「ん~…… あら? こんな所に珍しいお客さんね、一体何の用かしら?」
「私に取材? 別にかまいはしないけど…… ちょっと今勉強中なのよね、あ、衣玖、サボっては居ないわよ、邪魔者が来ただけ、安心していいわよ」
「って…………何よその顔は、天人だって勉学位はするわよ、まぁ、大半の天人たちが享楽にふけるだけだって言うのを否定するつもりも無いけどね」
「何を勉強してるのかって? 緋想の剣の特性とその力、後は私の能力、要石の力がどの程度まで応用が利くか、どれだけが限界になるかと言う事よ」
「…異変を起こすつもりはもうないわよ、寧ろその逆、いざと言う時に異変を解決する手段が霊夢たちだけじゃあ余りに脆いだろうからよ」
「その霊夢に倒された奴が何を言うのか、ですって? へぇ・・・そういえば貴女あの小鬼の悪ふざけには参加してなかったわね、じゃあ解ってないと言う事か……」
「いいわ、天人の力その身にとくと刻み込んであげる、亡霊やメイド達は愚か鬼や博麗の巫女さえも打ち倒した天人の真の力をね!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~少女格闘弾幕ごっこ中~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「貴女もあの白黒と同じね、欲望の奴隷になってる、生を楽しみたければ貪らざるを持って宝と成せ、欲だけで書かれる物が宝となるはずはないわ」
「まぁ、能力の復習程度には役に立ってありがとう、と言うべきかしらね……… ん?今回は自分の為じゃなくて依頼で取材をしているですって?」
「貴女に依頼するって何処の誰が…… 人里の稗田阿求? あぁ、あの大きなお屋敷に住んでる御嬢様ね、中々楽しい本を書いているらしいじゃない」
「その楽しい本… へぇ、幻想郷縁起って言うの、それにシンアスカの項目を追加したいから詳しく知っているらしい面々に取材をしている…ね」
「…あぁ、なるほどね、あの小鬼が何かにやついていると思ったらそういう事、まぁいいわ、代償を支払ってくれるなら話をしてあげてもいいよ」
「その代償は何かって? 簡単な事、その項目追加が終わった幻想郷縁起を一冊…いや、二冊ほど私の所まで持ってきなさい、暇つぶしくらいにはなるでしょうし」
「どうやら良さそうね、それで、私にはどんな話を聞きたいのかしら? ……え? シンと戦ったときのこと……ですって?」
「…………解ったわ、ただ、あの時の事は今話すのは辛いわね、衣玖、居るんでしょう? お酒を、えぇ、キツメのを御願い」
「…ありがと、ってこれは? 空きっ腹に強いお酒は辛いから…ね、ありがとう衣玖、さすが空気を読む程度の能力…なのかしら?」
「…って、其処の天狗、何もの欲しそうな顔してるのよ、え?この秋刀魚はどうしたのかって? 別に貴女には関係ないでしょう」
「……あぁもう、わかったわよ、そんな涎たらしそうな顔で写真取らないでよ、食べにくいったらありゃしない、衣玖、追加を…って、さすが衣玖ね」
「折角だし衣玖、貴女も飲んでいきなさい、どうせ私のお目付け役にされてる以上離れるわけにもいかないでしょうし、貴女一人仲間はずれも気分が悪いわ」
~~~~~~~~~~~~少女秋刀魚を肴に宴会中~~~~~~~~~~~~~
「ふぅ~… ご馳走様、さて、程よく酒気も回ってきたし話の開始といきましょうか」
「私とシンが戦闘を行ったのは、シンと私が始めてであった時の事よ、と言うよりもあのシンが見知りあった相手と戦う姿なんて中々想像しにくいけどね」
「そうね、もしシンが見知りあった相手と戦うとすれば…相手が裏切るか、敵対関係で再開したから止むを得ず戦いになるとか、その位しか私は想像できないわ」
「ん? 解ってるわよ、シンと私の戦いの話でしょう、ちょっとは落ち着きなさいって……」
「私とシンが戦ったのは… ちょうど二ヶ月くらい前に人里の方で大地震が起きたでしょ? その地震が起きて二日くらい過ぎた後のことよ」
「…いっておくけど私はその地震を起こしたりしていないわ、寧ろあの地震は私たち、比那名居の一族にも想定外、突発的に発生した地震だったのよ」
「原因を突き詰めてみれば… まぁなんて事は無いわ、要石で押さえ込んでいた各所の力が予想よりも早くあの地に漏れ出ただけ、遅かれ早かれあの大地震は起きてたのよ」
