはない。

その事に、ムゥは堪えきれない寂寥感を覚える。
それが、それを寂しいと感じること自体が傲慢であり、自惚れだとしても。


「じゃあ、俺はそろそろ退散しますかね」

感傷を振り切るようにムゥはシンに背を向け、アカツキへと乗り込もうとする。
その背に、シンの声がぽつりと投げ掛けられる。

「またな」

短くぶっきらぼうな言葉に、それでも『次』を提示してくれた青年に、ムゥは込み上げる感情を堪えて笑みを浮かべる。
アカツキに乗り込み、離陸しながら、不意にシンが『アスハ』ではなく、『カガリ』と呼んだ事を思い出し、短く息を吐くように笑う。

「俺もそろそろ前に進まなきゃな……」

自分よりも一回以上も年下の青年が不器用ながらも前に進んでいる事を見せたのだ、少しくらい格好を付けなければと、ムゥはオーブへと向かいながら呟く。






舞い降りた機体から現れたセツコの姿を確認する事で、ようやくシンは、それまで纏っていた剣呑な空気を解く。
嘗て身に付けていたグローリー・スターの制服ではなく、ジーンズにノースリーブのシャツというラフな服装でシンに近付くセツコに、シンは淡い笑みを向ける。
シンの瞳に映る感情の揺れをすぐに察知したセツコはすぐにシンに駆け寄る。
まるで、迷子になっていた子犬を見つけたように、寄り添うように、愛しいむように。

「シン君……」

そっと添えてくる柔らかく滑らかなセツコの手をぎゅっと握り締める事で答える。
瞳の奥をツンと突いてくる郷愁と感傷と、悲しみがない交ぜになってシンの中を奔る。

「俺は……また……また何も出来なかった…ここの人たちを救う事も…」

何度目になるのだろうか、いつもいつも分不相応なまでに救いたいと願い、絶望し、怒りと共に戦い、傷付き、打ちひしがれる。
馬鹿で、純粋で、一途で、融通の利かない子供。
いつだって不器用なあり方しか出来ない恋人を、それでもどうしようもなくセツコは愛しく思う。
そんなシンだからこそ愛しいと思わずにいられない。
だから、セツコは、本能的にシンの最も求める言葉を紡ぐ。


「私は……絶対に傍にいるから…ね?」


覗き込むように見上げるセツコの瞳に映る自分の顔を見る事を拒むように、シンは鳥篭に閉じ込める様にセツコを胸に掻き抱く。
甘いミルクのような香りを吸い込みながら、亜麻色の髪に鼻を押し付ける。



散っていった花弁の悲鳴が遠雷のように耳に木霊していた。

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最終更新:2009年01月30日 23:07
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