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伊吹萃香編

「ンッンッンッ……プハァー、 ん?烏天狗が態々天界に何のようだい?」


「不良天人に取材…あぁ、あいつなら今日はいないよ、地霊殿の方に遊びにいってるさ、何でもお泊り会だってさ」

「あはははは、まぁ確かにまともじゃないだろうね、でもそのほうがあの天人っぽいじゃないか、アイツが普通の天人になる姿を想像する方が難しいよ」

「用事はそれだけかい? ならちょっと一緒に飲まないか… ん? 私にも用事がある? シンについての話を聞きたい?」


「別にかまいはしないけどさ、何にその情報を使うつもりだい? くだらない用件ならお引取り願うつもりだけど」

「へぇ… 幻想郷縁起にシンの項目を追加する、ねぇ、なるほど、シンの力がどれほどかを調べる為に、シンと直接戦った私に聞きに来たと……」

「オッケー、それならいいよ、ところでこっちからも質問だけど、アンタはシンと戦ったことはあるかい?」


「ないのか、まぁそれは仕方ないかな、シンは基本争うのは力無い相手を苛めてる奴か喧嘩を吹っかける奴くらいみたいだしね」

「それじゃあ私から見たシンの力量について話そうか、はっきり言って、今の幻想郷でのシンの力は精々で中の下、良くて中の上って所だね」


「仮にも神の力を遣っているのにそれはおかしくは無いかって? いんや、おかしくは無いよ、忘れたのかい? 今の幻想郷では弾幕ごっこが全てを左右するってさ」

「そ、博麗の巫女が定めた決闘ルールさ、まぁその亜種として格闘弾幕ごっこもあるけど、そっちでもシンは上の下が限界になるかな」

「理由は何かって? それは簡単だよ、弾幕ごっこは形の美しさを競い、決して避けられない弾幕は許されない、それが理由さ」

「シンが軍人だったって話くらいは聞いたことあるかな? あるみたいだね、それならわからないかな? 軍人、相手を殺す職業の人間が何を最優先目標に戦うかをさ」

「…解ったみたいだね、そう、シンは『相手を殺す』か『相手を無力化』する戦い方が身に染み付いてるのさ、だから、弾幕ごっこではそれが自ずと枷になる」

「無意識で放ちかねない『必殺』の一撃を常に制御して戦うんだ、これは何だかんだでかなりのハンデになるよ、そういえば西行寺の庭師も似たような部分はあるね」

「なら西行寺の庭師の方がシンよりも強いのかって? あははは、純粋な剣の腕と弾幕ごっこならそうだろうけど本気でやりあったらシンに敵う筈が無い」

「それは何故かって? それは簡単、この私が、鬼の四天王、伊吹の鬼であるこの私がシンとの戦いに敗れたからさ、鬼に勝てぬ存在がシンに勝てるわけが無いってね」


「どういう経緯で戦い敗れたのかって? 安心しなって、ちゃんと話すから、ただ、つまみも無し、この酒だけじゃあ話が弾まないね、ちょっと待ってな」

「確かスルメが…… あったあった、之を軽く炙って…… お? 河豚のヒレもまだあったか、折角だしコイツも炙って…… よっと」


「ン~…… あ~、やっぱりひれ酒は良いねぇ、ん? どうしたんだい? 何処からヒレやスルメを調達してきたのかって?」

「あぁ、そういえば一部の秘密だったっけねぇ、それを知りたい? 残念だけど教えられないね、どうしても知りたいなら私か紫の本気を相手に勝てないとね」

「あははははは、流石に諦めるか、まぁいいさ、まだヒレは少し残ってるし、また頼めばいいし、今日はアンタにも飲ませてあげるよ、だから大人しくしてな」

「んで、シンについての話だったね、私がシンと戦い、敗れた経緯はそんなに長かったり難しかったりするものじゃないよ」