「ただ、もう少し遅く発生していれば衣玖達が勧告に行ってアレだけの被害は無かったかも知れないけどね…… 話に戻るわ」
「まぁ、あの大地震が起きて比那名居一族は全員、他の天人たちを引き連れて要石の点検に向かったわ、要石に異変があったら幻想郷自体崩壊しかねないもの」
「ただし私は別、この間の騒動もあって天界で御留守番よ、見張り役に衣玖がいたけど龍神様と地上に降りた天人達との間の伝達を優先していたわ」
「留守番になった理由はもう一つあったけどね、それはこれよ、緋想の剣、この剣の力を引き出せた私を天界の護りに置く為というのもあったのよ」
「天人達が殆ど不在になるから、妖怪達が之幸いと雪崩れ込んでこないとも限らない、緋想の剣は如何なる相手でも必ず弱点を突く剣だし防衛には最適だった」
「ま、私の一族以外の天人には、内心不良天人と呼ばれてる私たち比那名居一族の子供である私に面倒ごとを押し付けて日頃のウサ晴らしってのもあったんでしょうけどね」
「それで話に戻るわ、さっき言ったように当時天界は事実私だけ、たった一人で留守番と防衛係を担当していたってわけよ」
「まぁ、それでも流石に天界に態々突っ込んでくる妖怪なんて居る筈もないし暇を持て余していた時ね、空を切裂かんばかりの勢いで地上からシンがやってきたのは」
「シンが天界に来た理由? まぁ、ある意味答えを先に言う形になるけど、一言で言えばただの誤解、私からすれば濡れ衣ね」
「私が博麗神社を地震で倒壊させた話をあの小鬼がシンにしてたらしくてね、しかもその話をしてた場所が地震の現場で小鬼がもったいぶって言ったからが原因」
「シンはまだこの幻想郷で異変を起こしたものが敗れた場合のルールを良く知らない時期だったしね、一度崩された異変は二度と起こしてはならないって言う暗黙のルール」
「そのお陰で私がまた地震の異変を、次は人里に起こしたと思われちゃってね、その真偽を確かめに、場合によっては私を討伐にシンは天界にきたのよ」
「普通だったらただの誤解だって言えば良かったんだけどね、あの時の私は暇を持て余しててつい『犯人』っぽく振舞ったのよ」
「あの時のシンは頭に血が上ってたし、ましてお互い初対面だから演技だなんて見抜けるはずも無い、当然の様にシンは戦闘態勢にはいったわ」
「…はっきりいって、あの時の私は驕っていたわ、博麗の巫女達を倒して、幾度も死神を打ち倒した私が不思議な鎧を纏っているとは言え人間如きに負けるはずが無いって」
「だから、弾幕ごっこルールに持ち込むこともしなかった、余裕ぶって緋想の剣を構えたりもした、シンが発していた殺気にも、気づく事なんてできなかった」
「私が剣を構えて、シンも剣を…アロンダイトを構えて、にらみ合いが始まった、今にして思えば、あの時点で誤解だっていっておくべきだったわね……」
「睨みあいに焦れてきて私が先に動こうとしたら、シンが猛スピードで突っ込んで私とすれ違った、と思った瞬間、私の右腕は切り飛ばされていた・・・……」
「いえ、本当に斬り飛ばされてはいなかったわ、天人特有の体の堅固さのお陰で刃が通らなかったから」
「ただ、私の右腕を通ったシンの斬撃から来た衝撃の強さと勢いは、間違いなく私の腕をシンは『斬り飛ばしていた』と言う事を告げていたわ」
「……解るかしら? 確かに右腕は動くの、斬り飛ばされていないからね、でも、感覚が物凄くあやふやなのよ、本当に動いているのか、自分の妄想じゃないのかって」
「…私はね、死神達と何度も戦って、殺しあいに関しても免疫が出来ているつもりだった、でもね、それはただの思い違いだったって、あの時に痛感させられたわ」
「ねぇ、知ってるかしら、死神ってね、本当は農耕の神様なのよ、あの大鎌は殺す為の道具じゃない、実った稲を切り取る為の道具に過ぎないのよ」
「そう、私が『本気の殺しあい』と思っていたのは、本当は『稲の刈り取り』に来た相手を強引に追い返していただけに過ぎなかったのよ……」
「だから死神達は倒されたらあっさり引いていたに過ぎなかった、本気で、私を殺そうとしていたわけじゃなかったから…… 話を戻すわよ」
「…私がパニックに陥っていても、シンは冷静に再び剣を構えなおしていたわ、私はその姿を見て、今度こそ『腕が斬り飛ばされる』と思って必死に抵抗した」