「ちょうどあの頃私は暇をしててね、疎になって人里上空を彷徨ってたのさ、何か面白そうなことは無いかってね」

「そしたら人里で一つの噂が、それも面白そうな噂が流行ってたのさ、『色鮮やかなる甲冑に身を包んだ鬼神』って噂がね」

「その噂話に興味がそそられてね、ちょっと本気になって情報を集めてみたら、色々と尾ひれや背鰭がついてる噂の中である程度一貫してる情報があった」

「それはその甲冑の持ち主は『人間』だという事、そして『子供や老人等の力の無い人間を護る』と言う事、そして『鬼神の様な強さで一瞬で妖怪を葬っている』事」

「中でも興味をそそったのは『鬼神』のような強さだね、この幻想郷の人間が鬼の強さを知らないはずが無い、それでいながら鬼どころか鬼神といわれる程の強さ」

「人間達は強い存在の事を鬼に良く例えるけどね、人間同士の場合精々でも鬼人と例えるのが限界さ、極稀に鬼神の様なと称えられる人間もいたけどね」

「例えば古代中国の呂布、張飛、関羽と呼ばれた猛将達、全員万の兵に匹敵するとまで謳われた怪物達、それくらいの強さの人間だけが鬼神と伝えられる」

「実際さっきあげた連中は下手な鬼じゃあ返り討ちだろうね、特に最後の人間は神となったほどの怪物だ、私や勇儀でも下手すれば何もできぬまま倒されかねない」

「まぁ、それだけの事なのさ、鬼神と称えられるって事はね…… だから私はシンの力が気になった、どれほどの力か、私を楽しませてくれるほどのものなのか…とね」


「とはいえ、行き成り喧嘩を吹っかけてもシンが本気で戦うとは思わなかったし、いらない横槍を入れられるのも避けたかったからね、ちょっと仕込みをしたのさ」

「仕込みの内容? 簡単だよ、人間の子供を一人攫うだけさ、そしてその後は人里に通告すれば良い、『鬼神と呼ばれた人間が来ないならば子供は殺す』とね」

「そんな事をして霊夢達が動かなかったのかって? 当然動いたよ、でも、弾幕ごっこで無く、博麗の巫女の全力が出せないならば霊夢は怖い存在ではない」

「そう、私は決闘方法に弾幕ごっこルールを拒んだ、『殺しあい』による決闘を望んだのさ、そんな事して幻想郷のバランスは問題にならないのかって?」

「生憎鬼が人を攫って食うのは普通さ、ただ今回さらったのはあくまでシンと本気で殺しあう為だからね、攫いはしたけど殺すつもりもないし食料とかも与えてたさ」

「となったら博麗の巫女としては本気で私を滅するわけにはいけない、人間側に大きく肩入れする形になるからね、中立の巫女としてはそれはよろしくない」

「他にも半人半獣もきたが、たかがハクタク如き、しかも半人で満月ですらない時なら私が負ける要素は無い」

「後は魔理沙辺りが来そうなものだけどね、霊夢を通じて釘を刺したからこなかったよ、鬼の本気を相手に、死ぬ気で死なない子供を救いたいならば来いとね」

「流石に安全が保障されている子供を助けには来なかったね、魔理沙は基本色々な事に首を突っ込みはするけど、名も知らぬ人間を助ける為に命を捧げる性格ではないし」


「そうなれば後はシンを来るのをただ待つだけだった、シンがきたのはそうだね… ちょうど良い三日月の夜だった、全身から怒気を発しながら、上空から舞い降りてきた」

「私はその気を感じて楽しくなったよ、鬼が本気で殺し合いを望んでいると前もって伝えてあったと言うのに、怯えなんて欠片もない、純粋な怒気だけだったからさ」

「そして私の目の前に降りたシンの立ち方を見てより楽しい時になると思った、自然な動作で直ぐにでも戦える体勢に入ってたからね、力に頼る戦い方じゃないと理解したよ」


「んで、戦闘開始…となる前に、シンが私に質問をしてきたのさ、子供の身の安全と、自分と戦うためだけに無関係の子供を攫ったりしたのか、とね」

「私は両方とも即答でそうだと答えたよ、私からすれば脆弱な人間の生き死になんて欠片も興味が無い、鬼が敬意を表するのはあくまで強き存在だけさ」

「そして、私の返答を聞いた瞬間、シンの気は怒気から殺気へと変貌したよ、それに呼応するように鎧甲冑の翼に当たる部分らしき場所から光が強く噴出しはじめてたね」

「さらに、その噴出と同時に、シンは背中に背負っていたらしい大剣を抜き出すと私に向かって構えたよ、たったそれだけだっていうのに、私は威圧感を感じていた」

「一応シンを誘い出す前に簡単な情報を集めてたからね、その鎧甲冑が地霊殿の神の力を利用していると言うのは知っていたよ、だからその重圧だと、あの時の私は思ったよ」

「そう、だから私はこう考えた、ある程度は戦えるだろうが、鬼に勝てるはずが無い、神の力で多少は楽しませてくれる程度で終わる・・・と」

「決戦開始の合図は私の鬼火の一撃、右手に集めた鬼火を、渾身の拳と共に放ったのさ」

「たとえ神の力の甲冑であったとしても超密度の鬼火を食らってタダではすまない、それに甲冑を着ている以上素早く動けないだろう、そう思っての初撃」

「私の一撃にシンは反応しきれず、僅かに飛行しただけで鬼火の一撃を喰らい落ちる… そう私は確信していた、でも、それは大きな過ちだと一瞬で気付かされたよ」

「鬼火がシンに直撃した、と思ったら何故かそのまま貫通して行ってね、私がそれに一瞬あっけにとられていたら、凄まじい悪寒が走ったよ」

「あの時は考えるよりも先に動いてたね、悪寒がした方向、ちょうど背中の方を振り向きながら、一緒に鎖を身を護るように、盾にするようにしながら」

「そしたら何だ、何時のまにかシンが私の背後にいて、持っていた大剣…アロンダイトって名前だったね、それを思いっきり私に向けて振りかぶっていたのさ」

「まさに九死に一生、もし、私が鎖を盾にするようにして振り向いてなかったら間に合って無かったね、死にはしないだろうけど確実に倒れ伏していたろうね」

「そのとき気付いたんだけどね、私が鬼火をぶつけようとしたのは… シンの残像だったのさ、信じられるかい? 鬼の視力ですら捕らえきれない速度でシンは動いたんだよ?」

「それを理解した瞬間私はただ笑ったよ、確かに、確かに称えられるだけの事はあると、シンは間違いなく『鬼神』と呼ばれるに相応しい力を持っていると理解したからね」

「その後はまさに死闘さ、私はもう、シンが人間だということの驕りも、鬼の四天王であると言う誇りも余裕も捨ててただシンを屈服させようと全力で戦ったさ」

「山をも崩す一撃をシンはかわし、シンが放つ光線の一撃を私が疎め、そして時折この鬼の拳とシンの持つアロンダイトが激しい火花を散らす」


「楽しかったよ本当に、地面を裂き、夜を焼き、天を砕いてもなおシンは倒れない、時折私の一撃を直撃ではないとはいえ受けているのに怯む所か気勢を増すばかり」

「あぁ、当然私だって無傷じゃないさ、シンの一撃は酷く重く響いて私を蝕んだ、神の力を引き出しているとは聞いていたけど、それでも予想以上の重さだったよ」

「レーザーはまだ疎めることができるけど、剣の一撃は無理だね、まぁ…… 実はその一撃も手加減されていたんだけど… それについてはもう少し後で話すよ」

「何時までも長く続くと思った楽しい戦いだったけどね、先に限界が来たのは私の方だった、長らく全力を出し切った闘いなんてしてないから限界を把握し切れなかったのさ」

「それに戦いに酔ってたんだろうね、その事もあって体に蓄積されている疲労に全く気付かないまま全力で力を振るい続けた、そして私の方が先に限界が来たのさ」