「もう、後先考えてなんかいないわ、ありったけの霊力を込めて、要石と緋想の剣の力を駄々っ子の様に振り回して弾幕を張ることしか出来なかった」
「当然、そんな力の使い方だとまともな戦いなんて出来ない、シンは当然の様に私の放つ弾幕の合間を縫って斬撃を繰り返してきたわ」
「二回目はまた右腕、三回目は右足、四回目には左腕、五回目は左足……でも、運がよかったと言うべきか、私の四肢は何処も斬り飛ばされることは無かった」
「でも、さっきいったように衝撃は間違いなく、シンの攻撃は私の四肢を斬り飛ばしていたと告げる、でも私の四肢はまだ繋がっている、その矛盾が余計に混乱を生む」
「もう、泣き叫んでたわ、ただ来ないで、死にたくないと叫びながら、必死にシンを追い返そうと力を振るうしか出来なかった」
「ただ、そんな私の姿を見てシンも本当に私が人里を襲った大地震を引き起こした犯人だったのか疑問に思ったんでしょうね、段々動きが鈍ってきたと思うと、ついに立ち止まったわ」
「…其処で私も冷静になれればよかった、そうすればそこで和解出来てたはずだった、でも、あの時の私はもう、シンを排除しないと自分が死ぬと思っていたのよ」
「だから、シンが動きを止めて、何か話しかけようとしていても攻撃のチャンスとしか思えなかった、この期を逃せば、私は確実に死ぬとしか思ってなかった」
「…だからね、私は、一気に攻勢に出た、天高く飛び上がると巨大化した要石を何度も…五回くらいかしら、シンの居た場所へと強引に放り投げた」
「そしてそれで終わらず、あの時私に残されていた全霊力を緋想の剣に込めて、シンが下敷きになっただろう要石を強く、強く叩き伏せた、シンをそのまま押し潰そうとね」
「えぇ、確実に死にかねないコンボよ、でもあの時の私はそんな事なんて考えられなかった、殺さなきゃ殺される、そうとしか思ってなかったもの」
「だから、そのコンボを決めた後、私は、シンを押し潰したであろう要石の山を見ながら、へたり込む様に座って、ただ安堵の笑いを零していたわ」
「自分は助かったんだって、自分は死ななかったんだって、ただ安堵して、笑うしかできなかった」
「……でもね、シンは死んでなんていなかった、安堵していた私の耳に、ある音が届いたのよ、何かが削られているような音と人の叫びのような音が……」
「えぇ、一々周りを見回す必要性なんてなかったわ、目の前の要石から、シンが天を貫かんばかりの勢いで出て来たんだもの」
「当然、シンも無傷ではなかったわシンが纏っていた鎧の両肩部分は砕け、胸部と脚部の部分もボロボロ、背中から生えていた翼のようなものは両方捻じ曲がっていたわ」
「そして、一番目を引いたのは頭部よ… 兜のような、ヘルムのようなあの部分は僅かに砕けて、シンの右半分の顔が僅かとは言え露わになっていた」
「そして、その見える右半分の部分から見える瞳は、激しい怒りと殺意に満ちていて、血が、頭頂部らしき場所からわずかに流れていた………」
「それを見た瞬間私は絶望したわ、私は、龍の逆鱗に触ったのだと、もう私が助かる道なんて何処にもないんだって本能的に理解してしまったから」
「シンはそんな私を見据えながら、ボロボロな姿のまま、剣を自分の正面に構えて、その剣の切っ先を確実に私へと向けていたわ」
「その時、私はもう一つ気づいたことがあった、シンが構えているその剣から、厳密には剣の刃の部分から光が走っていたのよ」
「えぇ、光よ、絶え間ない光が刃の部分を走り続けていた、レーザーかビームなんでしょうけど、剣の刃に走らせる技術なんて聞いた事も見たこともない」
「まぁ、たとえあの時の私がその正体を知っていても無意味ね、ただ一つ確かな事実があるとすれば、私は完全に手加減されていたんだって事だけだから」
「そうでしょう? 刃の部分にビームを出せるって事は、言い換えればその気になれば私の体なんてそのビーム部分の刃で断ち切れる可能性が幾らでもあったってことよ?」
「じゃあ何でシンは最初からそうしてなかったのかですって? ……後で聞いた話だけど、実はシン、最初から私の体の硬さをある程度知っていたらしいのよ」
「えぇ、情報源はあの小鬼、シンに天人について簡単な情報を流していたのよ、その中に天人の体の硬さがあったって事」
「だから… 私からすれば殺しあいだと思ってたシンのあの攻撃だけど、シンからすれば『動けなくして反省させる』位の事だったって言うのよ…それにしては乱暴だけどね」
「…まぁ、シンがそういう経緯に至った理由は、幸いな事に人里の大地震で家とかは多く破損したけれど死者だけはでてなかったって事らしいけど……」
「話を戻すわ、シンも自分が死に掛かった事でスイッチが入ったんでしょうね、私を必ず殺せる一撃で決着をつけようとした…
この時の事はシン本人も良く覚えてないらしいわ」
「まぁ、そんなことはどちらにしてもあの時の私には関係ない、もう、自分は死ぬんだって、迫り来る最後の時をただ見つめる事しかできなかった」
「そんな私を見て、シンも突きの体勢のまま一気に突撃して来た、流石に怪我のせいか速度は余り出ていなかったけど、私を殺すには十分なくらいには早かった」
「それですべては終わった… と思った、けど、そこで私とシンの間に乱入する影があったの、それは誰かって? 其処に居るでしょ、衣玖よ」
「ちょうど伝達の仕事が一段落着いて私の様子を見に戻ろうとした時に、戦いの気配に気付いて急いで帰ってきたらしく、まさに絶好のタイミングで帰ってきたのよ」
「私のシンの様子を見てシンの攻撃を止めるのを最優先としたらしくてね、龍魚ドリルでシンの進行方向に割り込むような形で入ってきたのよ」
「しかもそれまたタイミングばっちり、ちょうどドリルが乱入した場所がシンの持つアロンダイトの切っ先辺り、ドリルでアロンダイトをきれいに弾いていたわ」
「そして、シンもそのアロンダイトが弾かれる勢いにつられるかのように体勢を崩してそのまま地面に横たわった、体力の限界だったんでしょうね」
「その後、私の様子を見てシンが危険だと判断した衣玖がエレキテルで排除しようとした所で小鬼がやってきてね、そこで御互いにネタバレってわけよ」
「あの小鬼… 萃香が遅かった理由は地上に天人が片っ端から降りてるのに気付いて私が地上に居るんじゃないかと探し回ってたから、らしいわ」
「まぁ、大本を正せば私が犯人のふりをしたことが原因でもあったし、後は目覚めたシンに本当のことを話して謝罪して終了…よ」
「私とシンの戦いの経緯はこんな所ね…… それじゃあ悪いけど話は此処までよ、ちょっと、今から行かなきゃいけない場所もあるし、じゃあね」
おまけ『天子が出て行った後に衣玖としたお話の内容』
「ふぅ… 総領娘様も困ったものですね、其処が可愛くもあるのですが… どうなさいました?」
「あぁ、総領娘様が何処に行かれたのか、ですか、恐らく地霊殿だと思いますよ、シンさんに甘えに向かわれたのではないかと」
「何故って? 実は総領娘様、先ほどお話した戦いから数日の間不眠症になってしまわれまして…… はい、御察しの通りシンさんとの戦いがトラウマになった為です」
「その事から酷く弱ってしまわれて、総領娘様の父君様と母君様も如何する事もできず、ショック療法と言う事でその原因であるシンさんと会わせる事になったのですよ」
「流石に総領娘様お一人では無いですよ、私が護衛としてついて行きましたし」
「まぁ、それで私から話を聞いたシンさんが酷く心を痛めまして、自分が原因だから出来るだけの事はする、と言うお言葉をいただけるほどでした」
「それで、地霊殿の主であるさとり様から一度シンさんと総領娘様を二人っきりにしてみてはどうかとご提案を頂きまして、それを試してみたわけなのですが……」
「ふふふ、失礼しました、まぁ、試した結果だけを言いますと総領娘様は無事お休みになることが出来ましたよ、シンさんのお陰で」
「ただそれから、あの時の事を夢に見た日や、退屈な日などには地霊殿に向かわれる事が多くなってしまいまして、比那名居一族の方々は少々頭を悩ませておりますが」
「まぁ、それでも今では総領娘様が幸せそうならいいだろうと言う事で半ば特例として許可を得ていますがね、地霊殿方面の要石の様子見と言う仕事もありますし」
「では、申し訳ありませんが私もそろそろ失礼いたしますね、総領娘様の御着替え等を用意して地霊殿に向わなければなりませんので」
「…それに、私も時々シンさんの膝枕で眠らないと何故か安心できなくなってきてますしね、では、失礼いたします」