「ん? 普通なら人間のシンの方が限界が来ないかって? さっき言ったばっかりだろ、シンは神の力を引き出している、言い換えれば神の力でシンの疲労を回復できる」

「当然回復の限界だってあるだろうけど、まぁ、どちらにせよ先に限界が来たのは私だったのさ」

「んじゃ話を戻すよ、私が限界が来たと自覚したのは急に足の力が抜けたからさ、立ち続ける事さえも困難なほどに疲労が蓄積しきってたんだろうね」

「当然、本気での決闘中にそんな隙を見逃す奴なんていない、シンも当然の様に私の隙を見逃すことは無く、私の目の前に右手の掌をかざす様に向けてきたのさ」

「そしてその掌は僅かに光っていた、確かシンはパルマフィオキーナ、とかいってたね、シンが持つ技の中で最大の威力を持つ物だって言ってたよ」

「その技を最大の力で放つには相手を掴むしかない、そう、私のスペルカード、鬼符『大江山悉皆殺し』と同種と言える零距離型の必殺技だね」

「まぁそれで決着さ、シンがほんの少しでも力を入れればそれで私は御終い…… でも私は見ての通り生きてる」

「その理由は簡単…といえば簡単だね、ようは人質に私が一切害を与えてない事とシンの知り合いに鬼がいるって事で、同族である私を殺したくは無いって事さ」

「ん~? ……その顔、シンの知り合いの鬼について知ってるみたいだね、地霊殿近くの旧都は鬼の住処だから特定は出来なくてね、誰かちょっと教えてくれないかい?」

「こらこら逃げない逃げない、教えてくれれば別に何もしないさ、んで、誰がシンの知り合いなのかな~? ……へぇ、勇儀なんだ、そして口止めされてたと……」

「ちょ~っと久しぶりに勇儀と四天王の頂上決戦を繰り広げないとダメみたいだね、ひれ酒もちょうど飲み終わったし飲酒後のいい運動になりそうだ」


「ん? その前に話の続き? 別にたいした事は無いよ、私が敗北を認めて、シンは私が攫った人間の子供を人里に返した、それだけの事さ」

「嘘でもなんでもないよ、本当に言葉通りさ、他に変わったことがあったとしたら私が紫に小言を言われて暴れた所を治して回ったくらいだよ」

「それから私とシンは時折一緒に飲む仲になったさ、元々は私が詫び代わりにこの伊吹瓢箪の酒を奢った事からだけどね」

「とは言えシンは余り酒は強くないみたいだから色々と話しながらチビチビ飲むくらいだけどね、時々天子も一緒に飲んでいるから二人きりって訳じゃないけど」

「まぁとりあえず話はこんな所かな、それじゃ私はちょっと地霊殿の方に向かうとしようかね…… っとそうだった、アンタは私と天子の他に誰の話を聞くつもりなんだい?」

「そう、シンについての取材相手さ、………へぇ、やっぱりあの吸血鬼の妹にもか、なら一つだけ忠告して置いてあげようかな」

「何、簡単な事だよ、狂気の奥底に潜む真実、それに気付けなければ真理に気付く事は無いかもね」

「あはははは、今狂気と言っても何の事かわからないだろうね、まぁ、次は天子に話を聞いてみなよ、そうすればわかるさ、その後で吸血鬼の妹にが最善だろうね」

「私の言葉の意味、最後まで取材してればきっと解るよ、それじゃあね、シンの深層を理解できるかどうか、楽しく眺めさせてもらうよ」

 

 


※その日から約三日にわたって鬼の四天王同士の大喧嘩が繰り広げられたが最後はダブルKOとなり勝者不在のまま決着したらしい




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最終更新:2009年03月28日 20:08
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